<眼底カメラ編>

<眼底カメラ編>
第1回
眼底検査とは?
眼底検査はなぜ必要なのでしょうか?
まず眼底とは、目の奥にある網膜や血管、脈絡膜、
視神経乳頭などからなり、視力や視野にとって重要な部
分です。しかも、体の中で直接血管が見える唯一の部
位でもあり、この情報により全身の血管状態を推測する
ことができます。したがって、眼底をみることで眼の病
気がわかるだけでなく、動脈硬化や高血圧、糖尿病に
よる血管の病変なども知ることができます。
頸動脈硬化では、高血圧以外にも高コレステロール
血症、糖尿病などの種々の危険要因が関連しますが、
眼底の細動脈硬化はあくまでも高血圧の影響による変
化が主であります。健診において動脈硬化度を評価す
る場合は、眼底検査と頸動脈エコー検査の両方を実施
することが望ましいといわれています。
糖尿病の網膜変化の観察も眼底検査の重要な目的の
ひとつです。毛細血管瘤、点状出血、新生血管、軟性
白斑など糖尿病性変化の出現は予後に関連する因子と
され、
糖尿値コントロールの視標としても利用されます。
これ以外にも中心静脈分枝閉塞症による眼底出血や
加齢黄斑変性、緑内障の特徴とされる視神経繊維層欠
損や視神経乳頭部の陥凹、出血によるスクリーニング検
査としても眼底検査は有用であるといわれています。
孔が小さくなりますが、2~3分程経つと瞳孔が元の
大きさに戻るため、もう片眼の撮影を行うことができ
ます。なお、現在は感度の高いデジタルカメラを用い
た撮影が主流となってきており、従来のポラロイド撮
影のときより撮影光量が少なくなったため検査時間も
短くなってきています。
また、フイルム式検査の場合、検査結果は後日に
ならないとわからなかったため受診者の評判は必ずし
も良くはありませんでした。しかし、デジタルカメラ
を用いると、撮影後すぐに画像をディスプレイ上に表
示でき、受診者に簡単な説明を行うこともできます。
眼底写真
(正常者)
静脈
動脈
*「健診のための眼底検査」より
編者:大阪府健康科学センター 発行所:
(株)ベルト・コア
どんな器械を使い、
どんな検査をするのでしょうか?
眼底カメラという特殊な医療機器を使うことによ
り、眼底の写真を撮ることができます。眼底カメラに
は、瞳孔を広げる散瞳剤を使うか否かにより、無散瞳
眼底カメラと散瞳眼底カメラの2種類があります。健
診で用いられるのは、散瞳剤を使わず、暗所で自然に
瞳孔を開かせる無散瞳眼底撮影が多いようです。
検査は簡単です。被検者が顎台にあごをのせ、検
者が眼の位置調整をし、目を大きく開けたとき、撮影
ボタンを押すことで撮影が済みます。片眼、約1分ほ
どです。片眼撮影後、被検者は強い光を見るため瞳
視神経乳頭
黄斑部
上の写真は正常者の眼底写真の一例です。全体が
オレンジ色で、多くの血管が写っています。中央左の
黄白色をした円形の部分が視神経乳頭です。ここか
ら血管
(静脈、動脈)
が眼の中に入り、網膜内に毛細
血管を張り巡らすことで、網膜に栄養や酸素を送って
います。また視神経が脳へ通ずる部分にもなっていま
す。太く濃い赤色の血管が静脈で、少し細く薄い赤
色の血管が動脈です。この血管の走行状態や閉塞の
有無、出血などを観察することで眼の病気を確認し、
内科的な症状を推測することができます。
<眼底カメラ編>
第2回
眼底画像とは?
人間は、五感の中で最も視覚に依存して行動する動
物であるといわれています。視覚をつかさどる感覚器官
は眼球であり、眼球は精密機械のカメラにもよく例えら
れます。眼球は、角膜と水晶体を介して、眼底の網膜
に外界からの光線を結像することにより、脳に映像情
報を伝えています。網膜はカメラでいうとフィルムに相当
する部位であり、眼底は網膜と脈絡膜などからなる複
雑な層構造で成り立っています。眼底の異常は視力に直
接影響しますので、眼底を精密に検査することは、眼
科の基本的な診断項目となっています。また眼底は、血
管の様子を外科的に切開することなく直接観察できる
唯一の生体部位であり、内科的疾患の影響も現われや
すいことから、眼底を診ることは昔から重要な検査法の
一つになっています。健診において検査の目的とされる
のは、主に内科的疾患
(高血圧症や糖尿病網膜症など)
ですが、視力に直接影響をおよぼす眼底所見も同時に
診断されています。
す。従来の眼底カメラ
(ポラロイド写真で印刷するタイ
プ)
は、撮影するための光量が多く両眼撮影に時間が
かかりましたが、最近の眼底カメラはデジタルカメラの
使用で、より少ない光量で撮影でき、短時間に両眼を
検査することが可能になっています。
眼底画像
無散瞳眼底カメラによる眼底写真は、画角45度で
撮影されます。この画角で撮影される写真の中には、
緑内障診断に有用な視神経乳頭、視力に影響を及ぼ
しやすい黄斑部の観察、また高血圧症の観察に重要
な網膜細動脈、細静脈が映し出されており、充分な診
断が可能となります。写真のように黄斑部が画面中心
より少しずれた位置にあるのは、視神経乳頭とあわせ
て撮影されるように機械の内部にある固視灯が中心か
ら少しずらして設計されているためです。
黄斑部
散瞳と無散瞳
眼底カメラは散瞳タイプと無散瞳タイプがあり、眼科
ではより精密な検査を行うために散瞳タイプを使用す
ることが多いようです。散瞳タイプでは瞳孔を5.5mm
以上開いて撮影する必要があり、散瞳剤という目薬を
使用して約30分ほど待ってはじめて検査
(撮影)
が可能
となります。健診での検査は散瞳剤を使用することが
少なく、無散瞳状態
(瞳孔は約4mm以上開いているこ
とが必要)
で撮影するため、無散瞳眼底カメラが広く使
われています。
眼底の検査環境
眼底撮影は基本的には暗室
(かろうじて文字が読め
る程度の暗い部屋)
で行われます。これは、明るい部
屋では人間の瞳は縮瞳して、撮影に必要な大きさに瞳
が開かないためです。また、人は加齢とともに自然散
瞳で開く瞳孔の大きさが小さくなりますので、無散瞳状
態で4mmの瞳孔径が確保できない人には、暗い部屋
の中でしばらく待っていただき、暗順応した状態ではじ
めて検査を実施します。片眼撮影すると光を眼の中に
入れたため人間の眼は縮瞳しますので、もう一方の眼を
撮影するのに瞳孔が開くまでしばらく待つ必要がありま
視神経乳頭
眼底画像の保存
撮影された眼底画像は、プリントされたり電子ファイ
ルとして画像管理システムなどに保存されます。どちら
にしても、診断にはよりクリアな画像をみて正確に診断
する必要があります。現在では、高解像度のデジタル
カメラを用いて眼底の微細な変化を捉えることが可能
になっています。電子ファイルとして保存、診断されるよ
うになると確認したい部位を拡大して表示できたり、経
年劣化のないデータとして保管でき、今後のデータ管
理の主流となることは間違いありません。
<眼底カメラ編>
第3回
(最終回)
眼底カメラによる健診のポイント
今回は、眼底カメラ撮影による健診のポイントとなる2項目についてご説明します。
糖尿病に基づく変化について
近年、糖尿病網膜症による失明が大きな社会問題と
なっています。この病気は糖尿病の合併症の一つで、
見にくいと感じることもなく進行し、自覚症状が現われ
たときには、すでに失明の危機に瀕していることも多い
病気です。これを防ぐには、健診などで眼底検査を受
けることが大切です。早期発見、早期治療が失明防止
に直結します。
糖尿病が問題になるのは、非常に厄介な合併症が
起こるからで、中でも糖尿病網膜症は失明原因の上位
になっています。糖尿病患者の30~50%がこの病気を
合併しており、そのうち10%が重症で失明の危険にさ
らされています。
糖尿病網膜症は進行の程度によって三段階に分けら
れます。第一段階を「単純網膜症」
、第二段階を「増
殖前網膜症」
、第三段階を「増殖網膜症」といい、段
階により治療が難しくなり、失明の可能性が高くなりま
す。症状としては、点状出血、網膜のむくみ、血管の
つまりによる無血管領域の出現、新生血管の出現によ
る硝子体出血、網膜剥離などがあります。
治療も初期であれば血糖コントロール、中期ではレー
ザー治療・硝子体手術などがありますが、後期では治療
が難しくなり失明の危険性が高くなります。
単純網膜症
(点状出血あり)
増殖前網膜症
(レーザー治療後)
高血圧に基づく変化について
網膜動脈硬化症
交叉現象
動脈に圧迫されて静脈が
くびれている
高血圧症や動脈硬化症は、全身の血管に異常が起
こる病気です。当然、網膜の血管にも異常な変化が起
こりますが、それを高血圧性網膜症、網膜動脈硬化症
と呼んでいます。網膜の血管を見ることによって全身の
血管の変化を推定することができるので、眼底検査は
高血圧症、動脈硬化症の内科的な診断や治療のうえで
とくに重要です。
高血圧性の変化としては、まず動脈が細くなります。
血圧が著しく高くなると出血や白斑
(はくはん)
、網膜の
むくみ、視神経のむくみなどが起こります。
動脈硬化性の変化としては、動脈の反射が高まる、
静脈が太くなる・蛇行する、動脈と静脈が交差する部分
で静脈がくびれるなどがあり、進行すると動脈が銅線や
銀線のようになります。
治療は、血圧のコントロールなどの内科的な治療が
優先されます。網膜の血管だけを治療することはできま
せん。
高血圧性網膜症・網膜動脈硬化症は、それ自体が
視力を脅かすことはまずありません。しかし、
重要なのは、
網膜動脈閉塞症や網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症
など視力を低下させる病気の要因になることです。それ
らを予防するためにも、
全身的な治療が大切になります。