消費者行政における苦情・相談原因究明テスト等について 生活科学総合センター 1 相談事業部長 本多三洋子 はじめに 生活科学総合センターは、市町消費生活相談窓口(41 市町)と緊密な連携を図り、県民 生活の安全・安心の確保と消費者の自立の支援を担っている。県内消費生活相談窓口には 消費生活に関するトラブル相談が毎年約4万件近く寄せられており、相談内容の過半数以 上が取引(解約・販売方法)に関するものであり、品質・機能に関するものは約 15%、安 全性に関するものは約5%という状況である。 製品関連の相談対応に関しては、苦情原因究明テスト、苦情処理研究会(工業品・衣料 品) 、情報交換会等の開催により、市町と相談情報を共有するとともに、技術的支援を行な っている。また、県民に対しては、製品に関する情報発信や商品テスト学習会などを展開 している。 2 苦情原因究明テスト 相談処理に伴う苦情原因究明テストを実施し、その結果に基づき事業者に改善要請等を、 消費者には注意喚起を行い、被害の拡大・未然防止を図っている。 図1【苦情原因究明テストの件数の推移と受付状況】 (1) 重大事故(火災)関連で合同調査 ―トラッキング現象により火災- (相談内容)タイマー機能付きコンセントに熱帯魚用水槽の照明器具を接続して使用。 タイマーから炎が出ているのに気づき、消火。タイマーの不具合か。 (調査結果) 消費者安全法、消費生活用製品安全法に定める重大事故 (火災)のため、消費者庁に通報。消防等関連機関と合同調査。 ① 材質、構造等からタイマーから出火した可能性は低い。 ② 照明器具の電源プラグとタイマーの差し込み口との間で、 水槽の海水が侵入したためトラッキング現象が生じ、差し 込み口周辺が過熱、焼損したと推測される。 → 事業者が製品本体に注意表示を行なった。 写真1 焼損したタイマー (2) 製造工程管理に問題 ― 着席中に脚部が破損したキャスター付き椅子― (相談内容)突然椅子の座面が下がり、反動で椅子が後方に抜け、尻もちをついた。 椅子を見ると脚部が中央で二つに切断していた。 (調査結果) ① 座面を支える軸の脚部のはめ込み 部分付近が二つに切断していた。 ② 破断面を観察すると、気泡が一部 に集中しており、脚部(ポリプロピ レン製)の成形温度条件の管理不十 分な成形不良と考えられた。 → 事業者が製造工程管理を強化した。 写真 2 破損した脚部 (3) 製品事故に関しての注意喚起 ― 自転車の部品破損などで転倒事故― (相談内容)自転車に乗って右足でペダルをこぎ始めた時に、突然前輪のサスペンショ ンフォークが外れ、前輪のみが前方に進み、転倒。右肩を路面に強打した。 前日まで乗車時に異常等はなかった。原因は何か。 (調査結果) ① 左右の前フォークの外側パイプと内側パイプ を接続する内部のバネが破損していた。 ② 乗車時に内側パイプが外側パイプに底つきの 際、内部のバネが収縮するが、収縮時にバネの 中心軸がずれ(うねりを生じ) 、内側パイプ端 前輪からパイプが抜けた 部でバネが削られる状況が推測された。 ③ バネがやせ細り強度が低下したと考えられる。 ④ 外側パイプと内側パイプを内部のバネのみで 写真3 前輪が外れた自転車 接続しており、バネが破断すると、両パイプは抜ける。構造・設計に問題。 → 事業者は使用上の問題と主張 販売時には想定してない前かご、リアキャリアを取り付ける等、バネが底突き するような負荷をかける環境で使用され続けたため、 バネが破損し事故に至った。 現行品はパイプ同士を金属部品で接続しており、 バネが破損しても抜けはない。 3 県民への情報発信 苦情原因究明テスト結果などから、消費者への注意喚起情報を県広報誌、消費者関連機 関の広報誌、記者発表など様々な媒体を活用し随時発信している。 自転車の製品事故関連では、部品破損による転倒の他、走行中に前輪に物体が挟まって 前輪が固定されたと思える事故も複数寄せられているため、自転車の日常的な点検や乗車 時の注意点などに関して記者発表を行なった。 この他、事業者に改善要請した事例(例「犬用伸縮リードのロック」 「オイルヒーターの 発煙」) 、使用上の注意喚起の事例(例「携帯電話の充電中の異常発熱」 「電気こたつヒータ ー部分と掛け布団の接触による焦げ」「クリーニング事故関連」)等、様々な内容の製品関 連情報の発信を行ない、消費者被害の拡大防止に努めている。 4 商品テスト学習会の開催 消費者力の向上を支援するため、商品選択や生活に役立つ知識を習得できるよう、県民 参加型・体験型の商品テスト学習会を地域に出向いて実施している。テスト機器を持参し て、分野毎に登録した「商品テスト専門家チーム」を派遣しており、商品テスト項目は「食 品」 「生活用品」 「環境」の 3 分野。要望の多いメニューは「食品の糖度」 「電子レンジ特性」 「紫外線防止グッズの効果」「おいしい水とは」など多岐にわたる。参加者数は平成 23 年 度;3,339 人、平成 24 年度;4,489 人、平成 25 年度;2,591 人、平成 26 年度(12 月末)1,527 人であり、毎年好評を得ている。 5 おわりに 消費者が安全・安心して製品を使える環境を守るため、1 件 1 件の消費生活相談に丁寧 に対応し、事業者(製造業者・輸入業者等)には同種事故の再発防止策として品質・安全 管理体制の強化を要望し、また、消費者に対しては商品関連情報を積極的に発信していく ことを使命と考えている。相談内容は複雑・専門化している。国、県等の様々なテスト機 関と更に連携を深めて技術力を高めていきたい。
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