RSJ2015AC3G1-05 ロボットによる轢過に起因した中足骨の骨折耐性の検討 ○藤川達夫(日本自動車研究所) 西本哲也(日本大学工学部) 浅野陽一(日本自動車研究所) 神保浩之(日本自動車研究所) 1. はじめに 家庭や介護施設等にロボットを導入することで 生活の質を向上させる試みが始まっている.これら のロボットは,従来の産業用ロボットと異なり,人 と接して使用されるために,接触による傷害のリス クを考慮した設計が必要となっている.そのひとつ として,ロボットを人の近くで移動させた場合にロ ボットが人の足を轢過して骨折が発生するという リスクが想定される.ロボットの設計においてこの リスクを十分に低減するための保護法策を検討す るためには,足の骨折耐性が必要となる.しかし, これまでの人の傷害研究[1, 2, 3]では,頭部,頸部, 胸部,腰部,大腿,頚部,膝関節,腕部について骨 折等の傷害耐性が明らかとなっているものの,足部 の傷害耐性は明らかになっていない. Kwon等[4] は,死体の足部を供試体とした実験に より,足部に重量物が落下した場合の安全靴による 保護効果を検討しているが,骨折の限界を求めるに は至っていない.また,Gutekunst等[5] は,ヒトの 骨の曲げ試験結果とVolumetric Quantitative Computed Tomography の結果から,中足骨の強度を推定す る方法を検討しているが,代表的なヒトの足の骨折 耐性の導出には至っていない. 本研究の最終目標は,代表的なヒトの足の骨折耐 性を明らかにすることである.このために,ヒトの 足に似た骨格を有するクマの足に関する骨折実験 を行い,その結果をヒトの足の骨折耐性に換算する. 本報では,その第1段階として,クマの足の骨折実 験の結果とヒトの足への換算の可能性についての 検討結果を報告する. い荷重で骨折することが把握されたため,中足骨 (図 2)を実験対象とした.外寸の異なる供試体 4 個各々の中足骨 5 本,合計 20 本について実験する ことにより,様々な寸法の中足骨の骨折を再現した. 荷重負荷の形態としては,最も低荷重で骨折の起 きる形態として,ソリッドタイヤの荷重が 1 本の中 足骨の長さ方向中央部に集中して負荷される形態 を想定した. 図1 図2 ソリッドタイヤ 供試体の X 線画像 2. 骨折再現実験 2.1 実験方法 2.1.1 供試体 供試体として,ヒトの足に似た骨格を有するクマ の足を用いた.食用に市販されてる冷凍の足を室温 で解凍し,寸法測定および骨折実験に供した. 2.1.2 寸法測定 骨各部の寸法は,供試体のコンピュータ断層撮影 法により撮影した画像(CT 画像)から測定した. 2.1.3 実験条件 ロボットに装着したソリッドタイヤ(図 1)に轢 過された足の骨が骨折する状況を想定した.タイヤ の直径は 200 mm,幅は 45 mm,材料は硬質ゴム製 である.予備実験により,足指骨よりも中足骨が低 第33回日本ロボット学会学術講演会(2015年9月3日~5日) 2.1.4 実験装置 想定した荷重負荷の形態を再現するために,圧縮 試験装置の加重機構の先端に,ソリッドタイヤの一 部を切り取って作成した負荷子を装着した. 2.1.5 実験手順 (1) 冷凍された供試体を,12 時間以上,室温に放 置する. (2) 供試体を,実験装置に固定する(図 3). (3) 負荷子を一定速度で降下させて,供試体の中 足骨中央部に荷重を負荷する. (4) 負荷子に装着された荷重計と変位計の出力を 記録する. (5) 1 個の供試体について,5 本の中足骨各々の実 験を行う. RSJ2015AC3G1-05 3. ヒトの骨折耐性のへの換算の可能性 図3 3.1 寸法換算因子 Mertz 等[6] および Takahashi 等[3] は,動物や死体 実験の結果から求めた傷害耐性を,大幅に単純化し た次元解析により,様々な寸法の人体の傷害耐性に 換算している.この手法を参考に,換算手法を,以 下のように検討した. ロボットに轢過された際の中足骨の骨折を,単純 支持梁の曲げによる破壊で置き換える.骨折時の最 大曲げモーメント Mmax は,梁のスパン lB の中央に 集中荷重 Wmax が作用する場合,次式で表される. 骨折再現実験 Mmax = WmaxlB / 4 2.2 実験結果 供試体の CT 画像の例を図 4 に示す.白い部分が 皮質骨,その内側の灰色の部分が海綿骨である.ま た,骨の周りの灰色の部分が,筋肉,脂肪,皮膚等 の軟組織である. (1) 骨断面の図心を通る水平軸周りの断面係数を Z とすると,骨表面に発生する最大引張り応力 σ max は,次式で表される. σmax = Mmax / Z = WlB / 4Z (2) したがって,骨の引張り強さ(破壊応力)と,寸 法および骨折荷重は, Z / lB で関係づけられること がわかる.そこで,本研究では,以下の仮定のもと に,中足骨の長さ l を用いて, Z/l (3) を,寸法換算因子と呼ぶこととする. 図4 供試体の CT 画像の例 骨折再現実験の結果(荷重-変位曲線)の例を図 5 に示す.この例では,5.6 kN で骨折が発生している. 第 1 指(親指)および第 5 指(小指)は,実験中に 水平方向に移動して,負荷できない場合があり,こ の場合のデータは採用しなかった.この結果,寸法 の異なる中足骨 13 本の骨折データを取得した. (仮定 1) 海綿骨が中足骨の曲げ強度に及ぼす影響を 無視する.また,皮質骨の断面形状を,楕円で近似 する.したがって,断面係数は次式で近似される. Z = π(H0B0 - H1B1) / 32 (4) ここに, H0 は表質骨外面の上下径,B0 は表質骨 外面の横径, H1 は表質骨内面の上下径,B1 は表質 骨内面の横径である. 6 H1 5 Load (kN) B1 Ho 4 3 Bo 2 (a) 皮質骨および海綿骨の径 1 0 0 20 40 60 骨長さ l Displacement (mm) 図5 実験結果(荷重-変位曲線の例) 第33回日本ロボット学会学術講演会(2015年9月3日~5日) 図6 (b) 長さ 中足骨の寸法測定位置 RSJ2015AC3G1-05 (仮定 2) 寸法換算因子における梁のスパン lB は, 謝 辞 中足骨の長さ l に比例する.また曲げモーメントは, 梁のスパン中央に集中荷重が作用したと仮定した 本研究は,経済産業省「ロボット介護機器開発・ 値に比例する. 普及促進事業」の一部として実施された. 3.2 寸法換算因子の妥当性 供試体(クマの足)の CT 画像の測定から求めた寸 法換算因子 Z / l の値と, 実測した骨折荷重の関係は, 図 5 に示す様に,ほぼ線形であった.この結果は, 寸法換算因子を用いることで,異なる寸法の中足骨 の骨折荷重の推定が可能であることを示している. 今後,ヒトの中足骨の寸法データの分布を取得し, 骨折荷重を推定する.その結果から,代表的な人の 中足骨の骨折耐性を推定する計画である. 10 Fracture Force (kN) 8 6 4 2 0 0 1 図5 2 Z/ 3 4 実験結果 3.3 今後の課題 本報では,クマの中足骨とヒトの中足骨の寸法の 相違に着目した.この他に,以下の相違および類似 性について検討する必要がある. (1) 破壊応力の相違および類似性 クマの中足骨とヒトの中足骨の材料としての強度 が異なれば,骨全体としての骨折耐性も異なる.材 料試験等による検討が必要である. (2) 軟組織の相違および類似性 中足骨と床の間には,図 4 の様に厚い軟組織が存 在する.クマの足とヒトの足で軟組織が異なる場合 には,その影響を検討する必要がある. 4. まとめ ヒトの足の骨折耐性を明らかにするために,ヒト の足に似た骨格を有するクマの足に関する骨折実験 を行い,その結果をヒトの足の骨折耐性に換算する 方法について検討した.複数のクマの中足骨に関す る実験結果から,寸法換算因子を用いることで,寸 法の異なる中足骨の骨折荷重の推定が可能であるこ とを確認した.これにより,ヒトの足の骨折耐性推 定の可能性を見出した. 第33回日本ロボット学会学術講演会(2015年9月3日~5日) 参 考 文 献 [1] R. Eppinger, E. Sun, F. Bandak, M. Haffner, N. Khaewpong, M. Maltese, S. Kuppa, T. Nguyen, E. Takhounts, R. Tannous, A. Zhang, R. Saul: "Development of improved injury criteria for the assessment of advanced automotive restraint systems - II", http://www.nhtsa.gov/DOT/NHTSA/NRD/Multimedia/PD Fs/Crashworthiness/Air%20Bags/rev_criteria.pdf. [2] S. M. Duma, P. H. Schreiber, J. D. McMaster, J. R. Crandall, C. R. Bass, W. D. Pilkey: "Dynamic injury tolerances for long bones of the female upper", Journal of Anatomy, vol. 194, pp. 463 - 471, 1999. [3] Y. Takahashi, F. Matsuoka, H. Okuyama, I. Imaizumi: "Development of injury probability functions for the flexible pedestrian legform impactor", SAE International Journal of Passenger Cars - Mechanical Systems, vol. 5, no. 1, pp. 242-252, 2012. [4] J. Y. Kwon, J. T. Campbell, M. S. Myerson, C. L. Jeng: "Effect of a steel toe cap on forefoot injury pattern in a cadaveric model", Foot and ankle international, vol. 32, no. 4, pp. 443 - 447, 2011. [5] D. J. Gutekunst, T. K. Patel, K. E. Smith, P. K. Commeanc, M. J. Silva, D. R. Sinacore: "Predicting ex vivo failure loads in human metatarsals using bone strength indices derived from volumetric quantitative computed tomography", Journal of biomechanics, vol. 46, issue 4, pp. 745 - 750, 2013. [6] H. J. Mertz, P. Prasad, A. L. Irwin: "Injury risk curves for children and adults in frontal and rear collisions", SAE Technical paper no. 973318, 1997.
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