教育スタッフ P L A Z A 前回は、 「インプットに変化をつける」方法として、 Visual、Vocal、Story の3つを取り上げました。今 回は参加者を飽きさせないための2つ目のコントロー ルとして、 「矢印の向きを変える」方法を紹介します。 一方通行の講義にプチ変化を起こす 研修参加者の視点に立つと、いちばん「飽き」が生 じるのは、講義型の研修で講師の一方的な話が長々と 続く状況です。この受け身の状態をイメージで表した [◎]は講師、 [ ◦ ]は参加者 ものが、図表のAです。 を表しています。 Aの矢印の向きは、◎→◦という一方通行の状態で す。 「矢印の向きを変える」とは、この矢印の方向や 起点となる場所を変えて、一方通行の講義に変化をも たらす方法です。 たとえば、Bを見てみましょう。Bでは◦→◎と、 矢印の向きが逆になっています。講師が参加者に向か って話していたAの状態から、参加者が講師に向かっ て話すBの状態をつくる。これはすなわち、講師が参 加者に問いかけ、答えてもらうことを意味します。人 はただ話を聞いているだけだと、理解度や集中力が下 Sec.2 参加者を飽きさせない4つのコントロール 第 6 回 矢印の向きを 変える ラーニング・クリエイト 代表取締役 鈴木英智佳 がる傾向があります。しかし、そこに講師からの問い かけが入ることで、参加者に思考停止状態から抜け出 してもらったり、集中力や緊張感を高めることができ るのです。 Bはさらに、クラス全体に投げかける「全体質問」 と、特定のグループを指名して、そのなかのだれかに 任意で答えてもらう「グループ質問」の2つに分けら れます。全体質問は、参加者の自主的な回答を引き出 しやすい半面、 遠慮または萎縮してだれも答えない (挙 手しない)リスクをはらんでいます。一方、グループ すずき ひでちか 1997 年慶應義塾大学卒。花王株式会社 に て 人 事 部 門 に 在 籍 後、 教 育 研 修 ベ ン チャーに転職。100 名を超える契約講師 の採用・育成に携わる。2011 年に株式 会社ラーニング・クリエイト設立。 “参加 者の学ぶ意欲を刺激する”教え方を体系 化し、内製化を支援する「社内講師養成 コンサルタント」として活動している。 質問だと、だれかが1人率先して回答してくれる可能 性が高まります。 続いて、Cの場合はどうでしょう。矢印の向きはB と同じですが、起点はBが複数であるのに対し、Cは 1人だけになっています。これは、 「個人指名」のイ メージです。個人指名では、たとえば、ボーっとして 集中力を欠いている参加者に刺激を与えたり、的確な 回答を有した参加者に、講師の言いたいことを代弁し 62 企業と人材 2016年1月号 教育スタッフ PL A ZA 図表 矢印の向きを変える てもらえる可能性があります。 このように、 「講義型」のなかでも、場面・ 〈A〉 〈B〉 〈C〉 〈D〉 〈E〉 〈F〉 状況に応じて、全体質問とグループ質問、個人 指名をうまく使い分け、織り交ぜることによっ て、 進行に変化をつけることができます。なお、 注意点としては、 あまりに難しい質問を振ると、 指名された参加者が答えに窮してしまう場合が あります。ここでは、講義にプチ変化を起こす ことを主眼としているので、参加者が答えやす く、講義のテンポを損ねることのない「小さな 問いかけ」を心がけるとよいでしょう。 Copyright @Learning Create All Rights Reserved 参加型ではディスカッションの矢印を変える スカッションを進行に組み入れることで、話し合いの では次に、参加型研修で矢印の向きを変える方法を バリエーションは格段に増えます。 みていきましょう。参加型は、講義型に比べて圧倒的 なお、この2人での話し合いは、講義型研修のなか に飽きが生じにくい研修スタイルといえますが、それ でも、講義の前に短時間でも取り入れたりすれば、参 でも延々と同じパターンのグループディスカッションが 加者の当事者意識を高めて効果的な講義につなげるこ 続けば、やはり参加者のテンションは下がってきます。 とができます。 ここでも、矢印の向きを変えることによって、マン 最後に、Fをご覧ください。これも参加者のディス ネリ感を打破する方策を考えてみましょう。図表のD カッションをイメージしたものですが、1つの[◦] では、4つの[◦]から全方向に矢印が出ています。 に対して、他の3つから矢印が集中しています。集中 これは、通常の参加者全員によるディスカッションを 攻撃にあっているようにもみえますが、決してネガテ イメージしたものです。これについても、矢印の向き ィブな進め方ではありません。 や起点を変え、ディスカッションの進め方にプチ変化 Fはたとえば、プレゼンなど1人のアウトプットに を生み出してみましょう。 対して、他の参加者がフィードバックをするようなケ Eを見てください。Dは4人がだれからともなく発 ースが想定されます。あるいは、ある参加者の業務上 言し合う状態でしたが、Eでは2人ずつのペアによる の悩みや課題について、みんなで協力して解決のため 話し合いになりました。一般的に大人数のディスカッ のアイデアやアドバイスを出し合うといった進め方の ションでは、どちらかというとエネルギッシュな人の イメージでもあります。このような進め方はチーム内 意見が優先されたり、個々の積極性によって発言量に での相互サポートが促進されるため、Dのようなオー 偏りが出たりします。6人1グループともなれば、何 ソドックスなグループディスカッション以上に、チー も意見を言わない人がいても話し合いが成り立ってし ムとしての一体感が高まるというメリットがあります。 まうことも多いでしょう。 * ペアディスカッションの良いところは、1対1での 今回は講義型、参加型それぞれの研修について、 「矢 話し合いになるため全員参加の状態をつくりやすく、 印の向きを変える」ことによってプチ変化を生み出す また大勢の前では切り出しづらい少数意見や本音が出 方法をみてきました。実際に紙に書き出して、矢印の やすくなることです。 「ペアディスカッション→グル 向きや起点を変えてみると、さらに多くの手法がみつ ープディスカッション→全体共有」や「ペアディスカ かるかもしれません。ぜひ、いろいろと知恵を絞って ッション→個人指名による全体共有」など、ペアディ みてください。 企業と人材 2016年1月号 63
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