米ドルの行方

2015/11/08(日)比較経済体制学会報告
於:日本大学経済学部
報告 1 中尾茂夫(明治学院大学)
「米ドルの行方」
1)戦後米ドル史の概要
1944 年 ブレトンウッズ協定の締結
1950 年代 米ドル不足の時代=米ドル不足を英ポンドが補う=米ドルと英ポンドの並立
1950 年代後半~ ユーロダラー市場取引の開始:在米資産凍結を恐れた旧ソ連が米ドルの
ままロンドンに資産を移し、それを受け入れたロンドンは米ドルのまま貸し付け
る。金利規制のないユーロ取引の方が、ニューヨークより米ドルをより高金利で
受け入れ、より低金利で貸し付けるという優位なポジションに立った。
1961 年 金プール制(ロンドン市場での金価格高騰を、金拠出で抑える)
1968 年 金の二重価格制(金の公定価格とロンドン金市場の二重価格)
1971 年 ニクソンショックで金と米ドルの交換停止(paper money の国際通貨化)
同年
スミソニアン協定(金を欠く固定相場制の試み)
1973 年 変動相場制へ
1985 年 9 月 プラザ合意による米ドルへの協調介入(劇的な日本円高・米ドル安へ)
アメリカ経済後退論や「Japan as No.1」のような論調がブームへ
双子の赤字(経常収支赤字&財政赤字=富裕層減税と軍拡⇒世界最大の債務国転
落)への悲観論
1992 年 民主党クリントン政権の登場⇒IT バブル、ナスダック・バブルへ
New Economy の活況⇒米ドル楽観論の盛況=債務国家論は杞憂。アメリカ金融市
場の優越性による、海外投資家の米ドル選好が原因だという論調。
1997 年 アジア通貨危機&AMF(アジア通貨基金)提案の頓挫。
2001 年 9.11 テロ。直後にアフガニスタン空爆開始。
2002 年 9 月 小泉・ブッシュ NY 会談(北朝鮮拉致問題議題に。アメリカの要求は、イラ
クへの自衛隊出兵要請ではなく、米国債買い増し&不良債権処理の催促)
2003 年 3 月 イラク空爆開始
2008 年 9 月 リーマンショックによる金融市場大混乱(アメリカモデルの見直し)
同 8 月米国債ショック
(債務上限引き上げの議会決定 Budget
2011 年 3.11 東日本大震災、
Control Act of 2011、S&P による史上初の米国債格付け引き下げ AAA⇒AA+)
。
公務員の一時帰休や施設一時休業も。米国債のデフォルト可能性が史上初浮上。
2015 年 AIIB(アジアインフラ投資銀行)の登場、ヨーロッパ諸国の加盟宣言と日米の対応。
2)4 つの論点:①1980 年代の悲観論(アメリカの国際競争力後退論)から 1990 年代の
楽観論(ニューエコノミーを牽引するアメリカモデル)への逆転⇒日本型金融ビッグバン
への疾走、②変動相場と相場安定(変動相場制の日本、米ドルペッグ制の香港&タイ)
、香
港ドルの相場安定に国益を賭けた中国の政治力(対米交渉力)と、無策の日本、③2002 年
1
NY 会談の意味=米国債買い+不良債権処理催促、④2008 年のリーマンショックと 2011
年の米国債ショック=三菱 UFJ によるモルガンスタンレー救済出資(約 1 兆円)
。
3)今後の展望に向けて:ジェームズ・リカーズによる衝撃の米ドル崩壊予想『ドル消滅』
朝日新聞出版、2015 年は米ドルに代わる通貨決済システム構築の蠢動を描く。『ガイトナ
ー回顧録』日本経済新聞社、2015 年はリーマンショックの只中で、その対応にどういう采
配を振るい、危機脱出を図ったのかを政策当局者自身が叙述。=弁明か、救済主か? アン
ドルー・ファインスタイン著『武器ビジネス(上)
(下)
』原書房、2015 年は軍事ビジネス
という戦争民営化の腐朽ぶり(軍産複合体から PMF へ)を描く。=戦争はカネ! = かつ
て輝いて見えた魅力( American Dream )の失墜。⇔中国 AIIB 登場が米ドルの覇権に
挑む? 中国の国益を賭けた野心的外交の展開⇔18 年前に日本が提唱した AMF との相違。
日本外交の存在感失墜&迷走=中国外務省の「日本課」廃止(2015 年 9 月)
。
(出所)http://www.tradingeconomics.com/united-states/current-account(1960-2015)
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(出所)http://www.macrotrends.net/1319/dow-jones-100-year-historical-chart
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(出所)http://therealasset.co.uk/charts-and-graph/gold-price-charts/
(出所)http://www.macrotrends.net/1333/historical-gold-prices-100-year-chart
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(出所)特記なしは、すべて Economic Research, Federal Reserve Bank of St. Louis より
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*安倍首相の米議会演説(2015 年 4 月)の一節:
“we also find the pain, sorrow, and love for family of young Americans
who otherwise would have lived happy lives. Pearl Harbor, Bataan
Corregidor, Coral Sea.... The battles engraved at the Memorial crossed my
mind, and I reflected upon the lost dreams and lost futures of those young
Americans.” Nikkei Asian Review, April 30, 2015
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