平 成 27 年 1 月 26 日 インド科学アカデミー物理学研究所との 「国土交通省・開発途上国研究機関交流事業」実施結果について 本事業は、開発途上国との研究交流を通じ、運輸関連技術の開発を促進するとと もに、研究能力の向上を図ることにより、我が国及び開発途上国の運輸分野の発展 に資することを目的としています。そのため、開発途上国の運輸分野において大き な問題となっている技術的課題を対象とし、開発途上国の運輸関係研究機関におい て当該課題の研究に従事している研究者を我が国に招へいし、国土交通省の研究機 関等において問題解決のための研究を指導、実施しました。 平 成 26 年 度 事 業 に お い て 気 象 研 究 所 で は 、「 化 学 気 候 モ デ ル に よ る ア ジ ア 域 の大気汚染・気候変動相互作用の研究」をテーマとして、インド科学アカデミ ー物理学研究所(以後、インド物理学研究所)と研究交流を実施しました。近 年の経済発展に伴い大気汚染が深刻化する南アジア地域において、短寿命気候 汚 染 物 質 ( CO2 や メ タ ン な ど の 長 寿 命 物 質 に 対 し て 、 対 流 圏 オ ゾ ン や エ ー ロ ゾ ルなど短寿命だが気候変動に強い影響を及ぼす大気汚染物質のこと)の挙動と 影響について、気象研究所の数値モデルと、インド物理学研究所の観測結果を 用いて、理解を深めることを目的としました。 1.担当者 気象庁 気象研究所 環境・応用気象研究部 同主任研究官 梶野瑞王 同主任研究官 出牛真 同主任研究官 大島長 室長 眞木貴史 2.招へい研究者 ・国名 インド共和国 ・所属先 インド科学アカデミー物理学研究所 ・職名及び氏名 准教授 Dr.Varun Sheel 講 師 Dr.Lokesh Kumar Sahu 3.研究期間・日程 Sahu 氏 平成 26 年 9 月 23 日―10 月 15 日 Sheel 氏 平成 26 年 10 月 11 日―11 月 8 日 4.これまでの成果 本研究では、汚染物質の移流拡散および大気中での化学反応を考慮した、化 学 気 候 モ デ ル と 領 域 化 学 輸 送 モ デ ル を 用 い て 、 全 球 気 候 計 算 ( 約 100km 格 子 ) とそれからのダウンスケーリング実験を行いました。ダウンスケーリング実験 は 南 ア ジ ア 領 域( 図 1 )を 対 象 と し 、水 平 解 像 度 20km で 行 っ た 。図 1 に そ の モ デ ル の 領 域 と 、 モ デ ル 標 高 ( m) を 示 し ま す 。 図1.ダウンスケーリングモデルの領域とモデル標高 計 算 期 間 は 、 イ ン ド 物 理 学 研 究 所 ( 図 1 中 ×印 ) に お い て 揮 発 性 有 機 化 合 物 ( Volatile Organic Compounds; VOCs) の 観 測 が 行 わ れ た 、 2014 年 の 12 月 か ら 2015 年 2 月 ま で の 3 ヶ 月 間 を 対 象 と し ま し た 。 VOCs は 、短 寿 命 気 候 汚 染 物 質 の 一 つ で あ る 対 流 圏 オ ゾ ン の 生 成 に 重 要 な 役 割 を果たしますが、それぞれの化学成分ごとの測定は高度な技術が要求されるた め、観測結果は場所・時間ともに非常に限られているため、当該地域ではモデ ル結果の評価が為されたことはありませんでした。 図 2 に 、VOCs の 観 測 結 果 と モ デ ル 結 果 の 時 系 列 図 の 比 較 を 示 し ま す 。上 は 主 に人為起源の汚染物質であるアセトン、下は主に植物起源の物質イソプレンの 比 較 で す 。ア セ ト ン に つ い て は 、モ デ ル は 10 分 の 1 の 過 小 評 価 、さ ら に 日 内 変 動、日々変動の再現性は不十分であることが分かりました。植物起源のイソプ レ ン も ま た 10 分 の 1 程 度 の 過 小 評 価 だ が 、人 為 起 源 の ア セ ト ン に 比 べ て 、モ デ ルの排出量は植物活動を考慮しているため、日内変動の再現性は良いことが示 さ れ ま し た 。当 該 地 域 で 、こ れ ら VOCs 物 質 の 観 測 を 実 施 し た の は イ ン ド 物 理 学 研 究 所 が 初 め て で あ り 、モ デ ル と の 比 較 に よ り 、南 ア ジ ア 域 で の VOCs の 排 出 量 やその光化学反応メカニズムの理解がまだ不十分であることが判明しました。 2.0 model obs 15 1.5 1.0 10 0.5 5 0.0 0 25-11-2013 9-12-2013 23-12-2013 6-1-2014 20-1-2014 Aectone model. (ppbv) Aectone obs. (ppbv) 20 3-2-2014 date 2.0 model obs 15 1.5 10 1.0 5 0.5 0 25-11-2013 Isoprene model. (ppbv) Isoprene obs. (ppbv) 20 0.0 9-12-2013 23-12-2013 6-1-2014 20-1-2014 3-2-2014 date 図 2 . ア フ マ ダ バ ー ド 市 に お け る VOCs の モ デ ル と 観 測 の 比 較 。 上 は ア セ ト ン 、 下はイソプレンを示す。 5.所感、今後に向けて 観測データの収集と比較によるモデルの検証は、モデルの開発改良研究にと って必要不可欠であるものの、気象観測ネットワークと比較すると、国際的に も大気化学物質の観測網は十分に確立されているとは言えず、個人的な関係に 基づくデータ交換が必要となっているのが現状であります。今回の研究で初め てモデル側の様々な課題が浮き彫りになりました。南インド地域で先端的な大 気化学観測網を展開しているインド物理学研究所と信頼関係を構築し、共同研 究を構築するにあたって、本交流事業は極めて有効に機能したと実感していま す。 イ ン ド 物 理 学 研 究 所 の Sahu、 Sheel 両 氏 と は 、 こ れ ま で メ ー ル ベ ー ス の 議 論 に基づいて互いが独立して(互いの研究リソースを共有することなく)共同研 究 を 進 め て 来 ま し た( Sahu et al., 2013a, b; Sahu et al., 2014; Sheel et al., 2014) 。 本 交 流 事 業 の 結 果 、 観 測 結 果 を 共 有 し 、 ま た 化 学 気 候 モ デ ル を 貸与するなど、協力関係がさらに深まり研究の推進力が向上しました。そして 深さだけでなく、本事業のメンバーの共同研究者ネットワークを含めた、協力 関係のさらなる広がりが今後も期待されています。
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