ビデオ型各種パラメータ測定器の考察

一般口演 No.14
ビデオ型各種パラメータ測定器の考察
○西川 由加理
*キクチ眼鏡専門学校
Yukari Nishikawa
*Kikuchi College of Optometry
1.緒論
近年、ビデオ型各種パラメータ測定器(以
下ビデオ型測定器とする)
が注目されている。
その背景には加工技術の進歩によって、細か
なレンズ形状が可能となり、オーダーメイド
の個別設計累進屈折力レンズを作る技術が生
まれたことが挙げられる。その個別設計累進
屈折力レンズを最大限に活用するために、各
種パラメータ値が必要になってきたのである。
今までは各種パラメータ値はさしで実測して
いたが、さしでの実測は測定者の技能に左右
され、測定者が変わればデータにばらつきが
出る。それに対してビデオ型測定器のメリッ
トの一つに、誰でも安定的に測定できること
があると考える。今回の実験では同一人物が
同一マネキンを一定期間同じ条件で測定して、
ビデオ型測定器の特徴を知ることを目的とし
た。
2.測定器具
VISUREAL はドイツ Ollendorf 社製 iPad 用ビ
デオセントレーションシステムで、iPad 本体に
取り付ける装置と、フレームに取り付ける治具
からなり、カメラが治具を読み取ることで測定
する。
治具とは測定する際にフレームに取り付ける
もので、正面に5つ、側面に2つの凹凸の付い
た基準の印であり、その基準の傾きなどを基に
計算し、データが測定される。
測定項目
① 左右別片眼 PD
② 角膜頂点間距離
③ 前傾角
④ そり角
⑤ アイポイントの高さ
⑥ ボクシングシステムによるフレーム寸法
測定手順
① フィッティング後のフレームに治具を取り
付ける。
この際、ブリッジの中心に治具の中心の印を
合わせて固定する。
② 正面からの写真を撮影する。
被検者にはカメラについている赤い印を固視
するように指示し、1 m ほど離れた位置から
治具が画面内に入るようにセットする。画面
を被検者の第一眼位と合わせ、本体を水平に
保ち、ピントが合うと自動的に撮影する。
③ 側方の写真を撮影する。
正面と同じく、治具が画面内に入るようにセ
ットする。必ず真横を向いていることを確認
し、本体を水平に保ち、ピントが合うと自動
的に撮影する。
④ 正面と側方の写真データをドイツのスーパ
ーコンピューターに送る。
⑤ データを修正する。
正面写真:ボクシングシステムに合わせた玉
型ラインの修正、瞳孔中心位置の
修正
側方写真:リム前面の上側、中央、下側に合
わせた 3 つの基準点の修正、角膜
頂点に合わせたライン位置の修正
⑥ 再度データをアップロードする。
⑦ 測定値が表示される。
3.実験方法
マネキンに眼鏡(メタルフレーム、レンズな
し)をフィッティングした状態で固定し、1 m 15
cm の位置から VISUREAL を用いて測定手順の通
りに測定した。期間は 1 日 1 回で合計 31 日間
である。
以下に示す 8 種類 10 項目のパラメータ値を測
定してばらつきの度合いを調べた。
また図 2 は角度に関するフレームパラメータと
測定パラメータの平均値と標準偏差を示す。そ
り角と比較して前傾角のばらつきが大きくな
った。
長さに関するパラメータ測定値
測定項目
・フレームパラメータ(3 項目)
天地幅(mm)
玉型サイズ(mm)
鼻幅(mm)
・測定パラメータ(7 項目)
右眼のアイポイントの高さ(mm)
左眼のアイポイントの高さ(mm)
右眼の PD(mm)
左眼の PD(mm)
頂点間距離(mm)
前傾角(°)
そり角(°)
図 1 パラメータ値(mm)
角度に関するパラメータ測定値
4.実験結果
表1よりフレームパラメータと測定パラメ
ータの平均値に対する標準偏差を比較すると、
フレームパラメータの方が測定値のばらつき
は少なく、測定パラメータの中では頂点間距離
と前傾角が最も測定値にばらつきが見られた。
図 1 は長さに関するフレームパラメータと測
定パラメータの平均値と標準偏差を示す。他の
パラメータと比較して頂点間距離でばらつき
が大きくなった。
図 2 パラメータ値(°)
表1 パラメータの平均値と標準偏差
フレームパラメータ
天地幅 玉型サイズ
平均値
標準偏差
40.17
51.67
測定パラメータ
鼻幅
右眼高さ
左眼高さ
右眼PD
左眼PD
頂点間
距離
前傾角
そり角
16.43
26.29
25.27
28.53
30.63
10.87
10.22
1.47
1.26547
1.20833 0.321482
0.32919 0.293991 0.184859 0.625141 0.570339 0.456061 0.493959
5.考察
測定パラメータの中で頂点間距離と前傾角
でばらつきが大きくなった。これは測定方法が
要因となっていると考える。これらのデータは
側方の写真が大きく関係していて、修正する際
も正面の写真と比較して測定者によって差が
出やすく、測定誤差が生じてしまうと考えられ
る。しかし、頂点間距離は眼に対する屈折効果
として最も重要な要素であり、ばらつきを抑え
る必要がある。
前傾角は、視線とレンズの光軸を合わせるた
めに重要な項目である。レンズ光軸に対して斜
めに視線が通ると非点収差による像の歪みが
発生し、見え方のぼけや歪みを感じる。このよ
うに測定値にばらつきが生じると、個別設計累
進屈折力レンズを作る技術を最大限に発揮で
きなくなってしまう。
ばらつきが大きかった頂点間距離と前傾角
はどちらも側方写真から得られたデータが主
となっている。現在開発されているビデオ型測
定器は正面からの写真と側方からの写真を撮
影するものが多く、共通する課題として角膜頂
点の位置の確認が難しいケースでの測定精度
が挙げられる。そのためテンプル上の角膜頂点
の位置に印をつけて測定するなどの対策が必
要である。しかしこの方法も十分であるとは言
えない。さらにセルフレームやテンプルの太い
フレームでは角膜頂点の位置が確認できず頭
部を傾けて撮影するが、その測定方法もデータ
のばらつきの原因となってしまうのではない
かと考える。
その他の問題点としてビデオ型測定器には
オートレフラクトメーターのようなデータの
信頼度を表示する機能が備わっていないこと
が挙げられる。今後ビデオ型測定器の発展に伴
い、信頼度が表示され、信頼度の低いデータは
さしなどの実測を行うようにすれば、より正し
いデータで眼鏡を作成することができる。
今回の実験ではビデオ型測定器の特徴を知
るきっかけとなった。デジタルのビデオ型測定
器の利便性や安定性を活かすために角膜頂点
の位置確認が難しいケースでの測定誤差を少
なくすることでビデオ型測定器の更なる発展
が期待できるだろうと考える。
【参考文献】
1) 辻 一央:科学的な眼鏡調製;眼鏡光学出版
株式会社,p.50.(1996)
2)同書,p.198.
3)同書,p.225.
4)private eyes;株式会社近代光学出版,p.26.
(2013.9)
5)private eyes;株式会社近代光学出版,p.13.
(2014.1)
6)眼鏡;眼鏡光学出版株式会社,p.54.(2013.12)
7)眼鏡;眼鏡光学出版株式会社,p.52.(2014.1)
8)長浜健:眼鏡調整学Ⅲ;キクチ眼鏡専門学校
p66.