鍼灸研究 Journal Volume.2 Number.3 2015 OSAKA COLLEGE OF MEDICAL TECHNOLOGY Teacher Training Program for Oriental Medicine OCMT Journal of Acupuncture and Moxibustion Research Volume.2 Number.3 2015 信頼性のある身近な測定器の信頼性係数 七堂利幸 1) 丹羽智美 2) 岡村麻生 3) 1) 大 阪 医 療 技 術 学 園 専 門 学 校 東 洋 医 療 技 術 教 員 養 成 学 科 2) 大 阪 医 療 技 術 学 園 専 門 学 校 鍼 灸 師 学 科 薬 業 科 非 常 勤 講 師 3) 京 都 医 健 専 門 学 校 鍼 灸 科 非 常 勤 講 師 2015 年 8 月 25 日 大阪医療技術学園専門学校 東洋医療技術教員養成学科 鍼 灸 研 究 Journal OSAKA COLLEGE OF MEDICAL TECHNOLOGY Teacher Training Program for Oriental Medicine OCMT Journal of Acupuncture and Moxibustion Research 0 鍼灸研究 Journal Volume.2 Number.3 2015 信頼性のある身近な測定器の信頼性係数 七堂利幸 1) 丹羽智美 2) 岡村麻生 3) 1) 大 阪 医 療 技 術 学 園 専 門 学 校 東 洋 医 療 技 術 教 員 養 成 学 科 2) 大 阪 医 療 技 術 学 園 専 門 学 校 鍼 灸 師 学 科 薬 業 科 非 常 勤 講 師 3) 京 都 医 健 専 門 学 校 鍼 灸 科 非 常 勤 講 師 要 旨 目的) こ れ ま で 圧 痛 計 や JADAD 質 問 紙 法 、そ し て 取 穴 の 一 致 度 や 難 経 の 腹 診 、 赤 羽 知 熱 感 度 測 定法など評価法に対する単位のない評価表や、主観的評価法に対する信頼性テストを行っ て き て 、 意 外 に も 信 頼 性 係 数 が 低 い ( poor reliability) こ と が 分 か っ た 。 これらの結果、検者内信頼性はあるが、検者間信頼性はないという傾向がみられた。 簡単にいうと、独りよがりで結果を一般化できないということになる。 そこで今回は、単位が明確である機器、身近なメジャーと診断に使用されている関節 角度計を使用し、2 つの試験でその信頼性係数を調べてみた。 方法) 一 つ は メ ジ ャ ー に よ る ウ エ ス ト 測 定( 単 位:長 さ c m )、も う 一 つ は 角 度 計 を 使 用 し 、SLR テ ス ト ( Straight Leg Raising Test ) で の 下 肢 の 挙 上 角 度 ( 単 位 : 角 度 ° ) の 測 定 で あ る 。 な お 、 SLR テ ス ト の 移 動 軸 は 大 腿 骨 、 軸 心 は 大 転 子 で あ る 。 結果) ウ エ ス ト 測 定 で は メ ジ ャ ー で の 10 名 の 測 定 に お け る 信 頼 性 係 数 は 検 者 間 ・ 検 者 内 と も 1.0 で あ っ た 。 角 度 計 で は 7 名 の 検 者 間 信 頼 性 係 数 は 0.92、 0.97 で あ っ た 。 結論) 重さ、長さ、時間など何かの量を測るときの基本となるのが単位あり、これにより国境 を 越 え 世 界 的 な 比 較 が 可 能 と な る 。 こ の 内 、 長 さ ( c m ) と 角 度 ( °) と い う 単 位 が 明 確 である測定器を使用した時の再現性、つまり信頼性をテストしたところ、その係数はほぼ 0.9~ 1.0 と い う 値 に な っ た 。 高 い 信 頼 性 ( good reliability) 係 数 と は こ の 程 度 を 指 す の であろう。 【はじめに】 これまで圧痛計 感度測定法 5) 1) や JADAD 質 問 紙 法 2) 、そ し て 取 穴 の 一 致 度 3) や難経の腹診 4) 赤羽知熱 など評価法に対する単位のない評価表や、主観的評価法に対する信頼性テス ト を 行 っ て き て 、 意 外 に も 信 頼 性 係 数 が 低 い ( ≦ 0.7: poor reliability) 6 ) こ と が 分 か った。 こ れ ら の 検 討 結 果 、検 者 内 信 頼 性 は あ る が 、検 者 間 信 頼 性 は な い と い う 傾 向 が み ら れ た 。 1 鍼灸研究 Journal Volume.2 Number.3 2015 簡 単 に い う と 、こ れ ら の 方 法 は 独 り よ が り で 測 定 結 果 を 一 般 化 で き な い と い う こ と に な る 。 そこで今回は、単位が明確である機器、身近なメジャー(単位:長さcm)でウエスト を 測 定 と 、診 断 に 使 用 さ れ て い る 関 節 角 度 計( 単 位:角 度 °)を 使 用 し 、SLR テ ス ト( Straight Leg Raising Test) に よ る 下 肢 の 挙 上 角 度 の 測 定 を 行 い そ の 信 頼 性 係 数 を 調 べ て み た 。 【メジャーによるウエスト測定】 1) 方 法 2010 年 大 阪 医 療 技 術 学 園 専 門 学 校 教 員 養 成 学 科 学 生 10 名 を 対 象 に 、 メ ジ ャ ー ( 布 製 ) を使いウエストを測定し、検者間・検者内信頼性をデータが量的データであるので級内 相 関 係 数 ( ICC; Intraclass Correlation Coefficient) で 調 べ た 。 検 者 間 は 同 一 被 験 者 で検者を変えて、検者内は同一検者で被験者を変えて測定した。使用したメジャーは Lifelex(LFX-40-070)製 ,幅 6m m の 1m 用 で あ る 。 2) 測 定 部 位 立 っ た 状 態 で 息 を 吐 い た と き 、へ そ の 高 さ で 水 平 に メ ジ ャ ー を ま わ し て 測 定( cm)し た 。 3) 結 果 表 1. 検 者 間 信 頼 性 ( 検 者 ・ 被 験 者 6 名 ず つ ) 。 記 入 者 : 出 席 番 号 1, 7 検者 4 検 者 13 検者 3 検者 5 検者 8 検 者 12 被験者 6 61.0 63.5 61.0 65.0 62.8 63.0 被 験 者 11 89.0 90.5 89.0 94.0 91.5 93.3 被 験 者 10 68.0 68.0 68.0 69.5 68.5 70.8 被験者 4 63.0 64.5 66.0 66.0 64.0 65.0 被験者 9 63.0 63.0 65.0 63.0 62.8 65.0 被 験 者 2( 欠 席 ) Analysis of variance df SSq MSq Between raters 5 27.2969 5.4594 Between cases 4 Within cases 25 53.3438 2.1338 Residual 20 26.0469 1.3023 Total 29 3,434.86 858.7148 F 4.192 659.3611 3,488.20 Intraclass Correlation Model 1 Model 2 Model 3 Individual 0.9853 0.9853 0.991 Meaned 0.9975 0.9975 0.9985 注 )数 字 の 単 位 は c m 、当 該 デ ザ イ ン で は Model 2 が 選 ば れ る 。よ っ て こ こ で は 0.9975. 2 鍼灸研究 Journal Volume.2 Number.3 2015 表 2. 測 定 者 2 名 で の 検 者 内 信 頼 性 ( 被 験 者 10 名 [ 内 1 名 欠 席 ] 、 検 者 2 名 ) 。 記 入 者 : 出 席 番 号 1, 7 1 回目 測 定 : 検 者 4, 12 検者 4 2 回目 検 者 12 検者 4 3 回目 検 者 12 検者 4 検 者 12 被 験 者 13 66.0 67.5 66.0 68.0 65.0 67.3 被験者 3 76.0 79.8 77.0 78.0 78.0 77.8 被験者 5 64.0 65.5 64.0 66.8 66.0 67.5 被験者 8 64.0 68.6 65.0 67.0 65.0 67.5 被験者 6 61.0 64.8 62.0 63.3 61.0 63.0 被 験 者 11 88.0 92.0 89.0 91.2 89.0 92.0 被 験 者 10 67.0 69.7 67.0 68.0 68.0 68.5 被 験 者 14 64.0 67.0 62.0 63.0 63.0 63.0 被験者 9 63.0 64.7 61.0 64.0 63.0 64.0 被 験 者 2( 欠 席 ) Analysis of variance (数値全部での計算) Df SSq MSq Between raters 5 65.9375 Between cases 8 3,925.94 Within cases 45 95.625 2.125 Residual 40 29.6875 0.7422 Total 53 F 13.1875 17.7684 490.7422 661.2105 4,021.56 Intraclass Correlation Model 1 Model 2 Model 3 Individual 0.9746 0.9746 0.991 Meaned 0.9957 0.9957 0.9985 注 ) 数 字 の 単 位 は c m 、 通 常 Model 2。 表 3. 検 者 内 信 頼 性 ( 被 験 者 10 名 [ 内 1 名 欠 席 ] 、 検 者 2 名 ) 。 記 入 者 : 出 席 番 号 1 , 7 検者 4 一回目 二回目 三回目 被 験 者 13 66.0 66.0 65.0 被験者 3 76.0 77.0 78.0 被験者 5 64.0 64.0 66.0 被験者 8 64.0 65.0 65.0 被験者 6 61.0 62.0 61.0 被 験 者 11 88.0 89.0 89.0 被 験 者 10 67.0 67.0 68.0 3 Volume.2 Number.3 2015 鍼灸研究 Journal 被 験 者 14 64.0 62.0 63.0 被験者 8 63.0 61.0 63.0 被 験 者 2( 欠 席 ) Analysis of variance ( 検 者 4) Df SSq MSq 1.8516 F Between raters 2 Between cases 8 Within cases 18 12.6641 0.7036 Residual 16 10.8125 0.6758 Total 26 1,910.97 0.9258 238.8711 1.3699 353.474 1,923.63 Intraclass Correlation Model 1 Model 2 Model 3 Individual 0.9912 0.9912 0.9916 Meaned 0.9971 0.9971 0.9972 表 4. 検 者 内 信 頼 性 ( 被 験 者 10 名 [ 内 1 名 欠 席 ] 、 検 者 2 名 ) 。 記 入 者 : 出 席 番 号 1, 7 検 者 12 1 回目 2 回目 3 回目 被 験 者 13 67.5 68.0 67.3 被験者 3 79.8 78.0 77.8 被験者 5 65.5 66.8 67.5 被験者 8 68.6 67.0 67.5 被験者 6 64.8 63.3 63.0 被 験 者 11 92.0 91.2 92.0 被 験 者 10 69.7 68.0 68.5 被 験 者 14 67.0 63.0 63.0 被験者 9 64.7 64.0 64.0 被 験 者 2( 欠 席 ) Analysis of variance ( 検 者 12) Df SSq 7.0313 MSq Between raters 2 Between cases 8 Within cases 18 20.8906 1.1606 Residual 16 13.8594 0.8662 Total 26 2,019.97 2,040.86 4 F 3.5156 4.0586 252.4961 291.4949 鍼灸研究 Journal Volume.2 Number.3 2015 Intraclass Correlation Model 1 Model 2 Model 3 Individual 0.9863 0.9864 0.9898 Meaned 0.9954 0.9954 0.9966 結 果 ま と め )検 者 内・間 い ず れ も 、ICC は 小 数 点 第 三 位 を 四 捨 五 入 す る と 、1.00 と な る 。 これは測定値が完全に一致する、つまり再現性が認められることである。 【角度計での下肢挙上角度測定】 1) 方 法 2012 年 に 入 学 し た 当 科 学 生 に 、 SLR テ ス ト ( Straight Leg Raising Test ) を 行 い 、 大腿と大部の角度を角度計で測定。移動軸は大腿骨、軸心は大転子とした。検者間(内) 信 頼 性 を ICC で 求 め る 。 検 者 は 7 名 。 検 者 間 は 同 一 被 験 者 で 検 者 を 変 え て 、 検 者 内 は 同 一 検者で被験者を変えて測定した。 使用した角度計は東大式、メーカーは松吉医科器械株式会社、規格コードは 02-3730-01、 サ イ ズ は 450mm で あ る 。 2) 結 果 表 5. 検 者 間 信 頼 性 1. 検 者 7 名 、 被 験 者 : 出 席 番 号 3( 右 足 ) 、 足 上 げ : 出 席 番 号 4 検者 1 回 目( 角 度 °) 2 回 目( 角 度 °) 検者 1 60 60 検者 2 60 67 検者 8 67 72 検者 5 84 85 検者 6 72 70 検者 7 86 86 検者 4 82 84 Analysis of variance df SSq F Between raters 1 Between cases 6 Within cases 7 41.5 5.9286 Residual 6 29.4297 4.9049 Total 13 12.0703 MSq 1,341.43 1,382.93 5 12.0703 2.4608 223.5716 45.5808 鍼灸研究 Journal Volume.2 Number.3 2015 Intraclass Correlation Model 1 Model 2 Model 3 Individual 0.9483 0.9486 0.9571 Meaned 0.9735 0.9736 0.9781 表 5. 検 者 間 信 頼 性 2. 検 者 7 名 、 被 験 者 : 出 席 番 号 4( 右 足 ) 、 足 上 げ : 出 席 番 号 7 検者 1 回 目( 角 度 °) 2 回 目( 角 度 °) 検者 1 70 70 検者 3 76 80 検者 2 80 78 検者 8 80 80 検者 5 90 87 検者 6 82 92 検者 7 92 96 Analysis of variance df SSq MSq F Between raters 1 12.0703 12.0703 1.1984 Between cases 6 766.7109 127.7852 12.6877 Within cases 7 72.5 10.3571 Residual 6 60.4297 10.0716 13 839.2109 Total Intraclass Correlation Model 1 Model 2 Model 3 Individual 0.8501 0.8504 0.8539 Meaned 0.9189 0.9191 0.9212 結 果 ま と め ) 角 度 計 に よ る 検 者 間 信 頼 性 係 数 ICC は 0.97 も し く は 0.92 と な っ た 。 使用統計フリーソフトウエア 香港中文大学統計サイト; http://department.obg.cuhk.edu.hk/researchsupport/statstesthome.asp 【考察】 今回の実験では、測定単位が明確な 2 つの計測器を使用した結果、その信頼性係数は 高 く 、 0.9~ 1.0 と な っ た 。 6 鍼灸研究 Journal Volume.2 Number.3 2015 測定器の単位とは、ものの量をはかるための基準となる。物理学や計測学において物理 量の測定の基準として単位は必要不可欠である。また、結果の再現性が重要となる科学的 方法の実験においても、測定の基準となる単位は必要である。 圧 痛 計 で は 、例 え ば kg/cm 2 と い う よ う な 単 位 が 明 記 さ れ て い な か っ た 。測 定 さ れ た 値 に 単 位 が な い と い う こ と は 、一 体 何 を 測 定 し て い る の か 分 か ら な い 計 測 器 と い う こ と に な る 。 この他にも鍼灸界で使われる独自の測定器(例えば、中谷の良導絡理論のノイロメーター など)には単位がないものがあるため、科学的方法の実験に使用する際には注意が必要と なる。 また、圧痛計や腹診などで言えば、独りよがりの再現性は(検者内信頼性)あるが、 世の中一般(検者間信頼性)には通用しない結果になっている。 今回のメジャー測定や角度計計測では検者内・間とも同様の信頼性(係数)を有して おり、理想的な測定器といえよう。これと鍼灸研究で使われる質問票、機器、診察法など の信頼性係数を比較するとその信頼性の程度が理解できる。 【結論】 重さ、長さ、時間といったものの量を測る基準となる単位があると、国境を越え世界的 な 比 較 が 可 能 で あ る 。 こ の 内 、 長 さ ( c m ) と 角 度 ( °) と い う 身 近 な 単 位 で 測 定 し た 時 の 再 現 性 、 つ ま り 信 頼 性 を テ ス ト し た と こ ろ 、 ほ ぼ 信 頼 性 係 数 は 0.9~ 1.0 と い う 値 に なった。高い信頼性係数とはこの程度を指すのであろう。 【謝辞】 ウ エ ス ト 測 定 ,角 度 計 計 測 は そ れ ぞ れ 2010、 2014 年 大 阪 医 療 技 術 学 園 専 門 学 校 教 員 養 成 学科の卒業生のデータを使った。ここに記して感謝したい。 【文献】 1) 池 田 晋太郎、七堂 利 幸 : 圧 痛 計( FP メ ー タ )の 信 頼 性 試 験 、 鍼 灸 研 究 Journal, OCMT ( http://www.ocmt.ac.jp/gakka/toyo) 2) 稲 垣 順 也 、 七 堂 利 幸 : Jadad( modified Jadad) 法 の 信 頼 性 試 験 、 - 本 邦 鍼 灸 RCT 論 文 で の 質 評 価 - ,未 発 表 3) 丹 羽 智 美 、 七 堂 利 幸 : 取 穴 の 一 致 試 験 、 - 経 穴 本 と 検 者 間 の 差 異 - 、 未 発 表 4) 兼 森 史 峻 : 腹 診 の 信 頼 性 試 験 、 未 発 表 5) 大 田 洋 子 : 赤 羽 氏 知 熱 感 度 測 定 法 の 信 頼 性 テ ス ト 、 未 発 表 6) Litwin MS.: How to Measure Survey Reliability and Validity. SAGE Publications 1995:31 7
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