学生2 - 森林利用学会

Kinect を活用した森林内微地形の 3 次元計測
松木愛子・田坂聡明・有賀一広・松英恵吾(宇大農)
1.はじめに
Kinect はジェスチャーによる操作を可能とするため、物体表面の 3 次元座標計測のための深度センサ
を搭載している。本研究では、この深度センサを解析・流用することにより、森林内における簡易な 3
次元計測器機としての活用を検討した。林業分野では、これまでに航空機 LiDAR や地上 LiDAR によ
る 3 次元計測の活用試験が進められているが、装置・計測費用が高額であるため、簡易試験での計測や
小規模林家での利用は困難であった。本報告では、安価な PC 用器機 Kinect を活用した簡易な 3 次元
計測システムを提案し、これを用いて行った森林内の樹木位置測定、微地形の 3 次元計測、位置精度や
分解能の検証などの基礎的研究の結果を報告する。
2.方法
Kinect の計測範囲は最大約 4m であり、林内など広範囲の位置情報測定を行うためには、複数の部
分データの相対位置の統合処理が必要となる。ここでの統合処理とは、統合対象となる点群データ対に
共通して存在する点(特徴点)の対応を求めるアルゴリズムを指す。今回の実験では、計測後、後処理
として統合処理を行う Kinect 固定式測定と、計測中に逐次統合処理を行う移動式測定の 2 通りの手法
を用いた測定を試みた。固定式測定では Kinect を水平回転台に固定し、一定回転角度毎に点群データ
を取得後、円柱座標上で回転処理を行いデータを統合した。移動式測定では、測定者が Kinect を持ち
連続的に移動させながら、逐次、特徴点検出と新規測定データの追加を行うことで、連続的に点群デー
タを取得した。
3.結果
固定式測定で取得した部分データの X、Z 座標に対し、水平回転
角に基づき回転座標変換を行い、合成画像を作成した(図 1)。遠
距離における分解能の低下・点群数の減少と、すり鉢状歪みが発生
していることが見て取れる。これらは連続移動撮影により、測定部
分を相互補完することで解決可能と判断された。移動式測定では、
林床を対象として約 200m2 の点群データ取得に成功した。精度検
図 1.合成結果
証のため、林床の点群データを現地の水準測量データと重ね合わせ
た(図 2)
。両者の示す地形がほぼ一致していることから、本研究
の目的である森林内微地形計測へ利用可能であると判断できる。ま
た、林床草本類の精密な点群データも作成可能であることが確認さ
れた。したがって、微地形計測のみでなく林分植生・被覆率の経年
変化観測などへの利用も期待できると考えられる。今後、ポータブ
ルな 3 次元計測装置として Kinect の活用が進むことに期待したい。
図 2.重ね合わせ結果
キーワード:Kinect、3 次元計測、地表面形状測定、点群データ、統合処理
タワーヤーダによる間伐作業のモデル化
渡邊優美(京大院農)・長谷川尚史(京大 FSERC)
・白澤紘明(信大農)
各林分において適切な作業システムの選択を行うには、システムダイナミクスを用いたシミュレーシ
ョンが有効である。これまで、新永ら(2007)は実作業における要素作業時間の分布をモデルに組み込
むことによって実際の作業時間のばらつきを表現したモデルを、杉本ら(2010)はこれに加えて伐木す
る立木の胸高直径分布を考慮したモデルをそれぞれ作成し、車両系集材作業システムに適用している。
また市川(2010)は、胸高直径、集材距離を各作業工程に影響を及ぼす条件として考慮した上で、現在
日本で代表的な 4 種類の作業システムにこれを拡張し、路網作設および維持管理コストを考慮した作業
システムの選択について検討している。八木(2012)ではこれをさらに架線系作業システムに拡張し、
胸高直径、林分面積、集材距離、横取り距離を考慮した上で、集材機とタワーヤーダを加えた計 6 種類
の作業システムについてのシミュレーションモデルを構築している。
特にタワーヤーダは、我が国の急峻で複雑な地形と資源が成熟し大径化する木材への適用が期待でき
るとされており(中澤, 2011)
、とりわけ近年では、荷吊り力・搬器速度が大きく、さらに操作を無線装
置で先山と土場作業車両の双方から行うことができる高能率の欧州製タワーヤーダが注目を集めてい
る。しかし八木(2012)の構築したタワーヤーダに関する作業システムは、木幡ら(1999)が作成し
た集材のサイクルタイムを用いており、近年のタワーヤーダに対応したものではない。
そこで本研究では、欧州製タワーヤーダを用いた作業システムに関するモデルを新たに構築すること
を目的に、集材作業と造材作業における生産性を調査した。
用いたタワーヤーダは、日本土地山林(株)に導入された Koller 社製 K602 POWERYARDER であ
る。搬器には MSK-3 を搭載している。作業システムは、伐倒された材をタワーヤーダで集材し、プロ
セッサで造材する 2 人作業である。調査区は、スギおよびヒノキ林分、平均胸高直径が 26.46 cm であ
り、集材距離約 100 m の範囲内において毎木調査および集材作業と造材作業の時間観測を行った。
調査結果から得られた各要素作業の頻度分布あるいは作業要素に影響を与えている各因子との関係
を基に要素作業時間を予測する経験式を作成した。シミュレーションは調査区における平均胸高直径
26.46cm(最小値 15 cm、最大値 40 cm)で 3 回ずつ繰り返し、各工程の労働生産性を求めた。
引用文献
市川隆史(2010)路網開設コストを考慮した素材生産作業システムの選択. 京都大学農学部卒業論文
中澤昌彦・陣川雅樹・吉田智佳史・他 9 名(2012)タワーヤーダを用いた間伐作業の生産性. 日林学術
講 123, Pa106
新永智士・長谷川尚史(2007)素材生産システムのモデル構築に向けた要素作業時間の分析.
日林学
術講 118,419
杉本和也・新永智士・長谷川尚史(2010)システムダイナミクスによる連携集材作業の検討.森利学誌
25(1),5-14
八木弥生(2012)素材生産作業システムの選択モデルの構築. 京都大学大学院農学研究科修士論文
キーワード:タワーヤーダ、システムダイナミクス、シミュレーション、作業システム、生産
車両系作業システムによる漸伐終伐時の労働生産性
○大塚大(信大院農)
斎藤仁志・守口海・植木達人(信大農)
1.はじめに
漸伐(傘伐)作業は天然更新でありながらも択伐ほど集約的な施業方法でなく,現在大きな問題と
なっている造林コストを比較的簡便に軽減できる可能性がある。しかしながら,国内において継続的
な施業地が少なく,技術体系は未確立であると考えられる。なかでも,収穫と同時に育林作業を担う
後伐は,次世代の主林木となる更新木が数万本/ha の密度で発生している条件下での伐出となり,通常
の作業と比較して大幅な作業性の低下が予測される。また,高性能林業機械を用いた作業システムで
の後伐作業事例は数少なく,実態の解明が求められる。以上のことから,漸伐作業の導入に関する技
術的課題は多く,本研究では,後伐のうち,上木をすべて収穫し,更新木と世代交代する終伐時にお
ける労働生産性を明らかにすることを目的とした。
2.方法
調査地は,長野県小県郡青木村に位置する奈良本山国有林 1180 た林小班であり(表-1,図-1),
すでに過去 3 回の後伐が実施されている。上木に関しては 2012 年に毎木調査を実施しており、樹高,
枝下高,胸高直径,立木位置が把握されている。作業システムは,伐倒・枝払いをチェーンソー,木
寄せ・造材をプロセッサ(ハーベスタ),運材はフォワーダである。路網密度はプロット内で 240m/ha
となっている。なお,伐出にともない発生する更新樹の損傷を把握するため,樹高 20cm 以上の収穫対
象でないヒノキ更新木を対象に,終伐前後に損傷状態の毎木調査を行った。以上の作業をビデオ撮影
による時間解析を行い,労働生産性を算出した。
3.結果と考察
解析の結果,一人あたりの日労働生産性は 6.1m³/人日程度であった。作業功程ごと生産性をみると,
伐倒 4.0m³/人時,造材 5.3m³/人時,運材 7.3m³/人時といずれも低い値を示した。特に伐倒功程では,
以降の作業から更新木を保護するため全幹状態になるまで枝払いされており,これが大きく効率を悪
化させた原因となったと考えられる。また,出材先の要望により,材へのローラー痕付着を防ぐ目的
で,元玉,ならびに二番玉はチェーンソーにより手造材されたことも生産性の低下につながった。
以上の結果から,伐出時に更新木が存在する漸伐作業では,通常の主伐と比較して労働生産性が大
幅に低下することが明らかとなった。しかしながら,約半数の保残された更新木は再造林コストの省
力化に寄与することが期待できることから,造林費を含めたうえでの比較検証を行う必要がある。
図-2 伐出作業の様子
図-1 調査地位置図
表-1
調査地概要
キーワード:漸伐作業,ヒノキ,高性能林業機械,労働生産性,損傷
小形移動式チッパにおける樹種および材積と生産性の関係
吉田美佳(東大農)
はじめに
木質バイオマスの利用が本格的に開始されるようになり、低位利用材の利用が急務となっている。移
動式チッパは低位利用材の輸送コストを低減するために必要といわれているが、作業規模や森林内の路
網整備の現状を鑑みると、大形車両の利用がむずかしい森林もあり、小形の移動式チッパの活用の場も
多いと考えられる。本研究では、小形移動式チッパの生産性を検証した。
方法
調査対象機種は、日本に 2013 年(平成 24 年度)に導入されたデンマーク Linddana 社製 TP250 mobile
turnable である。牽引して運搬し、出力 53.7kW の独立エンジンを備えている。原材料の投入は人力で
行うことが前提となっている。スギ、ヒノキの小径木 4m 材それぞれ 40 本と広葉樹 50 本の全木材につ
いて、材積測定およびチッピング作業の時間観測を行い、材積とチッピング時間の関係を分析した。
150
結果と考察
y=841.1x, R2=0.88
y=242.3x, R2=0.95
y=278.8x, R2=0.95
られた。スギ、ヒノキ間で材積については
有意差が認められなかったが( < 0.05)、
チッピング時間については = 0.002と 1%
100
材積とチッピング時間には強い相関が見
50
トすると図 1 のようになった。樹種ごとに
Chipping time (sec)
材積とチッピング時間の関係をプロッ
Broad leaves
Ceder
Cypress
有意差が認められた。図1より、広葉樹は
いる。これは材の硬さが関係していると思
われる。チッピング時間が材積と強い正の
関係があることから、チッパの生産性は一
定であるといえるが、出力の小さい小形チ
0
針葉樹よりもチッピングに時間を要して
0.00
0.02
0.04
0.06
0.08
0.10
Volume (solid m3)
図 1 樹種別の材積とチッピング時間
ッパの生産性は樹種によって異なることが示唆される。作業観測において、小形チッパの生産性を左右
している因子として、人為の働く投入作業や枝ぶりなどの原材料の状態に依るところも多いと思料され
た。
キーワード:移動式チッパ、生産性、チッピング、木質バイオマス