カトリック信者の宗教性発達過程に関する検討

目白大学大学院
所属
氏名
論文題目
心理学研究科 現代心理学専攻 修士課程
森本 真由美
修了論文概要
修了年度
平成 25 年度
指導教員
(主査)
今野 裕之
カトリック信者の宗教性発達過程に関する検討
本 文 概 要
1.問題,および目的と方法
宗教は世界のあらゆる文化のなかに,その存在を見出しうる意味で,人類が普遍的に体験してきた
ものの1つである。発達心理学の知見を用いて,信仰を展開し記述しようとする試みの先駆者である
Fowler(1981)は Piagete,Selman,Kohlberg,Erikson のライフサイクル論の影響を受けているとされる。
社会的相互関係を通じての宗教的発達など,心理学的な宗教性発達の研究は欧米を中心に進められてき
たが,日本での宗教心理学的研究は体系的に行われておらず,その知見の蓄積が継承されていない。
本研究は特定の宗教・教団に限定し,そこに特異的な心理過程であることを承知した上でデータ収集
をし,そこから宗教性発達の仮説モデルを生成することを目的としたアプローチを行った。宗教性発達
の契機に関するテキストマイニングによる内容分析(研究 1),宗教性発達過程の複線経路・等至性ア
プローチ(Trajectory And Equifinality Approach:TEA)を用いた質的研究(研究 2)を通して,探索
的かつ仮説生成的な立場から宗教性発達に関する研究を行うことにより,日本におけるカトリック信者
の宗教性発達に関する仮説モデルを提出することを目的とした。
2.総合的考察および今後の課題
カトリック信者の宗教性発達過程においては,Ranmbo の提唱した回心モデルのような文脈・危機・探
究・出会い・相互作用・コミットメント・成果というプロセスは,繰り返し立ち現れる。その度に黙想
など祈りを通して,アイデンティティの再体制化のプロセスを描いていくモデルが示された。
「外圧」
「内圧」による混沌状態が発達を抑制する要因となり,その危機からの回復を支える力として,基本的信
頼感(Erikson,1950),つまり神への希求が発達を促進する要因として働き,そのせめぎ合いによる内的
な対話が宗教性発達過程の契機となっている。複線経路・等至性アプローチで発達的変化が生起するメ
カニズムや,発達を促進/抑制する要因が示された。
黙想体験による変容プロセスは,混沌とした不定状況から出来事や個人史の中でつながりに気づいて
いく「漸次的な回心」であり,それは「統合的過程」であることが明らかになった。Straus(1979)らの
知見と同様に,宗教的回心は人生の意味を求める動機を満たすことや緊張に満ちた生活状況における対
処の一つとして回心を評価でき,カトリック信者の宗教性発達過程のモデルが提示できたと思われる。
複線経路・等至性モデルは語りから得られなかった論理的に存在しうる行為・選択を併せて図に示す
ことができる。今後の課題としては,カトリック教会の祈りの様式や霊性は複数存在しているため,その
多様性も丁寧に見ていくことで,「宗教性発達」の新たな局面を見出していく必要があると思われる。
また,第一次的宗教的社会化は教会やキリスト教主義学校が担うことも示されているが,教会およびキ
リスト教主義学校における宗教教育や環境の影響については,本研究では明確に示すことができなかっ
た。これらの点についても今後詳細に検討していく必要があると思われる。
3.主要な引用文献
James W. Fowler (1981).Stage of faith –the psychology of human development and the quest for
meaning- Harper One
金児皢嗣監修・松島公望・河野由美・杉山幸子・西脇良編(2011).宗教心理学概論 ナカニシヤ出版
松島公望(2011).宗教性の発達心理学 ナカニシヤ出版