10分でわかる経済の本質長期の円高トレンドから乖離するドル・円相場と

EY Institute
26 June 2015
10分でわかる経済の本質
長期の円高トレンドから乖離するドル・円相場と
日本経済への影響
【ポイント】
執筆者
1. 1980年代後半から続く長期円高トレンドから一時的に乖離したドル・円相場は緩やかな円安
基調を維持
2. 円安が加速すると、資産効果よりも実質所得の目減りの悪影響が大きく表れ、消費に下押し
圧力
3. 緩やかで予測可能なペースの円安であれば、製造業のみならず非製造業の設備投資にも好
影響
要旨
ドルが6月入り後一時125円台後半を付けたことを契機に、ドル・円相場が80年代後半から続
く長期の円高トレンドから抜け出し、一段とドル高方向に進むとの見方が出始めている。今後、ド
市川 信幸
EY総合研究所株式会社
チーフエコノミスト
ル・円相場の長期・構造的なトレンドの変化とその影響に十分注意する必要があるだろう。一
方、中期・循環的には、米国の年内利上げ観測が再び強まっていることなどから、当面ドル高基
調にあるとの見方が優勢のようだ。こうした中、急速な円安が生じた場合には、コストプッシュ型
の国内物価上昇を通じて、実質家計所得の目減りが消費減につながる恐れが出てくる。こうした
<専門分野>
► 経済・金融動向に関す
る分析・予測
► 経済・金融動向および
金融政策の解説
悪影響は、資産効果による消費増を上回るとみられるため、今後、急速な円安は日本の個人消
費にとって良い材料にはなり得ないと思われる。これに対し、円安が緩やか、かつ予測可能な
ペースで進めば、円建て収益がかさ上げされる輸出製造業を中心に、設備更新を主体とした投
資計画の積み上げが期待されるなど、設備投資が全般的に加速する可能性もあるとみられる。
Ⅰ.33年ぶりに長期円高トレンドから乖離するドル・円相場
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5月下旬からの円安・ドル高を眺め、ドル・円相場が80年代後半から続く長期の円高トレンドか
ら抜け出し、一段とドル高方向に進むとの見方が出始めている。その背景の一つとして、ドルが
6月入り後一時125円台後半を付け、2007年に付けた直近の「長期的ドル安への転換水準(ド
ル・円相場が長期的なドル高・円安から長期的なドル安・円高に転じた際のドル・円相場)」であ
る124円10銭台を上回ったことがある<図1>。
つまり、ドルは07年の124円10銭台から11年に付けた直近の「長期的ドル高への転換水準」で
ある75円30銭台までの下落分を、その後の4年間で完全に取り戻したことになる。こうした対円
でのドルのいわゆる「全値戻し」は33年ぶりの現象であることから、長期の円高トレンドが消失し
つつあるとみられているのである。仮に、ドル・円相場の長期・構造的なトレンドに変化が生じた
とすれば、日本経済にとっての影響は非常に大きいと考えられるため、今後、トレンドの変化や
その影響に細心の注意を払う必要があるだろう。
図1 ドル・円相場の推移と長期的ドル安・ドル高への転換点
ドル・円相場(円/ドル)
(円/ドル)
70
80
90
79円70銭台
(95年5月)
ドル安・円高
ドル高・円安
75円30銭台
(11年8月)
長期的ドル安・円高への転換点
長期的ドル高・円安への転換点
101円20銭台
(99年12月)
101円60銭台
(04年11月)
100
110
120
130
124円10銭台
(07年6月)
140
135円10銭台
(02年2月)
150
160
170
1990
↗
一時125円台後半
147円60銭台
(98年7月)
160円20銭台
(90年4月)
(年)
95
2000
05
10
15
出典:日本銀行よりEY総合研究所作成
(注)転換点の年月やその時点の相場水準については、利用するデータの違い等により異なる判断が存在し得る。
一方、足元では、黒田日銀総裁の「ここからさらに実質実効為替レートが円安にふれていくこと
は普通に考えるとなかなかありそうにない」(6月10日)という発言を受けて、いったん円高方向
に戻している(6月19日現在122円90銭台)。ただ、黒田総裁が言及したのは、あくまでも実質
実効為替レートであることに留意が必要だ。実は、①現時点の実質実効為替レートは歴史的に
みて非常に低い水準にある(73年以来の低水準)ため、すでに下げ余地は大きくない※1ほか、
②日米ともに2%程度の物価上昇率を目標にしているため、為替相場が長期・構造的には2国間
の物価上昇率の格差に応じて推移するとの説(購買力平価説)に従えば、黒田総裁が、実質実
効為替レートの一段の円安を予想するはずはないとも言える。したがって、本来であれば、こうし
た黒田総裁の発言は為替市場にとって特に目新しい材料にはならなかったはずである。しかし、
黒田総裁がドル・円の名目レートに言及したと受け止められて、円がいったん反発したのであろ
う。もちろんそれまでの円安・ドル高のピッチが速かったため、黒田総裁発言が利益確定のため
のドル売りにとっての格好の材料とみなされ、予想以上の円の反発につながった面があることは
事実だろう。今後は、こうした要人の発言等による影響にも留意しつつ、ドル・円相場の長期円高
トレンドからの乖離が、一時的なものにすぎないのか、影響はどういった形でどの程度表れるの
かなどについて、慎重に評価していく必要がある。
※1 現時点の実質実効為替レートは、07年の「長期的ドル安への転換水準」を付けた時点と比べると10%以上も円安
になっており、大まかに言えば、現在の1ドル=125円は、実質的には07年当時のおよそ140円に相当する。
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長期の円高トレンドから乖離するドル・円相場と日本経済への影響
Ⅱ.中期・循環的には米国の利上げ開始観測から緩やかなドル高基調
あらためてこの間の為替市場の動向を振り返ると、5月中旬まで、ドル・円相場は1ドル=120
円前後でこう着していたものの、5月下旬に入り、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長の
「年内利上げ発言」などを材料に、ドル高に振れ始めた。為替市場では、ドル高が進んだ当初、
日本の個人投資家は、米国経済の先行きに対する慎重な見方を維持していたことなどから、積
極的なドル売りを仕掛けたとされている。しかし、6月2日に節目とされる1ドル=125円を突破す
ると、一部に長期の円高トレンドが終わったとの見方も出て、日本の個人投資家も、徐々にドル
買いに転じたとみられる。また、6月5日に公表された5月の米国雇用統計の結果が良好であっ
たことがさらにドル買いを誘った面もあるようだ。この時点で、個人投資家を含めた日本の為替
市場参加者は、おおむねドル買い姿勢を強めたようにみえる。
前述のとおり、6月10日の黒田日銀総裁発言後、ドル・円相場はいったん円高方向に戻したも
のの、米国の年内利上げ開始観測が再び強まっている※2ことなどから、中期・循環的には円安
基調にあるとの見方が優勢のようだ。こうした円安基調との見方の背景には、①日本の貿易赤
字は縮小しているものの、黒字が定着するとはみられていないこと、②内需の弱さを反映して、
高水準の対外直接投資が続くと予想されること、③低金利を背景とした運用難の中、ポートフォ
リオの見直しなどを背景に、対外証券投資も堅調に推移すると見込まれることなどの影響もある
ようだ。現時点では、日本の機関・個人投資家の潜在的なドル買い意欲が強いようにみえるほ
か、1ドル=125円を超えた円安の水準には、日本の輸入業者によるドル買いの予約が多数
入っているとされている。また、1ドル=125円より円安の水準には、円にとっての有力な下値抵
抗線がなかなか見当たらない※3 ことから、円のろうばい売りが出た場合などには、一時的にせ
よ、相場が円安方向にオーバーシュートする可能性はゼロではない。
もっとも、1ドル=130円台まで一気に円安・ドル高が進むといったことは考えにくいのも事実だ
ろう。その根拠として、第一に、日米金利差がそうした円安・ドル高を正当化できるほどには開い
ていないとみられることがある<図2>。ここから一段の日米金利差の拡大といった後押しがな
ければ、ドルがさらに上値を追うことは容易ではないだろう。一方、実際に米国債の利回りが上
昇し始めると、金利の上昇が嫌気され、米国の株式相場が軟化する可能性が高まり、ドル買い
の勢いが弱まるというメカニズムも働くものとみられる。第二に、すでに円安は日本経済全体に
とって、メリットよりもデメリットの方が大きいと認識され始めていることがある。例えば、14年度
の日本の外貨建ての貿易額は18兆円を超える大幅な赤字であったため、単純に考えると、円安
が進めば進むほど、差損のほうが差益をより大幅に上回るようになり、日本全体でみると、純差
損額が拡大してしまう。第三に、現状の円安・ドル高について、米国が日本を批判するような政
治状況にはないものの、製造業を中心に、米国内で対円でのドル高に反対する声が上がり始め
ていることがある。現時点では、オバマ政権の主な批判の矛先は、人民元を割安な水準に誘導
してきた中国や、巨額の経常黒字を計上し続けるドイツなどに向いているとみられる。ただ、急速
に円安が進み、日本の対米貿易黒字が急増する恐れが出てくれば、米当局の姿勢も変わり得
るだろう。
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図2 日米金利差とドル・円相場の推移
日米金利差(%、米国10年国債利回り-日本10年国債利回り)
ドル・円相場(円/ドル、右目盛り)
(円/ドル)
(%)
170
6.0
160
5.0
150
ドル高・円安
140
4.0
130
120
3.0
110
2.0
100
90
1.0
0.0
1990
ドル安・円高
95
2000
05
80
10
70
15 (年)
出典:日本銀行、FRBよりEY総合研究所作成
以上のような要因を考え合わせると、理論的にも、また政治的にも、1ドル=130円台まで一気
に円安・ドル高が進むといったことはやや考えにくい。逆に言えば、今後、ファンダメンタルズに大
きな変化がなく、相場がオーバーシュートしない限り、ドル・円相場は、少なくとも米国の利上げ
開始までは緩やかに円安・ドル高の方向に向かう蓋然性が高いものと考えられる。これに対し、
仮に米国の利上げ開始をはやして円安・ドル高が一気に進むようであれば、いずれ大幅な修正
が避けられないと思われる。というのは、市場参加者は米国の利上げ開始を円安材料だと捉え
ているものの、利上げ開始がすでに相場に織り込まれているのであれば、たとえ利上げが開始
されても、円安が進むとは限らないからである。また、15年後半以降は、本邦の経常収支改善
による円高圧力が、金利差拡大による円安圧力を上回る可能性もあり、ドルの上値が重くなるこ
ともありそうだ。さらに、実際に急速なドル高が進めば、米国経済の先行きに対する見方が慎重
化して、ドルが売られるという展開にも警戒する必要が出てくるだろう。
以上のとおり、為替市場が、米国の利上げ開始に関する標準的なシナリオを織り込んでいると
すれば、当面は、緩やかな円安・ドル高基調を維持するとみておくのが妥当だろう。これに対し、
円安・ドル高方向へのオーバーシュートが生じる場合の代表的なトリガーとしては、①米国経済
の力強い回復や、②日銀の国債買い入れ増を主体とした追加緩和といったものが考えられるだ
ろう。反対に、急速に円高・ドル安方向へ巻き戻すトリガーとしては、①米国経済回復への期待
のはく落や、②市場でのリスク回避姿勢の高まりといったものなどが考えられる。
※2 6月16、17日に開催された米国連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表された、FRB理事・地区連銀総裁による最
新経済見通しをみると、15年の実質経済成長率は下方修正、失業率は上方修正されている一方、適切な利上げ
開始時期に関する集計結果では、17人中15人が年内の利上げ開始が適切との判断を変えていないということが
明らかになっている。
※3 07年に付けた124円10銭台という「長期的ドル安への転換水準」の一つ前の同水準を探すと、02年の135円10
銭台まで遡ってしまう。
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Ⅲ.円安に伴う資産効果よりも実質所得減の悪影響が懸念される個人消費
それでは、当面、緩やかな円安・ドル高が続くことを前提とした場合、この間の日本経済の推移
をどのように想定しておくべきだろうか。まず外需についてみると、米国経済の冬場のマイナス成
長からの持ち直しを反映して、米国向け輸出は基調的には増加傾向を維持すると思われるもの
の、中国の内需不振を反映して、円安にもかかわらず、中国向け輸出は伸び悩みが明確になる
だろう。一方、輸入は原油価格の底入れから、金額的には減りにくいとみられるため、外需(純輸
出=輸出-輸入)全体としては、当面殆ど日本の実質成長に寄与しないと考えておくべきだろ
う。
一方、内需の2本柱のうち、まず日銀が回復の強まりに期待をかけている個人消費※4 をみる
と、円安の加速は、通常、輸出企業の収益かさ上げ・株高を通じて、資産効果による消費増をも
たらす。反面、円安の加速は、輸入物価の上昇を通じて、実質家計所得の目減りによる消費減
をもたらす。特に低所得層にとっては、輸入原材料コストの上昇を反映した食料品価格の引き上
げや、原油価格の下げ止まりに伴うガソリン価格などの底打ちは大きな痛手であろう。食料品や
ガソリンなどの値上げ発表が相次ぐと、消費者マインドが悪化してしまい※5、ベアの実施や夏季
賞与の増額などの効果を減殺しかねないだろう。
こうした資産効果による消費増と、実質家計所得の目減りを反映した消費減のどちらの影響が
大きいかは、一概には判断できない。ただ、最近では、円安と株高のリンケージが弱まっている
と指摘されていることから、これ以上の円安による資産効果はあまり期待できなくなっているのが
実情だろう<図3>。加えて、より重要な論点としては、資産効果は主として富裕層に対するメ
リットである一方、実質家計所得の目減りは低所得者層に対し、より大きなデメリットとして表れ
る。このため、社会厚生の面からは、これ以上の円安は、消費生活の面で貧富の格差に拍車を
かけてしまう恐れがあり、好ましくない面があると言えるだろう。
図3 日経平均株価(225種)とドル・円相場の推移
日経平均株価225種(円)
(円)
21,000
ドル・円相場(円/ドル、右目盛り)
(円/ドル)
20,000
130
125
19,000
120
18,000
115
17,000
110
16,000
105
15,000
14,000
2014/7
100
10
15/1
4
(年/月)
出典:日本銀行、日本経済新聞よりEY総合研究所作成
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前述のとおり、ベアの実施や夏季賞与の増額などで、名目賃金(一人当たり現金給与総額)が
上昇しても、円安による輸入物価上昇が国内物価の押し上げにつながれば、その分実質賃金が
減少し、消費が抑制されてしまう<図4>。特に、物価上昇がコストプッシュ型である場合には、
生活防衛意識の強まりから、貯蓄率が高まり、消費活動が全般的に委縮してしまう恐れすらあ
る。なお、このところの名目賃金の引き上げや物価上昇率の縮小を反映して実質賃金が持ち直
している割には、家計消費の回復が鈍いとの指摘も聞かれる。しかし、実際には、賃金が所得の
ほとんどを占める勤労者世帯の消費は緩やかながらも持ち直していることに留意すべきだろう。
4月の勤労者世帯の実質消費支出は前年同月比+0.5%と増加している。これに対し、個人事業
主や年金生活者等を含む二人以上の世帯全体では同▲1.3%と減少している<図5>。消費低
迷が続いているのは事実としても、実質賃金の持ち直しは、勤労者世帯の実質消費の回復に確
実につながっているのである。したがって、個人消費の回復には、名目賃金の引き上げが必要
な反面、円安に伴うコストプッシュ型の物価上昇は絶対に回避しなければならないということにな
るだろう。
なお、今年の夏ごろまでは、円安が進んだとしても、電気料金の引き下げなどを反映して、物価
が前年比横ばいか再びマイナスで推移する可能性が高いことに留意すべきだろう。この間は、
賃上げと物価の下落で、家計の実質的な購買力は増加するものと期待される。ただし、1ドル=
125円を超えて円安が進めば、いずれ輸入物価が上昇することは明らかだろう。また、秋以降は
前年比でみた原油安の影響もはく落し、エネルギー価格は前年比でプラスに転じる公算が大き
い。その場合、物価上昇率が賃金の伸びを大幅に上回り、実質賃金前年比のマイナス幅が再び
大きくなってしまうといった展開も考えられる。
現時点の日本経済は、12年末からの円安に伴う物価上昇や、14年4月の消費税率引き上げ
の悪影響から脱しつつあり、実質賃金の前年比がゼロ近傍(4月確報の前年比▲0.1%)に戻る
中で、個人消費も低目の伸びとは言え、増加を続けている。こうした中、仮に、今後急速な円安
が進み、コストプッシュ型の国内物価上昇につながるようであれば、個人消費にとっては、全体と
して悪影響のほうがより大きく表れてしまう恐れが強いことに、十分留意しておくべきだろう。
図4 名目賃金前年比と実質賃金前年比の推移
名目賃金
(前年同月比%)
実質賃金
3.0
2.0
1.0
0.0
14年4月消費増税
-1.0
-2.0
-3.0
名目賃金前年比と実質賃金前年比の差は、
消費者物価指数(帰属家賃除く総合)
の前年比
-4.0
(年)
-5.0
2012
2013
2014
2015
出典:厚生労働省よりEY総合研究所作成
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図5 実質消費の前年比推移
二人以上の世帯
(前年同月比%)
うち勤労者世帯
10.0
4月の勤労者世帯は13年3月
以来の前年比増加
5.0
0.0
-5.0
-10.0
(年/月)
-15.0
2013/4
7
10
14/1
4
7
10
15/1
4
出典:総務省よりEY総合研究所作成
※4 日銀は、5月22日の金融政策決定会合終了後の対外公表文において、個人消費の判断を「雇用・所得環境の着
実な改善を背景に、底堅く推移している」に上方修正した。4月8日の対外公表文と比較すると、「一部で改善の動
きに鈍さがみられるものの」および「全体としては」という表現が削除されている。
※5 5月の消費動向調査をみると、消費者態度指数は前月差▲0.1ポイントと2カ月連続で悪化している。これを受けて、
内閣府は消費者心理の基調を「持ち直しのテンポが緩やかになっている」とし、前月までの「持ち直している」から
6カ月ぶりに下方修正した。
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10分でわかる経済の本質
長期の円高トレンドから乖離するドル・円相場と日本経済への影響
Ⅳ.緩やかな円安は日本の設備投資に好影響を与える公算
次にもう一つの内需の柱である設備投資への影響をみると、円安により円建て収益がかさ上
げされる輸出製造業を中心に、設備更新を主体とした設備投資計画が積み上げられているほ
か、いまだ一部にとどまってはいるものの、円安を背景に生産を国内に戻す動きもみられ始めら
れている。この結果、国内の一部地域では、生産や雇用、さらには設備投資にも良い影響が出
始めている。また、消費増税の悪影響が弱まりつつあることもあって、こうした地域を中心に、緩
やかながらも個人消費の持ち直しが期待されるようになっており、サービス関連企業を中心とし
た非製造業の設備投資にも動意がうかがわれている。
この点を確認するために、日本経済新聞が5月31日に公表した設備投資動向調査の結果を
みてみると、15年度の全産業の設備投資計画は3年ぶりの2桁増(前年度比+10.5%)となって
いる。内訳をみると、円安を追い風にした自動車や電機など輸出製造業での更新投資が目立つ
が、内需回復を期待する消費関連企業の投資も出てきており、設備投資増加の動きは着実に拡
大しているようだ。こうした動きは、6月10日に公表された4月の機械受注や5月の企業物価、あ
るいは6月11日公表の法人企業景気予測調査(15年4-6月期)でも確認できる。設備投資の先
行指標とされる機械受注(船舶・電力を除く民需)は2カ月連続の増加(前月比+3.8%)となった
ほか、国内企業物価全体の下落(前年比▲2.0%)が続く中、投資財の価格は、需給の引き締ま
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などの分野における世界的なリー
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市場や経済活動に信頼をもたらし
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ホルダーの期待に応えるチームを
率いるリーダーを生み出していき
ます。そうすることで、構成員、クラ
イアント、そして地域社会のために、
より良い社会の構築に貢献します。
りを反映して上昇している(同+1.8%)。また、法人企業景気予測調査における15年度の設備
投資計画は、1-3月期の減少見込みから、4-6月期は増加見込みへと転じている(前年比+
5.9%)。これらの動きを踏まえて、政府(内閣府)は、6月月例経済報告における設備投資の判
断を6カ月ぶりに上方修正している※6。円安が緩やかで、予測可能なペースで進展する限りは、
国内設備投資に対しては、円安が好ましい影響を与えるものと期待して良いだろう。
※6 政府月例経済報告における設備投資に関する判断は、5月には「おおむね横ばいとなっている」であったのに対し、
6月には「持ち直しの動きがみられる」に上方修正されている。
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