「歩く」、「動く」をいつまでも ~透析患者とロコモティブ症候群~ きたうらクリニック 院長 北浦圭介 「元気で長生きを」の基本 ○しっかりとした透析(長時間、頻回、オンラインHDFなど) ○標準レベル以上の透析(透析液の清浄化など) ○安心、信頼できる(医師、スタッフ、環境など)。 ○しっかりと栄養を取る。 ○よく寝る。 「元気で長生きを」次のステップ ○「足が丈夫である。」 ○「認知症がない。」 ○「健康感を持つ。」 医療の考えのシフト 寿命を延ばす 身体活動度の向上 生活の質の改善 ロコモティブ症候群について メタボリック症候群(メタボ)って 聞いたことがありますか? ロコモティブ症候群(ロコモ)って 聞いたことがありますか? メタボリック症候群は知っているけど・・・ じつは、 ロコモティブ症候群は メタボリック症候群に続く国策なんです。 ~健康づくりのための身体活動基準2013~ 透析患者さんとロコモティブ症候群 「加齢に伴う筋力の低下」 「老化に伴う筋肉量の低下」 サルコペニア サルコ=筋肉 ぺニア:減少 透析患者さんの筋肉の減少の理由 筋活動 の低下 透析患者 尿毒素 物質 さんの 筋肉 アシドー シス 蛋白摂 取制限 透析患者さんは“慢性運動不足症” もともとの生活活動度を上げたい! 動かない。 歩かない。 体力、筋力低下などから 生活に支障が出る。 通院困難 要介護、社会的入院、長期入院、入所など 透析患者さんは安静が必要? 以前は、 運動制限を推奨されてきたが、 運動制限することに臨床的な根拠がなく、 さらに身体活動の低下は心血管疾患の死亡リスクがある ため、 運動療法が重要になり得る。 ~慢性腎臓病診療ガイドライン2009 運動をしている方としていない方 ~海外報告~ 運動習慣がある患者さんのほうが生命予後が良好である。 一足早く・・・ アメリカの 米国腎臓財団のK-DOQIでは 2005年の指針で、 すべての血液透析患者さんに対して 運動療法を推奨している。 腎臓リハビリテーション学会の設立 運動はいつやるべきか? ①透析のない日 ②透析中 ③透析後 →あまり推奨できない(経験上)。 透析患者さんの運動機能の現状 ●健常者に比べると運動持続力が約60-80%に低下している。 =筋肉(骨格筋)が息切れ(酸欠)しやすい。 ●疲労を感じやすい。 ●動かないことによる筋肉の萎縮 ●バランスの機能が低下 ●透析後の倦怠感、血圧の変動、かゆみ、吐き気、関節痛など の出現によるQOLの低下 透析患者さんの運動の効果 ①体力(持久力)がつく ②心臓の収縮力アップ ③下肢の血流の改善 ④栄養アップ ⑤貧血改善 ⑥睡眠の質の改善 ⑦QOLアップ(精神面で自信がつく、動ける力アップ) ⑧透析効率アップ ⑨生命予後の向上 さらに有酸素運動で・・・・ アルツハイマー型認知症の予防 脳の体積が増加 前頭葉機能の向上 当院の取り組み ~開業当初からの透析中の運動療法~ 運動療法できない患者さん ①透析開始早期から血圧が低下する患者さん ②血圧の乱高下が著しい患者さん ③認知症の患者さん ④心不全症状(息切れなど酸欠症状)のある患者さん 透析中運動療法チェックリスト 平成 年 月 日 患者氏名: □自覚症状:労作時息切れがない □透析前のヘモグロビン:9gl/dl以上ある。 □胸部エックス線:肺うっ血や中等度の胸水がない。 □心臓エコー:重度の弁膜症がなく、EFが30%以上である。 □ホルター心電図:致命的な不整脈がない。 □整形外科的疾患:股・膝・足関節に著しい障害がない。 □下記のすべての病状がない。 ・うっ血性心不全 ・急性心筋梗塞 ・不安定狭心症 ・重度の大動脈弁狭窄症 ・急性感染症(肺炎など) ・収縮期血圧200以上 ・拡張期血圧115以上 □上記の項目にすべてチェックあり→運動療法“可能” □上記の項目に一つでもチェックなし→運動療法“不可能” 有酸素運動 エルゴメーター ~負荷をかけたトレーニング~ 透析中サイクリング① ・アシスト付で勝手に回転 ・力むことなく運動できる。 ・膝や股関節の動きがスムーズに ・運動導入時期に ・安価 (デメリット) ・負荷がかからず物足りない。 ・軽いので動きやすい 透析中サイクリング② ・リハビリ専用の運動機器 ・5段階の負荷(幅広く使用) ・距離や走行スピードが表示 ・高価 どういうふうに開始していくか? ①基本的には透析開始後しばらくしてから「負荷3」で「5分間」 ②1週間単位で5分間ずつ追加(目標20分) ③「負荷2」で問題なければ「負荷3」へアップ。 ④患者様の状態で「5-60分間」を無理なく、続ける。 (サイクリング施行時間は原則透析開始1時間後まで) 運動前のストレッチ 透析中のレジスタンス運動 ~フリーウェイト~ 10回×1-3セット 負荷:なし・500g・1㎏・2㎏ (無理のない程度で) 理学療法士に よる運動指導 理学療法士による 関節可動域訓練 透析のない日の運動例 運動療法をやってみて ~医師っぽくない感想~ ・はじめはびびっていたけど以外皆さんできる。 ・思っていたより患者さんは筋持久力がある。 ・知らない間に負荷③5分間から負荷⑤30分になっている。 ・3日坊主が少ない。(継続率:84.6% 11/13人) 当院の運動療法の課題 ①筋力、持久力などの指標がない。 (送迎や穿刺時間などにより、測定時間が確保できない) ②運動が興味のない、避けている方への運動の介入 ③透析後半に血圧が低下しやすい患者さんや筋力が著しく低 下している方への介入方法 (すべての方がサイクリングをできるわけではない。PTの助けに より補助的なリハビリで始めていく患者さんもたくさんいる) ④筋肉量をどうやってつけていくか? 運動療法をされている方のアンケート結果 ①サイクリングを始めたきっかけは? 1位:運動不足を感じていた。 1位:透析時間を有効に利用したかった。 3位:なんとなくしてみようと思った。 ②サイクリングを初めて行った時どう思 いましたか? 1位:何とも思わず、普通。 2位:結構きつい 2位:物足りない。 ③サイクリングを始めてから変わったことは? 1位:散歩など歩くように心がけるようになった。 2位:体力に自信がついた。 3位:あまり変わらない。 ④サイクリングをして困ったことはありますか? 全員なし。 ⑤今後もサイクリングを続けていきたいですか? 全員はい。 透析中の運動療法は確立していないので 大きな声では言えませんが、 透析患者さんの大半の方に 実施できると考えています。 医療従事者が 透析中運動療法で一番心配なこと 狭心症 心筋梗塞 不整脈 突然死 運動負荷試験中の際に、 心血管事故が発症する確率は低く、 突然死は10000回に0.5回 心筋梗塞は10000回に3.5回と推定。 透析患者では、心血管事故の発症が危 惧されるが、運動負荷試験中の心血管 事故が発生したという報告は今までない 運動レベル、スピードなどは 人それぞれ。 何十年も付き合ってきた自分の体 に合わせた運動を。 「歩ける」、「動ける」をいう 当たり前の幸せを大切にしてほしい。 筋肉は財産である。
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