[巻頭言] 技術者の夢 取締役橋梁事業部長 石 原 靖 弘 明 石 海 峡 大 橋 が 完 成 し て 約 16 年 が 経 過 す る . 支 間 長 ここで技術のトレンド変化として,鋼構造技術のみな 1,991mは未だに世界最長を誇る.正に橋梁技術大国日本 らずコンクリート構造に関する技術が必要になってきた の象徴である. ことと,コストを意識した技術開発が必要となってきた この明石海峡大橋建設推進の功績者として,元神戸市 ことである. 長・原口忠次郎の名前が挙げられる.氏は土木技術者で 弊社においても,連続合成2主桁橋,複合ラーメン橋, あり,内務官僚から参議院議員を経て神戸市長(1949- 合成床版等の開発に取り組み,すでに実用化されている 1969)となった経歴の持ち主である.終戦直後の混乱期 ことは周知の事実であるが,会社存続の源泉である利益 からこのようなビッグプロジェクトを提唱しており,当 という面から見れば,まだまだ課題が多いことも事実で 時としては正に‘夢の架け橋’であろう.奇しくも神戸 ある. 市の舞子公園にある記念碑には,氏の言葉である「人生 一方,近年の話題として維持管理の必要性,重要性に すべからく夢なくしてはかないません」という文字が刻 ついては従来より指摘されていたが,耐震補強工事を除 まれている. き予算の関係もあり,なかなか本格的には取り組めてい 明石海峡大橋以外でも,現在の神戸市にある人工島, なかったのが現状であろう. 港湾施設,地下鉄,幹線道路等,大部分のインフラは原 しかし,2012年12月に発生した中央自動車道笹子トン 口時代に計画されたものであると言われている.正に大 ネル事故で残念ながら多数の犠牲者が出る事態となりマ きな着想(夢)と実行力を持った技術者であった. スコミでも大きく取り上げられたため,世論として維持 さて話は変わるが,著者の入社した1979年は瀬戸大橋 管理の重要性が再認識されたところである.これを受け の建設工事が始まった頃であり,それから前述の明石海 て,高速道路会社各社では緊急の点検・調査を実施する 峡大橋が完成するまでの約20年間は正に長大橋の建設ラ とともに,各諮問委員会の提言を受けて大規模修繕・更 ッシュであった.この時代の橋梁技術者は吊橋や斜張橋 新の計画がプレス発表された. をはじめとする長大橋建設のための設計,製作,架設技 また,国土交通省の諮問機関である社会資本整備審議 術の研鑚に努め,プロジェクト実現のために邁進した時 会道路分科会基本政策部会が2014年4月にとりまとめた 代である.今から考えると,橋梁技術者にとってはコス 「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」では,冒 トをあまり気にせず,純粋に技術を追求できる正に夢の 頭のタイトルに「最後の警告」とあるように非常に切迫 時代であった. した状況が伺い知れる内容となっている. 弊社においても,明石海峡大橋をはじめ下津井瀬戸大 このように現在は,新設からメンテナンスという大き 橋や新尾道大橋等,多くの長大橋建設に携わることがで な流れの中で正に転換点に立たされており,我々橋梁技 きた. 術者はこれまで培ってきた技術の上に立ち,更新を含め その後20世紀終盤から21世紀にかけて政府の財政難が た維持管理に関する技術を早急に開発,実用化するとと 顕著となり,2001年に発足した小泉内閣では‘聖域なき もにコストを含めたメンテナンス事業の実施体制を構築 構造改革’を掲げて道路公団民営化に向けた議論が活発 する必要がある. となった.そのため,すでに着手されていた第二(新) 今後は事業の継続性とともに採算性が確保されるよう 東名・名神高速道路建設というビッグプロジェクトがあ 積算基準がきちんと整備され,若い技術者が夢を持って ったものの,コスト縮減を重視した合理化橋梁の技術開 取り組むことができる事業となることを望む. 発が主流となってきていた.その中で,合成構造が見直 され,新たな複合構造が数多く提案されるようになって きた. 片山技報 No.34 (1)
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