人工力誘起反応法の拡張:光化学反応および表面化学反応へ

人工力誘起反応法の拡張:光化学反応および表面化学反応へ
(北大院理)前田 理
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化学反応のメカニズムは、量子化学計算に基づくポテンシャルエネルギー曲面を調べるこ
とで解析できる。このとき、ポテンシャル面上のエネルギー極小点、一次鞍点、および、そ
れらをつなぐ固有反応座標を系統的に求める必要がある。しかしながら、従来の構造最適化
計算では、反応機構があらかじめ予想できる場合でないと解析できない、という問題があっ
た。このため、複雑な多段階反応の機構解析や新しい反応の予測は難しかった。
我々はこの問題を解決するために、反応経路自動探索法を開発してきた[1]。その一つであ
る非調和下方歪み追跡法は、非調和性が大きくなる方向に構造を動かせば遷移状態や解離
経路を求めることができる、という原理に基づき、様々な小分子の反応機構解析や予測に応
用されてきた[2]。近年、有機反応など、関与する原子数がより大きな系への適用を目指し、
人工力誘起反応法の開発を進めてきた。人工力誘起反応法では、フラグメント同士を仮想的
な人工力によって押し付けることで反応を誘起し、得られる近似パスを元にして反応経路
を決定する。この操作を系統的に実行するアルゴリズムと組み合わせることで、反応経路自
動探索を実施することが可能である。このとき、二つ以上の分子が収束的に結びつく二分子
反応や多成分連結反応では、各反応物をフラグメントとし、それらをランダムな向きと位置
から押し付ける多成分アルゴリズムを用いる[3]。一方、単分子反応や錯体内反応、クラスタ
ー内反応などでは、系内にフラグメントを自動生成し、それらを押し付けることで反応経路
を自動探索する単成分アルゴリズムを用いる[4]。多成分アルゴリズムと単成分アルゴリズ
ムを使い分けることで、非常に効率的な反応解析が可能となった。多成分アルゴリズムは
GRRM14 に実装されており、一般利用が可能となっている[5]。
我々は、適用範囲の拡大と様々なオプション開発を精力的に進めている。GRRM14 以降、
開発者版 GRRM において新しく実装された機能を以下に示す。
1.
単成分アルゴリズム(単分子反応、錯体内反応、クラスター構造および反応)
2.
周期境界条件(表面反応、結晶構造探索)
3.
ポテンシャル交差の探索(光反応、イオン分子反応)
4.
ヘシアン行列を計算しない実装
5.
速度論に基づく探索アルゴリズム
6.
動的経路分岐の予測アルゴリズム
7.
MPI による並列化
本講演では、これらの開発について概説する。
1.
2.
3.
4.
5.
S. Maeda, et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 2013, 15, 3683.
S. Maeda, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 2014, 87, 1315.
S. Maeda, et al., J. Chem. Theory Comput., 2011, 7, 2335.
S. Maeda, et al., J. Comput. Chem., 2014, 35, 166.
S. Maeda, et al., GRRM14, http://grrm.chem.tohoku.ac.jp/GRRM/index_e.html