スキー用語の歴史に思うPDFNEW 2016年3月1日

スキー用語の歴史に思う
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年ほど前,カービングスキーが定着
側に蹴り出しながら回る「曲げ切り替え」
してきた頃,スキーを実質的に再開
の技術が各国で開発された。凹凸斜面や新
した。「カービング」とは,英語の CARVE
雪 で 威 力 を 発 揮 す る。20 歳 前 の 頃 で, そ
(彫る,刻みつける)の名詞形であり,
「カー
れまでの「伸ばし切り替え」と逆の動きは,
ビングスキー」を載せる国語辞典も増え始
当時としては新鮮で,わくわくしながら練
めている。新しい用具により,選手の技術
習した。日本では曲進系,オーストリアで
だった雪に切れ込むカービングターンを一
はヴェーレン,フランスではアバルマンと
般のスキーヤーもできるようになった。し
名付けられたが,その後,英語で「ベンディ
かし,スキーを再開した頃,リフトで一緒
ング」と呼ばれるようになった。一方,「曲
になった中高年のスキーヤーは一様に戸惑
げ切り替え」の対語の「伸ばし切り替え」は,
いを口にした。
「昔と逆じゃないか」と。そ
今は「ストレッチング」とも言う。新旧の
の頃の指導は,横ずれのない,カービング
技術は,現在,必要に応じて融合されたり,
ターンが重視されるようになっていた。
使い分けられたりしている。
さかのぼって,私がスキーを始めた 50
スキー用語は,以前はドイツ語が広く使
年前,
ドイツ語のウェーデルン(連続小回り)
われ,その後,世界で通じる英語にだんだ
に代表されるオーストリア式のスキー技術
ん変更されてきた。「ウェーデルン」「クリ
が,日本では深く根をおろしていた。この
スチャニア」を今も載せている国語辞典は
時代の滑り方は,スキーの角を外して横ず
多いが,実際には歴史上のことばになって
れさせて回るもので,角を切り込ませて回
いる。それぞれ英語の「ショートターン」
るカービングとは,逆の動作が伴う。現在
「ターン」になった。
は,昔ながらの技術の大切さが再認識され,
「重力による落下の力と雪面抵抗を生かす
カービングの対語の英語,「スキッディン
スポーツ」というスキーの本質は,いつの
グ」(横ずれ)も使われるようになった。
時代も変わらない。
「スキーのことば」は変
スキー用語の歴史でもう1つの重要な対
立軸がある。1970 年前後から,脚部の抱
え込みを回転のきっかけとし,脚を回転外
しん
わるが,新旧の技術は心 の部分では,ずっ
とつながっていると思う。
吉沢 信(よしざわ まこと)
FEBRUARY 2016
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