音楽教育における「連携」 心が動く音楽教育

第 30 号
発 行 日
発 行 所
編集責任者
題 字
心が動く音楽教育
主任指導主事 山田 誠
過日、富山大学の学生に講義する機会をいただ
き、
「五箇山に伝わる民俗楽器」と題して『こき
りこ』
を中心にして学び合いました。こきりこは、
誰でも唄える素朴な旋律に優れた音楽性を有して
います。その音楽性の高さゆえ、エリザベス女王
来日の際、
宮中晩餐会でのBGMに採用されたり、
ウィーン少年合唱団のレパートリーになったりし
ています。加えて、びんざさら・棒ざさら・こき
りこ・鍬金など他に見られない独特な楽器が使わ
れていることが「特色ある民謡」として興味を引
く教材となり、教科書にも採用されるにいたっ
ています。90 分の講義の中で学生が“生き生き”
としていたのは、それらの楽器に直に触れている
時間帯でした。目を輝かせ、隣同士で教え合い、
できたことを喜び合う姿が何とも新鮮に私の目に
映りました。
文科省の臼井調査官は「音楽によって心が動く
瞬間」という文言をよく使われます。我が国の伝
統音楽を学ぶときに、鑑賞活動に表現活動がうま
く関わり合えば、音楽に対する感性が一層洗練さ
れ、その味わい方に深まりが生まれます。そうし
たときにも“心が動く”のではないでしょうか。
本年度、県中教研音楽部会では、雅楽・能・歌
舞伎・民謡等の指導に真正面から取り組んでこら
れました。西部地区大会では、福岡中の池田教諭
が能の魅力に迫るため謡を体験する授業を展開
されました。謡には地元の団体がゲストティー
チャーとして関わっておられました。発声や節回
し、姿勢に至るまできめ細かい指導がなされ、生
徒は懸命に学んでいました。
本物を目の当たりにすることで感動が生まれま
す。感動は間違いなく感性を磨きます。時には教
師自身が伝承者になるべく、伝統音楽を体験する
ことも必要になってくるでしょう。
大学生が、講義終了後に私のところへ来て「さ
さらに触れて感動しました。私も教師になって子
供たちにこの面白さを伝えたいです。」と言って
くれました。音楽教育に新鮮な光が差し込んだ気
持ちになりました。
(西部教育事務所)
平成27年3月
富山市千歳町1−5−1
富山県中学校教育研究会
今井 幸代
金山 泰仁 先生
音楽教育における「連携」
部長 今井 幸代
今年の研究大会は、東西とも昨年度に引き続き、
日本の伝統音楽に着目した授業が展開されまし
た。東部では、地元に伝わっている民謡を保存会
の方と共に学ぶことにより、郷土を愛する心情を
培うことができました。西部では、能楽の地謡を
地元の保存会の方に学びました。音楽室を能舞台
に見立てて生徒を地謡座りで配置し、舞と謡によ
る能の世界が再現されていました。いずれの授業
もゲストティーチャーを招いたことで、生徒が我
が国や郷土の伝統音楽に興味をもち、表現活動を
伴った意欲的な学習となりました。これも、音楽
科の先生方と地域の保存会の方々との円滑な人間
関係があったからです。授業に生かすための先生
方のそうした日頃のご尽力に感謝申し上げます。
さて、文科省では現在、小中連携、一貫教育の
推進についての研究がなされています。小学校で
は日本の伝統音楽をどのような系列で学んでいる
かご存知でしょうか。低学年では「わらべうた」、
中学年では「民謡」、高学年は「和楽器や雅楽」
を学んでいます。この一連の学びを踏まえた上で
中学校でのカリキュラムを作成する必要がありま
す。当然、小学校での学びを基に、中学校でより
深化・発展した学習が展開されることが望まれま
す。そこで、9年間を見通した年間指導計画立案
のために、校区の小学校の先生方と指導内容を確
認し合う機会を設けてみてはいかがでしょうか。
日本の伝統音楽だけでも構いません。共通の視点
をもち、小中それぞれでどんな指導がなされると
いいのかを系統立てて考えるのです。もちろん評
価規準についても同様です。小学校から中学校へ
のつながりをスムーズに行えるようにすることが
連携です。
地域人材との連携、小学校との連携、これから
の音楽教育には、このような「連携」を視点とし
た授業改善がますます重要になってきます。
― 音 ― 1 ―
( 南・利賀中 )
第58回 研究大会報告
【研究主題】音楽に対する感性を育て、豊かな情操を養うにはどうすればよいか。
〜我が国や郷土の伝統音楽の表現と鑑賞〜
東部地区(上・上市中)
西部地区(高・福岡中)
東部地区大会は、上市町立上市中学校で行われ
た。宮元美信教諭の指導で「日本の郷土芸能に親
しもう」を題材に、2年生の授業が行われた。ゲ
ストティーチャーによる上市の郷土芸能「開谷(か
いだん)踊り」の「開谷民謡」の生演奏に触れ、
その発声や節回しの特徴を感じ取り、曲にふさわ
しい歌い方を追究する授業展開であった。
日本の郷土芸能についてのレポート掲示及び開
谷踊りの映像を映しての雰囲気づくりや、ゲスト
ティーチャーの演奏による練習用CDの準備等
が、生徒の学習意欲向上につながった。「好田さ
ん(ゲストティーチャー)の歌をコピーし、開谷
民謡の味わいが出るように歌おう」という学習
課題が生徒の積極性を喚起させ、ゲストティー
チャーによる本物の歌い方を自分のものにしよう
と、熱心に練習に取り組む生徒の姿が印象的で
あった。
部会協議①では、短い時間であったが、グルー
プ協議を行い、伝統音楽の鑑賞と表現の一体化、
ゲストティーチャーの活用法、各校の取組等につ
いて、活発に意見交換がなされた。土井和哉指導
主事からは、音楽の指導だけはなく、道徳の内容
項目4-(8)
「地域社会の一員としての自覚をもっ
て郷土を愛し、社会に尽くした先人や高齢者に尊
敬と感謝の念を深め、郷土の発展に努める。」の
指導にも関連した授業であったと評価していただ
いた。
部会協議②では、星野紘先生から、我が国の伝
統音楽の学習の充実は、音楽教育のみならず、地
域の伝統芸能伝承者としての生徒育成に大きな役
割を果たすと指導を受けた。日本の伝統音楽のよ
さを改めて感じ取る機会となった。
三上 尚二(富・興南中)
西部地区では、10 月 16 日に高岡市立福岡中
学校において、池田宗介教諭による「能のよさや
美しさを味わおう」を題材とした鑑賞の授業が行わ
れた。能楽「羽衣」の地謡を教材とし、
「A表現・
鑑賞」と「B鑑賞」が関連付けられた授業を展開した。
授業会場は能楽を意識した学習環境に整えら
れ、生徒たちは正座で挨拶や実技発表をしていた。
そのことから、伝統音楽である「能楽」に取り組
む真摯な姿勢を見ることができた。授業は、班ご
とにゲストティーチャーから地謡の指導を直接受
けた後、囃子に合わせて地謡を謡った。指導を受
けた地謡「羽衣〜東遊びの数々に〜」は、ゴマ点
の付いた日本古来のオリジナルの楽譜であり、口
伝によって謡い方の抑揚が指導された。難しい抑
揚であるが、生徒たちは意欲的に取り組んでいた。
練習の成果を発表する場面では、ゲストティー
チャーによる囃子に合わせて謡うことで、能の学
習の雰囲気がより一層高まった。
授業の後半では、体験したことを踏まえて感想
を出し合うという話合い活動が行われた。池田教
諭は、日頃から書く活動を取り入れている。その
ため生徒たちは、能の魅力に迫るような考えを、
自分の言葉で具体的に書くまでに育っていた。最
後にゲストティーチャーによる能楽「羽衣〜東遊
びの数々に〜」の演奏を鑑賞した。舞・謡・囃子
が一体となった演奏を生で鑑賞できたことは、有
意義な経験であった。
部会協議②では、独立行政法人日本芸術文化振
興会プログラムディレクター星野紘先生から、
「我
が国の伝統音楽(民俗芸能)の学習の充実」につ
いて講演をいただいた。DVDの視聴をしながら、
民謡や民俗芸能である郷土の音楽についての講演
が進められた。学習を充実させることの意義を、
実践例を挙げながら具体的に教えていただいた。
質疑応答では、会員から積極的な質問や感想が出
され、活発な協議となった。音楽科としての役割
を改めて自覚できるよい研修会となった。
― 音 ― 2 ―
木越 俊一(高・高陵中)
平成26年度
全日本音楽教育研究会全国大会
東京大会 報告
第81回
NHK全国学校音楽コンクール
参加報告
【研究主題】
つなげよう 深めよう 思いをこめて
富山大学人間発達科学部附属中学校
コーラス部
すべての公開授業は、府中の森芸術劇場で行わ
れ、私はウィーンホールで行われた小学校と中学
校の「表現・歌唱」の授業を参観した。
小学校の授業では、「たんぽぽのバッジ」を題
材に、旋律の重なりの響きを表現することを目標
に授業が進められた。ただ身体表現を入れるので
はなく、和声の意味を考えたハンドサインを取り
入れて音楽の理論を感覚的に理解できるように練
られたプログラムとなっていた。子供たちは合唱
曲の表現の目標に向かって、小グループで工夫し
ながら練習を行っていた。最後に通しての合唱が
あったが、日頃からユニゾンで響きを大事にする
練習を積み重ねてきた成果もあり、澄み切った美
しいハーモニーが響き渡っていた。
中学校の授業では、「時の旅人」を題材に、表
現の工夫を指示するリーダーたちが、自分の表現
してほしい思いを語っていた。子供たちは、その
指示通りに表現できるかを短い部分に区切って繰
り返し歌い、確認していた。事前に学習した音楽
用語や音楽理論の理解があっての議論だというこ
とが感じ取れた。基礎理論を理解する授業の組立
てが重要だということが分かった。
研究演奏では、我が国や郷土の伝統音楽のよさ
を味わえる合奏や、小学校から中学校への連続性、
歌詞に思いを込めて歌う合唱等が発表された。
今回の研究大会に参加して小学校と中学校との
連携の重要性を強く感じた。
小学校で基礎力を固め、中学校では引き続き深
化させていけるように系統立てて教育課程を組ん
でいく必要があると感じた。生徒たちが基礎的な
力を習得できるように、また、音楽的な思考判断
ができるように日頃から指導のポイントを明確に
するなど指導に工夫を重ねていきたい。
河辺真美子(小・大谷中)
10 月 13 日、第 81 回NHK全国学校音楽コン
クール 全国コンクールに東海北陸ブロック代表
として出場し、渋谷のNHKホールで演奏させて
いただきました。富山県勢としての全国大会参加
は 16 年ぶりになります。あいにく当日は関東へ
台風が迫り来るタイミングとなり開催が危ぶまれ
ましたが、無事コンクールを終えることができま
した。
今年の課題曲は国民的人気を誇るグループ
EXILE の ATSUSHI さんが作詞作曲し、当日の
審査員でもいらした加藤昌則さんの編曲で、飾り
気のない言葉で素直な感情をストレートに伝え
る、中学生そのときのよさを存分に発揮できる作
品でした。
コンクール本番は生放送、しかも演奏順も最後
ということで、会場に到着してからは非常に緊張
していましたが、ブロックを勝ち上がってきた各
校の素晴らしい演奏に、思わず聴き入ってしまい
ました。特に金・銀・銅賞を受賞した4校の演奏
は、統一された明るい発声でピッチの狂いも少な
く、広いNHKホールでも十分に聴衆に届く歌声
でした。
私たちは自由曲で「天空歌」という、天空の壮
大さを表した曲を演奏しました。残された課題は
まだまだありますが、これまでの練習の成果を十
分に発揮することができたと感じています。
この大舞台を経験し、「自ら音楽に感動する体
験、それを声に乗せて伝える喜び」を改めて感じ
ることができました。これからも部員全員で、
「音
楽づくり」の過程を楽しみながら、新たな目標に
向かって日々の練習に励んでいきたいと思いま
す。
相山 知範(附属中)
― 音 ― 3 ―
フレッシュさんから
◆「実りある一年間」
わって繰り返し練習をする様子がみられるように
念願の教員となり、早一年が過ぎようとしてい
なりました。その姿から「いい合唱にしなけれ
ば」と力んでいた私の肩の力がすっと抜けるとと
ます。
初めの頃は、生徒と年が近いのですぐに信頼関
もに、生徒の秘められた可能性に改めて気付くこ
係は築けるだろうと思っていましたが、そううま
とができました。全員で目標を一つにして、意見
くはいきませんでした。特に1学期は、余裕がな
を出し合いながらクラス全体でつくり上げた合唱
かったこともあり、あまり生徒と関わることがで
は、どれも感動的なものでした。合唱を通して多
きずにいました。授業中は質問してもなかなか発
くのことを学ばせてくれた生徒に感謝していま
言してくれないなど、うまく進めることができず、
す。
これからも、生徒と共に音楽と向き合い成長し
とても悩んでいました。
2学期に合唱コンクールがありました。音楽科
として生徒とより深く関わるチャンスだと思い、
ていきたいと思います。
土合 克匡(射・小杉中)
積極的に声かけをしたり、生徒の中に入って一緒
に歌ったりしました。すると、以前よりも意欲的
◆「学び続ける教師になる」
に取り組む生徒が多くなり、いい雰囲気で授業を
昨年4月に新規採用の音楽教諭として着任して
進めることができるようになりました。授業をう
から、あっという間に9か月が経ちました。日々
まく進めるためには、生徒との信頼関係を築くこ
の授業と学級担任としての業務、部活動等で毎日
とが大切であることを改めて実感しました。
がめまぐるしく過ぎていき、経験の少なさを痛感
信頼関係を築くことはそう簡単ではありません
するとともに、反省の連続だったと感じます。し
が、生徒を理解する力や自分の音楽性を養うため
かし、そんな中でも生徒の「今日の授業楽しかっ
にも、教員としての感性をより一層磨いていきた
た」という言葉や、できなかったことができるよ
いと思います。
うになったときのキラキラした表情を見ると、ま
竹内みず穂(黒・鷹施中)
た次への意欲が湧いてきました。
部活動では、私自身が吹奏楽コンクールでの指
◆「生徒から学んだこと」
揮をするという大きな壁にぶつかりました。「指
小杉中学校に赴任してから、早くも一年が過ぎ
揮が1上手になれば、演奏が 10 上手になる」と
ようとしています。校務に追われながらも、教員
教えていただいてから、私も頑張らなければとい
という仕事にやりがいを感じている毎日です。
う思いで取り組みました。今、振り返ってみると
振り返ればこの一年いろいろなことがありまし
た。その中でも特に心に残っているのは、11 月
多くの悔しい思いや生徒への申し訳なさととも
に、吹奏楽の楽しさを改めて感じます。
に行われた合唱コンクールです。授業では、発声
現在は初任者研修や教科、部活動研修等、多く
法からパート練習の進め方等、一つ一つ丁寧に指
の学びの機会をいただいていることに感謝してい
導することを心掛けました。当初、生徒たちはコ
ます。そして、常に「今このときが、自分を磨く
ンクールの結果だけを意識してがむしゃらに歌っ
とき」という学び続ける教員でありたいと思いま
ていました。しかし、日が経つにつれ「自分たち
す。
だけにしかできない合唱にしたい」という思いか
ら、音色や歌詞の伝え方等の細かい表現にこだ
― 音 ― 4 ―
長柄 有美(砺・庄川中)