プロジェクターの教育活用場面に関する一考察

プロジェクターの教育活用場面に関する一考察
林
誠*
Makoto HAYASHI
富山県砺波市立鷹栖小学校
*
Takanosu Elementary School,Tonami City
中川 一史**
Hitoshi NAKAGAWA
金沢大学教育学部
**
Faculty of Education,Kanazawa Univ.
<あらまし> 「ミレニアム・プロジェクト『教育の情報化』」では、各教室に1台のプロジェ
クターを配置することが掲げられている。教室にプロジェクターを常置し、教科や総合的な学習
の時間で活用してきた実践を、その活用場面を整理することで振り返り、今後に生かすことがで
きるように問題点を提起する。
<キーワード> プロジェクター
教育の情報化
プレゼンテーション能力
1
はじめに
現在進められているミレニアム・プロジ
ェクトの目的は、文部省学習情報課(当時)
の「ミレニアム・プロジェクト『教育の情報
化』の解説」 (1)によると、平成 17 年度まで
に各普通教室「パソコン2台+プロジェクタ
ー」環境を実現し、動画コンテンツの活用な
どによって、各教科の授業をすべての子供た
ちにとって分かるものにすることである。
このように、総合的な学習の時間にとどま
らず、各教科・各領域においても、コンピュ
ーターやインターネット、プロジェクターと
いった「新しい道具」を活用して授業を展開
していくことが求められている中で、昨年夏
に「プロジェクター教育活用研究会」(座長
:金沢大学中川一史)が発足した。特別会員
のメーカーより機器の提供を受け、普通教室
で「パソコン2台+プロジェクター」という
環境を一足先に実現して、プロジェクターを
活用した授業実践について様々な角度からの
研究を進めることが目的である。
本稿では、研究会での実践をもとにプロジ
ェクターの活用場面について整理し、今後広
く各教室に導入されるであろう際の問題点を
述べる。
2 教具としてのプロジェクターの特性
特性1 大きく映すことができる
特性2 さまざまなメディアとの接続が
可能
特性3 あらゆる場所での投影が可能
教具として、教材や資料などを「大きく映
す(見せる)」ことができる(特性1)必要
性は言うまでもない。従来は、OHPやテレ
ビモニターなどがその役割を担ってきた。し
かし、プロジェクターの大きな利点は、大き
く見せる「もの」をあまり限定しないことで
ある。単体では仕事ができないが、書画カメ
ラやビデオカメラ、デジタルカメラなどの映
像機器に加えてパソコンやネットワークとの
接続が容易で、パソコン内のデジタル・デー
タやWeb上の様々なリソースも簡単に提示
することができる(特性2)。
また、スクリーンを考慮すれば、投影しな
がらそこに書き込みをすることが可能なこと
や携帯・移動が容易で、投影する場所をさほ
ど選ばない(特性3)といった点も従来まで
の「大きく見せる」教具とは異なり教育利用
に有効な点である。
3 活用場面
プロジェクターを教育活動に活用した場面
を整理してみた。
(1) 使う主体
教師が使う
教材・資料の提示道具として。
児童が使う
発表(プレゼン)の道具として。
教師のための教授の道具とするだけでな
く、子供たちが自分の学習に生かす道具の一
つとして活用した。従来、模造紙にマジック
でまとめて発表していたものを、パソコンで
まとめ、プロジェクターで映しながらプレゼ
ンテーションするというスタイルを選択肢の
一つに加えることで、表現の幅が広がった。
(2) 授業の中で
集める
・意識を集中させる。
・見えにくかったもの、見えな
かったものをじっくり見せる。
深める
・いろいろな見方を引き出す。
・書き込みによって、かかわら
せたりまとめたりする。
・見直しをする。
広げる
・全員に周知する。
プロジェクターを利用すると、多人数でも
効果的に「場の共有」ができる。一つのもの
をみんなで見ながら、映されている情報だけ
でなく、その場の雰囲気や感動なども共有で
きるということである。その「共有」を、学
習の中でどのように位置づけるかをまとめた
のが上の表である。映像も音声も扱えテレビ
モニターよりはるかに大きな大画面であるこ
とからビジュアル効果抜群で、書き込みが可
能なスクリーン(2)と併用することにより、こ
のような場面で効果が得られた。
(3) 使用場所
教室・特別教室
その他の場所
どこにでも教室と同じ
うな学習環境を作るこ
とが可能。
プロジェクター自体は小型・軽量で明るい
ものが増えてきた。接続する周辺機器や電源
を考えさえすれば、どこでも使うことができ
る。
4 プロジェクターを生かす教室環境
(1) いつでも使えるように
教師も子供たちも、いつでも使えるように
必要な周辺機器をあらかじめ接続し、一式セ
ットにしてキャスター付きAVラックなどに
収納しておく。できれば教室常置とし、セッ
ティングも子供たちでできるようにしておく
とよい。場所を移動してもそのまま使うこと
ができるようにしておきたい。また、周辺機
器のうち、特にデジタルカメラについては、
子供たちの発達段階や活動の様子から考えて
利用頻度や利用価値が高く、プロジェクター
との相性も抜群なので、台数を確保し日常的
に使えるようにしておきたい。
(2) ネットワーク
プロジェクターに接続したパソコンは校内
LANにつなげておきたい。できれば無線L
ANが望ましい。(プロジェクター本体も周
辺機器もできるものならコードレスであって
ほしい。せめて電源はバッテリー駆動に。)
子供たちがコンピュータ室で作成した資料を
すぐに教室で投影して授業に使うといったこ
とも可能になる。
(3) コンテンツ
ビデオ教材などに加えて、CD-ROM など
で供給されるデジタルコンテンツ教材も充実
したい。また、インターネットに接続する回
線の強化を待たねばならないが、授業ですぐ
に利用できるWeb上のコンテンツの充実が
望まれる。
4 今後の課題
(1) one of them の道具
プロジェクターは便利な道具だが、それで
すべてができるわけではない。他の道具との
特性の違いを考えながら、必要に応じて選択
して使える力をつけたい。
(2) 目的の明確化
プロジェクターを使うこと自体に意味があ
るわけではない。使う場面や場所に応じて、
何のために使うのかをはっきりさせておくこ
とが必要である。
(3) 操作体験の蓄積
情報活用の実践力を育てるためには、相手
のある学習が欠かせない。その意味では、プ
ロジェクターを利用したプレゼンテーション
の経験を豊富にさせることが今後とも必要に
なってくるであろう。
【注】 (1) http://www.manabinet.gr.jp/it_ed.html
(2) 泉株式会社「Wright on White」等
http://www.izumi-cosmo.co.jp/screen/