平成27年9月18日(金) 小児在宅医療支援者交流会 疾患・障害のあるこどもの きょうだい支援 神奈川県立こども医療センター 看護局 看護教育科 田阪 祐子(小児看護専門看護師) きょうだい支援の基本的な知識 p 疾患・障害のあるこどもと家族 ●生まれもって障害がある ●突然、病気になって、治療のための入院や定期的 な通院が必要になる きょうだい支援の基本的な知識 p きょうだい支援の歴史 ●1958年 英国のHoltが障害児・者のきょうだい への支援の必要性を最初に提言 ●1990年 米国「特別なニーズのある子どもの同胞に 対する支援事業」 (Sibling Support Project:SSP) ①学童期の同胞に対する支援モデルの開発と実施 ②思春期以降の同胞のセルフヘルプ活動への支援 ③支援提供者の交流 ④親や支援提供者に対する啓蒙など きょうだい支援の基本的な知識 p きょうだい支援の歴史 ●日本では・・・ 1963年 「全国心身障害者をもつ兄弟姉妹の会」 ⇒名称変更「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」 1996年よりきょうだいへの支援を目的とした 活動を開始 ●きょうだいによるセルフヘルプグループ きょうだい支援の基本的な知識 p きょうだい支援 ●親ときょうだいの関わる時間を確保 ・病気・障害のあるこどもレスパイト ・親への支援(情報提供) ●きょうだいへの直接的なかかわり (ピアサポート) ・きょうだいへの情報提供 ・きょうだいが主役となるプログラム ・きょうだいのカウンセリング きょうだい支援の基本的な知識 p 小児医療専門施設におけるきょうだい支援(石川他:2012) 面会時や受診時のきょうだい預かり きょうだい面会 きょうだいを対象とした環境整備 きょうだいへの説明 行事への参加 きょうだいの経験 白鳥めぐみ、諏方智広、本間尚史著: きょうだい、―障害のある家族との道のり―、中央法規、2010. p 学校に入るまで p 小学生から中学生 p 高校生から大学生 p 大人になってから 学校に入るまで ●このころはまだ、他人との違いに気づいていない。 ●自分にない病気や発作、感覚の違いが障害のある きょうだいにはあるのだということはわかっている。 p 障害があることはかわいそうなことなの? (エピソード12) <僕のお兄ちゃんは目が見えない。生まれつき目が 見えないけれど、僕はそんなことを考えたことがな かった。お兄ちゃんは、上手に壁やテーブルをさわり ながら歩くからぶつかったりすることはないし、家の 中のいろんなものの位置はだいたいわかっている。 ・・・・・・ 「目がみえないなんてかわいそう」最初はその意味 がよくわからなくて、ぼくはそのセリフのシーンを何 回も見た。かわいそうって?かわいそうなの?お兄 ちゃんは、目が見えないこと、だからできないことが あることはすごくかわいそうなことなんだ。周りの人 はそう思うんだ。そういうことなんだって思った> ▶きょうだいにとっては工夫して過ごしている兄弟の 姿は当たり前 ▶周りと自分の気持ちとの狭間で困惑したり、理解し たりしながら、きょうだいは成長していく。 障害の受容 親の障害受容過程 【ショック→拒否→悲しみ・怒り・不安→適応→再起】 p きょうだいの障害受容過程 【自然な状態→混乱期(心配する気持ち・自己猜疑) →成長した段階(解決への努力の段階)→受容状態】 小学生から中学生 ●学校に入るとたくさんの友達と出会う ●友達を通して、ほかの家族や兄弟関係をしり、自分 との違いや世間からの見られ方に気づく場面も増えて くる p やっぱり友達には話せない(エピソード 22) <隠したかったわけではないけど、周りの友達には 「私には兄弟はいない」ということに今はなっている。 本当はお姉ちゃんがいて、お姉ちゃんには障害があっ て、特別支援学校に行っているけど、寮に入っている から普段は家にいなくて、ときどきしか帰ってこない。 (中略)でも、昔は言ったこともあった。でも、「お 姉ちゃんは何年生?何組?」と聞かれて、困ってし まった。「お姉ちゃんは学校が違う」ということが言 えなかった。だって言ったら「どうして?違う学校な の?」と聞かれるに決まっている。そしたら、なんて 答えたらいいのかわからないから。特別支援学校とか 障害とか言ったら、友達はなんて思うのかな?「それ 何?」と聞かれたら、説明しなくちゃいけないのかな。 もしかして「そんなお姉ちゃんがいるなんて・・・」 と嫌われちゃったらどうしよう。そう思ったら、なん て答えたらいいのか頭が混乱してきて私は適当に答え てしまった。・・・> ▶きょうだいのなかには、障害のある兄弟姉妹のことを 話すのは意外と平気だったという人や、絶対に話すのは 嫌だという人、本当は嫌だったけど仕方なく話したとい う人もいる。 ▶また、話さないことで自分を責めて苦しんでしまって いるきょうだいもいる。 ▶年代ごとに話す内容、話す相手は変化していく。 ▶繰り返すうちに自分なりの伝え方や、その場の雰囲気 を読んで選択する術が磨かれ、気持ちが楽になっていく。 p 私にも教えてほしい(エピソード17) <(中略)弟が施設に入ることになったのもいきな りだった。よくわからないまま、ある日大きな荷物が まとめられて、服もバギーも好きなおもちゃもすべて 車に積み込んで、弟と一緒に私も行ったこともないは じめてのところに連れて行かれた。「ここは何?学 校?」と聞いた私に、お母さんは「今日からあきらは ここに住むことになったから」と言った。私は最初、 意味がよくわからなかった。弟は、この部屋でみんな と一緒に寝泊まりして、この施設の中にある学校みた いなところで勉強することになったらしい。 学校の先生はいるのかな?ここの人たちは白衣みた いな制服を着ているけど、みんな看護師さんかな?わ からないことが山ほどあって頭の中をぐるぐる回った。 お母さんに「ここに住むとお金がかかるの?」と聞い たら、「役所が払ってくれるのよ」と答えてくれたけ ど、本当に聞きたかったのは、「弟はどうしてここに 住むの?」ということだった。でもうまく聞けなかっ た> ▶家族が大事な決断をしているときでも、きょうだい には何も知らされていないままということがある ▶きょうだいは、家族が大変な状況にあるということ には、すでに気づいている。それなのに、「あなた はいいから」と教えてもらえないことに、仲間はず れのようなさみしさを感じていたりする。 ▶自分の大事な弟だからこそ、一緒に心配したい、一 緒に考えたい、現状を詳しく知りたい。 p なんでも一人でできるよ。(エピソード37) <小さいときから、私はなんでも一人ですることが できた。お母さんはいつも障害のある弟の世話で忙し かったから、一人でやってのけるようになった。子ど もには持てない荷物だって、ずっと持って歩くことが できた。そんなの平気だった。(中略)学校で明日使 う教材にする空き缶を持ってくるように言われたとき、 私は家のどこに空き缶があるかわからなかった。疲れ て寝ていたお母さんを起こすのは申し訳なくて、一人 で台所で空き缶探しをしたけど、見つかったのは中身 が入った桃の缶詰だった。(中略)今度は缶切りの 場所がわからなかった。仕方なく私は大きなハサミで 缶に穴をあけようとした。ガンガンとハサミを打ち付 けている音に気づいてお母さんが起きてきて「なにし てるの?」と聞かれたけれど、私は、どうしても、 「明日空き缶が必要で、だからこうして・・・」とい うことを話せなかった。お母さんを起こしてしまった ことが申し訳なくて、空き缶や缶切りを見つけられな かった自分のふがいなさが悔しくて、私はボロボロ泣 いた。もっと、自分がしっかりして、なんでも自分の 力で生きていけるようにしなくてはいけないのに。失 敗してはいけないのに。どうして一人でできないんだ ろうと思うと悔しかった> ▶いつも親が悩んでいる姿をみたり、介護や世話で大 変な姿をみていると、できるだけ親の負担を軽くしよ と考える。 ▶実際に手を貸してもらえることが少ないために、幼 い頃からなんでも一人でできるようになる。 ⇒そのことで親が喜んでくれたり、家庭内での雰囲 気が少しでも明るくなった経験があれば、なおさら一 人で頑張り続けてしまう。 ▶自分のことを二の次にしてしまう。 高校生から大学生 ●生活範囲が広がり、家族を少し客観的にみられるよ うになる ●将来のこと、自分自身の生き方を選び、大人として の一歩を踏み出すための大切な時期 p p p どうして親は変わらないのだろう。 友達には自分から話すべき? 夢か家族かで迷ってしまう。 大人になってから ●就職、結婚、出産など、人生の大きな節目を迎える ●きょうだいであることを知らない同僚とのつき合い 方、新たな家族との関係。 p p p 同僚には自分から話すべき? 結婚相手には、いつ・どう伝える? 親亡き後を考えはじめる 【成長と共に確立されたきょうだいの障害理解とそれに伴う感情】 プラス的感情 <家庭における存在> <兄弟の長所や成長を認識> <兄弟に対する積極的意味付け > <関わりを通して得られた強み> <視野の広がり> マイナス的感情 <健常きょうだいとしての負担・ プレッシャー> <周囲の目> <自分を取り巻く環境の崩壊> <健常のきょうだいであればと いう願い> きょうだい の成長 肯定的障害受容 【障害のあるきょうだいの未来に対する思い】 親の願い・ プレッシャー 【きょうだいとして感じる必然性・使命感】 図) 春野ら(2011):障害者のきょうだいの思いの受容と将来に対する考え方より一部引用 きょうだいへの支援 p 支援の目をきょうだいへ 参考・引用文献 ・白鳥めぐみ、諏方智広、本間尚史(2010):きょうだい‐障害のある家族と の道のり‐中央法規. ・遠矢浩一(2009):障がいをもつこどもの「きょうだい」を支える、ナカニ シヤ出版. ・戸田竜也(2005):「よい子」じゃなくていいんだよ‐障害児のきょうだい の育ちと支援‐、新読書者. ・今田真沙美、佐野秀樹(2010):障害児・者のきょうだいが持つ感情のモデ ル化‐感情のつながりに着目して‐東京学芸大学紀要、61(1)、175‐183. ・春野聡子、石山貴章(2011):障害者のきょうだいの思いの変容と将来に対 する考え方、応用障害心理学研究、10、39‐48. ・石川紀子、西野郁子、堂前有香他(2012):小児医療専門施設におけるきょ うだい支援の現状、小児保健研究、71(2)、289‐293. ・中野綾美(2002):健康障害をもつ子どものきょうだいを支える看護アプ ローチ、小児看護、25(4)、459‐465.
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