Club Palette Vol.32 カラーの最前線を歩く Vol.6 LED照明による光の可能性 ―肌の色や服地などの識別しにくい微妙な色合いを 美しく見せるための、照明面からの新たなアプローチ― 青色LEDの発明から約20年経過した現在においては、従来光源の 代替としてだけでなく、光の質そのものが注目されるようになって きました。LED照明の技術開発が進み、各波長(スペクトル)のコン リポーター 高原美由紀 Miyuki Takahara トロールが可能となったのです。 「美しさ」 を際立たせるLED照明の カラーコーディネーター3級認定講師/ 1級3分野資格取得 開発に成功したパナソニック株式会社ライティング事業部の里見 人間科学 空間デザイン。人の心理や五感、人 杉子さんにお話を伺いました。 体寸法や行動と空間の関係から 「ただ美しいだ けではない、心身にプラスに働きかける空間」 を 導き出す空間デザイナー。環境心理学、行動学、 ー ノーベル物理学賞受賞に輝く日本人の功績 21世紀の照明として急速に進化し発展しているLED照明は、 日本人3名 の物理学者が青色LEDを発明した功績によるものです。赤と緑色のLED は、 すでに約30年前に開発されていましたが、光の三原色のうち、青色の開 発が難航していました。赤と緑の光だけで作り出すことのできる光の色で は、特殊な用途に限られてしまいます。光の三原色を混色(加法混色) して 知覚や色彩心理学など、科学的知見と美的セン スを融合させた空間提案を行う。住宅、モデル ルーム、 ホテル、店舗、病院などを幅広く手がけ る空間づくりのプロフェッショナル。色彩やイン テリア関連講座で講師をつとめるほか、新商品 の開発アドバイスやカラーコンサルティングも 行っている。健康で幸せなストレスフリーの空 間づくりを目指し、現在、大学にて空間が人に与 える影響を研究中。 はじめて白い光を作り出すことができます。 赤崎勇氏・天野浩氏・中村修二氏による青色LEDの発明、製品化の成功 によって、色光の三原色がそろい、 白色光をやっと可能にしました。 その功 績が「人類に大きな利益をもたらす発明」 として評価され、2014年ノーベル 物理学賞を受賞したのです。 LED照明は、 白熱灯や蛍光灯に比べて低消費電力、長寿命、低発熱で、 エ ネルギー効率が非常に高いことが特徴です。世界の電力消費量の1/4が照 明に使用されています。 それらがLEDに替わることで大きな省エネルギー となります。 そして、LED照明の消費電力の少なさは、小規模な太陽電池に よる電力での照明を可能にします。世界で電気が通っていない地域に住む 左:パナソニック株式会社ライティング事業部里見 杉子さん(2級カラーコーディネーター資格取得) 約15億人の人々の生活水準向上につながります。 光の三原色がそろったことが世界を変えるきっかけになったのです。 ーLED照明で 「美しさ」 を際立たせる時代へ ∼パナソニック 「美光色」∼ 「パナソニックの 『美光色』 は、 日本人の肌の色を美しく見せるLED照明で 美光色の分光分布曲線図 『美光色』 について下記URLより webパンフレットがご覧いただけます。 http://www2.panasonic.biz/es/lighting/led/ concept/pdf/bikousyoku.pdf す。 日本人の肌と光の関係を追求して、LEDの波長のなかで、肌がくすんで みえる原因となる波長570∼580nm前後の黄色の光の波長を制御するこ とに成功し、 これまでにない肌の色の見え方を実現しました」 と里見杉子さ んは、眼を輝かせて話してくださいました。 光の三原色それぞれの光量の調節によって、色相、彩度、明度をもつさま ざまな色がつくりだされます。肌の色を美しく見せる光は、肌にあたる光の 波長の量の調節により可能になったのです。 「百貨店のパウダールームや美容・ヘアサロンなどで、大きな反響をいた だいています。女性の多い社員食堂やトイレに採用された例では、顔色が生 店舗全景写真 き生きと見えることから、女性社員の士気が高まると好評を得ています。 また、 『美光色』 は、肌の色を美しく見せるだけでなく、物の色の忠実性の 評価である平均演色評価数Ra95を実現しました。従来、識別しにくかった 色を忠実に再現できるので、 アパレルショップなどでも積極的に採用され ています。 たとえば紳士服のスーツの色は、紺やグレーのバリエーションが 多く、 これまでの店舗照明では、 メーカー側で用意している微妙な色や織、 糸の違いがお客様に伝わっていませんでした。 『美光色』はその点、色の差 や素材の差がわかりやすいのです」 と里見さん。 スーツ:微妙な色の違いがわかりやすい ー導入事例:アパレルショップ 「m.f.editorial木更津店」 実際に、 「美光色」が採用されているアパレルショップ「m.f.editorial木 更津店」 をお訪ねしました。 まず、遠くの距離から店舗まで近づいたとき、店 内には生き生きとした光が満ちているのがわかりました。 さらに近づくと、 ピンクのシャツが目に飛び込んできます。商品がとても魅力的に見えます。 そして、 スーツの色や生地感、 シャツの織りが、確かにわかりやすく見やすい のです。 店長の草野氏にお客様の反応をうかがってみると、 「メンズでは、他の店 舗ではなかなか売れにくいグリーンや明るいブルー、 さし色として使うカ ラーの物が売れています。 レディスでは、特にピンクやパープル、白やネイ ビーの人気があります。 フィッティングでのお客様の反応もとても良いので すよ」 と笑顔で話してくださいました。 「美光色」 のラインナップには、 スポットライトやダウンライト、 ユニバーサ ルダウンライト、ベースライト、建築化照明用器具など、店舗の照明設計に 必要なプロダクトがそろっています。光の色は、昼白色、 白色、温白色、電球 色の4種類から選ぶことができます。店舗の照明計画をご担当された里見 ピンクのシャツ:商品が魅力的に見える 杉子さんによると、 「今回の店舗では、 さわやかな中に落ち着きを持たせる ため、色温度3500Kの温白色を使用しています。 アパレルショップでは、春 夏と秋冬、季節によって商品の色味や、素材感がまったく違うので、季節に 合わせて、夏期は夏の光をイメージさせる強めの光、秋冬は落ち着いた色 味、ふわっとした素材感のものに合わせて柔らかな光で温かみを演出する 手法もあります」同じ光でも光の量で強さを変えると、色相がやや変化して 見えるベツォルド・ブリュッケ現象(2級テキストp72参照)の利用です。温 白色のLEDの光の量の調節によって、欲しい光をつくりだしているわけで 美光色ダウンライト す。 ー 色光の可能性 「美しく見える、生き生きと感じる、見やすい」 という特長は、顧客満足度 だけでなく、オフィスのメンタルヘルスや生産効率向上、人とのコミュニ ケーションの活性化にもつながります。 さらに、人の心理面での生理的反応 にも密接に関連しています。人を笑顔にする照明を、 日々の暮らしの場に取 高演色ユニバーサルダウンライト り入れることで健康にも影響があるでしょう。一日の時間や季節の変化に 合わせて光の強さや色味を調整できる機能を持った照明器具も開発されて います。今後は、 目的に応じた光、場面によって調節できる光のニーズが、 よ り高まって行くことと思います。 19世紀末にエジソンが試作した白熱球から約100年、青色LEDの発明に よって、大きく可能性が飛躍したLED照明。光の可能性は、 すなわち色彩の 可能性でもあります。 どんな光を取り入れるかで、 わたしたちの暮らしは大 きく変わります。 わたしたち誰もが、欲しいときに欲しい光が得られる日も、 すぐそこに来ています。 これからの光の可能性がとても楽しみです。 認定講師が教える! ワンポイント カラー検定! ! 3種類の色光はどの色でもよいというわけでもなく、できるだけ少ない色数で、多くの色を再現する ことが望まれる。このできるだけ少ない色数が3であり、なおかつ再現できる色が多いという基準で選 ぶと、その色は赤(R)、緑(G)、青(B)、となる。このできるだけ少ない色数でできるだけ多くの色を出す 色を原色と呼び、加法混色では原色が3であるので、三原色と呼ばれている。 この三原色の赤と緑から青緑が作られ、3色を混色すると白が作られる(図・表8-2)。 ̶3級テキストp155掲載「加法混色」̶ 加法混色という名称は、元の明るさの足し算(元のエネルギーの足し算)になることからつけられていま す。そのため、混色された色光のエネルギー量のほうが、元のそれぞれの色光よりも大きくなり、明るさも 明るくなります。3級テキストp156の図・表8-3にあるように、赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの色を混色し たときにできる色は、図の三角形の領域内です。これを「色再現域」といいます。今回のアパレルショップ で、季節によって照明の色や明るさを変えているのは、この色再現域の領域の中で、夏は青(B)の明るさを 強めにし、秋・冬は、それぞれの色の明るさを少し抑えながら、赤(R)の明るさを強めに設定して光を作り だしているのです(3級テキストp154 157)。
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