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臨床研究と生物統計学
大橋 靖雄
中央大学理工学部人間総合理工学科
2013 年に発覚した臨床試験不祥事に関し大手マスコミはデータの改ざんを大きくとりあげているものの、
問題の本質は、エンドポイントの設定とその評価に代表される臨床試験(及び論文の)質管理・質保証
1)
、そして得られたエビデンスの伝え方にある。
パソコンとインターネットの普及、さらにそれまで専門家のものであった文献情報を一般に公開した
PUBMED(1996)により、EBM は新しい局面を迎えることとなった。情報からコミュニケーションの時
代である。すなわちそれまでは医療者・患者間の情報の不均衡が医療上の意思決定における問題とされて
きたものが、患者間の情報格差が問題となり、さらに「統計」の用語で語られる治療成績(文献情報)を、
その質評価とともにいかに現実の治療現場で解釈するかが課題となってきた。適切な解釈を行うためには
研究自体の質(デザインとデータ収集の質に依存する)と限界(背景・場に依存する)を充分把握し、統
計的処理すなわち不要なデータを捨てるための暗黙の前提・仮定(コックス回帰の比例ハザード性などが
例)を理解した上で、現実の場面にエビデンスをぶつける必要がある。この作業は患者にとってはもとよ
り不可能、医療者にとっても極めて困難な作業であり、ここに統計家の支援が必要であるというのが筆者
の見解である。(具体的にはゲフィチニブ国内臨床試験の例
2)
、CASE-J の例
3)
を参照されたい。ともに
比例ハザード性に関わる問題である。)
本講演では、臨床医学に対する生物統計学の貢献からはじめ、流布している統計手法に関する誤解を紹介
し、臨床研究の「質」とその保証に対し、統計・データ管理・出版の側面を中心に論じたい。わが国喫冠
の課題である研究者主導臨床研究のインフラストラクチャ構築の必要性についても述べたい。
1.大橋靖雄:統計学から医療を斬る(1) 降圧剤臨床試験の不祥事に思う,メディカル朝日 2014 年 4 月
号,pp.49-51.
2.大橋靖雄:医師のための臨床統計学,医歯薬出版,2011, pp.118-21.
3.大橋靖雄:統計学から医療を斬る(2) 生存曲線が交差?CASE-J 試験データの解釈の問題点,メディ
カル朝日 2014 年 5 月号,pp.77-9.