[みずほインサイト]スペイン政治は視界不良~総選挙後の連立協議

みずほインサイト
欧 州
2015 年 12 月 22 日
スペイン政治は視界不良
欧米調査部ロンドン事務所長
総選挙後の連立協議・首相選出は難航必至
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山本康雄
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○ 4年ぶりに行われたスペイン総選挙では、既存の2大政党が議席を失う一方で新興政党が躍進し、2
大政党制の終えんを印象づける結果となった。
○ 右派と左派の獲得議席数が拮抗する中、カタルーニャ独立派の政党もからみ、連立協議・首相選出
は難航が予想される。連立協議不調により、再選挙に至る可能性もある。
○ 週明けの欧州市場では、スペイン国債利回りが上昇し、株価が下落するなど、スペイン政治の不安
定化に対する懸念が強まっている。
1.総選挙後の連立協議は難航必至
2011年以来4年ぶりのスペイン総選挙は、12月20日(日)に投票が行われ、即日開票された。下院総
議席数350のうち、与党の国民党(PP)が123議席を獲得して第一党の座を守ったが、前回獲得議席の
186を大きく下回り、過半数(176)に届かなかった(図表1)。第二党となった社会労働党(PSOE)も
議席数を前回の110から90に減らし、1970年代から続いた実質的な2大政党制の終えんを印象づける結
果となった。
図表 1
スペイン総選挙(2015 年 12 月 20 日)結果
政党名
今回獲得
得票率
議席数
国民党(PP)
前回獲得
スタンス
議席数
123
28.72
186
右派
社会労働党(PSOE)
90
22.01
110
左派
ポデモス(Podemos)
69
20.66
0
左派
C's(Ciudadanos)
40
13.93
0
右派
カタルーニャ共和主義左翼(ERC)
9
2.39
3
左派(カタルーニャ独立)
民主主義と自由(DL)
8
2.25
0
右派(カタルーニャ独立)
バスク民族主義党(EAJ-PNV)
6
1.20
5
右派
人民連合(UP)
2
3.67
11
左派
エウスカル・エリア・ビルドゥ(EH Bildu)
2
0.87
7
左派(バスク独立)
カナリア連合(Coalicion Canaria)
1
0.33
2
右派
その他
合計
0
3.97
26
350
100.00
350
(注)ポデモスの議席数は、選挙協力した他3党との合計
(資料)スペイン議会、スペイン内務省
1
かわって躍進したのが、左派のポデモス、右派のC'sという二つの新興政党である。ポデモスは選挙
協力した他の3政党1を含めて69議席、C'sは40議席を獲得した。ただし、政策スタンスの類似性からPP
の連立候補と目されていたC'sの獲得議席は直前の世論調査が示していたほど伸びず、PPと合わせた議
席数は163と過半数には遠く及ばなかった。そのため、連立協議の行方は混とんとしている。
二党の連立で過半数を確保できる組み合わせはPPとPSOEによる右派・左派の大連立しかないが、政
策面の違いが大きく、その可能性は低い。そこで浮上するのがPP主導による右派連立、PSOE主導によ
る左派連立の可能性だが、問題を複雑にするとみられるのがカタルーニャ独立派の台頭である。カタ
ルーニャ独立派は、左派のカタルーニャ共和主義左翼(ERC)9議席と右派の民族主義と自由(DL)8
議席を合わせて17議席を獲得した。
前頁の表で単純に右派(PP、C's、DL、バスク民族主義党、カナリア連合)の議席数を合計すると178
議席になり過半数を確保できる計算だが、カタルーニャ独立に厳しい態度で臨んできたPPにDLが協力
する可能性は低い。DLが抜けた場合の右派合計は170議席にとどまる。
一方、左派に分類される政党(PSOE、ポデモス、ERC、人民連合、エウスカル・エリア・ビルドゥ)
の議席数は合計で172議席で過半数に満たない上、カタルーニャ独立やバスク独立を掲げる政党が含ま
れ、左派連立政権の樹立も容易ではない。
2.再選挙の可能性も
スペイン憲法の規定では、総選挙後、25日以内に議会が召集される。議会召集の期限である1月中旬
までの間に、まずは第一党となったPPが連立政権の組成を試みることになる。PP主導の協議が不調で
議会召集前に連立政権の樹立を断念した場合、PSOEに組閣の機会が移る可能性がある。あるいは、ポ
ルトガルのようにPPが少数与党での政権維持を目指した場合は、召集直後の議会でラホイ首相の再選
が否決される可能性がある。その場合にも、PSOEに組閣の機会が移ることになる。
前述のように、右派はカタルーニャ独立派を取り込まなければ過半数に満たず、左派の獲得議席数
は合計で過半数に達していない。右派・左派の立場を超えた連立が成立しない限り、安定政権の発足
は事実上、不可能な情勢となっている。連立協議がまとまらず、トルコのように再選挙という事態に
至る可能性も否定できない。スペイン憲法では、議会召集から2カ月以内に首相選出ができない場合は、
再選挙と規定されている。
今回の総選挙結果を受けて、週明けの欧州市場では、スペインの10年国債利回りが前週末の1.693%
から1.775%に0.082%ポイント上昇し、比較されることの多いイタリア国債との利回り格差は0.066%
ポイント拡大した。スペインの株価(IBEX35)も21日は3.6%下落し、スペイン政治が不安定化するこ
とへの警戒感がみられた。
年末をまたぐ連立協議の行方、それが金融市場に与える影響が注目される。
ポデモス自体の獲得議席は 42 議席。選挙協力した政党は、En Comu-Podemos(12 議席)、Podemos-Compromis(9 議席)、
Podemos-En Marea-Anova-EU(6 議席)
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