急性期の家族を支える - 神奈川県立こども医療センター

急性期の家族を支える
神奈川県立こども医療センター
家族支援専門看護師
佐藤律子
家族にとっての急性期とは?
家族の一人が
病気になる
その衝撃で
家族員が
揺れ動く
他の家族員も
揺れ動く
家族の揺れを止めるためにどうしたらよいでしょうか
揺れ動いている家族へのケア
グリーフの視点
→喪失と悲嘆
• 家族看護の視点
→家族像の形成
家族の発達に合わせたアセスメントと援助
•
喪失(1)
•
•
•
以前に所有していたものや、愛着を抱いていたものを奪われる、
あるいは手放すこと
人が生活の中で感情的に投資している何かを失うこと
喪失する対象の分類
①人物;肉親との死別や離別、親離れ、子離れ、失恋、親友との不和、友人、
同僚、先生、隣人との別離
②所有物;大切に持っていたものの紛失や損壊、ペットの死、財産、能力、地位
③環境;故郷、住み慣れた家、通いなれた学校や職場、行きつけの場所、役割、
生活様式
④身体の一部;手足の切断、失明、失聴、脱毛、抜歯、身体機能の低下
⑤目標や自己イメージ;自分の掲げた目標、自分の思い描く自己イメージ、
自己のアイデンティティ、誇りや理想
喪失(2)-分類
小此木「外的対象喪失」「内的対象喪失」
• Rando「物理的喪失」「心理社会的な喪失」「表象的な喪失」
• 小此木「強いられた喪失」「自分が引き起こした喪失」
•
「強いられた喪失」→自分が望まずに無理に引き離されたりする場合と、対象で
ある相手から見捨てられたり、突き放されたりする場合がある
「自分が引き起こした喪失」→自分が意図的に対象を見捨てる場合と、自分の
過ちや行いによって意図せずに対象を失ってしまう場合
Ross「曖昧な喪失」→①身体的には不在であるが、心理的に存在
していると認知される場合 ②身体的には存在しているが、心理的に
は不在と認知される場合
•
予期悲嘆
喪失の前に生じる悲嘆のこと
• 病気の進行に伴って患者や家族などが経験する多様な物理的、
あるいは心理社会的喪失に対する反応
• 死別後の悲嘆との違い
①患者と家族の両方によって通常経験される
②死によって必ず終わる
③時間がたつにつれて増大する
④否認される傾向にある
⑤希望を含む
• 予期悲嘆によって、死別後の悲嘆が軽くなることはない
•
家族看護学とは
家族が、その家族の発達段階に応じた発達課題を達成し、
家族自身で問題を認識し、
健康的なライフスタイルを獲得したり、
その解決方法を見つけ出せるように、
家族が直面している健康問題に対して、家族という集団が
援助をしていくことが大切である
主体的に対応し、問題解決し、対処し、適応していくように、
家族が本来持っているセルフケア機能を高めること
(「家族看護学~理論と実践~」
鈴木和子、渡辺裕子著 日本看護協会出版会)
家族看護って?
1.
2.
3.
4.
文脈とは、そこに流れ
る、その人の言い分、
根本の主張や本音。
関係や役割からひも解
く。
アセスメントする
•情報収集し家族像を形成する(文脈を読む)
•看護上の問題を明確化する;援助の必要性の判断、問題とその背
景の明確化
家族を対象とした看護計画の立案
•援助仮説を設定する;家族成員個人、家族成員間の関係性
•目標を設定する;家族と目標の共有と対策の検討
家族看護の実践
•家族成員に対する援助
•家族成員間の関係性に働きかける援助
•家族単位の社会性に働きかける援助
家族看護の評価
鈴木和子,渡辺裕子(2012):家族看護学.第4版
-理論と実践-,日本看護協会出版会
家族像の形成のための視点
健康問題の全体像
家族の対応能力
構造的側面
機能的側面
発達課題
対処経験
家族の対応状況
家族の適応状況
鈴木和子,渡辺裕子(2006):家族看護学.第3版
-理論と実践-,日本看護協会出版会
家族像の形成のための視点
健康問題の全体像
家族の対応能力
構造的側面 機能的側
面
①健康障害の種類
②健康の段階
対処経験
③日常生活力(生命維持力、ADL、セルフケア能力、
社会生活能力)
家族の対応状況
④家族内役割の遂行能力
⑤経済的負担
家族の適応状況
家族像の形成のための視点
健康問題の全体像
家族の対応能力
構造的側面 機能的側面
発達課題
①家族構成(家族成員の性、年齢、同居・別居の別、
居住地)
②職業
対処経験
③家族成員の健康状態(体力、治療中の疾患)
④健康問題に対する関心、理解力
⑤生活習慣(生活リズム、食生活、余暇や趣味、飲酒、
家族の対応状況
喫煙)
⑥経済的状態
⑦住宅環境(間取り、広さ、設備)
家族の適応状況
⑧地域環境(交通の便、保健福祉サービスの
発達状況、地域の価値観)
①家族の情緒的関係(愛着、反発、
関心・無関心
②コミュニケーション(会話の量、明
瞭性、共感性、スキンシップ、ユーモ
ア)
③相互作用(患者-家族成員間、
家族成員間)
④家族の価値観(生活信条、信仰)
⑤役割分担(役割分担の現状、家
族内の協力や柔軟性)
⑥勢力構造(家族内のルールの存
在・柔軟性、キーパーソン)
⑦社会性(社会的関心度、情報収
集能力、外部社会との対話能力)
家族像の形成のための視点
健康問題の全体像
家族の対応能力
構造的側面 機能的側面
発達課題
対処経験
家族の対応状況
家族の適応状況
家族の発達段階
育児、子どもの自立、老後の生
活設計など
過去の対処体験
育児、家族成員の罹患、介護経
験、家族成員の死など
家族像の形成のための視点
健康問題の全体像
①患者・家族成員のセルフケア状況
②健康問題に対する認識
家族の対応能力
③対処意欲
④家族の情緒的反応(不安、動揺、ストレス反応)
構造的側面
機能的
⑤認知的努力
⑥意見調整
側面
⑦役割分担発達課題
⑧生活上の調整
⑨情報の収集
⑩社会資源の活用
対処経験
家族の対応状況
家族の適応状況
①患者・家族の心身の健康状態の
変化
②家族の日常生活の質の変化
③家族内の人間関係の質の変化
ジェノグラムとエコマップ
•
•
ジェノグラムは,原則として3世代をさかのぼる家族員(同居,
関係が深い人を含む)の家系図を表したもの
家族関係が一目瞭然となり,問題の整理や誰に働きかけると
よいか等の支援策を検討するのに役立つ
エコマップは,支援を要する家族を中心として,その家族の
問題や解決に関わっている(関わる必要がある)人や機関を
記載したもの
全体の関係性を把握し,各機関の役割を検討するうえで有効。
適宜作成し比較すると,関係機関の関わりの変化を確認できる
90歳
76歳
85歳 78歳
46歳
50歳
それぞれの家族員の住居、
健康状態、コミュニケーション、
関係性
仕事などの役割
年齢からの推測
これまでの家族の物語
これからの家族の物語
21歳
15歳
「一般」「普通」「常識」的対応か
らのズレには、その家族なりの
「訳」がある。
「訳」 つまり 「事情」であり、その
ことへの理解が大切。
家族発達理論(1)
家族:本質的に長期に生存する集団、あるいはライフ
サイクルを伴う集団
• 家族のライフサイクル:家族の変化の過程を
家族
の成長・発展であるとし、家族のたどる周期的変化の
各期を家族周期で表わし、その時期 ごとに家族の
発達課題がある。
• 危機的移行:各家族周期での課題を達成しながら次
の段階へ移行するが、このときに危機に陥りやすい。
•
鈴木和子,渡辺裕子(2006):家族看護学.第3版
-理論と実践-,日本看護協会出版会
8段階からなる家族ライフサイクル
第1段階:家族の誕生
第2段階:出産家族(年長児が2歳6カ月になるまで)
第3段階:学齢期の子どもを持つ家族(年長児が2歳6カ月から 5歳
になるまで)
第4段階:学齢期の子どもを持つ家族(年長児が6~13歳になるま
で)
第5段階:10代の子どもがいる家族
第6段階:新たな出発の時期にある家族(第1子が家庭を巣立ってか
ら末子が巣立つまで)
第7段階:壮年期の家族(空き巣から退職まで)
第8段階:退職後の高齢者家族(配偶者の退職から死まで)
M.Friedman著,野嶋佐由美監訳(1993):家族看護学-理論とアセスメント,へるす出版,
家族システムと家族の発達課題(1)
第1段階:家族の誕生
• 発達課題
① お互いに満足できる結婚
生活を築く
② 調和のとれた親族ネット
ワークを築く
③ 家族計画を立てる
• 役割の拡大
男性→息子、夫
女性→娘、妻
•
家族システムと家族の発達課題(2)
第2段階:出産家族
• 発達課題
① 子ども、母親、父親、それぞれ
の発達ニーズを満たす
② 家族メンバーが新しい役割を
学習する
③ 家族で役割の調整を行い、
家族機能や家族関係を拡大する
④ 家族計画を立てる
• 役割の拡大:男性→息子、夫、父親
女性→娘、妻、母親
•
家族システムと家族の発達課題(3)
第3段階:学齢前期の子どもを
持つ家族
• 発達課題
① 子どもが役割を獲得できるように
育てる
② 子どもの事故や健康障害を予防す
る
③ 第1子のニーズを満たしながら、第
2子のニーズを満たす
④ 親役割と夫婦役割を調整する
⑤ 親子関係を調整する
•
急性期の家族を支える
家族の物語を理解する、そこから家族メンバーひと
りひとりの物語を理解する
• 家族の揺れの中で特に大きいのは誰か、その揺れ
の大きい人に一番影響を与えられるのは誰か、自
分がコンタクトをとれるのは誰か
• 家族自分の常識にとらわれずに、客観的なツールを
用いながらをとらえる
•