連続講座 第1回 7月29日(水) 「脳の機能から考える発達障害」 國分先生を講師に迎え、脳の機能と発達障害についてご講演いただきました。脳の機能というと難しい印象が ありましたが、脳の構造と役割を、さまざまな事例を挙げながら、映像も交えて分かりやすく説明していただき ました。 *講師紹介* 國分 充先生 国立大学法人 東京学芸大学 理事・副学長 知的障害児・者の運動行為に現れる問題の解明を課題とし、一方で は、運動実現に係わる生理的機構について、他方では合目的性を有 する行為のメカニズムについて研究されている。これまでこうした アプローチによって研究してきたものに、「知的障害児・者の平均 台歩きなどのバランス運動に見られる問題」などがある。 Ⅰ 脳の解剖生理概略 ニューロンとは神経細胞であり、脳を作っている単位である。脳のニューロンの結合間に信号が送られること で情報が伝達され、この結合部分は特殊な構造をしており、この構造をシナプスと呼んでいる。 脳表面にあるしわの谷を「溝」 、しわの山を「回」という。 「溝」には中心溝と外側溝があり、中心溝は頭頂葉 と前頭葉の境界となり、外側溝は前頭葉及び頭頂葉と、側頭葉を上下に分けている。 脳は、その場所によって機能が分化している。大きくは「前」と「後」に分けることができ、「前」が運動・ 出力・表出、 「後」が感覚・入力・受容の機能を担っている。 「葉」としては4つの役割がある。前頭葉は、思考、 意思などを司り、人間らしく生きるための機能が詰まっている。前頭葉は、前に行く程より高等な活動を担って いる。頭頂葉は、空間の知覚機能、接触や痛みなどの感覚機能に関連している。側頭葉は、言語の理解、記憶や 判断、感情の制御、聴覚を司っている。後頭葉は、視覚や色彩の認識を担っている。 これらの話から、脳のさまざまな部分がさまざまな役割を担っており、どこかが損傷すると、思考・理解・言 語・感情・運動など多くの面に影響が出ることが分かった。 Ⅱ 神経心理学と発達障害 神経心理学とは、脳の損傷が行動や言語・認知面にどのような影響があるか研究する領域である。 ゲルストマン症候群は、左角回損傷によるもので、4つの主な症状で定義されている。手指失認(指定された 指を示せない) 、左右障害(左右が分からない)、失算(暗算・筆算ができない)、失書(字を書くこと・書き取 りができない) 。角回はLDと関係する場所と考えられている。 脳の損傷による影響の事例として、 「ゲージの人格変容」がある。ゲージは鉄道工事の仕事をしていて、鉄の 棒が頭を貫通し、前頭葉の大部分を破損する大事故に見舞われた。奇跡的に命は取り留めたが、性格が一変して しまった。事故前は、温厚で思いやりの気持ちが強かったが、事故後は、粗暴で協調性にかける性格へと変わっ てしまった。脳の損傷が、人格にも影響を及ぼすことを示唆した事例である。そのことにより、「前頭葉を壊せ ば性格を変えられる」という仮説が展開し、ロボトミー手術(前頭葉切断)が行われた時代があった。手術によ り従順になることがあったが、プランを立てられない(指示を素直に受け入れるだけの)性格になってしまった。 また、前頭葉障害は、ADHD にも関係していると考えられている。 自閉症も脳の機能障害であることが分かっている。脳幹、小脳、大脳後部(後部連合野)、大脳前部、扁桃体 が関与しているのではないかと考えられている。 歩行失行やすくみ足(実行する意思があるにも関わらず、正しい動作が行えない)の人は、何もない所で歩こ うとしても足が前に出ないが、足元に線が引いてあると歩くことができる。線が視覚的手がかり(プラン)とな り、足を前に出すことができるのである。階段も同様で、段があることで足を出すことができる。これらのこと は、特別支援教育においてもヒントになるのではないか。視覚的手がかりなど(プラン)を工夫することで、自 主的に行動に移せたり、自信をもって取り組むことができたりするのではないか。これからの指導において、児 童・生徒に応じた支援の方法を、より工夫していかなければならないと感じた研修会でした。
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