(80)第14条の3の3(名義貸しの禁止)

BUNさんと泉先生の廃棄物処理法逐条解説
80
第14条の3の3(名義貸しの禁止)
BUNさん(『土日で入門 廃棄物処理法』の著者)
泉 先生
(廃棄物部門でご活躍の女性弁護士)
<BUNさん>
今回は、あまり難しいことはなく、常識的に言って「あたりまえ」の名義貸しの禁止で
す。前回同様、第7条の5の一般廃棄物処理業の規定についても、同時に見ていきましょ
う。
<法律>
(名義貸しの禁止)
第十四条の三の三
産業廃棄物収集運搬業者及び産業廃棄物処分業者は、自己の名義をもつて、他人に産業廃棄物の
収集若しくは運搬又は処分を業として行わせてはならない。
(名義貸しの禁止)
第七条の五
一般廃棄物収集運搬業者及び一般廃棄物処分業者は、自己の名義をもつて、他人に一般廃棄物
の収集若しくは運搬又は処分を業として行わせてはならない。
この条文は解説するまでもなく、(廃棄物処理法としては珍しく(^O^))日本語として読め
ばわかることです。
許可業者は、許可業者でない人物に対して、「オレの名義で廃棄物処理やっていいよ」
と名義を貸す行為をしちゃだめだよ、という内容ですね。
ちなみに、許可業者が別の許可業者に委託する行為は、産業廃棄物の場合は、「再委託」
という手続きを取れば、一回だけは可能(第14条第16項)でしたね。
ちなみに、ちなみに、「名義<借り>禁止」という条文はなく、当然の話ながら、許可
を持っていないのに、他者の廃棄物を運んだり、焼却、埋立等の処分をすることは、「無
許可」となり、名義を借りていようが、借りていまいが、やった本人、すなわち実行行為
者は違反となります。
これは既に見てきた、14条1項(産廃収集運搬)、6項(産廃処分)、7条1項(一廃収集運
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搬)、6項(一廃処分)で規定されていて、単純に「無許可」行為は、とてもわかりやすい違
反行為です。
ところが、廃棄物処理法の許可は、法人の場合は、法人に対して行われる許可であり、
実際に行っている個々の人物には、特段の免許や資格は要求していません。
たとえば、タクシー業務(一般乗用旅客自動車運送事業(道路運送法))を行う会社は、会
社としてタクシー業の許可や登録を取っていても、具体的にタクシーを運転する運転手さ
んは、自動車運転免許証(二種免許)を持っていることが必要ですよね。
ところが、廃棄物処理業の場合は、会社として廃棄物処理業の許可を取っていれば、廃
棄物処理に関しては、実際に廃棄物を運搬する個々の運転手さんや、処理をする破砕機を
動かす作業員さんには別個の資格等は要求されていません。(15条処理施設の場合は技術
管理者の選任が規定されていますが)
そのため、とても紛らわしい行為が行われることがあります。
「あなた、無許可でしょ」と言うと、「いやいや、オレは○○会社の従業員なんだ。」
と正規に許可を取得している者の「名前を騙る」時があるんですね。
実は、これ、なかなか難しい面があるんです。会社で働いている人は、必ずしも正社員
とは限りません。派遣の方も、アルバイトの方も、パートの方もいます。
また、機材にしても必ずしも会社の所有とも限らず、レンタルの場合もあります。
ですから、A社で許可を取得している時に、産廃を積んだダンプの運転手さんが、A社
の正社員でなかったからといって、必ずしも無許可とは限らないって状況もあり得るんで
す。ここで、あまり詳しく「無許可にならないパターン」を示すと、「違法行為の教唆」
と捉えられ、BUNさんが捕まってしまうと困りますから、この辺で「無許可にならない
パターン」は止めておきます。
逆に、明確に「実行行為は無許可そのもの」、したがって、その実行行為者に名義を名
乗らせている場合は、この第14条の3の3に抵触するパターンとして「傭車(ようしゃ)
契約」があります。
この「傭車契約」でありがちなのは、多忙時に許可業者A社の車両・運転手だけでは足
りなくなることから、自分でトラックを所有している、いわゆる一匹狼のトラック野郎に、
A社の業務を行わせる行為です。
「今月は忙しくてネコの手も借りたいんだ。とてもこれからじゃ、再委託なんて手続き
していらんねぇから、うちの会社の名義で運んでくれ。」とやっちゃう訳ですね。
「無許可禁止」は、許可制度を採用した廃棄物処理法スタートした時から規定していま
した。一方、この「名義貸し禁止」条項は、違法な廃棄物処理が横行した平成9年、つま
り、廃棄物処理法がスタートしてから四半世紀も過ぎてから制定されたんです。
平成の一桁台ってそれほどに悪徳業者が跋扈し、単に「無許可」を取り締まるだけじゃ
足りなくなったんですね。無許可とともに、そいつに名義を貸して便宜供与した者も厳罰
に処すって考えて制定された条文です。
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ついでなので、この理念で同じ時期に制定された条文に(現)第14条第15項がありま
す。この条項は既に解説していますが、「ブローカー規制条項」でしたね。「許可業者じ
ゃなければ受託してはならない」という趣旨でしたね。
他の法律では、ここまで規定しているものは少ないと思いますので、この機会に整理して
おきましょう。(産廃で紹介しますね)
1.無許可そのものの行為。(第14条第1項)
2.無許可業者に名義を貸す行為。(第14条の3の3)
3.無許可の人間が受託する行為(たとえ、実行行為を許可業者にやらせても)(第14条第
15項)
4.許可業者が再委託する行為(第14条第16項)
そして、受け手側だけでなく、出し手の事業者側の規定としては第12条第5項、6項、
7項と「蟻が入る隙間さえ与えない」ほど脱法行為に対して、抜け道を塞ぐ条文を整備し
てきています。
<泉先生>
廃棄物処理法は、自ら処理を原則としていますが、現実には委託処理、すなわち廃棄物
処理業の許可を有する業者に頼んで処理してもらうというケースが非常に多いです。排出
事業者が、自ら適正処理を行う人材を育成したり、処理施設を設置することは困難です。
万一、不適正な処理をすれば、行政処分や刑事罰の対象となってしまいます。そこで、排
出事業者にとって、プロである廃棄物処理業者に委託することは、自ら処理するよりも、
安全であり、かつ委託基準を守っていれば、ほとんどのケースでは責任を回避することが
できるのです。
一方、排出事業者が、自分で廃棄物処理業者を探すのはそれほど簡単ではありません。
廃棄物処理業の許可は、種類ごとに分かれており、地域ごとに、信頼できる業者を探すの
はなかなか難しいからです。そこで、排出事業者に、処理業者を紹介するというビジネス
が存在します。処理業者を紹介するビジネスは、それ自体は適法であり、かつうまく機能
すれば適正処理を促進する効果があります。
しかし、排出事業者が、紹介会社に丸投げして、あとは適当に頼む、というような考え
方は、排出事業者責任の観点から問題です。この丸投げは、再委託に該当するのか、名義
貸しに該当するのか、微妙なケースがあるように思います。
紹介会社が処理の委託を受けたうえで、許可業者に指示して処理をさせる場合には、再
委託に該当します。
一方、紹介会社が許可業者と示し合わせて、紹介会社が廃棄物の処理をして、マニフェ
ストなどの名義だけは許可業者の名前を使っているような場合には、名義貸しにあたりま
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す。
たとえば、紹介者が最終処分場許可業者の許可証と印鑑を借りて、契約やマニフェスト
を偽造し、処理料金の入金口座も紹介者が管理しているようなケースが考えられます。許
可業者の経営状態が悪化した場合、従業員のほとんどが辞めてしまった場合などに、この
ような乗っ取りが発生します。この場合、乗っ取られた会社は名義貸しになり、乗っ取り
をした会社は無許可営業になります。さらに、乗っ取りをした会社が適正に処理すること
は期待できず、不法投棄などの不適正処理の温床となります。
名義貸しは、許可制度の根幹を揺るがすものであり、無許可営業とセットで発生するこ
とがほとんどです。排出事業者が、名義貸しや再委託を防ぐためには、現地を訪問するな
ど、処理の実態を把握し、一連の処理工程を確認することが重要です。
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