オーストラリア出張メモ:資源国でも底堅いのはなぜ

リサーチ TODAY
2016 年 2 月 16 日
オーストラリア出張メモ:資源国でも底堅いのはなぜ
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
筆者は2月上旬にオーストラリアに出張しセミナー等で話をしたり意見交換を行った。オーストラリアに対
して多くの人々が抱くイメージは、まず「資源国」だろう。事実、オーストラリアが日本に輸出する産品は、天
然ガス、鉄鉱石、石炭であり、これらの品目の市場はグローバルな資源価格の低迷で、すでに大きな影響
を受けている。一般的に資源国として称される国として、ブラジルやロシアが挙げられる。当社の2015・16年
度の経済成長見通しでは、ブラジル・ロシアともに、2年連続のマイナス成長が予想されており、経済状況
が大変に厳しい。一方、同じ資源国でも、オーストラリアでは2%以上の成長率が続くと見込まれる。この差
はどうして生じるのか、オーストラリアが予想以上に底堅い成長を遂げるのはなぜかというのが、今回、オー
ストラリアを訪問した時の筆者の問題意識であった。同時に、同国の堅調さの背景に、今後の日本へのイン
プリケーションはないのかとも思った。このような問いかけに対し、当社では既に「資源価格下落にもかかわ
らず増加するオーストラリアの雇用」と題するリポート1を発表し、その絵解きを行っている。下記の図表は、
オーストラリアの交易条件指数(輸出価格指数/輸入価格指数)を示したものである。2011年半ばから主力
輸出品である鉄鉱石や石炭の価格が下落し、さらに2014年頃からは天然ガスの価格も下落し始めた結果、
交易条件指数は悪化し、リーマンショック後の世界的な不況期に近い水準に戻っている。ただし、オースト
ラリアの堅調さの背景には、資源安による豪ドルの下落でサービス産業の輸出が大幅に増加して、資源安
のマイナスをカバーしている構造がある。こうした柔軟さはブラジルやロシアにないものであり、日本にとっ
てもサービス産業の輸出産業への育成は今後の課題だ。
■図表:オーストラリアの交易条件指数の推移
(2013年度=100)
130
120
110
100
90
80
70
09
10
11
12
(資料)オーストラリア統計局
1
13
14
15
(年)
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2016 年 2 月 16 日
資源価格下落でブラジルやロシアのような資源国と同様にオーストラリアは、マイナス成長に陥るのでは
ないかとの悲観的見方が根強いなか、オーストラリア経済が依然として堅調さを保つ要因には、サービス産
業の拡大がある。下記の図表はオーストラリアの為替とサービス輸出を示す。豪ドルの下落に伴い、サービ
ス輸出の拡大が生じている。図表から2013年以降、豪ドルが下落に転じた時期にサービス輸出が高まって
いることが分かる。なかでも、教育関連旅行サービスや個人旅行サービスの寄与度が大きい。日本では想
像しにくいが、オーストラリアではサービス業は主要輸出産業の一つである。2014年の財・サービス輸出の
内訳をみると、旅行サービスと専門サービスの輸出は合わせて全体の10%超に上り、天然ガスよりも高いシ
ェアを占める。
■図表:オーストラリアの為替とサービス輸出推移
-30
豪ドル
安
(前年比、%)
(前年比、%)
12
-20
9
-10
6
0
3
10
0
20
-3
豪ドルの対米ドルレート(左目盛)
豪ドル
高
30
-6
サービス輸出(右目盛)
40
-9
50
10
11
12
13
14
15
(年)
-12
(資料)オーストリア統計局、オーストラリア連邦準備銀行、CEIC からみずほ総合研究所作成
オーストラリアでは既に製造業が競争力を失っている。2017年までにすべての自動車メーカーが現地生
産を終了させる予定となっており、日本ではトヨタも撤退の予定である。このように、資源産業と製造業が大
幅なマイナスになるなかでも経済を支えるのが、サービス業も含め成長するアジアを取り込むソフトの力だ。
具体的には、アジアのなかで移民という形も含めて多民族を受け入れる柔軟な労働市場や、そのための職
業訓練の充実にある。オーストラリアは1973年まで「白豪主義」とされる人種差別を行ってきたが、それ以降、
急速なアジア化と多民族主義を掲げた改革を行っており、今では、世界で最も急速に発展するアジア太平
洋地域の果実をサービス産業、ソフト面で獲得する構造がオーストラリアの底堅さを支えている。こうした、
サービス業も含めて、発展するアジアの恩恵を獲得するのが今後の日本の成長戦略であるとすれば、日本
にとってオーストラリアの対応から学ぶべき点は多いと考えられる。日本は、オーストラリアのように英語を活
用する語学研修での競争力は欠くが、「おもてなし」を含めてサービス業に高い潜在力を持つ。また、観光
の面でアジアの需要を取り込む力はオーストラリアを超えるものがある。
1
菊池しのぶ 「資源価格下落にもかかわらず増加するオーストラリアの雇用」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年
1 月 13 日)
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
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