海外経済フラッシュ No.2016-3 2016 年 3 月 1 日 中国:人民銀行が預金準備率を 0.5%ポイント引き下げ 1 経済調査室 <ポイント> 2 月 29 日、中国人民銀行は 3 月 1 日から預金準備率を 0.5%ポイント引き下げ ると発表した。預金準備率の引き下げは 2015 年 10 月以来 5 ヵ月ぶり。 中国経済の先行き不透明感を巡る懸念や追加的な景気下支え策への期待が根強 いなか、「金融、財政など全ての政策手段を総動員する」という先般の G20 で の共同声明を受けた措置と捉えられる。 3 月 5 日に開幕する全人代でも、2016 年の成長率などの主要目標に加え、 「供給 側改革」に関する具体策とともに経済・社会の安定維持に向けた財政面からの 支援策などが打ち出される公算が高いとみられる。 但し、過去の過剰な投資と信用の調整過程にあるなか、追加的な流動性供給な どの景気下支え策が本来淘汰されるべき過剰生産能力を抱える企業の温存に繋 がらないか、監督の強化を併せて行っていく必要がある。 <概要> 2 月 29 日、中国人民銀行は 3 月 1 日から預金準備率を 0.5%ポイント引き 下げると発表した(全金融機関を対象とする預金準備率は 16.5%)。預金 準備率の引き下げは 2015 年 10 月以来 5 ヵ月ぶり(今局面で 5 回目)。1 月末時点の人民元建て預金残高(137.8 兆元)で、今回の預金準備率の引 き下げにより約 6,900 億元の資金供給が見込まれる(図表 1)。 2 月 26 日~27 日に上海で開催された G20 財務相・中央銀行総裁会議の共 同声明で、金融、財政など「全ての政策手段」を総動員することが表明さ れたことを受けた措置と捉えることができる。 図表1:預金準備率とマネーサプライの推移 30 図表2:中国における主要貸出金利と企業の利払い負担 (億元) (%) 30,000 25 25,000 20 20,000 15 15,000 10 10,000 5 5,000 0 0 08 09 10 11 12 13 14 15 100 60 4 40 2 20 -15,000 0 0 -20,000 16 (年) -2 -10,000 07 (前年比、%) 6 -5,000 -20 利払い負担(年初来累計)〈右目盛〉 平均貸出金利 1年物貸出基準金利 80 -5 金融システムへのネット資金供給額〈右目盛〉 預金準備率(全金融機関)〈左目盛〉 マネーサプライ伸び率(M2)〈左目盛〉 (%) 8 -10 -15 10 (注)『金融システムへのネット資金供給額』は、法定預金準備額 (預金残高×全金融機関に対する預金準備率)の増減から推計。 (資料)中国人民銀行統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 -20 09 10 11 12 13 14 15 (資料)中国人民銀行、中国国家統計局統計より三菱東京UFJ銀行 経済調査室作成 1 16 (年) 2016 年 3 月 1 日 一方、1 年物貸出基準金利は 4.35%で据え置いた。貸出基準金利はリーマ ン・ショック後の過去最低水準にあり、足元の資本流出懸念にも配慮した ものとみることもできる(図表 2)。リーマン・ショック後の預金準備率 の最低水準(全金融機関対象:15.0%)を踏まえると、引き下げ余地はま だ残されており、今後も追加の緩和の可能性を模索する展開が予想される。 <足元の経済情勢と政府・当局の対応> 中国経済は生産や投資を中心に総じて軟調な推移が続いており、この先も 過剰投資の抑制などに伴う景気への下押し圧力は根強い(図表 3)。 政府は昨年終盤以降、「供給側改革」の方針を打ち出し、過剰生産能力の 削減や住宅在庫の解消を最重要任務の一つとして位置付けており、既に、 粗鋼生産能力を今後数年間で 1 億~1.5 億トン(生産能力全体の 8~12%)、 石炭産業についても 7 億トン(同約 13%)削減する目標を打ち出してい る。不動産および重工業分野での投資は固定資産投資全体の約 4 割弱 (2015 年時点)を占めるため、短期的には投資・生産面での下押し圧力 が強まる可能性をみておく必要がある。 このため、政府・当局は、財政・金融両面からの下支え策を強化している。 各地方政府はインフラ投資に加え、ハイテク、省エネなど戦略的新興産業 7 分野での投資計画を相次いで打ち出しているほか、人民銀行も資金供給 を強化しており、1 月の新規社会融資総量は人民元建て銀行貸出を中心に 3.4 兆元と大幅増となった(図表 4)。背景には、新年度の融資枠が確定し 春節前の資金需要の高まりに加え、人民元安を睨んだ企業の資金調達手段 見直し(外貨建て借入から人民元建て借入へのシフト)、インフラ投資実 行に伴う融資拡大などが挙げられる。 このほか住宅在庫削減に向け、2 月 1 日に人民銀行が中国銀行業監督管理 委員会と共同で住宅ローン規制の緩和措置(注 1)を発表、2 月 17 日に国家 税務総局と財政部と共同で住宅購入に関わる減税措置(注 2)を打ち出した。 (注 1)1 軒目の住宅購入者に対する頭金の比率を現行 25%から最大 5%ポイント引き下げ。対象は現在、 住宅購入規制が適用されていない都市のみ(北京、上海、広州、深圳などの主要都市を除く) 。2 軒 目の住宅購入者については、頭金の最低比率を 30%以上とする。 (注 2)住宅購入から 2 年以上経過して売却する際の営業税(販売額の 5%)を免除、1 軒目の住宅(90 ㎡ 超)を購入する場合の取引税率を 1.5%(従来 3%)へ引き下げ、2 軒目の住宅(90 ㎡超)を購入す る場合の取引税率を 2.0%(従来 3~5%)とする。但し、北京、上海、広州、深圳は適用対象外。 2 2016 年 3 月 1 日 図表4:中国における社会融資総量(フロー)の推移 図表3:中国の主な月次経済指標の推移 2015年 9月 輸出(前年比、%) ▲ 3.9 10月 ▲ 7.0 2016年 11月 ▲ 7.0 12月 ▲ 1.6 1月 評価 ▲ 11.2 × 4.0 (兆元) 3.5 その他 委託・信託貸付 銀行貸出(外貨建て) 銀行貸出(人民元建て) 社会融資総量 3.0 ▲ 20.2 ▲ 18.6 ▲ 8.8 ▲ 7.4 ▲ 18.8 × (年初来、前年比、%) 10.3 10.2 10.2 10.0 n.a. × 小売売上高(前年比、%) 10.9 11.0 11.2 11.1 n.a. △ 5.7 5.6 6.2 5.9 n.a. × 製造業PMI 49.8 49.8 49.6 49.7 49.4 × 非製造業PMI 53.4 53.1 53.6 54.4 53.5 △ ▲ 433 114 輸入(前年比、%) 固定資産投資(都市部) 2.5 2.0 1.5 工業生産(前年比、%) 1.0 0.5 外貨準備高 (前月差、億ドル) ▲ 872 ▲ 1,079 ▲ 995 - (注)1. 『製造業PMI』、『非製造業PMI』は国家統計局発表の指標。 2. 色掛け部分は、伸び率/指数が前月から低下したもの。 3. 『評価』は、直近の伸び率/指数の水準と半年前と比べた加減速度合い等から判断。 (資料)中国国家統計局統計等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 0.0 -0.5 07 08 09 10 11 12 13 14 (注)『その他』は、社債、銀行引受手形および株式発行等を含む。 (資料)中国人民銀行統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成 15 16 (年) <コメント> 中国経済の先行き不透明感を巡り、投資家のリスク回避姿勢が株価下落や 通貨安など中国国内に止まらず世界的な金融市場に少なからずマイナス のインパクトを与えており、追加的な景気下支え策への期待が根強い点を 踏まえると、G20 での共同声明を受けたこのタイミングで、追加の金融緩 和措置を打ち出した点は一定の評価ができる。 また 3 月 5 日に開幕する全人代でも、2016 年の成長率などの主要目標に 加え、「供給側改革」に関する具体策とともに経済・社会の安定維持に向 けた財政面からの支援策などが打ち出される公算が高いとみられる。 一方で、過去の過剰投資の裏側にはシャドーバンキングを含めた過剰な信 用の供給があった点を踏まえると、追加的な景気下支え策が本来淘汰され るべき過剰生産能力を抱える企業の温存に繋がらないか、管理・監督の強 化を併せて行っていく必要がある。 この先も政府が「三期叠加」 (3 つの時期の重なり)と称する複合的な 難局が続くなかで、如何に経済・社会の安定を保ちながら構造調整を進め ていくか、引き続き難しい舵取りが求められよう。 (H28.3.1 福地 亜希 [email protected]) 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、金融商品の売買や投資など何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関しては、すべてお客様ご自身 でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当室はその正確性を保証するものではありません。 内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作物法により保護されております。全部または一部を転載する場合は出 所を明記してください。 3
© Copyright 2024 ExpyDoc