火災による各受熱温度が鉄筋コンクリート柱の爆裂性状に及ぼす影響

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №306
火災による各受熱温度が鉄筋コンクリート柱の爆裂性状に及ぼす影響
大阪工業大学大学院 䚽 大岩 司
大阪工業大学
㻌㻌㻌大山 理
図-1 より,コンクリートは 100℃,鉄筋は 400℃を越
1.はじめに
1)しており,社会
近年,橋梁における大規模な火災が多発
えると強度が低下し始め,どちらも 500~600℃で常温時
に大きな影響を及ぼしている.また,橋梁分野では,想定さ
と比べて強度は 50%低下する規定となっていることが
れていない被害が発生している.その 1 つとして,コンクリ
わかる.
ートが急激に熱せられることで爆発的に表面が剥離,はく落
する爆裂という現象が挙げられる(写真-1).
3.各受熱温度および爆裂発生後の耐荷力の算出
高温時および爆裂発生後における RC 柱の耐荷力の算出を
行うにあたって,まず,RC 柱の受熱温度を把握するために
熱伝導解析を行う.熱伝導解析は,汎用プログラム SOFiSTiK
を用いた.
加熱の範囲は全方位とし,その時間は 90 分とした.
また,火災曲線は,Eurocode3)が規定するタンクローリーの横
転・炎上など,比較的規模は大きいが発生確率が低い火災を
想定した HC 火災曲線(炭化水素曲線,最高温度:1100℃)およ
び野焼きや不審火など,比較的規模は小さいが発生確率の高
写真-1 火災鎮火後の損傷状態
写真-1 に示すとおり,爆裂が発生すると,コンクリート内
い火災を想定した EX 火災曲線(外部火災曲線,最高温度:
の鉄筋が露出し,火災による熱に曝されることで,耐荷力が
680℃)を用いた.なお,解析時に必要となる熱物性値(単位体
著しく低下すると考えられる.しかし,爆裂を含め,被災し
積重量,比熱,熱伝導率)は各材料ともに Eurocode2),4)が規定
た橋梁に対する積極的な研究は行われておらず,安全性の評
する値を用いた.対象断面を図-2 に示す.
価法が確立されていないのが現状である.よって,被災後に
850
80 165 165 80
80 200 80
おける迅速な交通可否を判断するため,高温時における橋梁
80 121 121 80
124 200 124
850
の耐荷力を把握する必要がある.そこで本文では,鉄筋コン
クリート柱(以下,RC 柱と略記)を対象に,高温時および各受
熱温度における爆裂発生後の耐荷力の算出を行った解析結果
について報告する.
単位(mm)
図-2 対象断面 5)
2.高温時における各材料の力学的特性
高温時における RC 柱の耐荷力を算出するにあたって,
ここで,今回の解析において,対象断面は鉄道橋で用いら
高温時における各材料の力学特性を把握することが重
れる RC 柱を仮定した.その理由は,火災が発生すると道路
要となる.ここで,Eurocode2)が規定する高温時におけ
橋は,迂回路や車線の区切りによって片側通行が可能となる
る各材料の強度低減係数を図-1 に示す.
場合がある.しかし,鉄道橋は,迂回や線路の区切りを行う
ことが困難であり,社会に与える影響も甚大であるので,道
1.2
1.0
路橋よりも早く,運行可否の判断が必要となるからである.
鉄筋の降伏強度
つぎに,本研究における爆裂に関する条件を表-1 に示す.
低減係数
0.8
表-1 爆裂条件
0.6
0.4
コンクリートの圧縮強度
爆裂幅 鉄筋の露出率
爆裂範囲 爆裂発生時間
(mm)
(%)
0.2
ケース1
ケース2
ケース3
0.0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
1100
1200
温度(℃)
図-1 高温時における各材料の力学特性
64.0
80.0
96.0
25.0
50.0
75.0
全方位
10分後
なお,爆裂は,本来,ある一定の時間,断続的に発生する
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学生発表アブストラクト №306
が,今回は,加熱開始 10 分後に,一度だけ爆裂が発生したと
および 30%であった.
仮定する.
EX 火災曲線における熱伝導解析結果を用いて耐荷力を算
(1) 熱伝導解析
出した結果を図-6 に示す.
まず,爆裂が発生しない場合の対象断面の解析モデルおよ
1.2
び加熱開始 90 分後の熱伝導解析結果を図-3 に示す.
1.0
耐荷力
0.8
0.6
0.4
0.2
(a) 解析モデル
ケース1
ケース2
ケース3
0.0
(c) 温度分布(EX)
(b) 温度分布(HC)
爆裂なし
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
時間(分)
図-3 熱伝導解析結果(爆裂なし)
図-6 各ケースにおける時間-耐荷力曲線(EX)
図-3 より,断面の表面は高温であるが,コンクリートは熱
伝導率が低いため,内部まで熱が伝わらず,鉄筋位置では大
図-6 より,爆裂が発生しない場合,加熱時間に伴い耐荷力
きな温度上昇はみられない.また,HC 火災曲線の方が,当
が低下し,加熱 90 分後では,常温時と比べて耐荷力の低下は
然のことながら,比較的高い温度分布を示していることがわ
約 6%みられた.一方,爆裂が発生した場合,爆裂による断
かる.
面欠損および加熱による耐荷力の低下は,それぞれ 20~30%
つぎに,爆裂発生後の一例として,ケース 3 における解析
および 15~20%であった.なお,爆裂が発生した場合,HC
モデルおよび加熱開始 90 分後の熱伝導解析結果を図-4 に示
火災曲線における耐荷力算定結果と比べると,加熱開始 10~
す.
30 分間の耐荷力の著しい低下はみられなかった.また,爆裂
爆裂前の断面
が発生した場合,それぞれの火災曲線における加熱 90 分後の
耐荷力の低下を比べると,約 20%の差異がみられた.
4.まとめ
本研究では,各受熱温度における爆裂発生後の RC 柱の耐
(a) 解析モデル
(b) 温度分布(HC)
(c) 温度分布(EX)
図-4 熱伝導解析結果(ケース 3)
荷力について検討を行った.その結果,爆裂が発生した場合,
EX 火災曲線における耐荷力は,HC 火災曲線における耐荷力
図-4 より,爆裂によって鉄筋が露出したことで,直接加熱
と比べ 10~30 分間,著しい低下がみられなかった.また,爆
され,大きな温度上昇がみられる.
裂が発生した場合,それぞれの火災曲線における加熱 90 分後
(2) 耐荷力の算出
で耐荷力の低下を比べると,約 20%の差異がみられた.以上
HC 火災曲線における熱伝導解析結果を用いて,耐荷力を
耐荷力
算出した結果を図-5 に示す.
より,HC 火災曲線での解析結果と比べると,野焼きや不審
火など,比較的規模は小さいが発生確率の高い火災を想定し
1.2
た EX 火災曲線では,鉄筋が露出したとしても比較的著しい
1.0
耐荷力の低下はみられないため,運行可能と判断できる可能
0.8
性が高いことがわかった.
0.6
【参考文献】
0.4
0.2
爆裂なし
ケース1
ケース2
ケース3
1)
大山 理,今川雄亮,栗田章光:火災による橋梁の損傷事例,橋梁と基礎
2)
CEN:Eurocode2-Design of concrete structures Part 1.2:General rules-Structural
Vol.42,No.10,pp.35-39,(株)建設図書,2008 年 10 月.
0.0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
時間(分)
fire design,prEN 1992-1-2,pp.19-28,2003.
図-5 各ケースにおける時間-耐荷力曲線(HC)
3)
図-5 より,爆裂が発生しない場合,加熱時間に伴い耐荷力
が低下し,加熱 90 分後では,常温時と比べて耐荷力の低下は
約 12%みられた.一方,爆裂が発生した場合,爆裂による断
CEN:Eurocode1-Actions on structures Part1.2:General actions-Actions on
structures exposed to fire,prEN 1991-1-2,pp.24-25, 2002.11.
4)
CEN:Eurocode3-Design of steel structures Part 1.2:General rules-Structural fire
design,prEN 1993-1-2,pp.17-23,2003.4.
5)
面欠損および加熱による耐荷力の低下は,それぞれ 20~30%
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鉄道総合技術:鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物 照査
例 RC ラーメン高架橋,p(16-84),2005 年 3 月.