中国経済における外資系企業の役割 - 外資導入と

中国経済における外資系企業の役割
- 外資導入と技術移転の検証 -
範
建亭
(上海財経大学国際工商管理学院助教授)
1はじめに
改革・開放以後の中国経済における際立った変化の一つは、海外から大量の直接投資と
技術が導入されたことであり、それ以前の閉鎖的な自己完結型工業化とは対照的である。
日本を含む世界各国の対中直接投資は、1990 年代に入ってから過去に例を見ない規模で拡
大しており、対外開放路線に転換した中国は外資導入に大きな成功を収めたといえる。
中国の急速な経済成長と産業発展の要因を考える上で、直接投資がもたらした様々な効
果、中でも技術移転の効果が非常に重要であろう。対中直接投資は資金の導入や輸出入の
拡大などへの貢献に限らず、様々な製造技術や製品技術、および生産管理の手法などが合
弁パートナー企業や現地企業に移転・波及し、中国の産業発展に寄与していることは明ら
かである。そして、外資系企業は現地生産活動を通じて、中国企業との間に多様な分業・
協力関係を築きつつある。遅れて工業化を始めた中国は、こうした直接投資や技術移転を
通じた国際的な分業関係に組み込まれて急速な成長を遂げたのである。
しかしながら、中国経済の国際化がますます進展しているにもかかわらず、対中直接投
資を通じた技術移転の効果などに関する研究は、十分進められてきたとは言い難い。中国
の発展要因について、経済体制と国有企業の改革、所得格差と資源配分、労働力移動など
の視点からの分析は重要であることはいうまでもないが、技術移転や外資導入との関連の
研究も必要不可欠であろう。
以上のような認識に基づき、本稿では中国経済が外資に強く依存してきたことに注目し、
外資・技術導入と技術移転の構造を検証することによって、外資系企業が果たした役割を
解明することを目的とする。本稿の前半部分において、中国の対外開放戦略の展開を概観
したうえで、外資導入と技術導入の全容を統計データに基づいて検証し、両者の深い関係
について検討を行う。後半部分では、まず日本企業の対中直接投資と技術輸出の状況と特
徴について述べ、そして、日系企業を対象とした調査に基づき、対中投資を通じた企業内
と企業外の技術移転効果を総合的に評価する。これらの分析を踏まえ、最後に結びとして、
外資と技術の導入における問題点を指摘し、日中経済関係を展望する。
1
2
対外開放と外資・技術の導入
改革・開放が実施されるまでの 30 年間において、中国は「自力更生」の発展戦略のもと
で、旧ソ連や東欧諸国を中心に海外から技術と設備などを導入した経験があるものの、外
国企業による直接投資を受入れなかった。外国技術と機械設備の導入は重化学部門を中心
に何度も行われていたが、期待された効果をあげていなかった。導入された技術はプラン
トなどのハードウェアがほとんどであり、しかも重複導入が多かったため、技術の拡散効
果や自主技術への促進効果などは非常に限られていた。結局、外国技術と設備の導入は「導
入→停滞→再導入→再停滞」という悪循環に陥り、非経済的且つ非効率的なものであった。
中国政府が過去の技術導入から得た教訓としては、政府が主導し、国有企業を主体とす
るような導入体制では先進技術の大規模な導入は不可能ということであった。国際経済を
取り巻く環境が大きく変化する中、中国のような発展の遅れた国は、技術導入によって経
済成長を実現し得る「後発の利益」を持つが、直接投資の導入がそれを可能にする有効な
手段である。
1970 年代末から中国はこれまでの閉鎖的な工業化戦略を捨て、対外開放路線に転換した。
対外開放戦略の最大目標は、外国の資本と技術などを利用して中国の経済発展を図ること
であり、外資導入は最も重要な政策課題の一環として実施されるようになった。だが、外
国からの直接投資はこれまで皆無であったため、投資環境や関連法制度が整備されていな
かった。対外開放の展開と外資導入体制の確立は、紆余曲折の中で徐々に進められていた
ことが特徴的である。
最初は沿海部、特に広東省、福建省の一部地域のみを開放地域に限定するという地域傾
斜的な外資導入政策から始まった。1980 年に設立された深圳をはじめとする四つの経済特
区は、外資導入の先駆けとなった。これらの特区は、建設されてから短期間で工業生産高
の上昇、財政収入と雇用の拡大、外貨の獲得などで大きな成果を収めた。この経験を踏ま
えて、経済特区に与えた特殊政策の一部は沿海地域および内陸地域にも広げられ、中国全
土に「経済特区」、「経済技術開発区」、「高新技術産業開発区」、「保税区」などの開発区が
次々と設けられた。海外直接投資の導入は各種の開発区を中心に展開されていったのであ
る。
一方、中国の外資導入政策も、対外開放戦略に従って重層的な推移を見せている。最初
の外資導入関連法は、1979 年に制定された合弁企業法(「中外合資経営企業法」)であるが、
これは簡単な合弁手続きに関するものであって、その後は一連の関連法律や条例が追加・
訂正された。関連法制度の一貫性が欠如していたため、中国の投資環境について政策の頻
繁な変更、法制度の未整備など、政策運用の不明確さの問題がよく指摘される。2000 年以
降、WTO加盟の交渉に伴って、輸出義務やローカルコンテンツなどの操業許可条件が撤
廃され、一層の規制緩和と市場開放が進められている。知的財産の保護や模倣品の取締り、
政策透明度の向上などが今後の課題として残されているが、外資導入法をはじめとする一
2
連の対外経済関連法規は、ようやく国際貿易や国際経済の規範に合致するようになり始め
たといえよう。
外資導入政策における基本的な考え方は、市場の一部を外国企業に譲ると同時に、海外
の優れた技術を吸収することであり、いわゆる中国語で「以市場換技術」(市場を以って技
術と交換する)という方針である。こうした認識に基づき、中国は海外から大量の直接投
資と生産技術を導入してきた。特に 90 年代に入ってから、改革・開放の深化と経済の高度
成長を背景に、外資と技術の導入規模は飛躍的に拡大している。
●最大の直接投資受入れ国
まず、直接投資受入れの推移を見ると、80 年代では中国への直接投資の流入は顕著では
なかったが、90 年代に入るとその規模が驚異的に拡大していた。1990 年まで 100 億ドル以
下であった年間の契約金額が 1992 年から急増し、1993 年には 1114 億ドルにも達した(図
1)。その背景として、1989 年の天安門事件により、対外開放路線にブレーキをかけようと
した保守派の動きが強まったのに対して、1992 年に深圳などの経済開発区を視察した鄧小
平氏は、「南巡講話」とよばれる改革開放加速の大号令を発したことが挙げられる。これを
契機として中国は 90 年代前半から「改革深化・開放拡大」の新たな段階に入り、世界の対
中投資ブームもその頃から沸き起こった。
図1 中国の技術・外資導入の推移
億ドル
億ドル
200
1200
180
技術導入額(左目盛り)
160
FDI契約額(右目盛り)
140
FDI実行額(右目盛り)
1000
800
120
600
100
80
400
60
40
200
20
0
0
1983
85
87
89
91
93
95
97
99
01
2003年
(注)技術導入額にはプラント、技術ライセンス料と技術サービス料などが含まれている。
(出所)『中国対外経済貿易年鑑』、『中国科技統計年鑑』各年版より筆者作成。
3
90 年代後半に入ると、外資政策の見直しやアジア金融危機の強い影響で、外資導入が大
幅に落ち込んでいた。だが、WTO加盟の交渉に伴って規制緩和と市場開放が進められ、
投資環境が著しく改善されていたことを背景に、対中投資は 2000 年以降再び拡大の軌道に
戻り、2003 年には契約金額として過去最高の 1151 億ドルに達した。
契約ベースの対中投資は図1で明らかなように、実行した金額との乖離が大きい。特に
90 年代前半においては、契約金額と実行金額の開きが極めて大きく、外資導入はバブル気
味であったといえる。その後、1999 年まで両者の格差がいったん縮小したが、2000 年から
再び拡大している。1979~2003 年の全期間で直接投資の累計契約金額は 9431 億ドルにも達
しているが、実行された金額は 4998 億ドルで契約金額の 53%しかない。実行率が低い原因
は多く考えられるが、90 年代前半の投資契約には、中国企業が香港などのタックス・ヘイ
ブンに法人を設立し、外資として中国に再投資する「偽外資」と、外国企業が単に名義だ
けを貸して作られた「ニセ合弁」というようなケースも含まれていると思われる。そして、
近年の対中投資には、人民元の切り上げを狙った海外の投機資金も含まれているではない
かと推測されている。
実行率の低さの問題があったとしても、実行ベースの対中投資は着実に増え続けている。
世界主要国・地域の対内直接投資の状況を見ると、中国の直接投資導入(実行金額)が急
速に増加した結果、1993 年から中国は途上国として最大の直接投資受入れ国となっており、
2001 年からは米国を抜いて世界一の直接投資受入れ国になっている。1)2003 年に対中投資
の実行金額は過去最高の 535 億ドルを記録し、2004 年にその規模がさらに拡大しており、
初めて年間 600 億ドルを突破する見通しである。
大量に導入された直接投資は、業種的に見ると製造業に集中している。90 年代前半まで
には、不動産投資の増加でサービス業のシェアは製造業を超える時期もあったが、1995 年
以降、対中直接投資が製造業分野を中心に導入されている。2003 年まで、中国が導入した
直接投資(契約ベース)の件数と金額は累計でそれぞれ 46 万 5277 件、9431 億ドルに達し
ているが、うち製造業のシェアは件数で 72.9%、金額で 63.7%となっている。
なお、製造業の中で外国企業の投資が最も集中しているのは、電子・通信機械関連の分
野である。1995 年から 2003 年までの期間内に、製造業に導入された直接投資の契約金額は
368.7 億ドルに達しているが、中には電子通信産業の割合は 18.9%で最も高い。その結果、
外資系企業が中国の電子、電気および情報通信分野の主要なセクターになっている。電子・
通信機械産業における外資系企業の工業生産額は、2002 年の 8282 億元から 2003 年の 1 兆
2209 億元に上昇し、それぞれ同産業全体の 73.4%、77.1%を占めており、そのシェアは他
の産業における外資系企業のそれよりずっと高い。2)
●技術導入の拡大と多様化
一方、直接投資のみならず、外国の技術も大量に導入されている。図1に示されている
4
ように、技術導入の規模は 90 年代に入ってから急速に拡大している。改革・開放以前にお
いて、重化学部門を中心に導入された外国技術と設備の契約金額は計 148 億ドル(1950-
1978 年)であった。3)これに比べて、80 年代以降に導入された外国技術の規模は極めて大
きい。1980 年から 2003 年までの累計契約金額は 1784 億ドルに達しており、過去の導入規
模の 12 倍以上となっている。
このように、対外開放に転換した中国は、海外からの技術導入にも功を奏したといえる。
技術移転の観点から見れば、国内の経済改革と対外開放政策の実施は、量的にも質的にも
かつてないほどの技術導入をもたらしたのである。
第一に、技術導入が広範囲に拡大された。従来は技術導入のすべてが国家独占の貿易機
構を通して行われ、しかも導入先は鉄鋼、石油化学のような重工業を中心とした国有企業
であった。しかし、経済改革によって地方政府による導入が認可され、消費財工業におけ
る技術導入も可能になった。技術導入に関する地方と各部門のプロジェクト審査・認可権
限枠は、1985 年に 100 万ドルから 500 万ドルへ拡大された。そして、
「技術導入契約管理条
例」が 1985 年に、同条例の施行細則が 1988 年にそれぞれ実施され、特許技術や技術ノウ
ハウの移転、技術サービスなどの契約条項の内容、認可管理方法などについて明確な規定
を設けた。さらに、2002 年 1 月により新しい「技術輸出入管理条例」が施行され、技術の
導入は認可制から登記制へと自由化された。また、契約期間や秘密保守期間の限定、外資
の特許紛争処理の義務などが廃止されるなど、移転した技術に関する外国企業の義務や権
利が国際慣習並みになった。
こうした規制緩和と法制度の整備により、外国の技術と設備の導入は活発化し、全国範
囲、そして広い産業分野で行われるようになった。中には重複導入も少なくなかったが、
前方後方の関連効果や産業構造調整への促進効果は大きいものであり、中国の工業化と産
業発展に重要な役割を果たしている。
第二に、技術導入の内容と方式が多様化した。中国の技術導入に関する統計には、工業
所有権である特許・実用新案の使用に関する許諾と権利の譲渡、技術ノウハウの提供のほ
かに、プラントや単体機械設備などのハードウェアと技術サービスなども含まれている。
従来の技術導入において、外国の既存生産力の移植が重視され、プラントと中核設備が長
期にわたって導入総額の 9 割以上を占めていた。改革・開放以後では、技術知識や技術情
報のようなソフト技術の重要性が認識され、技術の導入はプラント中心の生産技術から次
第に特許や製品技術などに広がっていった。
また、導入の方法も多様化し、従来のプラント一括導入方式から、技術ライセンス契約
による技術供与、委託加工による技術協力、技術指導による工場改造などが加わり、様々
な方式が採用されるようになった。その結果、特許技術をはじめとするソフトウェアの導
入が徐々に増え、90 年代末からその導入総額に占める割合はハードウェアを超えるように
なった。2002 年と 2003 年に契約された技術導入額はそれぞれ 173.9 億ドル、134.5 億ドル
であるが、ソフト技術の割合はそれぞれ 82.8%、70.7%である。4)
5
3
強まる外資系企業の存在感
●外資系企業を主体とする技術導入
前節では、中国の外資導入と技術導入の推移をそれぞれ検討してきた。中国が積極的に
直接投資を導入する狙いの一つは、「以市場換技術」という方針に集約されているように、
市場開放の代わりに外国の優れた技術を導入することである。急増した技術導入は外資企
業の進出と密接な関係があることから、当初の目標はほぼ達成されていると評価できる。
つまり、海外直接投資は技術導入の主なチャンネルの一つとなっており、外資系企業の大
量進出に伴って、様々なハードウェアとソフト技術が投資国から導入されている。
図1で明らかなように、技術の導入金額がかなり変動しているものの、90 年代以降の推
移は基本的に直接投資の動向と一致している。業種別の動向を見ると、外国技術が多く導
入されている産業は、対中投資が集中する産業でもある。先に指摘したように、電子通信
産業は 90 年代後半から対中投資が最も集中している分野となっている。こうした投資先の
変化を背景に、業種別で見た技術導入の重点も、石油化学やエネルギーなどの重工業部門
から電子通信産業に大きくシフトした。2002 年には、電子通信産業における技術導入の契
約金額は 96 億ドルで導入総額の 55%以上を占め、その大半は中国に進出した世界の大手電
子メーカーによるものである。また、企業形態別の導入状況で見た大きな変化は、外資系
企業が国有企業を取って代わり中国の技術導入の主体となっていることである。中国商務
部の資料によると、2002 年と 2003 年の技術導入総額に占める外資系企業の割合はそれぞれ
77.5%、56.6%に達し、国有企業や民営企業の割合を大きく上回っている。5)
大中型工業企業の技術導入状況については表1に示されている。国有企業の数は 1998 年
の 12890 社から 2002 年の 7952 社に大幅に減少したのに対して、外資系企業は大幅な増加
を見せている。その結果、大中型工業企業全体の技術導入経費に占める外資系企業の割合
が上昇し、2002 年に国有企業のそれを上回っている。また、1 社当たりの導入経費を見て
も、外資系企業による技術導入の規模拡大が顕著である。なお、中国国内技術よりも外国
技術が選好されることは変わっていないが、国内技術の購入金額は中国企業を中心に拡大
する傾向にある。
外資系企業の中でも、技術導入の主役を演じているのは多国籍企業である。中国商務部
が 2002 年末に実施した調査6)を見ると、世界的に著名な多国籍企業 63 社のうち、技術導
入の実績がある企業は 49 社(78%)であった。1 社当たりの導入件数は 17 件(回答企業 44
社)、1 件当たりの契約金額は 1206 万ドル(回答企業 37 社)となっている。技術の源泉と
して、回答企業 44 社が導入した 748 件の 91%は企業内部のものである。また、技術のレベ
ルとして、その 748 件のうち、中国政府に認定された先進技術は 187 件(25%)であるが、
化学と機械産業において先進技術が導入される割合は比較的高い。さらに、回答企業 58 社
6
のうち、半数の企業が計 60 ヶ所の研究開発センターを設立している。中でも、電子通信産
業の多国籍企業がより積極的であり、14 社の企業が計 45 ヶ所の研究開発センターを設けて
いる。
表1 大中型工業企業の技術導入状況
企業数
(社)
技術導入経費
(億元)
国内技術
設計スペックや 1社当たりの 購入経費
キー設備などの
導入経費
(億元)
割合(%)
(万元)
1998年
企業全体
23577
214.9
60.2
91.1
18.17
国有企業
12890
130.2
53.7
101.0
11.19
3138
41.2
73.4
131.4
3.09
企業全体
21776
245.4
70.7
112.7
26.44
国有企業
10241
106.9
65.3
104.4
10.79
3701
52.3
66.8
141.3
1.95
23096
372.5
73.5
161.3
42.9
国有企業
7952
96.6
71.0
121.5
17.6
外資系企業
5496
104.5
70.1
190.2
2.42
外資系企業
2000年
外資系企業
2002年
企業全体
(注)企業別の技術導入状況は1998年から公表されるようになった。なお大中型工業企業とは
、①従業員300名以上、②年売上高3000万元以上、③資産総額4000万元以上の企業を指す。
(出所)『中国科技統計年鑑』各年版より筆者作成。
この調査結果が示しているように、多国籍企業は製造機能を移転するのみならず、技術
の移転と研究開発の現地化にも力を入れている。ちなみに、多国籍企業が中国各地に開設
した研究開発センターは 400 ヶ所余りで、その半数以上が最近の二、三年に設立されたも
のであるといわれている。その背景には、中国側の技術吸収能力が急速に高まってきたと
いう事情のほか、外資系企業を取り巻く経営環境の急激な変化もある。大量の海外直接投
資が中国に殺到している今日、国内市場をめぐる競争は国際化する様相を呈している。そ
れは外資系企業同士の競争ばかりでなく、急速に台頭する中国企業との競争も日増しに激
しくなっている。進出企業の競争力を高めるには、より積極的な技術移転、市場ニーズに
対応した研究開発の強化が欠かせない。
●経済成長に果たした外資系企業の役割
他方、技術導入における役割のみならず、中国の工業生産全体における外資系企業のプ
レゼンスはますます高まっている。図2に示したように、全工業部門の総生産額に占める
7
外資系企業のシェアは、1985 年に 1.2%しかなかったが、90 年代前半から急上昇しており、
2003 年には 35.9%に達していた。このように、外資系企業はすでに工業生産の主体となり、
直接投資の導入は中国の工業化に重要な役割を果たしたことが明らかである。
図2
中国経済に占める外資系企業の比重
%
60
輸出
輸入
50
工業総生産
全固定資産投資
40
税収
30
20
10
0
1985
87
89
91
93
95
97
99
01
2003年
(注)1.全固定資産投資に占めるシェアは、直接投資(実行額)を為替レート
(年平均値)で人民元に換算して計算したもの.2.税収に占めるシェアは「渉外税収」
(関税と土地費含まず,98%以上外資企業からの税収)で計算したもの.
(出所)『中国統計年鑑』、『中国対外経済貿易年鑑』及び中国商務部外資統計資料により。
また、輸出入、資本形成、税収、雇用などの面においても、外資系企業が重要な存在と
なっている。直接投資が受入れ国にもたらす経済的効果は様々であるが、最も直接的な効
果は貿易拡大効果である。直接投資の受入れに伴い、中国の輸出入に占める外資系企業の
シェアは一貫して上昇しており、2001 年から輸出と輸入のシェアはともに 50%を超えるよ
うになっている。中国に進出する外資系企業には、低賃金労働力の利用を目的とした加工
貿易型企業が多い。こうした直接投資の導入によって、中国は外資系企業の国際的な販売
ネットワークに組み込まれ、製品の輸出が拡大する。その一方で、現地生産に必要な資本
財・中間財などの輸入も誘発される。外資系企業が大量に進出する時期では、輸入誘発効
果が大きくなるが、現地生産が軌道に乗るにつれ、輸出拡大効果も次第に高まっていく。
図2のように、輸入に占める外資系企業のシェアは輸出のそれより高くなっているが、両
者の差が縮小しつつある。
そして、90 年代前半までに、海外直接投資は不足する国内の投資資金を供給する効果が
大きいものであった。日本の公的資本形成と民間設備投資の合計に当る固定資産投資に占
める直接投資受入れ額(実行ベース)の比率は、対中直接投資の急増を反映し、1994 年に
17.1%まで上昇していた。その後、その比率は減少する傾向に転じ、2003 年には 8.0%まで
8
低下した。90 年代半ば以後、中国の国内貯蓄と外貨準備高が増加したため、直接投資の資
金補填としての役割はさほど重要ではなくなったといえよう。
また、税収では、外資系企業が税収の 98%以上を占める「渉外税収」が年々増加してお
り、2003 年に全国工商税収の 20.9%を占めている。直接投資活動の拡大と深化に伴って、
今後も、外資系企業は大きな税収源として期待できる。
4
日本の対中投資と技術輸出
ここまで、中国の直接投資と技術の受入れ構造を検討しながら、外資系企業の役割を分
析してきた。以下の各節では、日本からの対中投資と技術輸出、日系現地企業における技
術移転の構造とその要因などを検討することにしたい。
日本企業の中国進出は 80 年代から行われていたが、本格的な段階を迎えたのは 90 年代
に入ってからのことである。80 年代において、日本からの投資は小規模にとどまり、年間
の契約金額は 5 億ドル以下であった。だが、90 年代前半に巻き起こった対中投資ブームに
伴って、日本からの投資も急速に増加し、契約件数と契約金額はそれぞれ 1993 年、95 年に
ピークに達した。その後、アジア通貨危機などの影響で、こうした盛り上がりもいったん
収めていたが、中国のWTO加盟により、対中投資は 2000 年頃から再びブーム的な状況を呈
している。2003 年に日本の投資契約金額と実行金額がそれぞれ過去最高の 79.6 億ドル、50.5
億ドルに達している。業種別の状況を見ると、近年における対中投資の増加は主に製造業
によるものである。特に、90 年代後半から生産拠点の中国への移管は機械産業を中心に盛
んに行われている。7)
しかし、世界各国と地域の対中投資に比べ、日本企業の中国進出は顕著ではなかった。
図3で明らかなように、世界の対中投資全体に占める日本の割合(契約ベース)は、1 割に
も満たない。日本企業の投資実行率が比較的高いといわれているが、それにしても実行ベ
ースで見た日本の割合は、1992 年以降では 10%を超えていない。2003 年までの対中投資の
累計値において、日本は契約金額で 6.1%、実行金額で 8.3%をそれぞれ占めているが、香
港のシェア(それぞれ 43.9%、44.4%)
に遠く及ばないばかりか、米国のそれ(それぞれ 9.2%、
8.8%)をも下回ることになっている。このように、対中投資の主役は米国や日本の企業で
はなく、香港を中心とする華人資本であった。日本では、製造業の「中国シフト」が加速
していることから、産業空洞化を懸念する声や中国脅威論が高まっているが、中国の外資導入
における日本企業の存在感はそれほど強くないといえる。
しかし、中国の技術導入においては、日本が主要な導入元として大きな役割を果たして
いる。図3のように、中国の技術導入全体に占める日本の割合は大きく変動しているもの
の、1989 年前後の一時期を除き、外資導入のそれを大きく上回っている。近年、日本から
中国への技術輸出は急速に拡大しており、2003 年には 35 億ドルの契約金額で改革開放以来
9
の最高金額に達した。他方、国別の技術導入状況を見ると、1981 年から 2003 年までの期間
において、日本からの技術導入は累計で 302 億ドルに達し、全体の 17.1%をも占めている。
その累計金額はトップの米国(同 338 億ドル)には及ばないものの、日本は第2位の対中
技術輸出国として、対中投資に占める地位を上回る存在感を見せている。
図3 中国の技術・外資導入に占める日本の割合
%
30
技術導入の割合
FDI導入の割合
25
20
15
10
5
0
1985
87
89
91
93
95
97
99
01
2003年
(注)直接投資(FDI)と技術導入の割合はいずれも契約ベースによるもの。
(出所)図1と同じ。
日本の対中技術輸出は、日中国交回復の 1972 年頃から次第に活発し、幅広い分野で中国
の産業発展に協力してきた。70 年代においては、中国政府は技術導入の重点を製鉄所、港
湾設備、発電所などの建設に置いていたため、日本の産業界もプラント設備の輸出と技術
供与を中心に協力していた。70 年代末から、消費財を生産する軽工業においても技術導入
の気運が高まり、特にカラーテレビの国産化が急務となったため、大量の基幹部品と組立
ラインが日本の家電メーカーから導入された。さらに、80 年代半ばに家電分野に大量に新
規参入した家電メーカーの設備投資が競われた結果、海外からの技術と設備の導入が急速
に拡大した。中でもカラーテレビと白物家電の量産設備は、日本から集中的に導入された
のである。8)プラントや生産ラインの輸出は機械の据付け、技術と操業指導などの内容も
含む場合がほとんどであり、こうした生産設備の対中輸出は、初期段階における中国家電
メーカーの量産体制の確立と技術進歩に大きく貢献していた。
90 年代に入ると、市場開放の加速と投資環境の改善により、日本企業の中国進出が本格
化し、中国への技術輸出のルートも変化し始めた。先に述べたように、中国の技術導入は
90 年代に入ってから急速に拡大しているが、それが主に外資系企業によって行われている
ものである。そのうち、日系企業による技術導入の状況は中国商務部の統計資料に示され
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ていないが、日本からの対中投資との深い関係が見られる。日本の科学技術政策研究所の
調査資料(田村、1997)によると、1992 年度から 1994 年度までの合計件数でみた中国への
技術輸出は、資本を伴う形で行われているものが全体の 49.8%であり、特に電気機械工業で
は直接投資に伴う技術輸出が多数を占めているという。
また、中国側が統計した 1985 年から 2003 年までの日本からの投資実行金額と技術導入
契約金額を比較したところ、0.829 という高い相関係数(Pearson の相関係数、1%水準で有
意)が検出された。この結果からも、日本の対中技術輸出の多くは、日本企業の投資活動
を通じて行われていると推測できる。ただし、直接投資による技術移転の内容と効果を検
証するために、既存の統計データだけでは限界があり、実態調査によって企業レベルのミ
クロデータを収集しなければならない。
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直接投資の技術移転効果
中国の外資導入は直接投資との関連が深いことを以上の分析で見てきたが、現実にどの
ような技術が移転され、またそれがいかなるプロセスとチャンネルで移転されているのか
を確認することは重要であろう。ここでは、中国に進出した日系企業を対象に、理論と実
証の両面からこの問題の検討を深めることにしたい。
●直接投資による技術移転の経路
国際間の技術移転方式としては、技術の体化された機械設備とプラントの輸出、技術ラ
イセンス契約といった通常の技術貿易と、直接投資を通じた技術輸入が挙げられる。後者
の場合、直接投資は単なる資本の移動ではなく、機械設備や専有技術、および管理技術と
ノウハウなどを一括して移転させることが可能であり、また様々なチャンネルで投資先の
関連産業への波及効果もある。さらに、技術貿易よって輸入される場合の技術移転は一回
限りの実施がほとんどであるのに対して、直接投資に伴う技術移転は現地生産活動に伴っ
て継続的に行われるのが特徴である。
図4に示したように、直接投資による技術移転は、大別して三つの異なった経路を通し
て受入れ国側に影響を与えると考えられる。
一つは、進出した外資系企業内部で行われる「企業内技術移転」である。これは、投資
企業の本社から直接的に現地子会社へ移転したものであり、生産技術だけでなく、経営管
理技術も含まれている。機械設備、工具などに体化されている製造技術の使用に現地雇用
者が習熟するという効果は最も直接的な技術移転である。そして、製造に関する作業技術
のみならず、投資企業の生産管理、経営管理などの技術やノウハウも現地生産活動に伴っ
て徐々に移転される。
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図4 対中直接投資による技術移転の概念図
日本
中国
②
地場生産
協力企業
①
出
資
企
業
FDI
日系
現地法人
現地
関連産業
波
及
③
地場企業
現地市場
(注)図中の番号①は企業内技術移転、②は企業間技術移転、③は企業外技術伝播を指す。
(出所)筆者作成。
もう一つの技術移転効果は、企業外部で発生する間接的なもので、主に外資系企業と現
地生産協力企業との間で行われる「企業間技術移転」である。要するに、外資系企業の持
つ生産技術や経営ノウハウは企業内部にとどまらず、現地企業にスピルオーバーすること
もよくある。例えば、外資系企業と取引関係を持つ地場企業は、外資系企業から直接的な
技術援助を受けることによって技術が移転される。
三つ目の技術移転も外資系企業から派生する外部効果であるが、それが進出先の市場全
体に及ぼすような「企業外技術伝播」である。そのような波及的効果は、技術や技能を積
んだ技術者と熟練労働者の転職、市場参入による競争圧力の強化などのルートによるもの
であり、外資系企業が意識せずに伝達される効果であると特徴づけられる。
90 年代に入ってから、世界各国の対中直接投資は空前の増加を見せているが、中国では、
組立て産業に集中する対中投資の技術移転効果が低水準にとどまり、また、欧米系企業に
比べて日系企業による技術移転のテンポが遅いなどのことがよく指摘される。確かに、日
本をはじめとする先進諸国の主な投資目的は、安価な労働力の活用によるコスト削減であ
り、移転される技術の大半は労働集約的なもので、また生産品目の技術集約度も低いなど
の特徴が挙げられる。ただし、直接投資によって移転される技術は、単なる製品技術や設
計技術だけではなく、製造や生産管理、経営管理などに関する技術、知識とノウハウを含
めた広いものである。直接投資を通じてこのような多方面にわたる経営資源をパッケージ
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にして一括導入することは、製品技術のみならず製造技術と生産管理技術も依然低い中国
にとって、技術移転の効果が非常に大きいといえる。
しかし、対中直接投資を通じた技術移転の効果があると思われても、その効果を検証す
ることは、データの不揃いなどの原因で容易ではない。特に、上記のような「企業外技術
伝播」の効果を評価するには現地経済全体に与える影響を分析する必要があるから、実証
分析がより困難である。9)以下では、中国に進出した日系企業の企業内と企業間の技術移
転を絞って、筆者が 1999 年に実施したアンケート調査に基づいて分析した結果をまとめた
い。10)
●日系現地企業による技術移転の検証
このアンケート調査は、長江デルタ地域に進出した日系機械工業企業を対象としたもの
であり、有効回答企業数は 60 社である。中国進出の主な目的は、安価な労働力を活用する
輸出生産拠点の確立、または巨大な国内市場の開拓・確保とに二分化されているが、製品
の輸出率によって回答企業を「現地販売型」と「海外輸出型」に大別することもできる。
企業内部での最も直接的な技術移転は、機械設備などのハードウェアに体化されている
製造技術の移転である。回答企業の主要生産設備の調達状況を見ると、主な調達先は明ら
かに日本を中心とした海外であり、特に「海外輸出型」企業においてその傾向が強い。こ
の結果から、直接投資は生産設備の国際的移転の主なチャンネルであるといえるが、機械
設備に体化されている特定の製造技術は、外国で生み出された生産手段にすぎず、広い意
味での技術移転効果が限られているといわざるを得ない。それよりも、ハードウェアを使
いこなす技術と技能、そして生産管理などに関する経験とノウハウの移転は生産性の向上
や品質の確保にとって重要であろう。こうした技術と知識は人間から人間に移転されるも
のであるから、現場教育、研修訓練、人材育成などを通じて徐々に移転されるのが特徴的
である。
日本企業の慣用手法である現場教育、QC サークル、マニュアルの採用などは、現地日系
企業内部の技術移転の促進手段として捉えられるが、調査した結果、現場教育は他の諸慣
行より最も重視され、ほとんどの企業で行われている。そして、人材育成の方法として、
日本への研修派遣を行っている企業が非常に多い。なお、現地での研究開発状況について
も調べたが、R&D レベルの技術移転はごく一部の日系企業内に行われているに過ぎなかっ
た。
企業内技術移転の決定要因についての計量分析は、投資企業側の移転努力が生産管理技
術の定着と密接に関わっていることを示唆している。また、日本側の出資率と操業期間の
長さも技術の定着度を高める効果を有し、技術移転の決定要因であると考えられる。
一方、日系企業外部で行われている「企業間技術移転」は、地場企業との生産協力関係
が主なチャンネルとなっているから、現地部品調達率は現地での企業間分業の進展度合い
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を示す指標である。回答企業の部品調達構造を見ると、日本からの平均調達率は 56%で現
地(中国国内)のそれを超えているが、現地での調達先として、地場中国企業からの調達
率は現地日系企業からのそれを上回っている。興味深いのは、「現地販売型」企業はより多
くの部品を中国国内、地場中国企業から調達しているのに対して、「海外輸出型」企業は現
地での調達率が低いにもかかわらず、その大部分は現地日系企業から調達していることで
ある。
このように、日系企業の部品調達は日本からの輸入に大きく依存しているが、現地での
企業間分業体制も一部の企業を中心に形成されつつある。現地の生産協力企業を持つ回答
企業は半数未満という結果であったが、1 社当たりの中国系生産協力企業数は現地日系企業
を大きく上回っている。特に、
「現地販売型」企業の持つ中国系生産協力企業数は最も多く、
現地での生産分業がより進んでいる。これらの地場中国企業への技術援助としては、特定
技術問題の解決、設備と業務に対するアドバイス、生産設計のスペック、巡回指導などが
様々なレベルで行われている。
なお、企業間技術移転の要因については、中国系生産協力企業を持つグループと持たな
いグループの間で、有意な差異が存在することが判別され、現地依存度の相対的に高い日
系企業のほうが現地での生産分業がより進み、現地生産協力企業を持つ可能性も高くなる
と指摘できる。言い換えれば、地場中国企業にとって、日系企業との協力・取引関係を通
じて技術移転が行われる可能性は主に現地志向型企業にある。
以上のように、日系現地法人企業内における技術移転は、生産設備の導入にとどまらず、
生産管理と経営管理技術、ノウハウなどの移転も現場教育や日本への研修派遣などを通じ
て行われている。企業外部での技術移転では、日系企業の現地での生産分業体制は発達し
ていないものの、地場の生産協力企業を様々な方法で育成する姿勢が明らかにされた。
しかし、調査時点でこれらの企業の進出期間がまだ浅く、製造に必要な生産技術は企業
内外に積極的に移転されているとはいえ、高度な技術や主要部品の調達は依然として日本
本社、または現地の日系企業同士に依存している構造であることから、技術移転が盛んに
行われているとは言い難い。今後、操業経験の積み重ねによって企業内および企業間技術
移転の度合いは強くなると予測されるが、厳しい市場競争に勝つためには、日本国内で形
成された競争優位のある経営資源を一層移転し、現地子会社の競争力を高める必要があろ
う。
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おわりに
ここまで見てきたように、中国の工業化に生産設備の高度化と技術の進歩が不可欠であ
るが、これは直接投資による近代的な生産技術の導入との関連が非常に深い。近年、目覚
しい経済発展を遂げた中国は、家電など多くの分野で世界最大の生産拠点として台頭して
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きているものの、その急速な発展が独自に進行したのではなく、海外からの製造機能と技
術の移転に依存して進められてきたのである。そして、対中直接投資の展開を通じて、外
資系企業の優れた生産技術と経営管理技術が幅広く現地企業と関連産業に移転・波及する
という技術移転のチャンネルが形成されている。このような意味で、中国の産業発展は「直
接投資依存型」であるといっても過言ではないだろう。
だが、1996 年以来、毎年 400 億ドル以上の直接投資(実行ベース)が導入され、中国経
済における外資系企業の存在感もますます高まっている状況を背景に、最近、中国国内で
は外資導入の適正な規模をめぐる論争が目立っている。論争自体はごく自然なものである
が、注目されるべきは、技術の発展において外資および外国技術への高い依存度に対する
懸念である。
中国の製造業はこれまでに大量の海外技術を導入して生産能力を拡大したものの、基本
的には量的な拡大に止まり、付加価値率が伸び悩んでいる。中国企業の現状として、製品
技術のような自主的な研究開発はまだ弱く、基幹部品の一部も輸入や現地の外資系企業に
依存している。産業構造の高度化には、自主的な技術開発力と技術革新力が不可欠である
が、外資系企業に比べて、中国企業の技術力の低さと弱さが歴然としている。導入された
技術を十分に消化・吸収することによって基礎技術を蓄積しなければ、次の新たな技術導
入をせざるを得ないという低レベルの「重複導入」は避けなれない。他方、大量に進出し
ている外資系企業が中国企業の技術革新の意欲を減退させる側面も否定できない。市場競
争が激しくなると、中国企業は導入技術を内部化して国産技術を開発する余裕がますます
なくなりそうである。
そして、海外からの技術導入は直接投資の増加に伴って加速しているが、主に外資系企
業の投資目的に合致した内容のものとなるといえる。直接投資の技術移転効果を最大限に
引き出すことは、今後の大きな政策的課題であるが、コア技術や先端技術の獲得は外資や
外国頼りに限界がある。科学技術発展のためには、基礎技術を高める長期的な振興策や技
術普及政策の推進が求められると同時に、イノベーション能力を向上させる一層の自助努
力、知的財産権を保護する体制の強化などが必要であろう。
一方、技術力不足の問題があるとはいえ、中国は多くの分野で世界一の生産力を持つよ
うになり、世界経済に与えるインパクトもますます大きくなっている。近年、中国経済の
国際化と産業の急速な発展に伴い、日本との様々な貿易摩擦、中国脅威論や人民元切り上
げ問題などが目立つようになってきた。だが、中国経済の現状を正しく理解すれば、日中
間の経済格差はなお大きいものであり、中国の経済水準や総合競争力が日本と肩を並べる
のは相当先の話であるといわざるを得ない。
日中間の経済関係はこの二十数年間にわたって年々深まっており、中国を抜きに日本経
済を考えることは不可能になっている。中国の経済発展にとっても、日本が蓄積してきた
技術力や発展経験などは重要なものであり、日本からの経済協力と技術移転が依然として
期待されている。両国の経済関係には多くの不確実性があり、また競合する面も少なくな
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いが、基本的には補完的な相互依存関係にある。今後も日中経済はより緊密化していくと予
想され、また、中国が日本企業の主たる投資先となる時代は長く続くと思われる。中国で
の事業展開には様々な「チャイナリスク」が考えられるが、「政冷経熱」といわれる日中関
係の現状も潜在的な進出リスクとして無視できないだろう。
1)日本貿易振興会編『ジェトロ投資白書:世界と日本の海外直接投資』
(2003 年版)を参
照。
2)
『中国統計年鑑』2003 年版(表 13-5、表 13-14)と 2004 年版(表 14-3、表 14-12)
より算出。
3)陳(1997)による。なお、合計 148 億ドルのうち、実際支払った金額は 66.4 億ドルで
あった。
4)中国商務部科技発展和技術貿易司(http://kjs.mofcom.gov.cn)の統計資料による。
5)近年の技術導入の詳細は、中国商務部の統計資料(注4と同じウェブページ)を参照
されたい。なお、ここで指摘しておきたいのは、外資系企業の技術導入は企業内部で行
われているため、政府側の技術導入統計に過小評価される可能性が高いということであ
る。技術ライセンス契約を除き、設備導入や技術サービス提供のような技術導入の一部
統計されていないと考えられる。
6)同調査の詳細は胡(2003)を参照されたい。なお、著者の胡景岩氏は中国商務部外国
投資管理司の責任者である。
7)機械産業を中心とする日本企業の中国での事業展開については、関・範(2003)を参
照されたい。
8)日本家電産業の対中技術輸出の詳細は、範(2004)の第6章を参照されたい。
9)中国の工業生産や経済全体に及ぼした技術移転の効果を検証したものは、浦田・入山
(1997)、陳(2000)、郭克莎(2000)、江(2002)などが挙げられる。
10) 同調査の概要と分析結果の詳細は、範(2004)の第3章と第 4 章を参照されたい。
参考文献
<日本語文献>
浦田秀次郎・入山章栄
1997.「中国への直接投資と技術移転」日本経済研究センター・Discussion Paper:No.49.
金堅敏
2004.
「中国企業の技術力に関する一考察」富士通総研経済研究所・研究レポート:No.183.
関満博・範建亭編
2003.『現地化する中国進出日本企業』新評論.
田村泰一
16
1997.「日中の技術移転に関する調査研究」科学技術政策研究所・調査資料:No50.
範建亭
2004.『中国の産業発展と国際分業-対中投資と技術移転の検証』風行社.
<中国語文献>
陳国宏
2000.『我国工業利用外資与技術進歩関係研究』経済科学出版社.
陳慧琴
1997.『技術引進与技術進歩研究』経済管理出版社.
郭克莎
2000.「外商直接投資対我国産業結構的影響研究」『管理世界』第 2 号:34-45.
胡景岩
2003.『論開放市場与引進技術』中国対外経済貿易出版社.
江小涓
2002.『中国的外資経済 ―対増長、結構昇級和競争力的貢献』中国人民大学出版社.
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