<肝臓の形態と働き>

肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
今回の勉強会は肝臓・胆管系全般ついて勉強したいと、考えています。盛りだくさんですが消化
不良で下痢しないようにして下さい。
先ずは、肝臓とはどういった臓器なのかを患者さんから聞かれたときに返答できる様になりまし
ょう。
<肝臓の形態と働き>
1.肝臓の構造
肝臓は、人体の中でもっとも重い臓器で、成人では約1400g、体重の約50分の1の重さが
あります。肝臓の血管系には、主に栄養を運ぶ役割をもつ門脈と、酸素を運ぶ肝動脈があります。
約70̶80%が門脈から、残りが肝動脈から供給されます。門脈は胃、小腸、大腸、胆嚢、膵
臓、および脾臓からの血流を集める静脈が集まった血管です。小腸で吸収されたブドウ糖やアミ
ノ酸は、この門脈を通って肝臓に運び込まれます。
肝臓で作られた胆汁は、毛細胆管、胆管の中を流れ、総胆管を通って十二指腸に排泄されま
す。
2.肝臓の機能
肝臓は体の中の化学工場にたとえられます。それは肝臓が、腸で吸収されて運ばれたさまざ
まな物質の、代謝、排泄、解毒など生命の維持に必要な多くの働きを行なっているからです。
(1)
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
(1) 代謝機能
肝臓は、吸収された栄養素を分解、合成し、別の成分に変えます。この働きを代謝といい、
糖質(炭水化物)、蛋白質、脂質の3大栄養素を代謝し、また、貯蔵もします。
糖質は腸内でブドウ糖に分解された後、小腸で吸収されて肝臓に運ばれ、グリコーゲンとい
う形に変えて貯蔵されます。糖分が必要となると分解され血中にブドウ糖が放出されます。
肉や魚に含まれている蛋白質は、小腸でアミノ酸に分解されてから吸収され、肝臓に運ばれ
ます。
肝臓では、このアミノ酸からさまざまな蛋白質が毎日約50g合成されています。そして、使
われないアミノ酸は分解され、窒素酸化物、アンモニアを経て尿素になり、尿中に排泄されます。
肝臓は、この蛋白質合成によって、人体に大切な働きをする血漿蛋白質などを作り出し、血液中
に放出しています。血漿蛋白質には、アルブミン、グロブリン、リポ蛋白、血液凝固に必要なフ
ィブリノーゲン、プロトロンビンなどの血液凝固因子があります。
脂肪は、エネルギー源としてだけでなく、脂溶性ビタミンを摂取するうえでも、大切な働き
をしています。脂肪は、胆汁と膵臓から分泌される酵素によって遊離脂肪酸とグリセロールに分
解され、小腸で吸収されます。そして小腸粘膜で再び中性脂肪に合成され、リンパ管を経て大循
環血流に入り、肝臓に取り込まれます。
肝臓では、脂肪酸の合成、分解の他、コレステロールやリン脂質の合成が行われています。
また、血液中の脂質はリポ蛋白と結合していますが、このリポ蛋白も肝臓で作られます。
(2) 排泄機能
肝細胞は、体内で生じた代謝産物または外因性の有機陰イオンを取り込んで胆道に胆汁とし
て排泄します。ビリルビン、胆汁酸の排泄は、肝臓の重要な作用のひとつです。グルタチオン、
グルクロン酸、グリシン、タウリンといった親水性物質がこの排泄させる作用に関与しています。
(3) 解毒機能
肝臓は、体に入った異物(主に脂溶性物質)をさまざまな化学反応で、毒性が少なく、かつ排
泄しやすい水溶性物質に変え、尿中や胆汁中に排泄させます。また、肝臓の類洞にあるクッパー
細胞は、門脈から肝臓内に入った毒素や異物を食べることで解毒作用を行っています。
色々な肝障害の中で手術を含めた侵襲的な検査・治療が多い閉塞性黄疸について考えていきまし
ょう。
(2)
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
<黄疸について>
黄疸とはビリルビンという色素が何らかの原因で血液中に増加し、その結果、全身の皮膚や粘膜
に過剰に沈着した状態を意味します。
黄疸があるかどうかの判断は、通常、眼球結膜(眼球の白い部分)をみて行います。通常総ビリ
ルビン値で4∼5mg/dlで、肉眼的に黄染が判ってきます。全身の皮膚をみて黄疸があるかどうか
を判定することは、我々日本人のような黄色人種では難しく、とくに軽度の場合ではほとんどわ
かりません。一般に、病的 な黄疸をみる場合には、全身の倦怠・疲労感、皮膚のかゆみ(掻痒)、
感冒様症状、 発熱、尿の色が濃くなる、などの他の症状を伴います。
また、蜜柑などを連日過剰に摂取すると手のひらが黄色くなることがありますが、これは柑皮
症(かんぴしょう)といって黄疸とは異なり病気ではありません。
(余談ですが柑皮症の原因はβカロ
テンで、ニンジン、ミカン、緑黄色野菜、海藻類に多く含まれ、体内で分解されてビタミンAになりますが、取り
すぎると皮下脂肪などにたまります。角質層の厚い手のひらや足の裏は細胞間の脂質も多いので色が目立つのです。
柑皮症では眼球結膜の黄染は認められません)
A:黄疸はその原因により以下の4タイプにわけられます。
1
溶血によるもの(溶血性貧血など、肝臓に代謝される前に起こるため、肝前性黄疸とも
言います)
2
肝細胞の障害によるもの(肝細胞性黄疸)
代表的な疾患は急性肝炎です。ウイルス、薬剤、アルコール、自己免疫など様々な原因でおこ
ります。慢性肝炎は通常は黄疸をみません。肝硬変で 黄疸をみる場合には、肝細胞の機能が
かなり低下していることを意味します。
3
胆汁の流れが障害されるもの(閉塞性黄疸、または肝後性黄疸)
肝内胆汁うっ滞症(急性肝炎にみられる一つのタイプであり、ウイルスや薬剤などが原因とな
っておこりますが、薬物療法によって改善が期待され ます)と外科的な治療が必要な閉塞性
黄疸(結石、腫瘍などが原因となり胆汁の排泄路である胆管が狭窄して黄疸をきたします)に
分かれます。
4 体質性のもの(体質性黄疸)
5:
治療が必要となる黄疸は1∼3に含まれる病気がほとんどです。黄疸を認める場合には、
血液を採取して血液像や肝機能検査などを調べるとともに超音波やX線を 用いた画像検査を
行い、黄疸の原因を早急に調べて、内科的な治療を行うか。あるいは外科的な手術が必要かど
うかを判断する必要があります。
(3)
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
<閉塞性黄疸に対する PTCD、胆管ステント留置>
(以前の勉強会の資料です)
ここで、肝後性の黄疸と言われた疾患群に対する検査、治療の内の PTC(D)、ERCP、胆管ステ
ント挿入について勉強します。
(PTC:経皮的胆管造影、PTCD;経皮的胆管ドレナージ、ERBD;内視鏡的逆
行性胆管ドレナージ)
肝臓の脈管系
・肝臓への流入血管は肝動脈と門脈。流出は肝静脈。
・肝門部で肝内に流入する肝動脈と門脈の分枝は胆管分枝と共に伴走して存在
し、同じ結合組織性の膜 Glisson 鞘に包まれて走行する。
(4)
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
肝後性黄疸(外科的黄疸、閉塞性黄疸)は胆管系の石や腫瘍、胆管に近い腫瘍による圧迫・浸潤
などにより発生します。
PTCD 適応
・閉塞性黄疸のほぼ全てに適応がある。(*一般的に出血傾向のある場合は禁忌。ただし術前にビタミンK、
新鮮凍結血漿の投与などの処置を十分に行えば、施行可能となる場合がある。)
PTCD 目的
・黄疸軽減を第一の目的とし、その過程で、瘻孔を介する胆道造影、胆汁細胞診、内圧測定など
の検査が可能。
・治療を目的した場合の最も良い適応は急性閉塞性化膿性胆管炎であり、唯一の救命法(不可能
なら緊急開腹ドレナージ術が必要)である。(急性閉塞性化膿性胆管炎;急性胆管炎のうち、ショックなどの激烈
な症状を伴うもの。症状;Reynolds の五徴 = Charcot の三徴(①高熱、②黄疸、③右上腹部痛)+ ④ショック、⑤意識障害:
* Charcot の三徴は胆道感染症の一般的な症状)
・黄疸の程度のにより適応を選ぶより、胆管の拡張の有無によって適応を決定される。
・術前処置の一つと考えるべき手技であるが、その瘻孔を利用し、砕石や内視鏡挿入、胆管ステ
ント挿入として利用できる。
PTCD の合併症
(5)
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
・胆道内出血と腹腔内胆汁漏出が主なもの。
・門脈穿刺による胆道内出血が長時間続くことはない。
・腹腔内胆汁漏出は穿刺に失敗した場合の穿刺部位からのことが多く、同領域
の再穿刺ドレナージに成功すればまず問題ない。
・減黄後のカテーテル逸脱による胆汁漏出は、胆汁性腹膜炎を起こすことがあ
り、また胆管拡張がないため、再穿刺ドレナージが困難なことがあり、腹腔
ドレナージ術や、全身状態が良ければ緊急手術を施行すべきである。
(6)
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
ERC(P)の適応
・胆道系疾患(胆石症、胆道癌、先天性胆道疾患、黄疸の鑑別など)の検査。
・ERP の場合は、膵疾患の検査、膵液細胞診
ERC(P)の禁忌
・重症心肺患者など、内視鏡その物が禁忌となる場合。
・急性膵炎、慢性再燃性膵炎の急性増悪期、活動性の胆管炎患者
・閉塞性黄疸の場合は、造影終了後すみやかに、胆道ドレナージ(EST、ENBD、
ERBD、PTCD など)が施行できない場合は禁忌とした方がよい。
ERC(P)の手技・・下図参考
(7)
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
PTGBD(経皮経肝胆嚢ドレナージ術)
目的;胆嚢を穿刺することより、胆嚢、または胆道系をドレナージし胆嚢炎、
胆管炎、黄疸などの症状を軽快させることを目的とする。
適応;(1)重症急性胆嚢炎・・・抗菌剤の使用により軽快せず、胆嚢の緊満
及び疼痛が著明で穿孔の危険性のある場合、重篤な合併症があり緊急手
術をためらう場合、手術後に発生する無石胆嚢炎など
(2)閉塞性黄疸・・・下部胆管癌、膵癌、結石嵌頓などにより下部胆
管(少なくても胆嚢管より下部)が閉塞し、肝内胆管の拡張が軽度で、
PTCD が施行できない場合の減黄目的
手技;次図を参考
術後管理;・体動制限 ・点滴、抗菌剤、止血剤の投与
ントゲン検査
・血清、生化学検査
・腹部、胸部単純レ
・胆嚢洗浄(+/-) ・創部消毒
・胆嚢造影
合併症;・出血
・カテーテルの逸脱
・胆汁性腹膜炎
・他臓器損傷(消化管など)
(8)
・気胸
肝臓・胆管系の勉強会 外科:玉木
胆石症については腹腔鏡の手術を供覧予定。
(9)