地域金融機関の現場のグチは正当化されるか 八代アソシエイツ代表 八代恭一郎 比較的都市部にある地域金融機関の営業店長からは次のようなグチを聞くことが多い。 メガバンクの優良中小企業に対する低スプレッドの貸出攻勢がきつく、これらの企業に対 しプライシングの強化は大変むずかしいと。 しかし、冷静に敵方メガバンクを分析してみよう。メガバンクの粗利経費率は30%∼ 40%程度であり、100円の粗利益を稼ぐに30円から40円程度しかコストがかから ない。地域金融機関では一部を除けば60円以上のコストが平均的にかかっている。また メガバンクの多くは公的資金注入行であり、中小企業向け貸出残高目標が与えられており、 当然現場に対する業績評価上も大きなウエイトづけがなされている。そこで地域金融機関 とのコスト差である20円から30円の一部を使って、中小企業向け貸出残高目標を達成 するために、優良中小企業に限って低スプレッドの融資を提供するということはごく自然 な行動ではないだろうか。地域金融機関の営業店長がメガバンクの営業店長であれば同じ ように行動するのではないだろうか。 プライシング強化は率先してやるはずのメガバンクがなぜこんなことをできるのか。メ ガバンクは収益管理がきちんとできており、かつその管理された収益をもとに戦略を建て る権限が現場に与えられていることが最大の理由であろう。メガバンクにおいては営業店 があたかも一つの企業のように、営業店長がその企業の社長のように行動できるのだ。都 市部にある地域金融機関ではスプレッドバンキングや信用リスクの軽量化や原価管理がで きているところも増えてきている。しかし、管理可能な収益状況を見ながら機動的に現場 が戦略を建てることができることはまだ難しいところが多い。地域金融機関の営業店長は まだ社長にはなれず、マスゲームの踊り手でしかないのだ。いまだに本部が戦略を練り、 それを業績目標としてこなすだけの上意下達システムの中におかれている現場が多い。例 えば信用リスクに応じた貸出金利を減免してまで行う貸出の実行はすべて現場に委ねられ ているだろうか。現場が努力した結果の稼ぎの範囲内での自由な投資ができてもよいはず だ。一方権限には常に責任が伴う。仮に減免した場合、その減免額相当がペナルティーと して1円ももらさずに確実に現場に課せられているだろうか。 また現場への権限委譲を行うためにはリスク調整後の収益を業績評価の中心に据える必 要がある。地域金融機関全体の財務会計により近い業績評価であるべきだ。リスク調整後 の収益を増やしても、別な評価項目のせいで評価されない、またはコストやリスクを減ら さなくても、別な評価項目で認められるような業績評価では、現場は戦略を建てるインセ ンティブにすら欠けることになる。 商店街の集客力が郊外の大型ディスカウントショップに敵わないことは多くの地方都市 で当たり前の光景である。大型ディスカウントショップは仕入れや在庫管理を工夫し、そ のマネージャーは権限と責任を負うという効率的な経営を裏付けとしたディスカウントと なっている。商店主の多くは高齢化し、年金生活により生計は建てられることもあり、事 業意欲は以前より衰えている。地方都市には平日の昼間からシャッターをおろし、白旗を あげている商店街が目立つ。これでは商店街に勝ち目はない。営業店長のグチが勝ち目の ない商店街店主のグチと重なって見えるのは筆者だけだろうか。グチは正当化できないが、 現場だけの責任ではない。権限や業績評価の見直しを行わないで衰退する商店街の店主の ように現場を放置しつづける本部に重大な責任がある。
© Copyright 2024 ExpyDoc