痒みの種類 老人性乾皮症の臨床 皮膚掻痒症の臨床 皮脂欠乏性湿疹の

231 号
平成 22 年 3 月 20 日
老人性乾皮症の臨床
鱗屑の付着もみられるようになります。
ギレを侵入部位とする皮膚細菌感染症
老人性乾皮症は、臨床的にすねなど
膚表面は光沢がなく、細かくひび割れて
の上下肢の外側や伸側、腰部、背部
乾燥するドライスキンの状態を呈していま
老人性乾皮症は、種々の皮膚疾患
など、の発生誘因となりますが、最も
に好発しますが、その概観は一見する
す。特に空気が乾燥して低湿度環境と
やスキントラブル、
例えば皺や萎縮といっ
重要で注意を要する点は、皮膚掻痒
と通常の皮膚の状態と大差がありませ
なる冬期では、皮膚表面の乾燥が顕著
た肌の加齢徴候、打撲などの外力に
症や皮脂欠乏性湿疹といった皮膚の
ん。しかしながら、詳細に観察すると皮
となり、細かい白色の薄い膜、いわゆる
対する皮膚の脆弱性、ひび割れ・アカ
痒み疾患の発症基盤となることです。
老人性乾皮症は常に痒みを伴うもの
発火、すなわち活動電位が脊髄、脊
は、先に述べた通り皮膚角質層のバリ
症皮膚では末梢性の痒み感受性が敏
ではありませんが、夏から秋に変化す
髄視床路、視床を経由した後に大脳
ア機能が低下しているため、衣類の擦
感となり、特に空気が乾燥する冬期で
る季節の変わり目や、空気の乾燥によっ
皮質に達して知覚されます。一方、こ
れや締め付け、ひび割れした皮膚の
は皮膚に痒みを覚える頻度が多くなりま
てドライスキン症状が顕著となる冬期な
の痒み知覚の神経伝導路の脊髄レベ
伸展といった痒み刺激が皮膚末梢の自
す。そして、この老人性乾皮症の痒み
どには、痒みの発生が起こりやすくなり
ル以上の中枢側で痒み神経発火が誘
由神経終末受容体に伝わりやすくなっ
こそが、より痒み症状の強い疾患であ
ます。通常、皮膚で感じられる痒みの
発され、発生する痒みは中枢性の痒
ています。また、ドライスキンがひどくな
る、皮膚掻痒症や皮脂欠乏性湿疹の
大部分は末梢性の痒みといわれるもの
みと称されています。中枢性の痒みの
ると通常は、表皮と真皮の境界部に存
発症原因になります。
で、皮膚の表皮と真皮の境界部に存
代表としてはモルヒネなどのオピオイドの
在する自由神経終末末端が皮膚の表
在する自由神経終末が、皮膚表面か
投与時に副作用として発生する痒みが
層に向かって伸びていくこともわかって
らの痒み刺激を受容して、痒み神経
よく知られています。老人性乾皮症で
います。これらの機序で、老人性乾皮
痒みの種類
皮膚掻痒症の臨床
皮膚掻痒症(図1)について簡単
性乾皮症と同様、空気の乾燥する冬
に説明すると、その特徴は、痒みの
期に好発することから、その病態は老
原因となる明らかな発疹、例えば湿疹
人性乾皮症の顕在化・広範化に伴う
や皮膚炎あるいは蕁麻疹といったもの
痒みの拡大に、冬期での室内外や日
が、皮膚表面に見当たらないにもかか
中の寒暖差による温熱刺激や静電気な
わらず、四肢・体幹といった体のあち
どの電気刺激による痒みが相乗したも
こちに汎発性に痒みが自覚される病態
のと考えられます。さらには繰り返しの
です。皮膚掻痒症は腎臓病や肝臓疾
掻き壊しといった掻破行為による皮膚バ
患、血液の癌、薬剤の副作用など色々
リア機能への物理的傷害などの影響も
な原因で発症しますが、冬期に高齢
加わり、全身の広い範囲の皮膚が「痒
者にみられる皮膚掻痒症の大半は老
み過敏」の状態、すなわち、通常は
人性乾皮症が原因となっています。こ
痒みとして感じられない衣類の接触刺
の老人性乾皮症が発症基盤となって生
激などが脊髄レベルから痒み神経伝導
じる皮膚掻痒症を老人性皮膚掻痒症
路に伝わり痒みとして自覚される病態、
と称します。老人性皮膚掻痒症も老人
に陥ったものと推定されています。
■ 図1
老人性皮膚掻痒症-左上腕から背部の皮膚は老人性乾皮症の状態で乾燥し、掻き壊しの跡
が細かいかさぶたとして認められる。
皮脂欠乏性湿疹の特徴
一方、皮脂欠乏性湿疹(図2)の
上に赤みやぶつぶつ、がさがさやジュ
があります。また、病変が手に限局し
特徴は痒みのある老人性乾皮症部皮
クジュクした変化が発生して、それが
た手湿疹の状態や、コイン状に限局す
膚を掻き壊すことによって、その部位
痒みの主体となった状態といえます。
る貨幣状湿疹の様相を呈すこともありま
に、紅斑や小丘疹、さざなみ状の亀裂、
皮脂欠乏性湿疹も老人性乾皮症が顕
す。さらに、重症例では全身性の汎発
湿潤といった湿疹性変化が発生するも
著となる冬期に、その好発部位である
湿疹として認められることもあります。
のです。これはすなわち、ドライスキン
すねなどに局面状に発症しやすい特徴
■ 図2
皮脂欠乏性湿疹-右すねの伸側皮膚は老人
性乾皮症の状態で全体に乾燥し、膝の下方
には皮脂欠乏性湿疹の発症が認められる。
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