幕閣登用の論理

幕閣登用の論理
田中秀典
幕府の機構が確立していく中で、初期は将軍側近が加増を受けながら老中に昇進するケ
ースが多かったが、やがていくつかの役職を経験しながら昇進していくルートが確定して
いった。役職に就いていたのは主に譜代大名だが、それらの中には幕閣を多く出している家
とほとんど出していない家がある。短命の当主が連続した場合等、役職に就く機会が訪れな
くて当然であるにもかかわらず、これまでの研究ではそれらを考慮せずに単純に家ごとに
役職就任者数を集計して、役職者の特定の家への集中度の議論の根拠にしているというこ
とが見られる。さらにこのことについて考える中で注目したのが大名家間の婚姻である。役
職者の家の間で婚姻を結ぶ、あるいは役職者の家と婚姻を結んでいる者が昇進したケース
が見られる。
そこで、全譜代大名家と、役職に就任した経験のある一部の外様大名家を対象として、婚
姻に関する情報と、幕府の役職への就任状況・家格に関する情報について、
『寛政重修諸家
譜』等の家譜類を中心に、各大名家の家政に関する記録等の史資料で補完しながら整理・分
析する。さらに、婚姻と役職との関係を中心に検討を加え、それらの結果と政治情勢を照合
させて、幕府内の権力構造の変化と登用・昇進の論理について検討する。
具体的には、若年・老年・短期を除く当主を役職就任可能者として、彼らの年齢・生没年・
家督相続年、家督相続から役職就任までの期間について整理する。また、江戸中期以降にな
ると、大坂城代になれば京都所司代、京都所司代になれば老中になるケースが多くなり、こ
のルートが正規の昇進経路であるとも言われる状態になるが、そこでも死亡者は考慮され
ていないため、在職中死亡者・病気辞職者を除いた昇進過程について整理する。さらに、こ
れまで考慮されていなかったこととして空席発生状況の問題がある。空席ができた際にど
のような人物が後任になったのかということを考慮する必要があるので、空席発生状況と
そのときの役職就任可能者について整理し、大名の家と役職との関係について分析する。政
治状況と婚姻関係を照合して人事のあり方について検討する。
これらのことによって、幕閣に就任する家柄が限定的であったか否か、幕府の人事制度に
はどれだけ業績主義的な論理が働いていたのか、そこに婚姻がどのように関わっているか、
という点などについて見解を示すことができると考える。
15