国鉄村上駅土下座事件 校 長 佐藤修一 人間関係のトラブル 学校では、生徒がケンカをしたり気持ちのズレから話をしなくなったりする 人間関係のトラブルがよくあります。そのトラブルは、生徒同士解決できるレ ベルから教師が介入しなければならないものまで様々ですが、学校としては、 トラブルは人間関係を学ぶ機会として、丁寧に対応しています。 最近も生徒同士のトラブルがあり、すぐに自分の非を認めて謝罪したという ことがありました。そのとき、私の若い頃の出来事を思い出しました。 国鉄村上駅土下座事件 村上第一中学校に勤務した 30 歳のころの話です。 学年で、生徒の靴の中に画鋲が入れられていたことがありました。ときにそ れが梅干しの種だったりする陰湿な嫌がらせ、いじめです。 私は学級で、「陰でこそこそ人の嫌がることを言ったりしたりするのは卑怯 だ」と話し、「実は自分も陰でこそこそ悪いことをしたことがある」と語りま した。 それは、大学時代に電車の「キセル」をしたことで、それほど罪の意識を感 じないまま繰り返していたところ、ある日、久しぶりに高校以来の親友と会っ た帰り、彼は目的地までの切符を買い、私は最低料金の切符を買った。その時、 急にちっぽけな自分が恥ずかしくなり、以来やめている。そんな話です。 数日後、学級の男子数人が音楽の授業に遅れて注意されたのに素直に謝らな かったということがありました。私がどうして謝れなかったのか問いただした ところ、返ってきた言葉が、「なら、先生は国鉄に謝ったんか」…開いた口が ふさがらず、思わず、「よし、そう言うんなら謝ろうじゃないか」と言ってし まいました。 売り言葉に買い言葉ではありませんが、「生徒に要求するなら、まず己がで きなければならない」と、とっさに自分が見本を示してやろうという気になっ たのです。 その日の放課後、下校時刻が過ぎたころ、その生徒たちが「先生、謝ったか」 と確かめに来ました。生徒は、常日ごろ自分たちを叱っている教師が国鉄に謝 りに行くなんて信じられなかったのです。私は無性に情けなく、そして腹が立 ってきました。 「俺が謝りに行くかどうか疑っているのか、俺がそんなに信用できないか」 と大声を出し、「よし、これから行くからついてこい」と、たんかを切ってし まいました。 駅に行く途中、「とんでもないことになってしまった。しかし、ここまで来 たら後には引けない。どうせ謝るなら、徹底的に謝ろう」と覚悟を決めました。 駅長室に入り、事情を話し、土下座して謝りました。
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