プレスリリース本文

国立大学法人熊本大学
平成28年3月1日
報道機関
各位
熊本大学
ヒトT細胞白血病ウイルス持続感染の新たな仕組みを解明
-難治性白血病の予防、分子標的治療に向けて-
(概要説明)
● 熊 本 大 学 大 学 院 先 導 機 構・国 際 先 端 医 学 研 究 機 構・エ イ ズ 学 研 究 セ ン タ ー の 佐 藤
賢 文 准 教 授 、 英 国 イ ン ペ リ ア ル 大 学 Charles RM Bangham教 授 、 熊 本 大 学 発 生 医 学 研
究所中尾光善教授らの研究グループは、成人T細胞白血病※1の原因ウイルスであ
り 、我 が 国 に も 九 州 沖 縄 地 方 を 中 心 に 約 1 0 0 万 の 感 染 者 が 存 在 す る ヒ ト 白 血 病 ウ
イ ル ス 1 型 ( human T-cell leukemia virus type 1, HTLV-1) の 持 続 感 染 に お け る
新たなメカニズムを解明しました。
● HTLV-1は 、母 子 感 染 す る レ ト ロ ウ イ ル ス で 、数 千 年 前 か ら ヒ ト と 共 存 し て き た ウ
イ ル ス で す 。感 染 者 の 大 部 分 は 病 気 を 起 こ さ な い 無 症 候 性 感 染 者 で す が 、一 部 の 感
染 者 で 白 血 病 や 慢 性 炎 症 性 疾 患 を 引 き 起 こ す 病 原 性 を 持 つ 事 が 知 ら れ て い ま す 。レ
ト ロ ウ イ ル ス 感 染 の 特 徴 は 、 ヒ ト が 元 々 持 っ て い る DNA ※ 2 に 外 か ら の ウ イ ル ス DNA
が 組 み 込 ま れ て 一 体 化 し 、簡 単 に は 見 分 け が 付 か な く な る こ と に あ り ま す 。そ の た
め 、ヒ ト の DNAに 組 み 込 ま れ た ウ イ ル ス DNAは 、ヒ ト の 免 疫 や 抗 レ ト ロ ウ イ ル ス 薬 か
ら 逃 れ る 事 が 出 来 る よ う に な り 、感 染 者 体 内 か ら の ウ イ ル ス 排 除 を 目 指 し た 治 療 の
大 き な 障 壁 と な っ て い ま す 。 熊 本 大 学 は 1980年 代 の ウ イ ル ス 発 見 当 時 か ら 世 界 の
HTLV-1研 究 に 貢 献 し て き ま し た 。
● 今 回 の 研 究 で 、 CTCFと い わ れ る 細 胞 由 来 の タ ン パ ク 質 が ヒ ト の DNAと 一 体 化 し た
HTLV-1の ウ イ ル ス DNAに 直 接 結 合 し 、持 続 感 染 を 促 進 す る よ う に ウ イ ル ス DNAの 働 き
方 を 調 節 し て い る 事 が 明 ら か と な り ま し た 。も と も と CTCFと い う 分 子 は 、ヒ ト の DNA
を 立 体 的 に 折 り た た ん で 多 く の 遺 伝 子 の 働 き 方 を 決 め る 機 能 が あ り 、私 た ち の 生 命
活 動 に 欠 か せ な い タ ン パ ク 質 で あ る こ と が 知 ら れ て い ま す 。つ ま り HTLV-1と い う ウ
イ ル ス は 、 宿 主 で あ る ヒ ト の 免 疫 監 視 機 構 か ら 逃 れ る 手 段 と し て 、 ヒ ト の DNAと 一
体 化 す る だ け で な く 、 細 胞 が も と も と 持 っ て い る 「 DNAを 折 り た た む 仕 組 み 」 も 利
用することで、感染者体内で巧妙に生き延びていると考えられます。
● 本 研 究 は そ の HTLV-1の 持 続 潜 伏 感 染 の 重 要 な メ カ ニ ズ ム を 明 ら か に す る も の で
あ り 、今 後 更 な る 研 究 の 進 展 に よ っ て 、現 在 難 治 性 白 血 病 で あ る 成 人 T 細 胞 白 血 病
の予防や分子標的治療※3に繋がる成果と考えられます。
本 研 究 は 、文 部 科 学 省 テ ニ ュ ア ト ラ ッ ク 普 及・定 着 事 業 、文 部 科 学 省 科 学 研 究 費
補 助 金 、 日 本 医 療 研 究 開 発 機 構 ( AMED) 、 戦 略 的 創 造 研 究 推 進 事 業 ( CREST) の 支
援を受けて行われました。本研究成果は、科学雑誌「米国科学アカデミー紀要
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of
America」オ ン ラ イ ン 版 に ア メ リ カ 東 部 時 間 の 2 月 2 9 日( 月 )午 後 3 :00【 日 本 時
間の3月1日(火)午前5時】に掲載されました。
論文名
The retrovirus HTLV-1 inserts an ectopic CTCF-binding site into the human
genome
著者名
Yorifumi Satou*, Paola Miyazato, Ko Ishihara, Hiroko Yaguchi, Anat Melamed,
Michi Miura, Asami Fukuda, Kisato Nosaka, Takehisa Watanabe, Aileen Rowan,
Mitsuyoshi Nakao, and Charles R. M. Bangham*
掲載雑誌
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
※1 成人T細胞白血病:
レ ト ロ ウ イ ル ス で あ る HTLV-1 の 感 染 が 原 因 で 起 こ る 血 液 が ん 。HTLV-1 感 染 者 の 大
部 分 は 発 症 せ ず 、生 涯 発 症 率 は 3 〜 5 % と 言 わ れ て い る が 、発 症 し て し ま う と 予 後
が極めて悪い難治性の病気。
※ 2 DNA: デ オ キ シ リ ボ 核 酸
2 重 の ら せ ん 構 造 を 持 つ 私 た ち の 遺 伝 情 報 を 担 う 細 胞 内 物 質 。 0.02mm と い う 小 さ
な 細 胞 の 中 に 約 2 m の ヒ ト DNA が コ ン パ ク ト に 収 め ら れ て い る 。
※3 分子標的治療:
病 気 に 関 わ る 特 定 の 分 子 を 標 的 と し 、そ の 分 子 を 特 異 的 に 抑 え た り す る こ と に よ る
治療法。
【お問い合わせ先】
熊本大学 大学院先導機構・国際先端医学研究機構・エ
イズ学研究センター
担当:准教授 佐藤賢文(さとうよりふみ)
電 話 : 096-373-6830
e-mail: [email protected]