探究的な「読み解き」のための教材研究と授業構想の

2015・5・26
国語教育断想(1)
川端
建治
は じ め に
日々子どもの前に立つ私たち教師への警鐘ともいえる小論「子どもは生きているか」(今井
鑑三遺稿集「子どもが生きているか」P7)の中で、今井鑑三先生は、「子どもを生かす授業
は、子どもが生きている証しを表出するものである」と述べておられる。
今井先生の言われる通り、授業というものは、教師が「子どもを生かす場」である。しかし、
それは、教師自身の願いを実現させるために、教師の都合で、将棋のコマのように、子どもた
ちを使う場ではない。先生の言われた「子どもを生かす」場とは、一人一人の子どもが自らの
「生きている証し」を表出できるような場でなければならない。それによって、子どもたち一
人一人が、自分を見つめていくことのできる場であり、自分の願いを実現していくことのでき
る場なのである。まさに、「子どもが生きる」場である。
これまで幾度となく指導要領が改訂され、その度に授業改革が叫ばれてはきたが、相変わら
ず、教師の願い実現のために子どもを振り回し、「一問一答」型に終始する授業は、教育現場
を横行している。国語教師「竹の会」が目指す「子どもの生きる授業の改善」という取り組み
は、このような教育現場の授業状況を見直し、どこまでも子どもの側に立った授業づくりの在
り方を模索してきたものである。
ここで述べていく国語教育に関わる諸「断想」は、以上のような立場で取り組んできた私の
教師生活や「竹の会」での活動、さらにさまざまな学校の授業研究会での活動等において、折
々に考えてきたことや述べてきたことを思い出し、思いつくままに書き連ねていくものである。
まさに断想、いつまで続くか分からないが、それも含めて気楽に書いていこうと思う。
探究的な「読み解き」のための教材研究と授業構想の進め方
*
若い先生方からよく聞く悩みに、「教材研究や授業構想の仕方」がある。その大事さ
は、日々痛感しているが、実際にどうやって教材研究をすればいいのか、その方法がよ
く分からないというのである。そんな悩みに少しでも応えるために、私案を述べてみた
い。まずは、物語文教材の場合について考えてみよう。学習指導案に書かれる「教材観」
や「指導観」の中身づくりのもとになるものである。
1、物語文を読むことの意味
物語は、言葉によって作り出された虚構の世界であり、読み手にとっては、現実に自分が見
たり感じたりしている世界とは違うイメージの世界である。読み手は、そこで、登場人物の体
験を目撃したり、時には、彼らに憑依したかのように、彼らの体験をわがごとのように体験す
ることになる。それは、言葉を通してのイメージ体験ではあるが、現実では決して体験できな
い、現実の自分にはない見方や感じ方を手に入れる機会を、読み手に与えてくれる。それが、
文学体験である。
2、「表現の特質」を解き明かす教材研究
子どもたちの「探究的な読み解き」が生まれるようにするためには、「読み解きの過程」を
つくり出す想像活動や思考活動が、豊かに展開されるようにする必要がある。
-1-
そのためには、まず、教材(作品)の「内容的価値」をとらえ、さらに、それをつくり出し
ている「表現の特質」を明らかにしていくことが必要である。それが、「探究的な読み解き」
を生み出す、子どもと教材(作品)の出会わせ方の工夫につながっていく。
(1)教材の内容的価値をとらえる
教材の内容的価値とは、読み手がその教材(作品)を読み、その主題と出会うことで、手に
入れることのできる体験的な価値である。まずは、それをとらえることから始まる。
(2)表現の特質を明らかにする
表現の特質とは、このような体験的価値を生み出す物語世界を作り出すために、作者が仕組
んだ表現構造の特徴や工夫のことである。それは、それぞれの作品において独自なものである
が、それを創り出す要素には、物語としていくつかの共通性がある。
豊かな文学体験を引き起す子どもと教材(作品)の出会わせ方を考えるためには、物語世界
を創り出している要素としての共通性に着目して、物語世界の構造や特徴を解き明かしていく
ことが必要である。その要素には、次のようなものがある。
ア、語りの視点
物語世界の構造を決定づける最も重要な要素は、語りの視点である。語り手が、どこから、
だれに目を向けて(あるいはだれの目で)、どのような世界を語っているのか。それが語り
の視点であり、それによって、その語られる世界のありようが決まってくる。
設定される登場人物、描かれる事象の形象、出来事の生起する場面の構成、場面展開にお
ける人物の内面の変容、等々、作品世界の構造は、作者の設定する語りの視点によって左右
されるのである。
語り手自身が登場人物(主人公)に重なった一人称視点もあれば、語り手が全ての登場人
物の外側にいて、彼らもふくめた物語世界を客観的に見ている三人称視点もある。物語によ
っては、語り手の目がある特定の人物に限定され、その人物の側から見ている場合もあれば、
途中で別の人物の目に移動する場合もある。限定視点では、特定されたその人物が物語世界
の主人公として描かれており、語り手は、主としてその人物に目を向け、その人物と一緒に
見ている世界を語ったり、その人物自身の目になって見えた世界を語ったりする。そのよう
な人物を視点人物と言う。
イ、人物設定とその役割
*視点人物(主人公)と対象人物の関係
物語には、物語世界を見ている視点人物(主人公)以外に、その人物が見ている対象と
しての人物が登場する。視点人物となる主人公以外の登場人物を対象人物という。この対
象人物の描かれ方は、語り手の目に見えた見え方であると同時に、多くの場合、視点人物
である主人公の目にもそのように見えていることを表している。
*対象人物の役割
対象人物は、主人公と関係のある存在として設定されており、その様子や言動の描かれ
方も、それぞれの対象人物が、主人公の生き方に何らかの影響を与える役割を担わされて
いることを表している。
このように、視点人物(主人公)と対象人物の関係やその役割の描かれ方は、読み手の
文学体験のありようを決定づけるものであり、読み手にとっては、主として、そこで生き
る主人公の体験にこそ、自らの文学体験が重なっていくように描かれているのである。
ウ、場面展開と主人公の体験
-2-
*場面構成と展開
物語世界は、基本的には「起・承・転・結」という4つの場面で構成される。
①起:物語世界の設定要件(時・所・人物)や、発端となる出来事が描かれる。
(はじめ、いつ・どこで・どんなことがあったか。)
②承:初めにあった出来事が、どう展開していったかが描かれる。
(それから、それがどうなっていったか。)
③転:出来事の展開が、どのように意外な方向に変わったかが描かれる。
(ところが、意外なことにどんなことが起こったか。)
④結:物語の結末がどうなったかが描かれる。
(最後には、どうなったか。)
これは、私たちの身の回りで現実の出来事が進んでいく過程とは違って、取り上げられ
た出来事の変化や発展の過程が、そこに生きる人物たちの「劇的(ドラマティック)な体
験の過程」を生み出すように構成された場面である。
*主人公の体験(心情や生き方の変容過程)
主人公の体験は、場面を構成する出来事との関わりを通して描かれていく。
それぞれの場面での出来事のありようは、そこにいる人物たち・その人物たちのいる場所
・時間のありようによって決定される。それが一つでも変われば、場面や出来事のありよう
は変わり、その中にいる人物の体験も変わっていく。それは、とりもなおさず、その人物の
内面の変容を生み出す。
このように、人物の内面の変容に関わってくる出来事の変容過程の描かれ方を、場面展開
に合わせてとらえてみることが大事である。
3、「表現の特質」をふまえた授業構想
「探究的な読み解き」が生まれるかどうかは、教材の「表現の特質」に、どれだけ子どもた
ちの目を開かせていくかにかかっている。作品の内容的価値や表現の特質が明らかになって、
初めて、その教材の授業構想(子どもと教材の出会わせ方)が見えてくるのである。
出会わせ方の基本は、解き明かされた物語世界を、中心人物(主人公)に同化しながら体験
させていくことである。具体的には、場面展開にそって、その人物の言動や様子、その人物と
関わりをもつ対象(人物・事象)との関係の描かれ方などを通して、その人物の心の動きを想
像させていく。その最も基本的な手順を示すと、次のようになる。
①、中心人物(主人公)はだれかをとらえる。また、その人物と関わってくる対象(人物・
事象)についても明らかにする。
②、場面の構成をとらえ、場面の展開にそって、主人公と対象との関係(対象に対する気持
ちや見方・考え方)の変化をとらえていく。
③、物語全体を通して、主人公の気持ちや考え方が最も大きく変化する場面をとらえる。
④、主人公の気持ちを大きく変化させたものは何かを考える。また、どのように変わったか
についても考える。
⑤、物語全体を通して、描かれている主人公を中心とした人物のこと(心情の変化・生き方)
について、自分の思いや考えをとらえる。
4、「探究的な読み解き」を生み出す学習過程
「探究的な読み解き」を生み出すためには、一人一人が「自分の読み解き(解釈・評価)」
を形成し、交流によって学び合う(読み解きを広げ合い、深め合う)ことのできる学習過程を
明らかにする必要がある。
-3-
(1)「探究的な読み解き」の学習過程モデル
①読みの課題を持つ。(課題把握)
②課題解決のために必要な情報を見つける。(情報の取り出し)
③課題に対する情報の意味を解き明かし、課題を解決する。(熟考・解釈)
④課題解決のあり方を見直す。(評価)
*「探究的に読み解く」とは、③におけるの課題解決の結果だけでなく、①~④という自ら
の課題解決の過程をも読み解いていくことである。
..
..
..
..
* 読んで「思ったこと」・「感じたこと」・「考えたこと」・「分かったこと」といった「読み
の結果」をとらえるだけでなく、自分の「読み方・分かり方」という「読み解きの過程」
をもとらえる力を育てたい。
(2)互いの「読み解き」の交流
* 互いの「読み解き」を広げたり深めたりするためには、それぞれがとらえた「読み解き
の結果」につながる「読み解きの過程」(読み方・分かり方)を交流する必要がある。
* 自分以外の人から、その人の「思ったこと」「分かったこと」といった「読み解きの結
果」だけを聞いても、自分の「読み解きの結果」につながる「読み解き過程」(読み方・
分かり方)を検証する手がかりにはなりにくい。その人の②から④の「過程」(読み方)
が分かった時、自分のそれと比べることで、自分の「読み解きの結果」と「読み解きの過
程」(読み方・分かり方)のつながりを見直すことになる。
(3)自分の「読み解き」のふり返り
* 自分とは違う、あるいは自分が気づかなかった「読み方や分かり方」(情報の取り出し
方・解釈の仕方・評価の仕方)に出合った時、子どもたちは、自分の「読み解き」につな
がる「読み方・分かり方」を見直し、それを広げたり深めたりすることができる。
以下、物語「スイミー」(光村2年下)を事例として紹介する。
物語「スイミー」(光村2年上)の教材研究と授業構想案
探究的な読みの単元を、どのようにして構築していくか
1、単元名
「 スイミーへのお手紙 」
* <お話を読んで、かんそうを書こう。>という単元の活動目標を活かし、場面ごとのス
イミーの体験に対して、子どもたちが思ったことや考えたことを、手紙のかたちで書きの
こしていく。それらをもとに、各自が選んだ「とっておきのスイミー」への、「とってお
きのお手紙」を書き上げ、みんなで発表し合う。
2、教材研究
*指導案の「教材観」に書くべき内容は、次の(1)、(2)がもとになる。
(1)、教材の内容的価値
一人ぼっちになって、海の底を泳いでいくスイミーであるが、そのことで、初めて海という
世界の面白さやすばらしさに気づくことになり、やがては、自分という個性のかけがえのない
役割にも気づいていく。苦しい体験を通して、自分の周りに広がる世界のすばらしさに気づき、
その世界を手に入れるために、知恵や勇気をふりしぼり、懸命に考え、行動していくスイミー
-4-
の自己発見と自己実現の姿を描いた物語である。一人一人の個性と役割を生かして協力し合う
ことの大事さも描かれている。
このようなスイミーの姿にふれていくことで、子どもたち一人一人が、それぞれの個性の大
切さや、互いの個性を生かして協力し合うことの大事さについて、楽しく学ぶことのできる教
材である。
(2)内容的価値をつくり出している表現の特質
ア、語りの視点と語られている世界
*語り手は、どこから物語世界を語っているか?
*語り手が主として目を向けている人物(中心人物・主人公)は、誰か?
物語「スイミー」は、主として、三人称限定視点で描かれた世界である。物語世界の設定が
なされている一場面や、出来事が終結する最後の場面は、語り手の目が登場人物たちから離れ
た三人称客観視点で描かれているが、発端となる出来事が起こり、山場に向かって展開してい
く場面では、語り手の目は、次第に主人公スイミーだけに向けられ、やがてスイミーの目に重
ねられていく。
二場面でのまぐろの襲来は、
「つっこんできた」と、語り手の目はスイミーたちの側にあり、
次の三場面では、「こわかった。/
さびしかった。/
とても
かなしかった。」と、自然にス
イミーの中に入り込んで、スイミーの内面を語っている。そして、四場面の海底の描写では、
語り手の目は、完全にスイミーの目と重なり、スイミーの目に見えている生き物の姿が、見て
いるスイミーの気持ちを反映するような比喩表現で描かれている。
岩陰に赤い魚の仲間を見つけ、彼らに呼びかける五場面からは、再び語り手は、両者の外に
出て、客観的な立場からそのやりとりを見ているが、最後には「考えた。//さけんだ。//教え
た。//言った。」と、スイミーに限定してその行動を見ている。
場面の展開に合わせて、読み手の目も、スイミーの姿に引き付けられ、知らず知らずのうち
にスイミーに同化していけるように、語りの視点が、主人公を外から見ている目から主人公の
内へ入り込んだ目へとゆるやかに移動していく。
イ、人物設定とその役割
*中心人物(主人公)が見ている対象人物(対象)は?
*中心人物(主人公)は、それらの人物(対象)をどのように見ているか?
物語全体で、語り手の目は、明らかにスイミーに向けられており、スイミーの体験世界が語
られている。読み手は、主人公スイミーの体験をわがごとのようい体験することになる。
語り手と共にスイミーの目に見えている(関わりを持つ)対象人物は、まず「まぐろ」であ
り「大きな魚」である。一場面(起)では、「一口で」、「小さな魚たちを一ぴきのこらずのみ
こむ」存在であり、六場面(結)では、みんなで「おい出した」存在である。出来事の発端と
終結に関わりの深い、スイミーの変容の契機と結果に大きな影響を与える人物である。
さらに、スイミーの変容に関わってくる人物として大事なのは、海の底で出会ういろいろな
生き物たちがいる。海の世界の面白さ・不思議さ・美しさ等、スイミーに生命力と熱意を与え
てくれる生き物たちである。「にじ色のゼリーのような」(おいしそう)・「水中ブルドーザー
みたいな」(強そう)・「見えない糸でひっぱられている」(不思議)・「かおを見るころには、
しっぽをわすれているほどながい」(おもしろい)・「風にゆれるもも色のやしの木みたいな」
(美しい)と、独特な比喩表現によって表されている対象たちは、読み手の子どもたちにとっ
ても、現実の世界において、大好きで嬉しくなり元気の出てくるものばかりである。これらは、
「まぐろ」とは正反対の意味で、スイミーの変容の契機としての重要な役割を持った対象であ
-5-
ると言える。
そして、もう一つ、スイミーの変容と関わってくるのが、一口でまぐろにのみ込まれてしま
うスイミーの「小さな魚のきょうだいたち」であり、一緒に大きな魚を追い出すことになるス
イミーのとそっくりの「小さな魚のきょうだいたち」である。
これらの対象(対象人物)は、いずれも、場面展開の中でスイミーの心の動きや行動に大き
な影響を与えるものであり、その関係の変化を読み取っていくことが、スイミーの変容の過程
を読み取っていくことにつながっていく。
ウ、場面構成・展開と主人公の体験
* 場面構成(起・承・転・結)をとらえ、その展開の中で、中心人物の生き方(思いや考
え)が、どう変わっていくか?
* 中心人物の生き方(思いや考え)が、大きく変わる場面は?
そこでどう変わるか?
変えたものは何か?
物語は、六つの場面に分かれている。それらは、出来事の筋にそって整理すると、「起・承
・転・結」という四つの場面で構成されていることが分かる。
(一)設定(時・所・人物の紹介):(1)「広い海のどこかに、・・・」(P46~47)
起(出来事の発端):(2)「ある日、・・・」(P48)
* おそろしいまぐろがつっこんできて、スイミー以外の赤い魚たちをのみこむ。
(二)承(出来事の展開):(3)「スイミーはおよいだ、・・・」(P49)
* ひとりぼっちになったスイミーは、暗い海の底を泳いでいく。
(三)転(出来事の意外な変化・主人公の変容)
始まり:(4)「けれど、海には、・・・」(P50~51)
* ところが、海には、スイミーにとって面白くすばらしいものがいっぱいあって、
それらを見るたびに、スイミーは、だんだん元気を取り戻していく。
山場:(5)「そのとき、岩かげに・・・」(P52~54)
* やがて、岩陰にかくれていた仲間の赤い魚たちを見つけたスイミーは、知恵をし
ぼって、彼らを外の世界に引き出す方法を懸命に考える。そして、大きな魚のふり
をして泳ぐことを提案し、それができるようにリーダーとなって教えていく。
(四)結(出来事の終結):(6)「あさのつめたい水の中を、・・・」(P55)
* 一匹の大きな魚みたいに泳げるようになったスイミーたちは、海の中を泳ぎ回り、
大きな魚を追い出す。
ウ、その他、修辞上の特徴や工夫
* 場面の様子を、対比的に、イメージ豊かに描き出しているさし絵と簡潔な修辞的表現。
例えば、赤い魚たちがそれぞれ自由な方向を向いて泳いでいる一場面と、各自が持ち場
を守り、大きな魚みたいになって泳いでいる最終場面。一匹残らずおそろしいまぐろにの
み込まれてしまう二場面と、みんなで大きな魚を追い出す最終場面等、場面の様子を対比
的に描き出しているさし絵は、スイミーの置かれている状況の変化をも見事に描き出して
いる。そして、作品全体を貫く簡潔な表現(倒置・反復・比喩・名詞止め・会話文等)と
も響き合って、リズミカルな場面展開を生み出している。
-6-
* ただ、今回の教科書改訂で、挿絵の配置に大きな問題が生じている。
1、文章が横書きの絵本の挿絵に合わせたために、教科書の縦書き文章と場面展開が逆に
なった。場面の「展開」を想像していく時、何か違和感が生まれてくる。
2、教科書の割り当て頁の関係で、編集上致し方ないことであったのかもしれないが、作
品としての主題表現に関わる挿絵のカットがある。絵本では、ひとりぼっちになったス
イミーが暗い海の底を泳いでいく場面が、見開き頁で設定されている。さらに、孤独の
中で泳いでいたスイミーが、海の中のすばらしい生き物たちと出会うことで、元気を取
り戻していく場面が、絵本では、それぞれの生き物との出会いに、見開き頁で6頁割り
当てられているが、教科書では、最後に出会った生き物の見開き頁だけになっている。
(過去の教科書では、確か生き物の絵自体は、それぞれ描かれていたこともある。)
これは、「スイミーの自立と自己発見の物語」であるという作品の主題把握上。無く
てはならない大事な場面割りであり、挿絵である。これがカットされてしまったことは、
何とも理解に苦しむことではある。
4、授業構想
以下が、指導観のもとになる。
教材研究で解き明かした「表現の特質」をふまえ、読み手である子どもたちの豊かな文学
体験が生まれるような教材との出会わせ方を工夫する必要がある。
ⅰ、まずは、主人公スイミーに同化しながら、場面ごとの心の動きを想像したり考えたりし
ていくことが、本単元の中心的な活動となる。その際、<(一)小さな魚のきょうだいた
ち→(二)おそろしいまぐろ→(三)くらい海のそこ→(四)すばらしいもの、おもしろ
いもの→(五)スイミーのとそっくりの、小さな魚のきょうだいたち→(六)大きな魚>
という、スイミーの心の動きに関わりを持つ場面ごとの対象の変化に着目し、その描かれ
方を通して想像していくことになる。
ⅱ、場面ごとにとらえたスイミーの心の動きに対する感想を、スイミーに向けての手紙の
形で書き残し、それを通して、スイミーの生き方に対する自分の思いや考えをまとめる。
ⅲ、スイミーの生き方に対する感想を発表し合い、おたがいの感想を深め合う。
< 単元目標に迫るための学習過程の概略 >
(1)第一次(物語世界のあらごなしをする。)
①、全文音読を繰り返し、登場人物の変化に合わせて、場面の構成をとらえる。
* さし絵を生かした場面の流れをワークシートで示し、起承転結という場面構成に合
わせて、各自に登場人物・出来事の筋等を整理させてから、全体で確かめ合う。
②、初発の感想を書く。
*「思わず声をかけてあげたくなったスイミーを見つけよう!」という視点を与えて、
最も強く心に残った場面を選ばせ、「スイミーのしていることや言っていること」への
自分の思いや考えを、たくさん見つけさせていく。
(2)第二次(場面ごとの課題について、読み解いていく。)
◇ 子どもたちの見つけた場面ごとの「スイミーへの思いや考え」を整理し、さらに読
み深めていくために、場面読みの課題(具体性・発展性・切実性)を示していく。
一場面:スイミーたちのくらし(スイミーのくらし)を、どう思いますか?
*「どんなくらしですか?」という問い方では、本文に書かれた叙述をなぞるだけ
-7-
の読みになる。上記のように、読み手のとらえ方を問うことで、「たのしくくらし
ていた。」・「一ぴきだけは、・・まっくろ。」・「だれよりもはやかった」といった叙
述に対する、読み手それぞれの関連づけ方により、解釈に広がりやずれの可能性が
ある。(描写視点からは無理があるが、「スイミーは、自分のくらしをどう思って
いたのか?」と問うこともあっていいのではないか。)
スイミーが、自分のことをどう思っていたかは分からないが、スイミーという人
物への読み手の見方の変容の伏線となる場面であり、問題を残す読みに意味がある。
二場面:まぐろがつっこんできた時、スイミーの見たものは何だろう?
*「すごいはやさで」・「一口で、・・一ぴきのこらず」・「にげたのはスイミーだけ」
から、スイミーの体験をどう読むか。「~きた」から始まる描写視点の微妙な移
動をふまえ、マグロ襲来の瞬間のスイミーが何を見たのか、見なかったのかを、し
っかり考えさせたい。次の場面のスイミーの中に入り込んだ心情表現とつないだ読
みを視野に入れておくことが大事である。
三場面:海のそこを泳いでいるときのスイミーは、どんな気持ちだったのだろう?
・何が、こわかったのだろう?
・なぜ、さびしかったのだろう?
かなしかったのだろう?
* 前の場面の体験とつないで、スイミーの心情(こわさ・さびしさ・かなしさ)
をどう具体化するかが大事である。(ここは、リアルタイムとしての、海の底体
験からくる心情とも重なっている。)前場面の体験の残像との重なりの中で、ス
イミーの心情の揺れを深くとらえさせたい。
四場面:海の生き物たちのどんな様子が、スイミーを元気にさせたのだろう?
*スイミーの目に見えた生き物の「見え方」を通して、見ているスイミーの気持ち
の動きを想像していく。
五場面:みんなが、一ぴきの大きな魚みたいに泳げるようになるまでに、スイミーや
スイミーのとそっくりの魚のきょうだいたちには、どんな苦労があったかな?
* 自分のきょうだいたちとよくにた魚に出会ってから、彼らを岩かげから引き出
し、大きな魚を追い出すためのアイデアを考え、伝え、できるようになるまで、
スイミーたちが味わった苦労体験の具体的なイメージ化を図る。(叙述をふまえ
て、さし絵を利用したり、動作化を取り入れたりしながら、スイミーの提案を実
現することの難しさを実感的に読み取らせたい。)
六場面:大きな魚を追い出すまでのみんなの気持ちを想像してみよう。
* 「あさのつめたい水の中を」から「ひるのかがやくひかりの中を」までという
叙述から分かる時間的な経過をもとに、体勢を崩さず泳ぎ続けてきたみんなの協
力のすごさに気づかせたい。
◇ 各場面の読み解きの最後には、各自「スイミーへの手紙」を学習のまとめとして書か
せていく。
◇ 各場面の読み解きには、「一人読み」と「話し合い」を組み合わせていくが、一時間
の中で組み合わせる場面と、二時間扱いで組み合わせる場面を考慮していきたい。
(3)第三次(登場人物への感想を発表し合う。)
(略)
-8-
-9-