徳賀芳弘委員の横顔と学説

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試験委員 徳賀芳弘
会計士2次新試験委員のプロフィール
財務諸表論
徳賀芳弘委員の横顔と学説
広島市立大学専任講師
はじめに
このたび,徳賀芳弘先生(京都大学大学院経済学
研究科教授・九州大学大学院経済学研究院教授)が
平成15年度 認会計士第2次試験の試験委員に新
たに就任されることとなった。筆者は,徳賀先生
より薫陶を得て今日までご指導を賜ってきた一人
として,能力不足の感はあるが,先生のプロフィ
ールの一端を紹介させていただく。
徳賀先生の略歴とお人柄
徳賀芳弘先生は,昭和53年に九州大学経済学部
をご卒業後,同大学大学院経済学研究科に進学さ
れ,恩師・津守常弘先生(九州情報大学教授・九州
大学名誉教授・神奈川大学名誉教授)のご指導のも
とで,最初の研究課題として負債会計に取り組ま
れている。当時,負債の会計問題は,まだ学界に
おいて今日ほど大きくは取り上げられていなかっ
たが,先生はこの問題にいち早く着目され,とり
わけ米国における負債概念の変遷過程を丹念に
析することから,会計研究者としての学究生活に
入られている。
そして昭和62年から母 九州大学で研究・教育
に邁進されるなか,平成2年∼4年にかけては,
米国ワシントン大学の客員研究員として,国際会
計研究の世界的権威であるG.G.M ueller教授(前
FASB理事)の傍らで研鑚を積まれている。この
国際会計領域のご研究は,やがて日本会計研究学
会平成9年度学会賞を受賞された論文「利益数値
の国際比較方法―会計制度の定量的比較を中心と
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潮
智美
し て」(「會 計」第150巻 第 6 号,平 成 8 年)や,日
本会計研究学会 平成12年度太田・黒澤賞を受賞さ
れた著書『国際会計論―相違と調和』(中央経済
社,平成12年)などへと結実しており,そのご研
究は名実ともに高い評価を受けておられる。
また平成11年に京都大学より博士(経済学)を授
与され,平成14年10月に京都大学大学院経済学研
究科教授に着任されており,
平成15年3月まで京都
大学と九州大学の大学院教授を併任されている。
徳賀先生は,いつも探究心に満ち れ,それを
原動力としてエネルギッシュに研究・教育に専心
しておられる。例えば学会の各種特別委員会に数
多く参加されているほか,近年では実験会計学の
プロジェクトにも参画されるなど,最新の研究動
向にも積極果敢に取り組まれている。またその真
で鮮やかなお仕事ぶりに加えてお人柄も温厚
で,学生に対しても率直に接してくださるだけで
なく,過密スケジュールの合間にも時間を裂いて
親 を深めてくださるがゆえに,先生を慕って研
究室に始終出入りしているゼミ生が数多くいるほ
どである。
徳賀先生の学説の特徴
徳賀先生のご研究は,負債会計と国際会計とい
う2つの領域を基盤として,それらを調和・拡張
されながら展開されている。以下では,その大別
に従って先生の学説を紹介したい。
まずは,負債会計に関するご研究についてであ
る。この領域の書物としては,J.St.G.Kerrによ
るThe Definition and Recognition of Liabilities
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試験委員 徳賀芳弘
の訳書『負債の定義と認識』(九州大学出版会)を
またこうした理論的な 察を踏まえて,退職給付
平成元年に出版されている(平成11年に第2版)。
こ
会計や金融商品会計などを中心に個別の会計基準
の訳書は,
近年の負債会計への関心の高まりにと
をめぐる現実の問題にも積極的に取り組まれてお
もなって再び注目を集めてきているが,
その巻末
り,これに該当する論文としては,例えば「退職
に収録されている約50頁にわたる
「文献解題」
およ
給付会計と利益概念」(「會計」第159巻第3号,平
び関連論文「伝統的な負債概念から新しい負債概
成13年)などがある。
(
「企業会計」第46巻第8
念へ―米国における変化」
そしてもうひとつの研究課題である国際会計領
号,
平成6年)などにおいては,
負債会計の基本論点
域についても数多くの重要なご業績があるが,紙
の整理や,
負債概念の変化とそれを促した要因の
幅の制約につき敢えて1つだけ紹介させていただ
析などが行なわれている。すなわち負債概念の
けば,それは各国の会計制度・会計実務の比較方
変化が,
昭和35年代以降に登場してきたリースや
法に関するご研究である。従来広く行なわれてき
繰 税金などの新たな会計問題への実務上の対応
た各国会計の定性的比較を補強するために,各国
の必要性と,
収益費用中心観から資産負債中心観
の会計制度・会計実務の相違を数量化することに
への会計観のパラダイム・シフトという理論上の問
よって,国際的な定量的比較を可能にする方法を
題の双方から生じてきたことが指摘されている。
提示されている。これにより,会計制度・会計実
」(「企業会計」第49巻
務の国際的相違が,各国の制度において認められ
第7号・第8号,平成9年)などにおいては,この
また,「負債・資本の区
ている利益数値の幅として数量的に可視化され,
利
負債のもつ貸借対照表貸方項目としての問題が取
益数値が比較可能となっただけでなく,
各国におい
り扱われており,会計観の変化にともなう負債の
てどの程度保守的・反保守的な利益を導く実務が行
認識・測定の変化が,
資本や利益の額を決定する際
なわれているかという比較 析も可能となった。
こ
に極めて重要な役割を担うことになるがゆえに,
の会計制度・会計実務の相違と調和に関する体系的
個別の負債項目の認識・測定問題,
負債
額の決定
なご研究は,
わが国における国際会計研究の理論的
の問題,および負債と資本の区
の問題などが生
枠組みの構築に多大なる貢献をもたらしている。
起していると指摘されている。
このように先生の
そのほか近年では,例えば「韓国における金融
ご研究は,負債を軸としながら資産,資本,
収益,
費
危機と会計制度改革」(『経営研究』大阪市立大学,
用,
そして利益という財務諸表の構成要素すべて
第51巻第4号,平成13年)を
を検討対象として体系的に取り込んでおられる。
会計についての造詣も深めておられ,日韓の会計
さらに,会計理論上は収益費用中心観から資産
制度改革についての国際シンポジウムの主催およ
表されるなど,韓国
負債中心観へのパラダイム・シフトの様相を呈し
びコーディネーターを務められるなど,国際
ているけれども,現実の会計利益計算は収益費用
においても積極的に活動されている。
中心観と資産負債中心観とのハイブリッドな構造
流
おわりに
にとどまらざるを得ないことが論証されている。
例えば「資産負債中心観」(「企業会計」第53巻第1
近年急速に進められている会計制度改革によ
号,平成12年)や「会計における利益観―収益費
り,日本の会計制度には,米国基準や国際会計基
用中心観と資産負債中心観」(斎藤静樹編著『会計
準に由来する会計基準が導入されつつあり,それ
基準の基礎概念』中央経済社,平成14年)などにお
ゆえ,現在は伝統的なものと新しいもの,国内に
いては,収益費用中心観と資産負債中心観のそれ
固有のものと国外に由来する普遍的なもの(にし
ぞれの特徴が整理されるとともに,それらが個別
ようとされているもの)が錯綜する状況にある。徳
の会計基準や会計測定値にどのように具現化して
賀先生はその混沌とした状況を,
独 的な視角と鋭
いるのかを,退職給付,金融商品,リース,繰
い 析を通して整理され,
そこにある問題点の析出
税金,引当金などを題材として提示されている。
と解決への糸口の探求を精力的に進められている。
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