四津良平 - 一般社団法人 巨樹の会

期待される都心の回復期リハビリ病院
~急性期からの早期受け入れで在宅復帰率が向上~
四津 良平
の会の蒲地真澄会長は、関東ではリハビリテーシ
ョン病院が不足しているとして、次々と病院を開設
していますが、都心部での開設はチャレンジだと語
っています。当院の経営がうまくいけば、都心部で
原宿リハビリテーション病院病院長、
慶応義塾大学名誉教授
の回復期リハビリテーション病院の可能性が大きく
急性期病院は都心部に集中しているが、回復期リハビリテーション病院は圧倒的に不足している。
そうし
広がることになります。
た状況下、一般社団法人巨樹の会が4月、303床の原宿リハビリテーション病院を開院した。山手線の内
――入院患者は順調に増えたのですか。
側には回復期リハビリテーション病院が200床程度しかなかったというから、
まさに大変動が起きたといっ
四津 4月に開院して、2カ月後には満床となりまし
ていい。都心の回復期リハ病院はどうあるべきか。慶大病院時代、
「心臓手術のゴッドハンド」
と呼ばれた
た。順調なスタートが切れたと考えています。これ
四津良平病院長に聞いた。
から必要なのは、退院していく患者さんに、
「この
病院に入院して良かった」
と言ってもらえるようにし
――リハビリテーション病院が都心部に開院したこ
りになって家に帰れない、ということも起こります。
ていくことです。患者さんに満足してもらえる医療を
とで注目を集めていますが。
これだけ人口が集まっているのですから、都心部
提供する。そして、それを地道に続けていく。そう
四津 従来、リハビリテーションの病院は、都会
に回復期リハビリテーション病院が必要なのは間
することで、病院の歴史が作られていくのだと思っ
から遠く離れたところに作られてきました。温泉療
違いありません。
ています。一人一人の患者さんを元気にして、家
法の医師がリハビリテーションも担当することが多
――差額ベッド料は高額なのですか。
に帰れるようにする、ということを続けていくしかあ
かったため、温泉地の近くに作られてきた歴史が
四津 都心の一等地に建つ病院ということで、な
りません。
あるのです。私の母も脳出血で倒れたときに、急
んとなく
「豪華な病院」
「富裕層をターゲットとした病
――自宅に帰れる患者さんの割合は?
性期の治療を終えた後、神奈川県厚木市の七沢
院」
という印象を持つ人が多いようですが、決して
四津 まだ当院だけのデータはありませんが、グル
温泉にあるリハビリテーション病院に入院しました。
そうではありません。約半分の150床は差額ベッド
ープ病院全体では、自宅に帰る患者さんの割合は
家族は毎日見舞うことができませんし、本人も遠く
代が無料です。残り153床はいろいろな希望に沿
87%となっています。全国平均は70%程度ですか
の病院に入れられたという疎外感を覚えたようです。
えるようになっていますが、比較的低めの差額ベッ
ら、かなり高い割合です。
――自宅に帰すには退院後の連携も必要では?
現代では、リハビリテーション病院が温泉地にある
ド料が設定されています。病院の建物も、もともと
――自宅に帰れることは重要ですね。
四津 自宅に帰って何もしないでいると、すぐに
必要はなく、各地域に必要とされているのですが、
キリンビールの原宿本社ビルだったものを、リモデリ
四津 患者さんにとっても重要ですし、国の医療
ADL
(日常生活動作)
が低下してしまいます。通所
東京では不足状態が続いています。特に山手線の
ング
(増改築工事)
をして使っています。
費の面から考えても重要です。日本の医療は、薬
リハや訪問リハにつなげていくことも大切です。今
漬け、入院漬けにしてしまうから、どんどん増えて
後は地域包括ケアの中で、そういった部分に関わ
しまうのです。リハビリテーションにかかる費用など
っていくことも考えています。
内側は不足していて、この病院が開院する前は、
わずか200床ほどしかありませんでした。そこに303
経営に関してはチャレンジ
床の回復期リハビリテーション病院ができたのです
――都心部で回復期リハビリテーション病院を経
微々たるものですから、そこにしっかりお金を掛け
から、注目されるのは当然なのでしょう。
営するのは難しいのでは?
て、患者さんを自宅に帰すことが大切です。自分
――ニーズはあったということですね。
四津 急性期病院はこれだけあるのに、回復期リ
で食事ができ、自分で買い物に行けるようにすれ
――この病院のリハビリテーションにはどのような特
四津 急性期の病院が集まっているのですから、
ハビリテーション病院が非常に少なかった原因の
ば、自宅での生活が可能になります。リハビリテー
徴がありますか。
そこで急性期の治療を終えた患者さんを受け入れ
一つはそれでしょう。当院にしても、原宿という地
ションでそういう高齢者を増やすことは、すごく経
四津 いくつか特徴がありますが、一つは優秀な
る回復期の病院が必要なのは当然です。特に高
価の高い場所で、リハビリテーション病院の経営
済効果が高いのです。それがうまくいけば、約
スタッフが多数そろっていることです。理学療法士
齢の患者さんは、何もせずに1週間も寝ていたら、
が本当に成り立つのか、やってみなければ分かり
2000億円の医療費と介護費の抑制につながると
(OT)
、作業療法士
(PT)
、言語聴覚士
(ST)が、
そのまま歩けなくなってしまうこともあります。寝たき
ません。まさにチャレンジだと思っています。巨樹
いわれています。
06
2015.10
2015.10
最新機器も使ったリハビリを提供
合わせて240人います。303床の病院でこの人数
MediCon OPINION
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は、かなり多いといっていいでしょう。そのため、
四津 それは非常に重要です。先日も都心の急性
内容的にも時間的にも、充実したリハビリテーショ
期病院の先生方や医療連携室の方たちをお招きし
ンを提供することができます。ほぼ1対1でリハビリ
て、帝国ホテルで
「第1回医療連携の会」
を開きまし
テーションを行うことができますし、元気な人であ
た。合計800人ほどの方が集まってくださり、今後
――長く心臓外科医として活躍されてきたわけです
とがあります。それは、医師として言うべきことは言
れば、最大で1日に3時間
(9単位)
、集中的に受け
の医療連携について、実のある話をすることができ
が、手術に対する未練はありませんか。
う、ということです。自分が主張すべきことは、上
ることもできます。
ました。急性期病院から回復期リハビリテーション
四津 大学の教授にはいろいろなタイプがいて、
の人に対してもきちんと主張する。話し合って、
喧々
――最新機器も取り入れているのですね。
病院へと、スムーズに患者さんを移行させるのに
外科系であっても、ほとんど手術をしない教授も
諤々となることもあるけれど、それで決まったことに
四津 リハビリテーションに使用する機器は、でき
必要なのは、人と人の信頼関係だと私は思ってい
いますし、手術が好きで、ずっと外科医として医療
対しては、
「イエス・サー」
で従う。これでしょうね、
るだけ最新のものをそろえてあります。話題性の高
ます。医療連携スタッフはもちろん、医師との信頼
に携わっていく教授もいます。私自身は手術が大
アメリカで学んだ最も重要なことは。日本では、そ
いところでは、動作支援ロボットスーツの
「HAL」
を
関係が築けていることも必要です。私は長く心臓
好きで、手術器具まで開発してきたくらいですから、
ういうのはあまりいいことではないとされていて、上
使っています。筑波大で開発されたロボットですが、
外科を専門としてきましたが、外科医というのは、
手術に対してノスタルジーを覚えることはあります。
の人に言うことに対しては
「ハイハイ」
と聞くのが良い
患者さんはこれを体に装着して歩行練習などを行
自分が手術した患者さんを、信頼できる病院に送
手術をやりたいという気持ちはあるのです。しかし、
とされています。しかし、それでは駄目です。
います。歩こうとして脳が筋肉に指令を出すと、ロ
りたいと考えているものです。
ある年齢になったら、若い人の活躍する場を作ら
――病院運営にもその教えは役立ちますか。
ボットがそれを感知して、筋力をアシストしれくれる
――どうやって信頼を高めますか。
なければいけません。学会などの講演で海外から
四津 そうですね。病院の組織も、こうあるべきだ
わけです。体に着ける歩行補助ロボットといったも
四津 当院はリハビリテーション病院ですが、心
教授を呼ぶと、多くは40〜50代です。それに比べ、
と思っています。硬直化した組織にしないためには、
のです。この最新機器を4台そろえました。
臓外科医が3人、神経内科医が2人、整形外科が
日本には年をとった教授が多過ぎるように思えます。
言いたいことは言い、とことん話し合うことが必要
――病院の敷地内で工事が行われていますが、
2人、脳外科が1人います。普通はリハビリテーショ
そう思い始めていたので、新たな分野に飛び込む
です。そして、決まったことには、
「イエス・サー」
あれもリハビリに関係あるのですか。
ン科の医師だけという病院が多いと思うのですが、
ことにためらいはありませんでした。今はリハビリテ
で突き進む。常にそういう組織でありたいと思って
四津 この病院は敷地内に樹木が多く、小さな森
急性期をやっていた医師がこれだけいることで、よ
ーション病院の病院長ですが、この新しい仕事が、
います。
になっているので、そこを通る散歩道を作っていま
り早期の患者さんを急性期病院から受け入れるこ
経営を含めて面白くて仕方がないのです。
――チャレンジは成功するでしょうか。
す。車椅子でも移動できるようにスロープにしてい
とができます。例えば、まだ管が入っている状態で
――日本の心臓外科の世界でのレベルは?
四津 するでしょう。そのためには、患者さん一人
ます。天気の良い日なら、気持ち良く歩行訓練が
あるとか、酸素吸入が必要な状態の患者さんであ
四津 世界でもトップレベルです。1人の患者さん
一人に満足してもらえる医療を提供し、それを地道
できると思います。それから、せっかく病院が原宿
っても、受け入れが可能です。送り出す急性期病
を、1人の疾患を、これだけ真面目に診る心臓外
に繰り返していくしかありません。近道はないと考え
にあるので、リハビリテーションが進んでADLが向
院の医師にとっても、急性期のことが分かる医師
科は、他にはないでしょう。ただ、システムがアメリ
ています。
上してきた人には、街を歩くリハビリテーションも行
がいるなら、ということで安心して送ることができま
カとは違っていて、日本では手術を行った医師が
っています。専門のスタッフが1対1で付いて、街を
す。早期に受け入れれば、それだけ早い段階で
術後管理まで行いますが、アメリカでは、手術する
歩くのです。退院後のことを考えれば、リハビリ室
本格的なリハビリテーションを開始できます。それ
医師と、術後を診る医師は別になっています。労
や病院の廊下を歩けるだけでなく、街を歩いたり、
も、自宅に帰れる人が多い理由の一つであると考
働条件は日本の方が良くないのですが、それでも
バスや電車に乗ったりできることが必要になります。
えています。
治療成績は劣っていません。
ヨーク州立大学胸部外科へ留
そのため退院前に外に出るのですが、原宿の街
――急性期病院にとってもメリットがある?
――アメリカで修業した医師が多いのですか。
ド・クリニック人工臓器部・人
ですから、患者さんたちはちょっとおしゃれをして
四津 急性期病院はどこでも在院日数を減らすこ
四津 私自身は6年ほどアメリカにいて、技術を身
出掛けていきます。そういうことも、精神面に良い
とに力を入れています。手術後の入院日数が長くな
に付けました。私くらいの年齢だとアメリカで技術を
影響があるようです。リハビリテーションというと、
ると、収益率が下がってしまうからです。手術後の
磨いた人が多いのは確かですが、今は2通りです。
応義塾派遣留学
(米国ベイラー
何か暗いイメージがありますが、原宿にふさわしく
早い段階で、患者さんをリハビリテーション病院に
アメリカなど海外で勉強する人もいますし、日本に
義塾大学医学部専任講師
(外
カッコ良くやろう、ということですね。
送ることができれば、それに越したことはないので
いて心臓外科医として育っていく人もいます。ただ、
す。急性期病院から早期に患者さんを受け入れる
アメリカで技術を身に付けて日本に帰ってきても、
急性期病院から早期に受け入れる
――急性期病院との連携は?
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いえるでしょう。
心臓外科からリハビリに転身
――医療技術以外に6年間過ごしたアメリカで学ん
だことは?
四津 いろいろありますが、最も大切にしているこ
四津良平
(よづ・りょうへい)
1948年富山県生まれ。73年慶
應義塾大学医学部卒業。外科
学教室入室。81年米国ニュー
学。米国オハイオ州クリーブラン
工心臓主任研究員。84年米国
オハイオ州アクロン大学医用生
体工学部兼任助教授。91年慶
大学臓器移植科)
。93年慶応
科学)
。2002年同大学医学部
外科教授
(心臓血管外科)
。14
年同大学名誉教授
(医学部)
。
ことは、我々にとってだけでなく、急性期病院にと
すぐには活躍の場がないことが多いという現状があ
一般社団法人巨樹の会松戸リハビリテーション病院院長補佐。15
ってもメリットがあります。お互いを補完する関係と
ります。
専門医、循環器専門医。
2015.10
2015.10
年原宿リハビリテーション病院院長。外科専門医、心臓血管外科
MediCon OPINION
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