抗てんかん薬とその副作用 第一章 はじめに 第二章 てんかんとは

抗てんかん薬とその副作用
所属:化学・薬学ゼミ
2年5組26番 中島 悠吾
第一章 はじめに
第一節 テーマ設定の理由と研究のねらい
まず初めに、私の弟はてんかんという疾患を抱えており、小さい頃は何度か大規模なて
んかん発作を起こしたが、ここ7,8年は大規模なてんかん発作を起こしていない。その
理由として抗てんかん薬が大きな意味を持っていることは疑う余地がない。しかし、私の
弟はてんかん発作を起こしていないここ7,8年でも何度か抗てんかん薬の種類や量を変
えている。その理由として大きな割合を占めるのは副作用だろう。副作用の私の弟のケー
スでの具体的な例をいくつか挙げると、寝起きが非常に悪い、我慢が出来なくなる、気分
の浮き沈みが激しい、食べ物をあまり食べなくなるなどである。これらの副作用が何故起
こるのか、それを詳しく調べたい。これを調べ、その原因に対する対策を立てられるよう
にしたい。今現在、てんかんという疾患を抱えている人の割合は1000人に4人~10
人ほどと非常に高い。この疾患に苦しむ人が多いということは、薬の副作用を出来るだけ
抑えることによって、助けることの出来る人も非常に多いということである。この分野を
研究することの社会的意義は非常に大きなものである。以上のような考えから私は今回こ
のテーマを設定した。
第二節 研究の内容と方法
1.
研究内容
様々な種類のてんかんの症状に対する様々な種類の抗てんかん薬という広い範囲での
抗てんかん薬の研究に加え、私の弟のケースの具体的な抗てんかん薬の服薬とその効果
の研究。
2.
研究方法
てんかんや抗てんかん薬についての書籍やインターネットのページで主な情報を調べ、
更に弟の今までの行動を顧み、書籍やインターネットのページでは分からなかった部分を
実際の事例をとって補足する。
第二章 てんかんとは
第一節 てんかんの定義
てんかんの現在の一般的な定義は、1973年、WHO(世界保健機関)によると、
「種々の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射
1
から由来する反復性の発作(てんかん発作)を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに
検査所見の表出がともなう。
」
とされている。これを具体的に見ていくと、てんかんとは、
① 慢性の脳疾患であること
② 大脳ニューロン(神経細胞)の過剰な電気発射があること
③ 反復性の発作があること
が重要な条件となる。これらの条件を診療室の場面で言い換えると、
「脳波に異常があって、
ある程度決まったパターンの発作が繰り返されること」となる。
第二節 てんかんの疫学
疫学とは、その地域や集団の中で、どのぐらい疾患にかかっている人がいるのか、また
はその原因としては何が多いのか、などを研究する学問のことである。
日本におけるてんかんの有病率(ある時点を限って、一般人口の中にどれほどの患者がい
るかを示す割合)は、人口1000人あたり4~10人とされている。これは、日本の総人
口を1億2000万人とすると、約100万人の人々が何らかのてんかんを持っているこ
とになる。
この数値に私は驚いた。この数値はつまり、てんかんとは特別な病気でなく、一般的な
病気であるということを示している。一般的な病気である上にごく身近にその病気を抱え
る人がいるのにも関わらず、その病気の知識を昨年の総合論文を作成するまでほとんど持
っていなかったため昨年はてんかんという疾患自体のことについて研究し、その段階で抗
てんかん薬についての研究も必要だと感じていた。
第三節 てんかんの原因
てんかんには、病因がわかるものと、はっきりとは断定できないものの二種類に大別さ
れる。大脳に何らかの病変があるものを「症候性てんかん」と言い、病変がはっきりしな
いものを「特発性てんかん」と言う。
症候性てんかんの病変としては、頭部外傷、脳の先天的奇形、出生時の低酸素状態、脳
腫瘍、脳卒中、脳炎などさまざまある。これらのてんかんは、てんかん全体のおよそ3割
と言われている。そうなると、残り7割は特発性てんかんとなる。私の弟もこちらに分類
されるてんかんである。特発性てんかんは原因がはっきりとは断定できないが、抗てんか
ん薬がよく効くと言われている。
第三章 抗てんかん薬の種類と副作用、そのメカニズム
第一節 抗てんかん薬とは
そもそも抗てんかん薬とは一体何で、どのような特徴を持っているのだろうか。
2
抗てんかん薬とは、てんかん発作を止める、あるいは頻度を低くする薬のことである。
服薬の目的は、発作を抑制し、その頻度を下げ、出来れば完全に発作を止めることにある。
そして抗てんかん薬の特徴として、服薬を中止すれば再発する可能性が非常に高いとい
う特徴がある。そのため、てんかん発作が長らく無いからといって患者が自分の判断で服
薬を止めるべきではない。前述の通り私の弟はここ7,8年大規模なてんかん発作を起こ
していないが、現在でも毎日服用を続けている。抗てんかん薬は「抗」なのであって、
「治」
ではない、つまり抑えることは出来るが完全に無にすることは出来ない薬ということであ
る。
第二節 抗てんかん薬の種類と副作用
現在抗てんかん薬の種類は数多くあり、その中の代表的なものを示す。
化学構造別
一般名
略称
主な商品名
フェノバルビタール
PB
フェノバール、ノーベルバール
プリミドン
PRM
プリミドン
フェニトイン
PHT
アレビアチン、ヒダントール
エトトイン
EHT
アクセノン
オキサゾリジン系
トリメタジオン
TMD
ミノアレ散
サクシミド系
エトスクシミド
ESM
ザロンチン、エピレオプチマル
アセチル尿素系
アセチルフェネトライド
-
クランポール
イミノスチルベン系
カルバマゼピン
CBZ
テグレトール
ニトラゼパム
NZP
ネルボン、ベンザリン
ジアゼパム
DZP
セルシン、ホリゾン、ダイアップ
クロナゼパム
CZP
リボトリール、ランドセン
クロバザム
CLB
マイスタン
バルプロ酸ナトリウム
VPA
デパケン、セレニカ
アセタゾラミド
AZM
ダイアモックス
スルチアム
ST
オスポロット
ゾニミサド
ZNS
エクセグラン
臭化物
臭化カリウム
KBr
臭化カリウム
その他
ガバペンチン
GBP
ガバペン
その他
トピラマート
TPM
トピナ
その他
ラモトリギン
LTG
ラミクタール
その他
レベチラセタム
LEV
イーケプラ
バルビツール酸系
ヒダントイン系
ベンゾジアゼピン系
分枝脂肪酸系
スルフォンアミド系
ベンズイソキサゾール
系
次に、それらの抗てんかん薬の副作用として代表的なものを示す。
3
一般名
主な商品名
フェニトイン
アレビアチン、ヒダントール
フェノバルビタール
フェノバール
バルプロ酸ナトリウム
デパケン、セレニカ
主な副作用
めまい、眼振、眠気、運動失調、
歯肉増殖、多毛、発疹、骨粗鬆症
眠気、発疹、認知障害、気分変化、
多動
吐き気、下痢、脱毛、体重増加ま
たは食欲減退、肝機能障害、振戦
複視、めまい、眠気、運動失調、
カルバマゼピン
テグレトール
発疹、白血球減少症、低ナトリウ
ム血症
ゾニサミド
エクセグラン
スルチアム
オスポロット
ジアゼパム
セルシン、ホリゾン
ガバペンチン
ガバペン
トピラマート
トピナ
ラモトリギン
ラミクタール
レベチラセタム
イーケプラ
食欲不振、不眠、認知変化、気分
変化、乏汗症、結石
四肢末端のしびれ感、頭重感、呼
吸促進
筋緊張低下、眠気、鎮静、気道分
泌促進
眠気、めまい、頭痛、体重増加
眠気、食欲低下、めまい、認知変
化、乏汗症、結石
発疹、眠気、不眠、めまい、頭痛
眠気、倦怠感、めまい、頭痛、焦
燥感
第三節 抗てんかん薬が効果を及ぼすメカニズム
抗てんかん薬がてんかん発作に効果を及ぼすメカニズムであるが、それは非常に簡単な
ことである。そもそも上記の第二章第一節の「てんかんの定義」の通り、大脳ニューロン
(神経細胞)から過剰に電気発射が行われるためにてんかん発作が起こるのであるから、
その過剰な電気発射を抑えればよいのである。では何故その過剰な電気発射は起こるのか。
それにはNa+やCa2+が関係している。Na+やCa2+には神経伝達や興奮の役割がある。つ
まりその働きを抑えればてんかん発作を抑えられるのである。また、Cl-には神経伝達を
しにくくする働きがあるため、Cl-の働きを強めることもてんかん発作を抑えるためには
効果的である。
ただし、ここで注意すべきことがある。上記のことだけをみると、
「じゃあ、Na+やCa
2+
の働きを抑え、Cl-の働きを強める薬を作れば効果が最大ではないか。」と考える人がい
るかもしれないが、それはできない。なぜなら、Na+とCa2+が効果を示すてんかん発作の
種類が違う、つまり一方の薬が効果を示すてんかん発作にもう一方の薬を併せて服用する
4
と、むしろ症状を悪化させてしまうことがあるからである。また、てんかん発作には大き
く分けて部分発作、全般発作、重積発作という発作の種類があるが、発作の種類によって
も服薬すべき抗てんかん薬の種類も違うのである。
抗てんかん薬の服用には十分な注意が必要となる。
第四章 弟の事例に見る抗てんかん薬
第一節 これまでの抗てんかん薬の服薬履歴
私の弟は2歳の時初めててんかん発作を起こし、それ以降いくつかの種類の抗てんかん
薬を服薬してきた。まず初めに服薬したのはダイアップ。これはベンゾジアゼピン系の抗
てんかん薬である。次に服薬したのがデパケン。これは分枝脂肪酸系の抗てんかん薬で、
最もメジャーな抗てんかん薬の一つである。その次に服薬したのがマイスタンとラミクタ
ール。これはそれぞれベンゾジアゼピン系とその他の抗てんかん薬である。そして最後、
つまり現在服用している抗てんかん薬がその他に分類されているトピナで、この薬は比較
的新しいタイプの抗てんかん薬で、幅広い作用効果を有しているので現在服用している。
以上の5種類の抗てんかん薬を弟はこれまでに服用してきた。
第五章 まとめ
第一節 考察
これまでの研究をまとめた結果、弟が服薬してきた抗てんかん薬の系統から弟の発作の
種類が全般発作の中の強直間代発作であることが考察される。また母親に抗てんかん薬を
上記の第四章第一節のように変更した理由を聞くと、
「その種類の抗てんかん薬を服用して
いて、効果があまりない(小規模なてんかん発作、例えば口周りがピクピクと痙攣するな
どが起こった)際に追加する薬として違う種類の抗てんかん薬を服用したり、追加に伴っ
て以前に服薬していた薬の服薬をやめたりした。
」と言っていた。その原因として、上記の
第三章第三節のように弟のてんかんの症状にその薬が合っていないということがあったの
だろうとも考察される。
第二節 抗てんかん薬とこれからi
以上のことから抗てんかん薬はてんかん患者には必要不可欠なものであり、副作用が存
在する限り改良の余地はあると考えられる。私は人々にもっとてんかんという疾患につい
て、また抗てんかん薬の存在について知ってほしい。というのもこの疾患を抱えている人
の中には自分がこの疾患を抱えていることに気づいていない人もいるからである。そのた
めに抗てんかん薬の処方が遅れ、大規模なてんかん発作を起こし、さらに病状を悪化させ
てしまうことがある。そのような事態を防ぐためにもてんかんについて多くの人に多くの
ことを知ってもらいたい。てんかんについて多くのことを知ることもてんかんに「抗」う
ことであり、抗てんかん薬を服薬することに並んで大切な「薬」になり得ると私は考える。
5
<参考文献>
・
『てんかんのすべてがわかる本 ~治療と生活から心理・福祉~』
秋元波留夫監修、河野暢明著
・
『脳100の新知識 ~その形態・機能から疾患まで~』森昭胤著
・http://kusuri-jouhou.com/pharmacology/epilepsy.html
・http://kusuri-jouhou.com/pharmacology/bz-bar.html
・http://www2.yamamura.ac.jp/chemistry/chapter1/lecture8/ion.html
・http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1139008.html
・http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1124701.html
・http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1139004.html
・http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1139006.html
・http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1139009.html
6