本当に育てたい力 失敗から学び検証することの大切さ

第 30 号
発 行 日
発 行 所
編集責任者
題 字
失敗から学び検証することの大切さ
指導主事 松山 友之
本当に育てたい力
平成27年3月
富山市千歳町1−5−1
富山県中学校教育研究会
新保 満夫
金山 泰仁 先生
県部長 新保 満夫
青色発光ダイオードの開発で赤崎勇氏、天野浩
平成 24 年度に初めて実施された、全国学力・
氏、中村修二氏の3名がノーベル物理学賞を受賞
学習状況調査の理科の問題をご覧になったことが
されたことは日本の科学技術の高さを示すうれし
あると思います。私も、先日、その問題を解き直
いニュースでした。天野教授は、きれいな窒化
ガリウムの結晶を作るために 1500 回を超える実
験を行ったそうです。21 世紀を照らす青い光は、
山のように積み重ねられた失敗の末に生み出され
たことに深く感動しました。
各地区の研究大会では、研究主題の解明に向け
てよく準備され工夫された研究授業を中心に、熱
心に協議が行われました。特に印象的だったのは、
自信をもって意見を発表する生徒たちの姿です。
これは日頃から、生徒が根拠に基づいて結果を予
想したり、検証方法を話し合ったりして考えを深
め合う活動を授業に位置付け、それを支援された
先生方の取組の成果だと思います。
次年度は、この成果を活かし、言語活動を通し
て、観察・実験の結果を分析し解釈する学習活動
の工夫に取り組んでいただきたいと思います。
そこで気になることがあります。それは失敗か
ら学び検証することの大切さです。実際の実験は
失敗の連続です。しかし、生徒には実験はいつも
成功するものとして教え、失敗から学ぶことをあ
まりさせていないのではないでしょうか。また、
結果を十分に考察し検証することなく、1回の実
験の結果から結論を導き出していないでしょう
か。時間的な余裕は少ないのですが、1年間を見
通して、単元のどこかに失敗から考えを深める学
習や何度も繰り返して観察・実験を行い、粘り強
く検証する場を設ける必要があると思います。
「先生、予想のようにならなかったのはどうし
してみました。そこには、理科に関する「育てた
い力」のエッセンスが凝集されているに他ならな
いからです。
全ての問題が、科学的な現象や、観察・実験に
関するエピソードの説明文または会話文の形式で
出題されています。そして、それぞれの問題文が
とても長いこともご承知のことと思います。生徒
には、基礎的・基本的な知識・技能、思考力、判
断力、表現力もさることながら、それらの力を発
揮するための相当な「読解力」が要求されます。
「相
当な」とあえて加えたのは、この読解力が、文章
のような「連続型テキスト」だけでなく、図や表
といった「非連続型テキスト」も含む資料から必
要な情報を取り出し、理解、評価、活用するまで
を意味するからです。
恥ずかしながら、私は、近年までこのような
「PISA 型読解力」に対する理解が浅く、各種調
査問題等に対して、「理科なのに、なぜ、会話文
のような長い文章から情報を読み取らせるような
ことをするのだ。理科は純粋に科学的な内容で勝
負すべきだ」などと批判的でした。しかしながら、
よく考えてみれば、理科は生活に直接生きて働く
教科です。よりよい生活を意識している人、願っ
ている人は、毎日、各種情報収集から始まって小
さな観察・実験を繰り返し、解釈して判断したり、
折衷案を考えたりして生活に生かしているのでは
ないでしょうか。
て?」
「もう1回実験して確かめてみたい!」こ
生徒に、生涯にわたって心豊かな生活ができる
んな声が生徒の中から生まれてくることを期待し
ことを願うならば、我々が、本当に育てたい生徒
ます。
(西部教育事務所)
の力は明白です。
― 理 ― 1 ―
(高・戸出中)
第 58 回
新
川
地
区
(魚・西部中)
1 研究授業
「力の合成と分解」(3年)
授業者 魚・西部中 川岸 良平 教諭
「向きが異なる2つの力にはどのような規則性
があるのだろうか」という学習課題に対し、仮説
を立て、その仮説を検証するための実験方法を生
徒自身が考える授業であった。生徒は、木片と輪
ゴムを使った予備実験の結果から、「合力は2つ
の力の間にはたらく」「直線上で2つの力がはた
らくと強い方に動く」「2つの力の角度で合力の
大きさは変化する」「力が大きい方に合力が寄る」
という4つの仮説を立てていた。実験方法や学習
の手順の説明に電子黒板を活用することで、生徒
たちは見通しをもって主体的に実験に取り組んで
いた。また、仮説を立てる活動では、根拠を明確
にしながら話し合
う様子がみられ
た。 協 議 会 で は、
仮説の在り方につ
いて活発な意見交
換が行われた。
東部教育事務所
の松田博昭指導主
事からは、意欲的
に実験に取り組
み、見付け出した
規則性から仮説を
立てようとする生
徒の姿勢が素晴ら
しいと、授業につ
いて評価していただいた。また、今回は仮説を検
証するという活動には至らなかったが、仮説の立
て方や検証方法について学ぶという点では、実り
ある授業であったとの助言もいただいた。
2 授業力向上のためのアドバイザー配置事業
国立教育政策研究所の鈴木康浩学力調査官か
ら、授業力向上に向けての講話をいただいた。全
国学力・学習状況調査の結果から見えてきた課題
や、生徒が主体的に学習するための工夫を、授業
実践の映像を交えながら指導していただいた。生
徒の考えを引き出すためのノート指導や、学習形
態の工夫等についても教えていただき、大変参考
になった。
高柳 渉(中・舟橋中)
富
山
地
区
研 究
(富・藤ノ木中)
1 研究授業
「水溶液の性質」(1年)
授業者 富・藤ノ木中 北村 洋将 教諭
「水にとけている物質を取り出すには、どうす
ればよいか」という課題の下、3種類の物質の水
溶液を冷却し、再結晶させる実験を行った。その
実験結果から、物質の種類と温度による溶解度の
違いに気付かせる授業であった。考察の課程でホ
ワイトボードを活用し、生徒が思考の流れを表現
するための工夫がされていた。
協議会では、生徒に仮説や考察を的確に表現さ
せる方法について話合いが行われた。東部教育事
務所の福満弘信指導主事からは、課題を吟味、精
選して設定することが大切であると助言をいただ
いた。
「エネルギーと仕事」(3年)
授業者 富・藤ノ木中 石倉 貴志 教諭
「小球がもつエネルギーは、どのようなときに
大きいのだろうか」という課題の下、各班の仮説
に基づいた方法で、小球のもつ力学的エネルギー
の規則性を見つける授業であった。結果を大きな
グラフにまとめさせたり、班での話合い活動を十
分保証したりするなど、考察の課程に工夫が凝ら
されていた。
協議会では、仮説別の班編制や結果の可視化に
ついて話合いが行われた。西部教育事務所の氷見
裕 司 指 導 主 事 か ら は、
既習事項や日常体験か
ら仮説を立てさせるこ
との大切さや事前アン
ケートの活用の仕方に
ついて指導助言をいた
だいた。
2 研究発表
発表者 富・東部中 水島 正隆 教諭
富・芝園中 砂子田真菜 教諭
富・杉原中 坂川 佳子 教諭
「言語活動を通して、問題を見いだし、観察・
実験を計画する学習活動の工夫」の協議題の下、
富山市中教研6月部会の授業研究の成果及び課題
についての発表があった。
東部教育事務所の福満弘信指導主事からは、探
究的な活動の大切さ、実験の価値をはっきりさせ
ること、考察の課程での発問の仕方等について指
導助言をいただいた。 神保 孝司(富・奧田中)
― 理 ― 2 ―
大 会 報 告
高
岡
地
区
(高・戸出中)
1 研究授業
「身のまわりの物質」
(1年)
授業者 高・戸出中 宮﨑江美子 教諭
「混合物が沸騰するとき、温度はどのように変化
するだろうか」という課
題を設定し、純粋な物質
と混合物で温度変化のグ
ラフが異なることを読み
取った上で、なぜ混合物
に一定の沸点が存在しな
いのかを、話合い活動を
通して説明させる授業を
行った。実験の役割分担
カードの作成や実験の注
意事項等を映像で見せる
など、細かい配慮や準備
がなされていた。授業では、水やエタノールの粒子
モデルを使って班で話し合ったり、他の班の発表を
聞いて再度考える場を設定したりするなど、生徒の
思考が深まる工夫がされていた。また、既習事項を
踏まえて、図やモデルを用いながら自分の考えを堂々
と発表する生徒の姿が印象的であった。
西部教育事務所の松山友之指導主事からは、
「細か
い配慮や周到な準備が生徒の考えを引き出すことに
つながっており、事前の準備の重要性を感じた授業
であった。枝付きフラスコ内の様子を観察ポイント
として指示しておけば、グラフを書くときにイメー
ジ化しやすく、生徒の思考を助けることができる」
などの指導助言をいただいた。
2 授業力向上のためのアドバイザー配置事業
国立教育政策研究所の鈴木康浩学力調査官から、
「観察・実験の結果を分析して解釈し、表現する力を
育むための授業改善」という演題で講演をいただい
た。
「予想を書く時間を設定する」
「結果と考察を区
別する」
「個人で考え、グループで意見を交流すると
考えが深まる」等のポイントや授業実践のDVDの
紹介があり、明日からでも授業改善できるヒントを
たくさんいただき、大変参考になった。
小竹 信成(射・新湊南部中)
砺
波
地
区
(小・津沢中)
1 研究授業
「エネルギーと仕事」(3年)
授業者 小・津沢中 高田 由美 教諭
「150 gの物体を、0.8 Nよりも小さな力で 10
㎝持ち上げるには、滑車をどのようにつなげれば
よいだろうか」という課題を設定し、班ごとに滑
車のつなぎ方を考える授業であった。「定滑車だ
け使っても力は変わらないので、動滑車を使って
みよう」「ひもを1本から2本に増やしてみたら
動滑車を2個使えるようになるのでは」等、班ご
とに、滑車やひもなどを操作しながら話合いを深
めていった。実際に操作しながら班員で実験方法
を練り上げたこ
とで、その後の
実験や考察を自
分たちの課題と
して捉え、取り
組むことができ
た。
西部教育事務所の氷見裕司指導主事からは、
「最
初に既習事項を確認し、使いやすい実験装置が準
備されたことで、すぐに体験できる活動と話し合
う活動がうまく融合し、話合いが深まる授業で
あった。さらに、動滑車の組合せをスモールステッ
プで示したり、おもりを体感しやすい 500 g程
度のものにしたりすると見通しがもちやすくなり
主題解明に近付く」との助言をいただいた。
2 研究発表
発表者 小・石動中 藤井 和幸 教諭
「植物の世界」の単元で、話合いを基に予想を
立て検証できる課題を設定する授業で、身近な素
材を生かすことや付箋を利用することが、自分の
考えを示しやすくなり参加意識が高まるという実
践が報告された。
発表者 南・福光中 林 清記 教諭
「葉、茎、根のつくりとはたらき」の単元で、
予想に対して自分たちの検証方法を討論するため
にジグソー法を取り入れた話合いを行った。また、
生徒の思考を可視化するために、ホワイトボード
を利用したことで、生徒は伝え方を考え、言語活
動が活発になり、班員全員が話合いに参加できた
という実践が報告された。
西出 篤史(砺・庄西中)
― 理 ― 3 ―
第62回全国中学校理科教育研究会富山大会の開催について
○平成24年から準備が進められてきた、全国中学校理科教育研究会の富山大会が、今夏、開催されます。
富山県の理科部員の叡智を結集して、この大会を盛り上げ、成功させましょう。
第62回 全国中学校理科教育研究会 富山大会 案内
【期 日】
平成27年8月6日(木)
・7日(金)
【会 場】
富山国際会議場(富山市) 【研究主題】
科学的な資質や能力を育み、豊かな未来を創造する理科教育
【大会主題】
自然の事物・現象に進んでかかわり、科学的な見方や考え方を育てる理科教育
【日 程】
(予定)
1日目 8月6日(木)
9:00 9:30
役員
受付
10:50
役員会
12:20 13:20
理事会
写
真
昼食
休憩
10:30
受
付
14:20
一般受付
12:00 13:00
分科会
15:20
開会式
16:50
文部科学省
講演
※18:00より、
レセプションを予定しています。
2日目 8月7日(金)
8:309:00
ブロック会
昼食
休憩
14:30 15:00
記念講演
閉会式
※8月8日(土)に、希望者を対象に教育視察を予定しています。
【分 科 会】
分科会名
分 科 会 主 題
第1分科会
教育課程
主体的に課題解決に取り組み、科学的な見方や考え方を育てる教育課程
第2分科会
学習指導
言語活動を通して、科学的な見方や考え方を育てる学習指導
第3分科会
観察・実験
探究の過程を通して、科学的な見方や考え方を育てる観察・実験
第4分科会
環境教育
身近な環境に主体的にかかわり、よりよい生き方を目指す環境教育
第5分科会
学習評価
自然の事物・現象に進んでかかわり、
科学的な見方や考え方を育てる学習評価
【講 演】
文部科学省講演
文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官
記念講演
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構
副機構長 鈴木 洋一郎 氏
― 理 ― 4 ―