from Strength and Conditioning Improved Stretching with Proprioceptive Neuromuscular Facilitation PNFによるストレッチ効果の向上 William R. Holcomb[ウィリアム・R・ホルカム、ノースフロリダ大学] PNF(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation:固有受容神経筋促通 法)の手法を用いたストレッチングは 柔軟性を最大限に向上させることを目 的として行われており、筋緊張を解く ために身体の抑制的反射作用を利用し た様々なテクニックが考えられてきた。 筋緊張が解かれるということは、スト レッチング中により大きくストレッチ できるようになるため、柔軟性の大幅 な向上につながるはずである。これら のテクニックはいくつかの著書で紹介さ れているが、 一貫性はあまりないと言え る。基本的に3つのテクニックがある が、 若干相違点もあり、また同じ方法で も異なった名称が存在したり、同じ名 称でも異なった方法が用いられている ということもある。ここでは、最も一 般的なPNFストレッチングの方法を 正しい用語を用いて説明することで明 確にし、 統一性を図ることを目的とする。 ■背景 PNFを取り上げたいくつかの研究 では、単なる他動的(以下、パッシブ) ストレッチングよりもPNFのほうが 有効であると報告されている。それら の研究では、PNFの優位性の理由と して、PNFストレッチングが身体の 固有感覚受容器に与える影響が挙げら れている。例えば、ゴルジ腱器官(G TO) は筋腱接合部にある固有感覚受容 器であり、筋緊張に対して敏感に反応 する。 このGTOが刺激されると、反射 的に筋が弛緩する。そして、この反応 が筋緊張が起こっている筋に起きる場 合を“自己抑制”と言う。 14 Volume 7, Number 5, 2000 パッシブストレッチ動作を行う直前 にその筋を緊張させると、自己抑制が 働く。筋収縮による緊張がGTOに刺 激を与え、次のパッシブストレッチで は反射的に弛緩が起きる。また、筋緊 張が起きている拮抗筋群に弛緩がみら れる場合は“相反促通”と呼ばれる。 パッシブストレッチ中での相反促通 は、ストレッチしている筋の拮抗筋を 同時に収縮させることによって達成さ れる。筋収縮によって起きる筋の緊張 がGTOを刺激し、拮抗筋群における 相反促通を引き起こすのである。 ■ストレッチングの手順 この研究報告では、ストレッチされ ている筋を拮抗筋、そしてそれに対抗 する筋のことを主働筋としている。 従って、股関節であれば屈曲させると 伸筋が拮抗筋群、そして動作を起こし ている屈筋が主働筋群になる。 PNFストレッチングを行っている ときはパッシブストレッチを補助する ために3つの筋活動様式を用いる。主 働筋のパッシブストレッチに入る直前 にはアイソメトリックとコンセント リック両方の動きがあり、自己抑制が 起きる。このアイソメトリック動作は 「ホールド」動作、そしてコンセント リック動作は「コントラクト」動作と 呼ばれている。また、拮抗筋で起きる コンセントリック動作を「拮抗筋の収 縮」と呼ぶ。あと1つのテクニックは 「リラックス」と言い、スタティック なストレッチ動作が含まれる。 PNFストレッチは3段階に分けて 行わなければならない。まず初めに前 述の3つの動作をそれぞれ10秒間ずつ 行う。これをパッシブな予備伸長(プ レストレッチ)と呼ぶ。このプレスト レッチを行うことによって現在の可動 域(ROM)が明確になる。それぞれ の筋運動によって、2、3段階に用い るテクニックが変わってくる。そし て、これらの3つの段階がそれぞれの 方法につけられた名称になっている。 それでは、PNFで用いる「ホール ド−リラックス」 「主働筋の収縮を伴う ホールド−リラックス」そして「コン トラクト−リラックス」の3つの方法 を、ここでは股関節の屈曲可動域を高 める運動を取り上げながら紹介する。 ホールド−リラックス ホールド−リラックス法はまず筋緊 張が感じられる10秒間のパッシブなプ レストレッチから入る(図1) 。次に、 患者に股関節を伸ばす(伸展させる) 努力をするように指示する。ストレン グスコーチはこの動作に対して抵抗を 加え、6秒間アイソメトリックな筋活 動を保つようにさせる(図2) 。続い て脱力するよう指示を与え、パッシブ ストレッチをかけて30秒間保つ(図3) 。 自己抑制が起きるため、最後のスト レッチ動作で一番大きく伸びるように なるはずである。 主働筋の収縮を伴うホールド−リラッ クス 1、 2段階はホールド−リラックスと 同じである。3段階では、パッシブスト レッチに加えて主働筋のコンセントリッ ク動作を行い、ストレッチ力を高める (図4) 。この方法では自己抑制と相反 図1 パッシブ・プレストレッチ 図4 股関節の伸筋群の収縮を伴うパッシブストレッチ(主働筋 の収縮を伴うリラックス) 図2 股関節の伸筋群のアイソメトリック動作(ホールド) 図5 股関節の伸筋群のコンセントリック動作(コントラクト) 図3 パッシブストレッチの最終局面(リラックス) 図6 パッシブストレッチの最終局面(リラックス) 促通の両方が起きるため、この方法を 用いると最後のストレッチ動作ではさ らに伸びるようになるはずである。 コントラクト−リラックス この方法も筋緊張が感じられる程度 の10秒間のパッシブなプレストレッチ から始める(図1) 。次に、患者はス トレングスコーチが与える抵抗に対し て拮抗筋を使って股関節を伸展させよ うとし、可動域一杯でコンセントリッ ク動作を行う(図5)。続いて脱力 し、パッシブ(他動的)な股関節の伸 展ストレッチを与え、30秒間保持する (図6) 。自己抑制作用が働き、より 伸びるだろう。 ■まとめ PNFの原理を用いたストレッチン グは筋抑制を起こす神経系の反射運動 を利用したテクニックである。ホール ド−リラックス、主働筋の収縮を伴う ホールド−リラックス、そしてコント ラクト−リラックスの3つのストレッ チはそれぞれ異なる方法を用い、ト レーニング中の筋の伸展度を高める。 PNFストレッチングを導入する際に は、その背景となる生理学的機能をき ちんと理解すれば、それほど難しくは ないだろう。そして、選手の柔軟性を 最大限に向上させるためにPNFを有 効に活用できるだろう。 Volume 7, Number 5, 2000 15
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