紀伊半島の地形と地質 - 和歌山県立田辺高等学校

紀伊半島の地形と地質
和歌山県立田辺高等学校
山本
俊哉
紀伊半島の地形
紀伊半島はユーラシアプレート東縁のプレート沈み込み境界に位置しています.紀伊半
島は,南海トラフからフィリピン海プレートが沈み込む影響で水平方向に圧縮されている
ことから,隆起量の大きい地域となっています.降水量が多いことも重なって,紀伊山地
は急峻な地形をなしています.平野は紀ノ川下流域など限定的で,多くの地域で山地が海
岸に迫っています.また,潮岬など半島南部には海岸段丘が発達しています.
紀伊半島西部の主要な河川として紀ノ川や有田川,日高川,富田川(とんだがわ ),日
置川(ひきがわ)が挙げられます.これらの河川は半島中央部から西ないし南西に向かっ
て流れています.一方,紀伊半島中央部の主要な河川は北山川と十津川です.北山川は大
台ヶ原を水源に,十津川は山上ヶ岳を水源に南流し,やがて両河川は合流し熊野川として
熊野灘に注いでいます.
紀伊山地は北山川と十津川により, 3 つの山系に分けられます.東から順に,大台ヶ原
に代表される台高山脈,近畿地方最高峰の八経ヶ岳( 1915m)を含む大峰山脈,護摩壇山
や伯母子岳に代表される伯母子山地です.本大会の行われる本宮地域以北において,尾根
の延びる方向に注目すると興味深いことに気付きます.南北性の主稜線に対し,東西性の
尾根(例えば果無山脈)が系統的に発達していることです.南北性の大峰山脈は大峰酸性
岩類の分布と一致し,東西性の尾根は付加体の帯状配列と一致します.
一方 ,田辺湾から近露を経て本宮に至る地域には,やや標高の低い地域が続いています.
この低地の南側には,紀伊山地本体とは独立して大塔山や法師山に代表される山系があり
ます.紀伊半島南部の地質構造は,大規模な褶曲構造が発達することなど北側の地域とは
差異が見られます.これが地形に反映されていると思われます.
紀伊半島の河川は山間部でも平野の河川のように蛇行していることが特徴です.この形
態は穿入蛇行と呼ばれています.大会会場を流れる熊野川や支流の大塔川や四村川にも著
しい蛇行が見られます.地形図でこれらの河川をたどると,古い流路が短絡され,環流丘
陵が形成されている地点をいくつも見つけることができます.
紀伊半島の地質
紀伊半島の地質は形成過程から大きく 3 つに分けられます.まず,紀伊半島の基盤を形
成する付加体(付加コンプレックス)です.次に,比較的浅い海に堆積した地層.最後に
これらを貫いてできた火成岩類です.
なお,本宮や湯峯,川湯の熊野古道は付加体の地層の上を,小口から請川に至る小雲取
越は付加体を覆って堆積した熊野層群の上を歩くことになります.
1.付加体
紀伊半島では,海溝軸と平行に同時代の地
層が東西に連なる帯状配列が見られます.こ
れらは北から順に三波川変成帯,秩父帯(主
に 中 生代 ジ ュラ 紀 ), 四万 十帯 (中 生代 白亜
紀~新生代古第三紀)に区分されています.
海溝(現在の紀伊半島沖にある南海トラフ
も同じ)付近の深海に堆積した地層は,海洋
プレートの沈み込みに伴い水平方向に圧縮さ
れ,褶曲や断層により複雑に折りたたまれて
いきます.この付加体を構成する地層は砂岩
や泥岩,砂岩泥岩互層を主体とします.その
中に,海洋性のチャート,玄武岩,石灰岩な
ど異地性の岩石が挟み込まれていることがあ
ります.後者は海洋プレートとともに日本付
紀伊半島の地質区分.はてなし団体研究
グループ( 2012).
近 に運 び込ま れ, 沈み 込む海 洋プ レー ト上か らは ぎ取
られ,混在したものです.
紀伊半島の地層は南ほど若い年代を示します .また ,
紀 伊半 島沖で は現 在も 付加体 が形 成さ れてお り, 紀伊
半 島を はじめ 西南 日本 は現在 も海 溝に 向かっ て成 長し
つつあるといえます.
2.浅い海に堆積した地層
上記 の付加 体を 不整 合に覆 って ,比 較的浅 い海 に堆
積 した 地層が 存在 しま す.紀 伊半 島の 南西部 では 田辺
層 群, 南東部 では 熊野 層群と 呼ば れ, 新生代 新第 三紀
中新世(約 1500 万年前)に堆積した地層です.
下位 の付加 体の 地層 に比べ ,地 層の 傾きや 褶曲 など
の 変形 は緩や かで す. 条件の 良い 露頭 では斜 交葉 理な
ど 堆積 構造が よく 観察 されま す. また ,田辺 ,熊 野両
地 域と も貝化 石が 産出 し,熊 野地 域で はまれ に石 炭層
を挟んでいることがあります.
3.火成岩類
潮岬 や大峰 山脈 ,紀 伊半島 南東 部の 那智勝 浦町 ~尾
鷲 市に 至る地 域に は火 成岩類 が分 布し ます. 多く は花
崗 岩や 花崗斑 岩, 流紋 岩など 珪長 質の 岩石で ,凝 灰岩
を 伴い ます. 潮岬 では ,この 他に 玄武 岩や斑 れい 岩な
ど苦鉄質の岩石も見られます.
火成 岩に近 接す る地 層は, マグ マの 熱ある いは 熱水
の 作用 で大変 硬く なっ ている 場合 があ り,瀞 峡な どの
大 渓谷 を形成 して いま す.ま た, 火成 作用に 伴い 様々
な 金属 鉱床が 含ま れて おり, かつ て銅 などを 採掘 して
いました.
これらの岩石は新第三紀中新世(約 1400 万年前)の
火 成活 動の産 物で す. かつて の紀 伊半 島に, 阿蘇 山に
匹 敵す るカル デラ が形 成され たこ とが 推定さ れて いま
す.
火成 岩類は 風化 や浸 食のさ れか たが 堆積岩 とは 異な
り ,特 異な景 観を つく り出し ます .例 えば, 古座 川の
一 枚岩 や那智 の滝 ,串 本の橋 杭岩 など は景勝 地と して
知 られ ていま す. 新宮 市の神 倉神 社, 熊野市 の花 の窟
な ど, 火成岩 類の つく り出す 独特 の地 形が, 古来 より
信仰の対象となっていることもあります.
牟婁層群(古第三紀,約 4000 万年
前)の地層.付加体の形成ととも
に複雑に折りたたまれている.
熊野 層 群( 新 第三 紀, 約 1500 万
年前)の地 層.地層の 変形は少な
く,地層面は水平に近い.
那智の滝. 熊野酸性岩 類がつくる
大岩壁.
本宮地域の湯峯,渡瀬,川湯などには温泉の恵みが得られます.これらの源泉は,火山
の無い地域としては例外的に高温で,湯峯で 90 ℃,川湯で 70 ℃に達しています.川湯で
は大塔川に上記の火成岩が岩脈として現れており,温泉との関連が推定されます.
このように,熊野の火成岩類は火成活動は既に終えていますが,紀伊半島の文化に影響
を与えているといえます.
『 南紀熊野 ジオパーク 』の取り 組みとして ,和歌山県の ホームページに地質や 地形の見所が紹介され
てい ます.ま た,日本列 島の地質 の概要を知 るには産業技 術総合研究所のホーム ページで公開されてい
る「 シームレス地質図」 が便利です. 紀伊半島の地質や温泉の資料として「 アーバンクボタ 38 号」 や「 地
学団体研究会専報 59 号」が出版されています.