超現実の扉 オランダでは大概のものは機能します。たとえばドアとか

超現実の扉
オランダでは大概のものは機能します。たとえばドアとかトイレとか。オランダの南の
ベルギーになると、ちょっとガタが出て来ます。スイッチの接触が悪いとか。ベルギー
の南のフランスでは、南下につれて弛緩感が拡大します。暖房が効かない。エレベータ
が動かん。電気の瞬断。それは楽園に近づく予感で、必ずしも嫌じゃありません。そし
てフランスの南がスペインです。
2004 年のクリスマスから正月にかけて、車でベルギーからスペインまで行きました。
住んでいた大学町では休みに入ると先生も学生も帰省します。寒く寂しい町に残った人
には鬱と自殺が増えるそうで。雪のフランスをローヌ川に沿って、アルプスと中央山塊
の間を抜けて地中海に出ました。
西に折れて海沿いに行くとペルピニャン。このへんはカタロニアで、ダリが生活した地
域です。彼によるとペルピニャン駅は宇宙のへそ、中心です。レストランに行けばダリ
が何か食べてる写真があったりします。気温はベルギーより15度くらいも高い。人はみ
な背筋が伸びて話好き。
海辺には城塞都市がいくつもあり、岬々の丘に崩れた城跡があります。印象派やフォー
ビズムもこのへんで活躍しました。放送はフランス語、スペイン語以外にカタラン語が
入ります。フランスとスペインの国境はカタロニアの中を通っていてピレネ山脈の東端
です。国境は無人で、通貨統合前の通関や両替屋の建物が残っています。
スペイン側に入ると風景が一変します。薄い石を積み上げて土留めにしたオリーブの段
々畑。ダリの絵にある曲がって葉のない木々。狭い曲がりくねった道。カタロニアはど
うやら時空が歪んでいる。超現実主義は現実からの離脱を目指していたんだそうですけ
どね。実はわりと素直に日常的な心象を描いてたんだなあ。
更に海沿いに行くとカダケスという小さな町があります。ここはもうダリだらけで、溶
ける時計なぞ、そのへんにいくらもあります。芸術家が多く、あちこちにアトリエが。
日本人の名前もいくつか。大晦日、ホテルに部屋が1つだけ残っていたので、高いけど
泊まりました。ショー、シャンペン、カウントダウン、花火など目当てに、ここで年を
越す人が多く、混んでるのです。
ロビーから上がって、廊下の扉を開こうとします。とってを引くと固くてあきません。
力を入れます。と、金具全体がずぼっと抜けました。手に残った大きな金具を呆然と眺
めつつ、「さすがはダリを生んだ風土だ。」
Copyright 2005 Kiyoshi Yoneda