スペシャルリポート 低価格で高速認識、多業種で導入相次ぐ 広がる「カラーコード」 無線ICタグ ( RFID ) やQRコード(2次元バーコード)が主力を占める認識システムで“新顔”が注目を集めている。 それは 「カラーコード」 。カラフルな色のマス目を並べて情報を表し、RFIDより安く、バーコードより使いやすい。 コンビニから工事現場、図書館や万博会場まで導入事例が急増してきた。 スマートフォン (スマホ) の普及やカメラの性能向上も普及を後押しする。 iPhone に入れた専用アプリを起動し、本棚に沿っ 町田市立図書館は 2015 年秋をメドに、108 万冊あ て左右に動かしていくと、本の背表紙に張りつけてあ る蔵書の点検にカラーコードを使い始める。カラーコ るカラーコードが次々に読み取られていく。ピント合 ードの導入前は、書籍の管理はバーコード頼み。貸し わせも認識待ちもなく、アプリの画面では認識完了を 出しや返却はさほど手間がかからないが、蔵書点検が 示す緑色の表示が並ぶ。棚一列、数十冊はあろうかと 悩みの種だった。棚の本を全て出して 1 冊ずつバーコ いう書籍の確認がわずか十数秒で完了した。 ードを読み取り、また棚に戻す。延々その繰り返しだ。 「職員の負担も大きく、5 ∼ 10 ●iPhoneをかざし、書籍の在庫を点検 日ほど臨時休館が必要になるの (町 で 2 年に 1 回しかできない」 田市立図書館 図書館サービス担 当の吉岡一憲担当課長)。 そんな骨の折れる作業が、カ ラーコードのおかげで作業時間 も職員の負荷も大幅に軽減され 「これなら日常業務の一環 る。 として手間なく蔵書点検できる ●背表紙と表紙にカラーコードを貼りつけた し、臨時休館日も減らせそうだ」 と吉岡氏は笑顔を見せる。 カラーコードとは、シアン・マ ゼンタ・イエローなど色の配列 で情報を表示する仕組み。いく つかの方式があるが、最近注目 を集めているのは 2005 年にシ フト(東京都新宿区)が開発し た「カメレオンコード」だ。3 色 54 · 日経情報ストラテジー September 2015 を組み合わせることで、白黒のバーコードより多 ●カラーコードの利点と欠点 くの情報を盛り込める。最近では、大林組や五洋 利点 欠点 1.認識速度が速い 2. 離れたところからでも認識できる 3. 対象物が動いていても認識できる 4. 複数のカラーコードを同時に認識で 1.カラープリンターが必要 2. 周辺の明るさ・色合いにより認識困 建設が工事現場の入退場管理に、清水建設が橋 やトンネルにできたひび割れの経過観察に、ファ ミリーマートが店頭でのプロモーションや外国語 での商品情報提供などに、それぞれカラーコード を活用。NEC やソフトバンクは展示会の来場者 管理に採用している。 きる 5. 安価なウェブカメラなどで認識できる 難なことも 3. コードの汚れ・退色への対処が必要 なことも カラープリンターが必要で、コードの汚れ・退 色に弱いといった課題はあるものの、導入事例が 増えているのはカラーコードの 3 つのメリットに よるものだ。第 1 に広く普及しているスマホのカ ●日本館内部をスマホ片手に見学 ❶ ● ❸ ● メラをリーダー代わりに使える点。第 2 に RFID と比べ、専用のタグや受信機が不要で安価に導 入できる点。第 3 に角度が傾いている、ピントが 合っていない、あるいはカラーコードが動いたま まといった状態でも認識可能で、読み取りが簡単 である点だ。 3 つのメリットに注目し、カラーコードの採用 ❷ ● ❶10月31日まで開催中のミラノ国 際博覧会。食がテーマで、日本館は 日本の食材や食器、四季を紹介す るほか、日本食レストランも出店し ている、❷館内の展示物やパンフレ ットにカラーコードを付けている、 ❸館内の至るところにスマホをか ざす来場者の姿がみられる 例をみていこう。 メリット1 ●スマホで読み取れる 150人が一斉に「パシャッ」 今や誰もが持つスマホのカメラで読み取れる ことから、不特定多数の人が集まるイベントで の活用も始まっている。イタリアで開催中のミラ ●日本館アプリで展示物の詳細を表示・保存 ノ国際博覧会(ミラノ万博)。各国のパビリオン の中で最大規模を誇る日本館は、5 月 1 日の開幕 から 2 カ月で 54 万人が詰めかける盛況ぶりだ。 その日本館に足を踏み入れると、一風変わった光 景を目にすることになる。来場者たちが展示物 を見るたび、スマホを展示物に向けている。その 先にあるのがカラーコードだ。 September 2015 日経情報ストラテジー · 55 日本館では、日本の伝統工芸品などの展示物や映像 い。だが日本館では、カラーコードでなくてはならな 作品をはじめ、約 100 種類のコンテンツにカラーコー い事情があった。日本館の 1 日の来場者数は約 5000 ドを付けている。日本館のスマホアプリで読み取る 人。約 50 人を 1 グループとして順番に入場させる仕組 と、展示物の詳しい説明が日本語・英語・イタリア語で みで、メインシアターは 3 グループ、150 人が一度に 表示される。読み取った履歴は保存され、万博会場を 視聴する。 出てからじっくり見返すことも可能だ。 「これだけ大人数だと、接写が必要な 2 次元バーコー 経済産業省で日本館の企画・運営に携わる博覧会推 ドで同様の仕掛けをつくるのは非現実的だ。数 m 離れ 進室の堺井啓公室長はカラーコードを採用した理由に たところからスキャンできるカラーコードなら、多く ついて「万博に政府が出展するパビリオンなので、 の来場者が同時に読み取れ混乱も起こらない」。日本 個々の展示物に企業名を表示するなど商業的な色彩を 館の協賛企業の 1 社である日本ユニシス IoT サービス 出すわけにはいかない。だが、展示物に興味を持って 戦略企画室 IoT 技術企画グループの松村義昭グループ くれる来場者には詳細な説明を提供したいし、日本企 リーダーはカラーコードのメリットを強調する。 業の製品が売れてほしいという思いもある。スマホア 効果はそれだけではない。 「見慣れないカラーコード プリとカラーコードを使うことで、制約のあるなかで を見て『これは何だろう?』と興味を持ってくれる来 効果的に製品を PR する仕組みを作れた」と語る。 場者が少なくない。実際にスキャンしてみるとレスポ 生鮮食品などではトレーサビリティー情報を表示す ンスも良い。そうした操作感の楽しさが、展示内容に対 るため、2 次元バーコードを採用する事例が少なくな する興味への橋渡しにもなる」と日本ユニシス ビジネ ●カラーコード付きボールでトレーサビリティーを確保 ❶ ● ❸ ● ❷ ● 蛍光灯 ❹ ● ❺ ● 産業用カメラ ❻ ● このカゴまで Aさんのみかん 方向 進行 このカゴから Bさんのみかん ❶カラーコードを6面に張ったボール。もともとはRFIDでの識別用に特注したボールで、発信器を内蔵している、❷RFIDの読み取りゲートに、カラーコード読み取り用 の産業用カメラを取り付けた。選果場内は暗いため、ラインを流れるカゴを蛍光灯で照らす、❸農家がみかんを持ち込む際、生産者名や園地番号、収穫日などを登録。カ ラーコードのボールとひも付けておく、❹ボールは必ずパレット最上段の角のカゴに入れる、❺一時保管庫からの出し入れの際はパレットごと運搬し、そのつどボールを 読み取る、❻みかんを1個ずつ大きさや等級で仕分けする際は、48ケースのうちボールの入ったカゴが必ず最初にラインを流れる。このボール入りのカゴは「ここから 生産者が切り替わる」という合図になっている 56 · 日経情報ストラテジー September 2015 スペシャルリポート スイノベーション推進部 事業クリエーション室の ●電子カルテとカラーコードつき診察券をセットで導入 牧野友紀担当課長は副次的なメリットを指摘する。 メリット2 ●コストが 安い RFIDを代替、経費もエラーも削減 全国有数のみかんの産地として知られる浜松 市北区三ヶ日町。JA みっかび(三ヶ日町農業協 同組合)が運営する選果場には、毎年冬になると 827 軒の農家から 1 日 600 ∼ 650 t ものみかんが 運び込まれる。その仕分けに役立っているのが、 ●カラーコードで患者情報の検索が簡単に 前後左右上下の 6 面にカラーコードを張りつけた ピンク色のボールだ。 iPadの 内蔵カメラ 選果場では、農家が持ち込んだみかんを専用 のカゴに入れ、カゴを 48 個まとめてパレットに 載せて、搬送ロボットやベルトコンベアーで場内 患者番号を読み取り を移動する。この際、カゴには生産した農家や園 地、選果場に納品された日などの情報とひも付 けたカラーコード付きのボールを入れておく。 保管場所や選果ラインの入り口など数カ所に カメラが設置してあり、格納や取り出しのタイ ミングでボールに付いたカラーコードを読み取 る。ボールがどんな向きで入っていても、おおむ ね 2 ∼ 3 面はカメラの側を向いており、いずれか 1 面が認識できれば問題ない。こうすることで、 みかんを 1 個ずつ選別・仕分けする直前までのト レーサビリティーを確保している。 来院予約を登録 電子カルテを呼び出し JA みっかび 営農経済部柑橘グループの森田能 正グループ長は「ピーク期は朝 7 時半から夜 10 時まで おり、ライン上の受信機で読み取っていたのだ。 選果場がフル稼働。読み取りエラーでラインが止まる 転機となったのは RFID の受信機が生産中止になっ と影響が大きい。その点カラーコードは高速のライン たこと。カラーコードを提案したのは、仕分け設備の でも問題なく認識できる」と太鼓判を押す。 納入元であるダイフクだ。 「 RFID は更新のたびに高 実は、選果場の開設当初は仕分けに RFID を使って 額の投資が必要になる恐れがあった。カラーコードな いた。ピンクのボールの中に RFID の発信器が入って ら安くて汎用性のあるカメラで代替できるし電池切れ September 2015 日経情報ストラテジー · 57 スペシャルリポート もない」 (ダイフク FA & DA 営業本部システムソリュ した設備が特徴だ。その1つがカラーコード付きの診 ーション部第 5 グループの井上隆央課長)ことが決め 察券。プラネット(岐阜県多治見市)の歯科向け患者 手となった。既存のラインを改修してカメラなどを設 情報管理システム「 Dental Hub 」が備えるカラーコ 置 し カ ラーコード の 運 用 を 開 始。読 み 取 り エ ラーは ードリーダー機能を採用した。 RFID で運用していた頃より少なくなったという。 初診登録や次回の予約登録時、受付の iPad で診察 券をスキャンすると、瞬時に患者データが呼び出され 「以前の病院では患者の 診察履歴なども確認できる。 メリット3 ●読み取りが簡単 動いていても、裏返しでも 氏名や患者番号を聞いて棚からカルテを探していた。 2 次元バーコードをスマホのカメラで読み取る際、 の急患が来院しても即対応できる」。八田歯科の八田 認識に時間がかかりイライラした経験はないだろう 知也院長はメリットを強調する。 か。カラーコードはそんなイライラの軽減にも役立つ。 診察券をスキャンする際、使用するのは iPad の背 大阪・梅田から 1 駅、福島駅近くに 2015 年 2 月に開 面カメラではなくディスプレイのすぐ上にある前面カ 業したばかりの八田歯科。電子カルテを導入し、受付 メラだ。ここに診察券のカラーコード側を向けて近づ や各診察室に配備した iPad で参照するなど IT を活用 ける。スタッフから見ると診察券は裏返しになるため カラーコードならば患者番号の入力が不要で、予約外 位置合わせが難しくなりそうだが、実際には診察券の 向きやカメラとの距離が適当でも、あるいは診察券を ●町田市立図書館 は予約書籍の管理 にも活 用 。カメラ で入荷を即確認、 棚位置も把握 静止させなくても問題なく読み取れる。 町田市立図書館では、カラーコードを予約書籍の受 け渡しにも活用している。利用者が予約していた書籍 が貸し出し可能になると、従来は利用者ごとに輪ゴム で束ねて貸し出しカウンターの奥に保管。利用者が申 し出ると職員が探して渡す手間が発生していた。 2015 年 3 月からは予約書籍専用の本棚を設置し、 引き取りはセルフ方式とした。職員が入荷書籍を棚に 入れると、向かい側の棚に設置したカメラが書籍をス キャン。このデータを予約管理システムに渡し書名を 確認。予約者へメールで通知する。書籍が何番目・何段 カメラA カメラB 目の棚にあるかもシステムが示すので迷わない。 システム構築を担当した NTT データ PFI 推進部の 日高昇治部長は「ここ数年でカメラの性能が向上した こともあり、カメラに対して正面を向いていなくても、 向かい側の棚をスキャン 書籍に張ったカラーコードが小さくても問題なく読み 取れる」と話す。 58 · 日経情報ストラテジー September 2015 (金子 寛人)
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