管理職としての「伝える力」を培う

<2014 職員研究活動援助事業②>
管理職としての「伝える力」を培う
厚木精華園
日中支援課
松尾 俊彦
地域生活支援課 柏木 忠祐
1.活動報告
(3) 活動成果
本研究での成果を大きく、「外なる成果」と「内なる
成果」の 2 点に分けて示す。
① 外なる成果(形になって表れた成果)
ア 指定管理者・事業計画書の作成
構成担当として携わり、学んだノウハウを取り入れ、
作成に活かすことができた。
(1) はじめに
伝えることは、私たちにとって重要な業務のひとつ
である。利用者に対して、家族に対して、そして職員に
対して・・・。管理職になるとより重要度は増し、比例す
るように大きな課題になっていく。
しかし、伝え方、伝える技術はとても重要でありなが
ら、自然に身につくのもではない。
そこで私たちは、職員研究活動援助事業を通して、
「伝える力」を培い、身に付けることができるよう取り組
んだ。
■事業計画書ができるまで■
他園・事業計画書を参考に各担当に分かれ、原稿
を作成する。
各原稿をまとめ、冊子にする。(第 1 版)
↓
ハウツー本で「事業計画書の書き方」を学ぶ。
↓
参考資料を集め、引用する。(運営計画・事業概
要・パンフレット・各種発表資料・県発行資料等)
↓
相手は何を求めているかを探り、方向性を出す。
ビジネス本から参考になるフレーズを抽出・引用す
る。
ハウツー本で文書の書き方・まとめ方を学び、校
正・構成する。
↓
再指定準備プロジェクトにて事業計画書案を提示
し、職員からの意見を取り入れ、カイゼンを図る。
(繰り返す)
↓
完成 ※第 11 版目で完成
(2) 活動内容
主だった活動として、以下の 5 点に取り組む。
① 打ち合わせ
定期的に打ち合わせの機会を持ち、各自で読んだ
書籍の内容や考えたこと、感じたことをシェアする。
② 書籍の研究
福祉関連書籍に留まらず、ビジネス書籍からも学ぶ
ことを心掛ける。「伝える」というテーマに関する個別の
技術論に偏らないよう、「リーダーシップ」、「コミュニケ
ーション」等普遍的な内容に関する書籍の研究も行
う。
③ 研究したことを日常に活用
学んだこと、感じたことが空理空論にならないよう、
日常の業務に活かすよう心掛ける。
※ 詳細は以下の(3)①「外なる成果」に記載
イ 伝える力を活用した業務カイゼン
福祉は「対人支援」の仕事である。「対人支援」は
ひとりの利用者の生活を複数のスタッフで支えていく
仕事である。効果的に支援をしていく上では、支援
観の共有が必要である。
「○○会議」、「□□委員会」という通常の「会議」だ
けではなく、日常的な打ち合わせや申し送り等、多く
の「話し合い」を行っている。それらの効果を高めるた
めの取り組みを意識して行った。
④ 報告会自体を成果に
今回の職員研究活動援助事業報告会では、「原稿
を用いず、発表時間を守り、熱を込めて話をする」こと
とした。
「伝える」ことについて学んだ成果を具体的に示す
ため、通常の発表と違ったスタイルで行う。
⑤ 本研究を「スタート」に
本研究の発表は、ゴールではなく、今後の「スター
ト」である。管理職、福祉を担う専門職として、利用者
のニーズを部下に、上司に、関係機関に、そして地域
社会にしっかりと「伝える」ことができるよう確認する。
(ア) 会議時間短縮への提案・実践
会議を実施する上でしっかりと「時間」を意識し、
内容が「検討事項なのか、報告事項なのか」、「文書
説明すべきか、口頭説明でよいか」等を出席者が把
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<2014 職員研究活動援助事業②>
握・理解し、効率化を図った。
・分からないことはその場で確認・理解できる。
・比較的高価である。
(イ) 文書のフォーマット化の提案・実践
報告書、起案書、案内文等、日常的に多くの文
書を作成している。
文書を一から作成するのではなく、可能な限りフォ
ーマット化し、伝わりやすく、効率的に文書作成が
できるよう取り組んだ。
② 本(ビジネス本・ハウツー本)
・いつでもどこでも手軽に学ぶことができる。
・読んでいる途中で「不要」と感じたら止めることができ
る。
・比較的安価である。
※ 本研究で購入した書籍は、本稿の末尾に示す。
(ウ) 視える化の提案・実践
「視覚に訴える」ことは、伝える上で重要な要素の
ひとつである。「課題を文書で提示する」、「備品保
管場所を PC 上で閲覧できるようにする」等、目で確
認できるようにした。
③ 講演会
・幅広い分野から「話し方」を学ぶことができる。
・講演者の内容構成、惹きつけ方等の理解に努め、自
身の話し方に活かす。
・身近にいる「話の上手な人」は良い教材になる。
(エ) 重要事項の繰り返し説明
日常において、重要事項は図表等も用いながら
「視える化」を意識しつつ、「熱を込めて、繰り返し伝
える」ことを心掛けた。
「人間の心とは火の付きにくいマッチのようなもの
でる」という言葉がある。そうであれば「火が点くまで、
何度も伝える必要がある」と考えた。
④ 映画・小説
・自分の話し方や書き方を向上させる「テキスト」として
意識しながら、観たり、読んだりする。
・語彙の幅を広げる。
⑤ 水族館・動物園ショー
・老若男女を問わない話し方で観衆を惹きつける。
・基本台詞に少しのアドリブを加えてオリジナリティを
出す。
・多くの場合、余暇として出かけていくが、そこから「学
ぶ」という意識を持つだけで良い教材になる。
② 内なる成果(意識・知識として得た成果)
伝えるための大事なポイントの理解を図ることができ
た。
※ 4つのポイントとして記載
ア 相手を知り、相手の立場に立つ。
必ず「伝える」相手がいる。伝える相手は、どんな
立場なのか?どんな状態なのか?聴く態勢はできて
いるのか?を知らなければならない。自分本位になら
ないことが重要である。
⑥ 職場
・上司・同僚・部下を問わず、真摯に聴く力を持ち、学
ぶ。
・職場は、「最も良い学び場」である。
イ 伝える内容をしっかりと理解する。
伝えたい内容を自分がしっかりと分かっていないと
相手には伝わらない。
◆ インプット(学ぶ)からアウトプット(伝える)へ
①~⑥で挙げたように、学びには多くの手段がある。
何のために学ぶ(インプット)のか?それは効果の高
い、良質のアウトプット(伝える)をし、利用者の支援
をより良いものにしていくためである。
多くのインプット(学ぶ)を行うことで、アウトプット
(伝える)する際、より良い方法を自ら取捨選択する
ことができるようになる。
「学びのための学び」にならないよう、最良の方法
を見つけ、アウトプット(伝える)に繋げる。
ウ 多くの学び(インプット)が欠かせない。
質の高いアウトプット(伝える)をするためには、質
の高いインプット(学び)をしなければならない。
エ 視点を変えると多くの学び(インプット)ができる。
「学ぶ」ということに対して、意識を少し変えるだけ
で、学びの機会は格段に増える。日常生活から多く
の学びを得ることができる。
(6) まとめ
1年間の取り組みの中であらためて実感したのは
「伝える」こと、そしてコミュニケーションの難しさであ
る。
「伝える」ことはコミュニケーションの一側面である。
コミュニケーションには相手がいる。どんな相手なのか
を知り、相手のことを思って伝えれば、メッセージは届
きやすくなる。当たり前のことの大切さを再認識した。
(4) 学び(インプット)の取組具体例
(3)②に示したようなポイントを頭に入れ、取り組んだ
具体例が以下の通りである。
① 研修
・効率よく、短期間で学ぶことができる。
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<2014 職員研究活動援助事業②>
また、「学ぶことの大切さ」も実感した。伝える力を培
うためには「学び」が不可欠であり、日々の業務を行う
上でもとても重要である。仕事は明日も続く。学びも一
生続く。
『日々勉強 一生勉強
・「好かれるあいづち」とは、相手が話しやすいと感じ、
話の内容に合った、気持ちのこもったあいづち。
・事実フィードバック→大事なポイントを繰り返す。
・感情フィードバック→相手の感情を、聴き手の言葉で
返す。
松下幸之助』
⑦ 相手をわかろうとする質問をする
・原因追究するような聴き方は相手を委縮させる。「理
解しよう」というスタンスで質問を投げかける
・テーマについて、具体的に深く聴く。「それからどうな
ったの?」、「もう少し詳しく教えて」等。
2.お薦め本プレゼンテーション
(1) 8 つの聴き方
前項までに「伝える」とはコミュニケーションの一側面
であり、逆説的だが、よく「伝える」には、相手のことを
知ることが必要だ、ということを述べた。相手のことをよ
く知るのに最も身近な行為が「聴く」ことである。
本研究を通じて知った「聴き方」を以下に紹介する。
⑧ 相手の主観に流されないで聴く
・「~さんは私のことが嫌いなんです」、「いつもあの人
って~する」、など主観的な話を真に受けると、事実
を誤解して受け取ってしまうことがある。主観と事実
を分けて聴く習慣をつける。
・「そう思う理由を教えて」、「それは毎回必ずされること
なの?」等。
*『アドラー流「たった 1 分で」伝わる言い方』(戸田久実/かんき
① 共感して聴く
・「受け入れる」(「おっしゃるとおりです」)ではなく、「受
け止める」(「~だと思うんですね」)。
・相手の言ったことを繰り返すと「この人はわかってくれ
たんだ」と思ってもらえる。
・相手の気持ち・要望に注目する。
出版)より「この人は信頼できる!」と思われる 8 つの聴き方
(2) 参考文献
本研究では、以下に示す書籍を購入・研究を行った。
① 「伝える」ことに関するもの
・『アドラー流「たった 1 分で」伝わる言い方』
戸田久実著(2014)岩井俊憲監修,かんき出版
・『いつでも、どこでも、誰とでも、会話が盛り上がる
人の話し方』
野口敏著(2013),株式会社 PHP 研究所
・『完全保存版!挨拶、お礼、お詫び、メール・・・仕
事のマナー100 の鉄則』
プレジデント編集部編(2014),プレジデント社
・『大人なら知っておきたいモノの言い方サクッとノ
ート』
櫻井弘監修(2014),永岡書店
・『これだけは知っておきたい「プレゼンテーション」
の基本と常識』
若林郁代著(2007),フォレスト出版
・『プレゼンは資料作りで決まる!』
天野暢子著(2014),実業之日本社
・『伝え方が 9 割』
佐々木圭一著(2013),ダイアモンド社
・『「伝え方」必殺スキル!仕事ができる人の報連相
マル特講座』
プレジデント編集部編(2014),プレジデント社
・『短いフレーズで気持ちが伝わるモノの書き方サク
ッとノート』
平野友朗監修(2014),永岡書店
・『短時間で伝える会話術』
学研パブリッシング編(2014),学研パブリッシング
② 興味を持って聴き出す
・人には自分の話を聴いてほしいという願望がある。自
分の話に興味をもってくれたとわかると、気持ちよく話
してくれ、話を聴いてくれた人に好感を持つ。
・「それからどうしましたか?」相手の話の内容やテンシ
ョンに合わせて伝えると好感度が上がる。
③ 身体全体で聴く
・こちらが真剣に話を聴いているか判断するのは相手。
「大げさかも?」というくらい反応し、身体全体で「聴い
ている」ことが伝わるように表現する。
・前かがみになる、うなずく、メモをとる、目を合わせる、
身体を相手に向ける、手をとめて聴く、話の内容や相
手の表情に自分の表情を合わせる等。
④ 一方的に話し続けない
・会話は聴き手が主導権を握る。相手の話をどう聴け
るか、ということがカギになる。
・相手の話をうながす。「~さんだったらどうします
か?」等。
⑤ 相手の話を勝手にまとめず最後まで聴く
・最後まで相手の話を聴く思いやりを持つ。
・最後まで聴いて、大きくうなずく。話をまとめる前に
「確認してもいいですか?」
⑥ 好かれるあいづちを打つ
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<2014 職員研究活動援助事業②>
・『図解話さず決める!プレゼン』
天野暢子著(2008),ダイアモンド社
・『知識ゼロからの会議・プレゼンテーション入門』
弘兼憲史著(2007),幻冬舎
② 仕事全般に係る総論に関するもの
・『アルフレッドアドラー人生に革命が起きる 100 の言
葉』
小倉博著(2014),ダイアモンド社
・『京セラフィロソフィ』
稲盛和夫著(2014),サンマーク出版
・『コンサル一年目が学ぶこと』
大石哲之著(2014)ディスカートゥエンティワン
・『仕事がうまくいく!15 秒で「伝える」技術』
別冊宝島,宝島社
・『社長がいなくても回るガーバー流「仕組み」経営』
堀越吉太郎(2014),角川書店
・『ストレングスリーダーシップ』
ラス,トム コンチ,バリー著(2013), 田口俊樹 加藤
万里子訳,日本経済新聞出版社
・『トヨタ仕事の基本大全』
OJT ソリューションズ著(2015)角川書店
・『「話す」「考える」「すぐやる」3 つの力がすぐに身に
つく本』
『THE21』編集部編(2015), PHP 研究所
・『プロフェッショナルマネジャー』
ハロルド・ジェニーン・アルヴィン・モスコー(2004),
(田中融二訳)プレジデント社
・『プロフェッショナルマネジャー・ノート』
プレジデント編集部編(2010),プレジデント社
・『無印良品は、仕組みが 9 割』
松井忠三著(2013),角川書店
③ 福祉関連
・『現場がうまく回りだす 介護リーダー・プロフェッショ
ナルの教科書』
中尾浩康著(2012),ぱる出版
・『福祉・介護の職場改善 会議・ミーティングを見直
す』
大坪信喜著(2013),川原経営総合センター監修,実
務教育出版
・『福祉・介護の職場改善 リーダーの役割を果たす』
大坪信喜著(2014),実務教育出版
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