尿路外傷

尿路外傷
担当:市立室蘭総合病院
腎血流量
宮尾則臣
• 泌尿生殖器の損傷
• 腎、副腎、尿管、膀胱、尿道、陰茎、精巣
の外傷
• 即時的判断が必要な場合もある
• 心拍出量の20-25%
• 5000 ml/分 x 0.25=1250 ml/分
• 片側なら1分間に600 mlの出血
• 診断、対応を急ぐ必要あり
腎外傷
• 受傷原因
腎外傷
– 交通外傷>労働災害>スポーツ
• 受傷状況
即時的判断を要す
最も緊急性を要す
– 鈍的外傷、貫通性外傷
• 受傷程度
– Major injury、Minor injury
腎外傷 ー診断ー
• 血尿:90%に認める(100%ではない、肉眼的血尿
は60%)
– 血尿の程度と外傷の程度は相関しないが肉眼的血尿
の方が重症な場合多い
– 腎茎部損傷(腎動脈、腎静脈損傷)では19-36%のみ
• 受傷状況:体のどの部位を受傷したか
– 背部、腹部、側腹部、胸部
• 受傷状況:どのように受傷したか
腎外傷の
grade分類
American Association
for the Surgery of Trauma
(AAST)
– 減速性の外傷(転落、追突など)では腎茎部損傷の鑑
別が必要
1
腎外傷の分類(日本外傷学会)
腎外傷の分類(日本外傷学会)
• I型: 被膜下損傷(腎被膜連続性あり被膜外血液漏出なし)
a. 被膜下血腫、b. 実質内血腫
• II型: 表在性損傷(腎皮質内損傷、腎被膜連続性なし)
• III型: 深在性損傷(腎実質1/2以上の深さの損傷)
•
•
•
•
a. 単純深在性損傷、b. 複雑深在性損傷
PV: 腎茎部血管損傷
U: 腎上部、M: 中部、L: 下部
H1: Gerota筋膜内血腫、H2: Gerota筋膜越える血腫
U1: Gerota筋膜内尿漏、U2: Gerota筋膜越える尿漏
鈍的腎外傷
1) 側腹部殴打の徴候
2) 血圧低下
3) 肉眼的血尿
• 成人:1)〜3)なければMinor injury
• 小児:1)〜3)なくともMajor injuryあり
– 腎が相対的に大きい
– 腎周囲脂肪少ない
– 腎周囲筋層薄い
貫通性腎外傷
• 刺傷、Gun shot
• ほとんどはMajor injury
– 即時的観血的治療が必要
– 最近では精密な観察、CTで保存的治療も可
能な症例あり とされている
• Gun shotでは武器の種類、弾丸の性
質で内部損傷が異なる
– 弾丸の方向変位、粉砕することあり
腎外傷の画像診断
CTでmajor injury示唆する所見
• マルチスライス造影CTが第一選択⇦安定
した状態で
• 血腫
– FAST (focused assessment with sonography for trauma)とし
てのエコーよりも情報多い
• IVP(排泄性尿路造影):簡便、対側腎も評価可能
– 30-60%のmajor injuryを診断できない
– 片側の腎が造影されない時
• 尿の溢流
– 血管損傷を示唆
– 腎盂、腎盂尿管移行部損傷を示唆
• 造影しているのに腎実質が造影されない
– 動脈損傷を示唆
• 腎茎部損傷>先天的に腎欠損>元々無機能腎
2
CTの落とし穴
腎外傷の治療
• 早期相のみ撮影では、腎盂、腎杯系(尿路
系)の損傷わからず
⇨造影から10分程度経過後の排泄相(尿に
造影剤が排泄される状況)の撮影
• 静脈の損傷を見落とすことがある
• 中等度の血腫は静脈損傷を示唆
観血的治療の絶対適応
1) 増大する血腫
2) 拍動性の血腫
3) 腎からの出血が生命の危機になる
4) Grade 5の損傷と判断
5) 急速輸液でも血圧不安定
6) 他臓器損傷で開腹した場合
腎外傷の外科的治療(アプローチ)
– 腹腔側からアプローチする(後腹膜腔ではない)
– 腹腔内臓器、腸管損傷も確認する
• Minor injury:保存的治療(安静)
• Major injury:観血的治療
腎外傷の観血的治療の原則
(1)
• 腎茎部=腎動静脈をいち早く同定する
• そのためには腹腔側から展開する(後腹
膜腔ではない)
• 腎動脈をいち早く遮断する
• 腹腔側からアプローチする
• 出血のコントロールが、腎摘出の回避に結
びつく
腎外傷の治療
(腎盂・腎杯損傷を伴う下極損傷)
下腸間膜静脈
右
腎静脈
• 原則その1:可及的に腎の保存
• 原則その2:手術の場合は腎血管をまず遮断
下降結腸
左
腎静脈
左
腎動脈
大動脈
右
腎動脈
3
腎外傷の観血的治療の原則
(2)
• 腎以外の臓器損傷を見落とさない
– 術前の評価、術中の観察
• 腎以外の臓器損傷の頻度は高い
– 鈍的損傷でも高頻度
腎外傷の他臓器損傷
2) 後出血
内、
腎血管性高血圧、実質圧
迫、外傷後の動静脈瘻
数週間(21日以内多い)以
腎温存で注
意
3) 膿瘍形成
感染尿の漏出
4) urinoma形成 不充分な尿のドレナ−ジ
尿管外傷の治療
• 保存的治療ーーー尿管カテーテル留置
• 外科的治療ーーー部位による術式選択
– 即時的診断治療での腎摘:4-5%
– 診断治療の遅延での腎摘:32%
Stab (%)
Blunt (%)
48
38
37
35
23
20
10
10
18
12
40
3
13
13
7
57
13
13
肝臓
小腸
胃
大腸
脾臓
膵臓
胸部
大血管
腎外傷治療後の合併症
1) 高血圧
Gunshot (%)
3
尿管外傷
• 原因
– 日本:医原性多い
– 米国:貫通性外傷が80%
泌尿器科
ー42%
80%は尿管鏡操
⇨ 作
産婦人科
ー34%
一般外科
ー24%
• 診断
– 術野での診断:インジゴカルミンの静注
• 尿が青くなる(静脈内注射後5-7分で尿中排泄)
– X線診断:最近はCTが第一選択
• IVPは95%の精度
• 逆行性腎盂造影も有用
尿管損傷の治療の原則
• 腎の温存
– 2個あるが可及的に温存に努める
• 尿管狭窄の予防
– 狭くならない工夫をする
• 尿管にスリットを入れる。
• 尿管内にステントを挿入する
• 吸収糸で吻合する(非吸収糸では結石形成がある)
• ドレナージ
– 修復部位から尿の漏れあり、ドレン(排液管)を置く
4
尿管損傷の外科的治療
尿管端端吻合 デブリデメン
スリット作成
尿管膀胱新吻合
(下部尿管損傷)
尿管の剥離
吸収糸で吻合
ダブルJカテーテル挿入
Boariの手術
Psoas Hitch法
(下部〜中部
尿管損傷)
中部尿管から上部尿管損傷
不足の尿管を膀胱壁で作成
膀胱を腸腰筋に引き上げて固定
尿管長の不足を補う
尿管尿管吻合
(transureteroureterostomy)
回腸尿管
尿管の全長が損傷した場合
尿管損傷の部位によらないが、
ヨーヨー現象を生じ、腎機能に悪影響あり
5
尿管損傷部位と治療法
尿管尿管吻合
尿管膀胱新吻合
Psoas hitch +/Boari op
Transureteroureterostomy
回腸尿管
自家腎移植
腎摘出
上部尿管 中部尿管 下部尿管
最適
最適
適
最適
最適
最適
最適
適
適
可能
適
可能
禁
適
可能
禁
可能
膀胱外傷
• 1) 分類
– 膀胱挫傷
– 膀胱破裂
•
•
•
•
腹膜内破裂(30%)
腹膜外破裂(60%)
腹膜内外破裂(10%)
自然破裂:病的状態の合併は必ずあり
– 悪性腫瘍、下部尿路通過障害、結核、神経因性膀胱
禁
膀胱外傷の原因
膀胱外傷の症状、所見
• 症状
• 医原性
– 膀胱鏡(硬性鏡)、腹腔鏡手術、経膣的手術の既往でイ
レウス、発熱あれば疑うべし
– (産婦人科52%>泌尿器科39%>一般外科9%)
• 鈍的外傷のほとんどは交通外傷が原因
• 骨盤骨折に合併する膀胱外傷は10%
– 膀胱損傷の80%以上で骨盤骨折関連
– 膀胱内圧が上昇⇨膀胱壁の弱い部分(頂部)の損傷
• Empty bladderでは発症しない
– 乗るならトイレへ、しないなら乗らない
– 尿量減少、腹部・骨盤部痛、血尿
– 95%は肉眼的血尿、5%は有意な顕微鏡的血尿
• 臨床検査
– 尿吸収によるazotemia、高Cl血症、代謝性アシドーシス、
高K血症、高Na血症
• 診断
– 膀胱造影(造影剤を200ml以上注入=少量では造影剤
のleakが見えない)。様々な方向で撮影。造影剤を回収
後にも撮影
• CT
– 希釈した造影剤を我慢できるまで(350ml)注入
尿道外傷
膀胱外傷の治療
☆部位から分類
• 救命処置:膀胱のみの外傷ではない
• 腹膜内破裂
– 即時的開腹手術、破裂縫縮、膀胱瘻、尿道留
置カテーテル、ドレン留置
• 腹膜外破裂
– 尿道留置カテーテル(大口径)で治癒可能
– 感染リスクある場合は外科的治療を考慮
後部尿道
• 前立腺部尿道
• 膜様部尿道
(カテーテル操作 による外傷)
前部尿道
• 球部尿道
– 騎乗型損傷(saddle injury)
• 振子部尿道
☆受傷程度から分類
完全断裂
不完全断裂
6
尿道外傷のgrade
-AAST scale-
尿道外傷の原因・症状
• 職業性(労働災害)、交通外傷
• 症状・徴候
– 95%に骨盤骨折合併
– 98%に尿道口への血液付着
I
II
III
• 前立腺の頭側への変位(直腸診)
– 完全断裂を示唆
• 損傷する膜で血腫形成が異なる
– 海綿体側からBuck, Colles, Dartos fascia
尿道外傷の治療
• 不完全断裂:Grade I、IIではカテーテル挿入せず
自排尿させる。Grade IIでは初期に尿道留置必
要かもしれない。
• 不完全断裂:Grade IIIの前部尿道損傷では尿道
留置カテーテルで治癒。イメージ下にガイドワイ
ヤー使用してカテーテル挿入。
• 完全断裂:膀胱瘻造設、3-6か月後に尿道形成
術
IV
V
尿道口に血液付着、造影は正常
造影で尿道の延長のみ
損傷部位で造影剤の溢流あり、膀胱
に造影剤入る
損傷部位で造影剤の溢流あり、膀胱
に造影剤入らず。断裂2cm未満
2cm以上の完全断裂
陰茎折症
• 勃起時の無理な外力で白膜に亀裂
• 治療:白膜の縫合
– 術後は勃起を抑制する
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