マンネリを打破する道徳の時間

道
徳
マンネリを打破する道徳の時間
1
はじめに
ある道徳の研究会で,他県の中学校の先
生 が こ う お っ し ゃ い ま し た 。「 私 の 学 校 で
は ,道 徳 の 時 間 の こ と を ,生 徒 が い つ し か ,
『いつもの道徳』と『リアル道徳』と勝手
に 呼 び 分 け る よ う に な っ て い ま し た 。『 い
つもの道徳』とは,道徳の時間という名の
下,それが席替えに変わったり学級会の時
間 に 変 わ っ た り … ( 参 加 者 , 失 笑 )。『 リ
ア ル 道 徳 』と は ,私 た ち が 本 来 目 指 す べ き ,
工夫と準備を重ねた道徳の時間のこと。私
の学校では,生徒の言う『いつもの道徳』
が当たり前のように行われていた。でも,
これではいかんだろうと教師が意識を変え
準備をするようになりました。するとどう
でしょう。最近では,生徒から『先生,今
日の道徳はどっち?リアル道徳にしよう
よ』なんて言う声が聞こえるようになった
ん で す ( 参 加 者 , 拍 手 )。」
このような極端な例ではないにしても,
道徳の時間がマンネリ化し,子供がつまら
ないと感じていることはないでしょうか。
自分自身,ついつい,ワンパターンな流れ
にはまってしまっているのに気付くことが
あります。上述の学校の生徒の発言からも
伺えるように,子供はある価値にじっくり
と向き合い,悩んだり考えたり知恵を出し
合ったりすることで満足感を覚え,道徳学
習への欲求が高まっていくと考えます。今
回は,子供の予想を越えた教師の投げ掛け
という視点で,次のような実践を紹介しま
す。
2 実践事例
「資料に記述されたことを越えて,場面を
予想し話し合う」
第3学年「おじいちゃんのめがね」
(文溪堂)
1-(5) 正直・誠実
指導のポイント
◆教師の発問「おじいちゃんの話を聞きながら,
和美はどんなことを考えていたでしょう」
◆子供のおもな考え
・壊れかけていたと聞いてほっとした。
・正直に話ができてよかったな。
・元々壊れかけていためがねだったから,なんか
ちょっと損した感じ…。
☆こ こで,次のように展開を続けます。
◆教師の発言「もしも次のように話が続いたら,
あなたはどう思いますか?」
<教師が考えた「続きの話」の概要>
20年後,おじいちゃんの法事で久しぶりに実家に帰った
和美は,家族とおじいちゃんの思い出話に花を咲かせる。
そんな中,めがねを壊したあの日のことを思い出し,次の
ように話す。「あのときはびっくりしたけど,おじいちゃん
から,めがねが元々壊れかけていたって聞いてほっとした
の。」すると,母親が次のように言うのである。「あなた何
を言ってるの。あれは,和美を悲しませないようにするた
めに,おじいちゃんがついたうそじゃない。」
この話をした直後,子供には,驚き,落
胆,疑問,…,様々な気持ちが渦巻き,ど
よめきが起こりました。そして,傷つけな
いためのうそはいいのか,うそはやはりだ
めではないか,おじいちゃんは和美のため
にうそをつくべきだったのか本当のことを
言うべきだったのか,と大いに悩み考え,
白熱した話合いへとつながったのです。こ
のように,資料の中身を越えて教師や子供
が主人公のその後やある場面を予想し話し
合うことで,子供の視野が大きく広がるこ
とを実感できました。ただし,一点気をつ
けなければならないことがあります。それ
は,資料を勝手に改作しないということで
す。筆者が記している
資料上の内容そのもの
に手を加え,変えてし
まうことは慎まなけれ
ばな りません。
<資料の概要>
主人公の和美は,テーブルの上にあったおじいちゃんの
めがねがどんな風に見えるのか興味が湧き,つい手にして
みたところ,落としてつるが取れてしまう。どうしたらよ
いか途方にくれながらも,翌日,おじいちゃんに正直に事
情を話し,謝ることとなる。すると,おじいちゃんは,「め
がねは元々つるがはずれやすく,ちょうど直してもらおう
3
おわりに
こ れ か ら も ,「 楽 し み 」「 早 く や ろ う よ 」
と言われる道徳の時間を目指し,実践を重
ねていきたいと考えています。そして,子
供と教師が共に悩み考えることで,高め合
いな がら成長することを目指します。
と思っていたところだったんだよ」と優しく応えてくれる。
和美は,帰り道,スキップしながら家に帰る。
〔 文 責 : 長 田 誠 [email protected]〕
- 道徳 1 -