第 65 回 イランの核開発をめぐる合意による対イランビジネス拡大の期待

「海外ビジネスコラム(第 65 回)」
(公財)富山県新世紀産機構 環日本海経済交流センター 鹿野健・海外販路開拓支援マネージャー
第 65 回 イランの核開発をめぐる合意による対イランビジネス拡大の期待
本年(2015)7 月 14 日にイランと国連安保常任理事国 5 カ国プラスドイツの 6 カ国はイ
ランの核開発を長期間にわたり制限することに合意しました。(但し 9 月に米国の連邦
議会でこれが承認されることが条件)
また、同日イランと IAEA(国際原子力機構)
は、イランの過去の核開発に関する軍事的側面に関する検証を年内に完了させるとの行
程表で合意しました。この動きについては、政治的に賛否両論がありますが、ここでは
最終的に合意が成立することを前提に同国とのビジネス拡大について考察したいと思
います。
1)2011 年の米国の対イラン制裁強化の前の段階ではイランからの原油及び天然ガス
輸出、また同国向けの自動車、機械産業への投資などが積極的に行われていた。しかし、
2011 年の制裁強化により、これらが厳しく制限される状況が続いていた。
2)然るに 7 月 31 日付け読売新聞によれば、7 月 14 日の合意以降欧州各国は次のよう
な積極的な経済外交をイランに対して取り始めている。
1.フランス : 外務大臣が 7 月 29 日に訪イし、ロウハニ大統領のフランスへの招
待を表明。
2.ドイツ : 7 月 19 日ガブリエル副首相が訪イ。
3.イタリア :
来週閣僚二人が訪イ予定。
4.スペイン :
9 月に経済閣僚が訪イ予定。
3)原油については、同国は世界の埋蔵量の 9.5%を占める第 4 位の資源大国であり、
現状日量 2.8 百万バレルの生産量で世界第7位である(OPEC では第 3 位)
。1979 年の
宗教革命以前のパーレビ王朝時代のピーク時(1970 年代)には約 6.0 百万バレルであっ
たことを考慮すれば大幅な減少ではあるが、今回の制裁解除により半年後には 3.4~3.6
百万バレルまで回復するとの見方がある。但し、老朽化した掘削設備の早期復旧が前提
となる。
4)制裁解除により原油の輸出が増えることで外貨準備の伸びが期待され、それに伴う
同国向けの産業資材需要の大幅な伸びが期待できる。例えば、原油掘削用パイプ、油送
用パイプ、パイプ製造用鋼板、輸送機器、通信設備等である。元来同国はこれら商品の
大きな輸出市場であり、特に日本・ドイツがこれら商品の主な供給国であった。制裁解
除という状況に至った以上、当然日本及びドイツを始めとする欧州からの積極的な売り
込み活動が見込まれる。
「海外ビジネスコラム(第 65 回)」
(公財)富山県新世紀産機構 環日本海経済交流センター 鹿野健・海外販路開拓支援マネージャー
5)尚、筆者自身がテヘラン駐在時に経験したことであるが、1990 年代初頭に突如イ
ラン中銀で外貨が払底し、日本商社全体で 1,000 億円のオーダーでの輸出代金未収とい
う事態が発生した(L/C の unpaid)
。その解決には約 1 年間かかり、結局日本商社全体
で「オイルスキーム」と言う方策で輸出代金を回収した経緯がある。具体的にはロンド
ンに「エスクロウ アカウント」と称する使途を規定する口座をイラン石油公社(NIOC)
名義で開設してもらい、その口座に日本商社が輸入する原油代金を振り込み、その代金
は全て日本商社の商品輸出代金の返済に充てるという方策であった。この案件は当時新
聞にも載ったことを記憶しているが、このように予想不可能な事態が発生することもあ
るのが貿易ビジネスの特徴であり、今後同国向けの輸出に積極的に取り組むと同時に常
に彼らの保有外貨ポジションに関する情報を把握することが必要になろう。
以上
追記)
上記原稿作成後の新聞報道によれば、8 月 9 日には日本の山際経済産業副大臣がイラン
の石油相とテヘランで面談し、日本からの油田開発、原油生産の技術移転に関する協議
を行い、イラン側からは日本企業と話す準備があるとの期待が表明された。
(2015 年 8
月 12 日記)
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