1 序章 第 1 節 研究の動機及び目的 近年、子どもの屋外遊びが尐

序章
第 1 節
研究の動機及び目的
近年、子どもの屋外遊びが尐なくなり、徒歩などの自力での行動範囲
も狭くなり、家事手伝いをする機会が昔より減ってきている。また、現
代 の 子 ど も に は 遊 ぶ 「 時 間 」・「 空 間 」・「 仲 間 」 の 「 三 つ の 間 」 が 失 わ れ
つつある。このような中、危険な体験や危険なことに対して、考えて解
決するなどの経験が尐ないため、子どもの危険予知能力や危険回避能力
が低下してきている。最近は「子どもに怪我をさせないで欲しい、危険
な遊びはさせないで欲しい」と言う親が増えてきている。昔のように、
「子どもは怪我をするのが当たり前、元気で何よりだ」という考えを持
つ親が減ってきている。このため昔よりも、親が子どもにチャレンジを
させたり、様々な体験の機会を与える事が尐なくなっていて、子どもの
危険予知能力が低くなっていると考えられる。そこで、子ども(4・5
歳児、小学生)の危険予知能力や危険回避能力の現状を調べ、自然体験
活動をすることによって、子どもの危険予知能力や危険回避能力を育て
ることができるのかを調べ、考察してみたい。
第 2 節
研究の方法
本やインターネットを使い文献研究を行う。
本 論 文 で は 危 険 予 知 能 力( 危 険 を 事 前 に 予 知 す る 力 )と 危 険 回 避 能 力( 危
険を回避する力)を合わせて危険意識とする。
対 象 は 幼 児 ( 4 ・ 5 歳 )、 小 学 生 ( 1 ~ 6 年 生 ) を 対 象 と す る 。
1
第 1 章
現在の子どもの危険意識の現状
第 1 節
幼児の危険意識の現状(注1)
松岡
弘氏は幼児と小学生低学年児の安全意識発達についての調査
を 行 っ た 。 対 象 は 就 学 前 の 幼 児 ( 4・ 5 歳 児 ) お よ び 小 学 校 1 ・ 2 ・ 3 年
生 の 男 女 合 計 423 人 で あ る 。調 査 方 法 は こ れ ら の 対 象 者 に 6 枚 の 絵( 20
× 2 7 c m ) を 見 せ 、 そ れ ぞ れ の 条 件 の も と で 、「 ○ ○ ち ゃ ん は ど う し ま す
か」と質問し、その回答を求めた。子ども一人ずつに面接を行い、その
応答を記録して分析した幼児の結果は、以下の通りである。
<幼児の調査結果>
Q1
お友達が路上で楽しそうに遊んでいます。あなたはどうします
か?
面 接 回 答 (%)
4歳 児
5 歳児
a 遊 ばない
72.1
67.3
b 遊ぶ
27.9
32.7
Q2
横断歩道から離れた場所でお母さんが呼んでいます。あなたはど
うしますか?
面 接 回 答 (%)
4歳 児
a 横 断 歩 道 を渡 る
5 歳児
51.2
48.7
22.1
28.3
26.7
23.0
b 左 右 を見 て(手 を上 げて)まっすぐ渡
る
c 行 く、わからない
2
Q3
車が走っている道路にボールが転がっていきました。あなたはど
うしますか?
面 接 回 答 (%)
4歳 児
5 歳児
a 車 が通 ってから(いない時 に)取 りに行
27.6
38.9
く
b
取 らない、他 の人 に取 ってもらう
19.7
23.0
c
急 いで取 りに行 く、わからない
52.6
38.1
Q4
お友達が川へ遊びに行こうと誘いに来ました。家にはお母さんが
います。あなたはどうしますか?
面 接 回 答 (%)
4歳 児
5 歳児
a お母 さんに聞 く、行 かない
57.0
72.6
b お母 さんに聞 かずに行 く、わからない
43.0
27.4
Q5
台風で電線が切れて道路に垂れ下がっています。あなたはどうし
ますか?
面 接 回 答 (%)
4歳 児
5 歳児
a 誰 か他 の人 に知 らせる、専 門 家 に来
23.3
38.9
0.0
0.0
c 自 分 で直 す
20.9
12.4
d 放 っておく、わからない
55.8
48.7
てもらう
b 危 険 だから触 らない
3
Q6
コタツにかけておいた布団に火がついて燃えだしました。あなた
はどうしますか?
面 接 回 答 (%)
4歳 児
5 歳児
a 誰 か他 の人 を呼 ぶ、消 防 署 へ電 話 す
18.6
32.7
b 自 分 で消 す(水 をかける)
34.9
33.6
c 逃 げる、わからない
46.5
33.6
る
表1
幼児の安全意識発達の調査結果
引用文献
表 1:
大阪教育大学
松岡
弘 「子どもの安全意識発達調査とその教材開発」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』報告書
(財)伊藤忠記念財団
第 2 節
平 成 16 年 1 月
P 169~ P 172
小学生の危険意識の現状(注2)
第 1 節で松岡氏が行った安全意識発達についての小学生の調査結果は
以下の通りである。
<小学生の調査結果>
Q1
お友達が路上で楽しそうに遊んでいます。あなたはどうします
か?
面 接 回 答 (%)
1年 生
2年 生
3年 生
a 遊 ばない
73.8
93.2
100.0
b 遊ぶ
26.3
6.8
0.0
4
Q2
横断歩道から離れた場所でお母さんが呼んでいます。あなたはど
うしますか?
面 接 回 答 (%)
1年 生
a 横 断 歩 道 を渡 る
2年 生
3年 生
57.5
68.5
95.8
18.8
9.6
4.2
23.8
21.9
0.0
b 左 右 を見 て(手 を上 げて)まっすぐ渡
る
c 行 く、わからない
Q3
車が走っている道路にボールが転がっていきました。あなたはど
うしますか?
面 接 回 答 (%)
1年 生
2年 生
3年 生
a 車 が通 ってから(いない時 に)取 りに
61.3
67.1
87.3
行く
b
取 らない、他 の人 に取 ってもらう
11.3
27.4
7.0
c
急 いで取 りに行 く、わからない
27.5
5.5
5.6
Q4
お友達が川へ遊びに行こうと誘いに来ました。家にはお母さんが
います。あなたはどうしますか?
面 接 回 答 (%)
1年 生
2年 生
3年 生
a お母 さんに聞 く、行 かない
88.8
97.3
98.6
b お母 さんに聞 かずに行 く、わからない
11.2
2.0
1.4
5
Q5
台風で電線が切れて道路に垂れ下がっています。あなたはどうし
ますか?
面 接 回 答 (%)
1年 生
2年 生
3年 生
a 誰 か他 の人 に知 らせる、専 門 家 に
53.8
78.1
81.7
10.0
11.0
9.9
0.0
5.5
7.0
31.3
5.5
1.4
来 てもらう
b 危 険 だから触 らない
c 自 分 で直 す
d 放 っておく、わからない
Q6
コタツにかけておいた布団に火がついて燃えだしました。あなた
はどうしますか?
面 接 回 答 (%)
1年 生
2年 生
3年 生
a 誰 か他 の人 を呼 ぶ、消 防 署 へ電 話
42.5
49.3
49.3
b 自 分 で消 す(水 をかける)
32.5
45.2
43.7
c 逃 げる、わからない
25.5
5.5
7.0
する
表2
小学生の安全意識発達の調査結果
引用文献
表 2:
大阪教育大学
松岡
弘 「子どもの安全意識発達調査とその教材開発」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』報告書
(財)伊藤忠記念財団
平 成 16 年 1 月
6
P 169~ P 172
第 3 節
幼児と小学生の危険意識調査のまとめ(注3)
第 1 節で松岡氏が行った安全意識発達についての調査結果の総合判定
と し て 、 1 0 個 の 質 問 の お の お の に つ き 、 そ の 場 面 a ( 安 全 行 動 )、 b ( 次
善 の 行 動 )、 c(危 険 な 行 動 )の 三 段 階 に 分 け て 児 童 の 回 答 を 判 定 し 、 a=2
点 、 b=1 点 、 c= 0 点 と し 、 1 人 ず つ 総 合 点 を 算 定 し た ( 最 高 20 点 、 最
低 0 点 )。年 齢 別 の 平 均 点 は 、4 歳 児 = 男 1 0 . 4 、女 1 0 . 5 、5 歳 児 = 男 1 2 . 2 、
女 11 . 8 、 1 年 生 = 男 1 5 . 1 、 女 1 4 . 7 、 2 年 生 = 男 1 6 . 9 、 女 1 7 . 5 、 3 年 生 =
男 18. 1、 女 18. 6 で あ る 。 こ の 結 果 を み る と 、 5 歳 児 と 1 年 生 の 得 点 の
差が特に大きい事が注目され、日常生活で必要とされる最低限度の能力
は、小 学校 3 年 生でほ ぼ完 成す る と考え る事 ができ るの では ない か と松
岡氏は述べている。
安全意識の発達(総合判定)
4歳児
5歳児
女
男
1年
2年
3年
0
表3
5
10
15
20
幼児と小学生の安全意識発達(総合判定)
引用文献
表3:
大阪教育大学
松岡
弘 「子どもの安全意識発達調査とその教材開発」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』報告書
(財)伊藤忠記念財団
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P 169~ P 172
考察
Q 1 、 2 、 3 の 結 果 か ら 見 る と 、 4・ 5 歳 児 や 1 年 生 は 目 的 が あ る と 、
目的に向かって行動してしまうため、結果飛び出しによっての交通事故
が 発 生 し て し ま う 事 が あ る 。し か し 、 2~ 3 年 生 に な る に つ れ 、そ の 場 所
には何があるのかを判断、認識することができ、結果の数値が出るので
はないだろうか。より高学年になれば他のお友達に対して注意を促す事
もできるであろう。
Q 4 の 結 果 か ら 見 る と 、「 川 に 行 け る 」 と い う 目 的 し か 考 え ら れ ず 、 そ こ
に 危 険 が あ る か も し れ な い と 結 び つ け る 事 が 4・5 歳 児 に は 難 し い た め 、
事故が発生してしまう事がある。しかし、小学生に上がるとある程度の
危 険 を 予 想 す る こ と が で き る た め 、結 果 の 数 値 が 出 る の で な い だ ろ う か 。
Q 5 の 結 果 か ら 見 る と 、 台 風 な ど 非 日 常 的 な 事 が 起 こ っ た 時 に 、 4・ 5 歳
児や 1 年生は判断が的確にできないため、行動に移す事ができない。し
かし2、3年生になるにつれてある程度判断ができるため、結果の数値
がでるのではないだろうか。日常的な交通事故などの指導も大切だが、
非日常的な状況の回避法も教えるべきであろう。
Q6の結果から見ると、知らせるという選択より、自分で消そうと考え
る子どもが多かったため、結果の数値がでたのではないだろうか。事故
を起こさないための方法を教えるだけでなく、事故が起こってしまった
時に逃げて、誰かを呼ぶという回避方法を教えるべきであろう。
引用文献
( 注 1 )、( 注 2 )、( 注 3 ):
大阪教育大学
松岡
弘 「子どもの安全意識発達調査とその教材開発」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』報告書
(財)伊藤忠記念財団
平 成 16 年 1 月
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P 169~ P 172
第 2 章
危険意識を高めるための取り組み
第 1 節
幼児の取り組み
〔事故を防ぐための取り組み〕
<交通安全教室>
幼稚園や保育園では、園に警察署の方を招き、子どもたちのための交
通安全教室を行っている。交通安全教室では幼児にわかりやすいように
紙 芝 居 、 人 形 劇 、 パ ネ ル シ ア タ ー 、 交 通 安 全 ○ ×ク イ ズ な ど 楽 し み な が
ら交通安全の勉強をしている。また、実際に園庭に出て、横断歩道の渡
り方や信号の見方なども学ぶ。幼稚園や保育園の園児の保護者に参加し
て頂き、親子交通安全教室を行っている幼稚園や保育園もある。親子交
通 安 全 教 室 で は 、道 路 の 歩 き 方 、信 号 の 見 方 と 意 味 、横 断 の 仕 方 を 学 び 、
親子で実際に路上を歩き、自分の目や耳で安全確認をする事を学ぶ。
交通安全教室で実際に横断歩道の渡り方や信号の見方なども学び、危
険意識を一時的に上げる事はできるが、年に1~2 回の活動では園児の
危険意識は薄れてしまう。しかし、幼稚園や保育園では日頃、交通安全
の絵本や紙芝居を読んだり、お散歩に行く前には「信号は何色で渡るん
だ っ け ? 」、「 道 路 は 飛 び 出 し て 良 い ん だ っ け ? 」 な ど お 話 を し て 、 日 常
的に危険意識が上がるような活動を行っている。
考察
・幼児の取り組み
事故防止の活動として、日々のお散歩などの活動から危険について教
える事は、子どもにとって受け入れやすい方法であると考えられる。保
育園などでは、お散歩の時などに交通ルールについて考える時間が取ら
れている。しかし、親子で歩いている時は、信号が青になると親が手を
9
引いて渡らせるという光景がよく目に付く。また、交通ルールを守るよ
うに言っている親が、歩行者信号が点滅すると「早く」と言って子ども
を渡らせている光景を見る。いくら保育園で交通ルールについて教えて
いても、親が日常的に正しい交通ルールを教え、手本を見せていかなけ
れば子どもには伝わらない事である。日常的に交通ルールについて考え
られる環境づくりが子どもにとっては大切であると考えられる。
第 2節
小学生の取り組み
〔事故を防ぐための取り組み〕
<ヒヤリ地図>(注4)
「ヒヤリ地図」とは、身近な暮らしの中で、ヒヤリとしたりハッとし
た場所を地図の上に、何色かのタックシールを貼ってつくる地図のこと
である。地図ができあがった後、どんなヒヤリだったのかお互いに説明
したり、どうすれば事故を避けられるのか、改善できる事はないかを話
し合う。もともとは高齢者が交通事故から身を守るための手法として考
案された。
「ヒヤリ地図づくり」を交通安全対策に取り入れることを提唱したの
は、財団法人国際交通安全学会の研究プロジェクトチーム(プロジェク
トリーダー:鈴木春男
千葉大学文学部教授)であった。前段の研究と
し て の 、 高 齢 者 の 生 活 構 造 と モ ビ リ テ ィ に 関 す る 基 礎 研 究 は 1994 年 か
ら始まっている。その結果をどう運用するかの応用研究から出てきたの
が「ヒヤリ地図づくり」であった。この「ヒヤリ地図づくり」の提案は
多くの新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどで紹介され、強い関心を寄せら
れた。そこで高齢者交通事故軽減のための施策として普及させていくた
めに、同研究プロジェクトチームがマニュアル冊子とビデオづくりを行
10
い 、 1998 年 3 月 に 完 成 さ せ た 。そ の マ ニ ュ ア ル を 警 察 庁 が 1998 年 秋 の
全国交通安全運動の目玉として導入したことにより、全国の小学校など
に も 広 ま っ た 。 1999 年 7~ 8 月 に 同 研 究 プ ロ ジ ェ ク ト チ ー ム が 行 っ た フ
ォ ロ ー ア ッ プ 調 査 で は 、 1998 年 7 月 ~ 1999 年 6 月 の 1 年 間 に 、 全 国 の
警察本部・都道府県管内において実施された「ヒヤリ地図づくり」への
参加人数の総数は
172,787 人 で あ っ た 。 最 も 多 か っ た の が 高 齢 者
1 4 5 , 2 8 3 人 で 、 児 童 の 参 加 は 11 、 3 3 3 人 で あ っ た 。
○「ヒヤリ地図」の成果
1 9 9 9 年 度 に 行 っ た「 ヒ ヤ リ 地 図 づ く り 」の フ ォ ロ ー ア ッ プ 調 査 に よ れ
ば、
「 ヒ ヤ リ 地 図 」を 作 成 す る 作 業 を 通 じ て 、以 下 の よ う な 成 果 が 確 認 さ
れた。
・危険箇所の改善や安全対策に役立つ
・危険箇所を確認できる
・交通安全意識を高揚させる
・交通安全指導に役立つ
・非参加者(保護者)への危険箇所を周知させ、情報を共有する
「 ど う い う こ と に 注 意 を し な け れ ば い け な い か 考 え る こ と が で き た 」、
「自分では気づかなかった危険箇所を知ることができた」という回答も
あった。
「 ヒ ヤ リ 地 図 づ く り 」は 、子 ど も た ち 自 ら が シ ー ル を 貼 る こ と に
より、先生が一方的に話す受け身の授業と比べると安全意識の高揚に役
立 た せ る こ と が で き る 。先 生 側 の 意 見 と し て は 、
「通学路や生活ゾーン内
で の 地 図 づ く り で あ る こ と か ら 、 よ り 具 体 的 な 交 通 安 全 指 導 が で き る 」、
「クラス単位などの小グループで実施することにより、きめ細かい安全
教育ができる」という成果も寄せられた。
作業が終わった後のアンケート調査では、
「危険な場所がわかってよか
11
っ た 」、「 安 全 を 守 ろ う と い う 気 持 ち が 強 く な っ た 」 と い う 回 答 が 多 か っ
た。ヒヤリタイプ別に何色かのシールを貼った地図はカラフルであり、
できあがった地図には地域の危険箇所が浮かび上がる。この作業ではみ
ん な で 協 力 し て「 ヒ ヤ リ 地 図 」を 完 成 さ せ た と い う 達 成 感 が 大 き い 事 や 、
その後のヒヤリ体験の説明では、自分の意見や提案に耳を傾けてもらえ
たことに対する満足感も得られる。そのため「ヒヤリ地図」づくりは各
方面から注目され、子どもの交通安全などだけでなく、犯罪防止活動や
まちづくり活動にも応用されるようになった。
○「ヒヤリ地図」の利用・活用法の事例
・アルミ製のヒヤリマークを作成し、ヒヤリ地図に基づきヒヤリ箇所の
現場に貼付
・コピーした冊子をつくり、各家庭に配布
・校内に掲示
・ヒヤリ地図作成の普及を図るため、コンクールを開催して表彰
・複数の地図をつなぎ合わせて広範囲の地図を作成
<交通安全教室>
小学校では、学校に警察署の方を招き、交通安全教室を行っている。
交通安全教室では小学校で自転車の乗り方指導、通学路厳守指導、道路
横断の指導、講話、クイズ、腹話術、啓発映画、ビデオによる交通安全
指 導 を 行 っ て い る 。ま た 、課 外 活 動 と し て 交 通 公 園 に 行 き 、自 転 車 教 習 、
交通実験(車の急停車、ダミー人形による巻き込み、飛び出し、死角体
験 な ど )、実 際 の 信 号 や 踏 切 を 使 っ て の 横 断 訓 練 を 行 う 。小 学 校 で は 日 常
的にホームルームの時間に交通安全について話をしたり、課外活動の前
には交通ルールについて確認してから学校外にでるようにしている。
12
<危険意識を高めるための本>
危険意識を高めるために、何よりも一番大切なのは、家族で日頃話し
合 う 機 会 を 多 く 持 つ こ と で あ る 。日 頃 家 族 で 話 し 合 う 事 で 、子 ど も の 日 々
の生活や友達や行動範囲も把握する事ができる。学校や地域の取り組み
もとても大切だけれども、家庭で危険な場所を一緒に探したり、日頃危
険に対して意識したり、考えたりする機会を作ることが大切である。一
時的なものでなく、日々の生活において危険について考える事が危険意
識を高める有効な取り組みであると筆者は考える。子どもの潜在能力で
あ る 「 危 険 予 知 能 力 」 や 「 識 別 力 」、「 直 観 力 」 な ど の 優 れ た 能 力 を 引 き
出し、正しく導き、伸ばす事で身につけられる。このような力を身につ
ける事を目的とした、親子で話し合うための本として、親子で読める危
険回避に関する本や危険意識を高めるためのクイズ形式の本なども数多
く発売されている。親子で読み、話し合うことで、より一層危険意識を
高める事ができるであろう。子ども向けの危険回避に関するマンガもあ
り、子ども自身で学ぶ事もできる。
考察
・小学生の取り組み(ヒヤリ地図)
ヒヤリ地図づくりは、事故防止についての話をただ一方的に聞くだけ
の取り組みと違い、自ら参加して自分達で地図をつくり上げるといった
楽しみもある事から、子どもに受け入れやすく危険意識の向上へと繋が
ると考えられる。自分が危険を感じた場所や友達が危険を感じた場所な
ど、実際に危険を感じた場所を出す事により、子どもたちの意識もより
一層高まるのでないかと考えられる。危険を回避する為の改善策を話し
合うことにより、危険をそのままにするのではなく、危険に対しての改
13
善策を考える力をつける事ができると考えられる。これが危険回避能力
である。危険回避能力を身につけることができれば、初めて訪れた場所
でも危険を予知し、回避することができるであろう。
参考文献
(注4)
:タ ウ ン ク リ エ イ タ ー
松村みち子
「ヒヤリ地図を利用した安
全教育・事故防止」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』報告書
(財)伊藤忠記念財団
平 成 16 年 1 月
P 145~ P 148
第 3 章
危険意識を高めるための自然体験活動
第 1 節
幼児の自然体験活動
幼児の場合は、危険意識を高めるための自然体験活動は調べた限りで
は行われておらず、危険意識を高める事を目的とはしていないが、幼稚
園 や 保 育 園 で 年 に 1 ~ 2 回 遠 足 が 行 わ れ て い る 。5 歳 児 を 対 象 に サ マ ー キ
ャンプや卒園遠足としてキャンプやスキーを行っている幼稚園や保育園
もある。
以下の活動は危険意識を高めるためではないが、このような自然体験
活動が行われている。自然体験ができるように、ジャガイモやサツマイ
モを植えて、収穫できる畑や果樹園などの自然と触れ合える環境を整備
している園がある。田植えや稲刈りなどの体験活動を行う園もある。遠
足で森に行き、ネイチャーゲーム、プロジェクトワイルド、プロジェク
トアドベンチャーなどのアメリカで生まれた環境教育の手法を取り入れ
て、野外で自然体験活動をする園もある。また、幼児の自然体験活動を
推 進 す る た め に 、 幼 稚 園 と NPO が 連 携 し た 全 国 初 の プ ロ ジ ェ ク ト と し
14
て 、 平 和 幼 稚 園 冒 険 ク ラ ブ を 設 立 し 、 特 定 非 営 利 法 人 (NPO 法 人 )北 海 道
自然文化教育促進会および体験教育事務所ビックドリームあそベンチャ
ースクールとの共同プロジェクトでより専門的な自然体験活動を進めて
い る 園 も あ る 。 (注 5 )
考察
幼児はまだ保護者の保護の域にあるという考えが強く、まだ親と行動
する事が多い。そのため幼稚園や保育園では危険意識を高めるための野
外活動を行っているところは調べた限りではない。しかし、危険意識を
高めるための目的ではないが、遠足や卒園キャンプなどがあり、野外活
動を行っているところはある。遠足やキャンプを 1 回行く事によって危
険意識を上げる事はできないが、野外活動で色々な経験をした事によっ
て、お兄さん、お姉さんとしての自覚が芽生えて、大人らしい行動をす
るようになる事は考えられる。その事によって、交通ルールを守ろうと
してお姉さんらしい行動を取ることがある。ですから幼いうちから色々
な経験をさせるためにも、キャンプなどの野外活動を取り入れる事が大
切だと考える。
第 2 節
小学生の自然体験活動
<子ども会KYT(危険予知トレーニング)>以下KYT
(注6)
子 ど も 会 K Y T と は 、「 危 険 」 の K 、「 予 知 」 の Y 、 「 ト レ ー ニ ン グ 」
のTの頭文字をとった略称で、事故を未然に防ぐため、危険を敏感に予
測して回避する能力を高めるトレーニング方法であり、全国子ども会連
合会が考案した。活動する際にどのような危険が潜んでいるのかを事前
に予知し、子どもたちの危険予知能力を高め、危険を回避する力をつけ
15
ていく事を目的として考案された。子ども会KYTは、産業界における
危険予知トレ-ニングをもとに考案されたものである。産業界における
KYTは、毎日の作業過程において、注意を怠ると災害につながる点を
イラストにより事前にチェックする目的で作成され、現在は毎日の作業
前 に 今 日 の 仕 事 に 対 す る 心 構 え を つ く り だ す ね ら い で「 み ん な で 、早 く 、
正しく」というゼロ災害運動方式のKYTへと発展してきたのである。
子ども会KYTは子ども会だけではなく、学校などでも広く活用され
ている。例えば、学校では遠足や林間学校、また修学旅行の事前学習に
子ども会KYTが活用されている。尐年自然の家などを利用する際にも
事前に子ども会KYTを行っていく学校がある。
○ 子ども会KYTの活用実習例
子ども会KYTは、必ず野外活動を行う前に取り組み、子どもたちの
危険意識を高めて、野外活動を行う事が必要である。小学校で行う野外
での集団活動、海・山での炊飯活動、野外キャンプ活動など、様々な活
動場面を想定し、危険箇所を描いたイラストをグループに配る。
・ステップ1(危険箇所の発見)
グループごとに、一人ずつイラストシートに危ないと思う所に〇印を
つける。
・ステップ2(危険箇所の発表)
一人ずつ〇印をつけた危険箇所を、なぜ危険なのか発表してもらう。
・ステップ3(危険箇所の絞り込み)
発表された危険箇所を、最も危険だと思うところから順にいくつかに
絞り込む。
・ステップ4(具体的な対策を考える)
全体で決めた項目ごとの重要な危険箇所に対して、どのようにすれば
よいか、具体的な対策をグループごとに考える。
・ステップ5(スローガンの作成・視差呼称)
危険を回避するためにグループごとに、実行する行動目標を考える。
16
○ 子ども会KYTの効果
・ゲーム的要素があるので、興味がわき、学習効果が上がる。
・子どもが興味を持てる方法なので、「注意」をよく聞いていないとい
った子どもが尐なくなる。
・指導者が一方的に指示する「注意」ではなく、子どもたちそれぞれが
自分の問題として考えやすく、話し合いが活発になる。
・実習によって注意力を喚起し、危険予知・回避能力が高まる事から記
憶に留まる。
・具体的な安全教育であるため、行動へ繋がる。
・全員参加で、チームワークや感受性を高める。
イラストの参考例として、村越
真氏が作成したイラストである。
イラストのコピーを貼る。
17
引用文献
図1、図2、図3、図4:
村越
真著
『子どもたちには危険がいっぱい―自然体験活動から「危
険を見ぬく力」を学ぶ』
山と渓谷社
18
2002 年
P178~ P180
図 1 、 図 2 に は 15 個 以 上 の 危 険 や 危 険 そ う な 行 為 が 見 ら れ る 。 イ ラ
ストを 5 分間見てどの程度の危険を発見できるかの調査を村越氏が行っ
たとこ ろ、平均 して飯 ごう 炊飯 場 面では 8 個 、ハ イキン グ場 面では 5 個
発見された。この数には経験の差はあまり見られず、野外活動の経験が
豊富な指導者であっても、野外活動の経験の尐ない学生でも、ほぼ同じ
くらいであった。また、個人差はあるが、小学校 4 年生の子どもたちで
も、ほぼ同数の危険を見つけ出す事ができ、指摘の内容もほぼ大人と同
じ レ ベ ル の も の で あ っ た 。( 注 7 )
考察
子ども会KYTはイラストを見て自分で危険を探す事から手軽で楽
しく、子どもに受け入れられやすいと考えられる。小学生は野外で危険
な事故をほとんど経験した事がないため、危険な事故に繋がる行動を想
像できずに、事故に遭遇してしまうのであろう。子ども会KYTは事前
にイラストを見て危険を探す事により、こういう行動が危険に繋がると
認識する事ができるため事故が減るのだと考えられる。現代の経験の尐
ない子どもたちに危険な行動や危険を知らせる事、考えさせる事が事故
を防ぐ方法であると考えられる。
参考文献
( 注 5 ): 平 和 幼 稚 園 冒 険 ク ラ ブ
htt p:/ / www15. oc n. ne. j p/ ~bo uke n/ yo uji bu. ht ml
( 注 6 ): 宮 城 県 子 ど も 会 育 成 連 絡 協 議 会
安全教育
ht t p:/ /s un. pre f. mi yazak i . j p/ ko do mo kai/ anze n. html
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(注7)
:村 越
真著
『子どもたちには危険がいっぱい―自然体験活動
か ら「 危 険 を 見 ぬ く 力 」を 学 ぶ 』
第 4章
結論
第 1 節
幼児の結論
山と渓谷社
2002 年
P176
自然体験活動をすることが大切
幼児は日常的に生活習慣として事故に遭わないために、親や幼稚園、
保育園などで注意をうけたり、交通ルールや「何をしたら危険か」を話
す機会が多く取られている。しかし、まだ一人で行動する範囲が狭く、
親の目が行き届きやすく、まだまだ幼児は保護の域であり、危険な目に
遭いそうになったら危険なものを排除している状況が多い。今回調べた
結果、尐しの危険を経験させて危険意識を高めようと考える親は尐ない
ように感じた。幼稚園や保育園でも危険意識を高めるための自然体験活
動はされておらず、遠足は子どもが楽しむために行われており、危険が
ある場所は行かないようにしている園が多い。危険を避けたり、除いた
りするのではなく、危険に対するきちんとした知識を与えた上で、野外
に出て実際に体験して、見て経験していく事が大切であると筆者は考え
る。小学生になって自分で危険を見抜く力をつけるためにも、幼いうち
から野外に出て、自然体験活動や危険な体験をする事が危険意識を身に
つけるために重要である。野外で尐し危険な道を歩き、危険な体験をし
たり、危険について実際の現場で、先生から話してもらう事により、子
ど も た ち も 危 険 に 対 し て 意 識 す る 事 が で き る 。ま た 冒 険 的 活 動 や 、
「でき
た」と感じられる子どもにとって尐しだけレベルの高い活動をさせるこ
とによって、達成感や危険も体験していく事で子どもの危険意識が上が
ると考えられる。このような活動を幼稚園や保育園で取り入れるべきで
ある。そのためにも、近くに自然公園があればお散歩のコースに入れた
20
り、近くになければ自然体験活動として、森などにハイキングや遠足な
ど に 行 き 、自 然 に 触 れ る 活 動 を 子 ど も に 体 験 さ せ て あ げ る 。そ こ で 、
「こ
んな所が危険だ」や「こんな事をしたら危険だ」という事を話し、活動
することで子どもたちの中に尐しずつ危険意識が芽生えてくると考えら
れる。
第 2 節
小学生の結論
自分で判断する力をつけることが大切
親たちは子どもたちの周りの危険を、危険回避と言って取り除いてし
まうが、子どもたちの周りの危険を排除することが安全なのではなく、
小さな危険を経験して、大きな危険や潜在的な危険を回避できることが
子どもにとっての本当の安全だと筆者は考える。そのためには、野外活
動で様々な経験をする事が大切である。野外で潜在的な危険を発見して
回避する実践的な方法を学び、危険を見る目を養うことで、日常生活に
おいて危険を予知し、回避する事ができると考えられる。危険回避能力
をつけるためには、危険に関する知識を教えることが、現代の野外活動
の経験の尐ない子どもたちには必要である。そのためには、子ども会K
YTは危険を体験した事のない子どもたちに、実際の現場とそこで起こ
りうる危険をイラストで見る事によって、危険を想像する事ができる。
野外に出て様々な体験をする事で、子どもたちの危険意識を高める事が
できると考える。重要なことは、危険について考えるのが具体的な場面
である事、子ども自身が自分で考える事、そしてディスカッションなど
によって、ポイントを意識化する事だと考える。一回だけでなく継続的
に、危険意識を持てるような環境づくりも大切である。具体的な場面を
提示する事で、危険を見る視点をより現実的なものにできるだろう。今
では、下見の際に遠足や登山のコースをデジタルカメラで写真に撮る事
21
もよくある。これを液晶プロジェクターで教室全体に提示する事で先生
だけでなく、子どもたち自身が具体的な場所に即して危険を考える機会
を設ける事ができる。子どもと一緒にルートの写真を見て、どんな危険
が潜んでいるかを考える事ができる。班ごとにどんな危険の可能性があ
るかを指摘し、危険な順に並べ、発生しやすい順に並べるといった活動
を通して、危険意識が高まるであろうと考える。具体的に危険が把握で
きれば対処行動も明確になり、危険予知・回避能力が身につくと考えら
れる。
第 3 節
まとめ・今後の課題
幼児は自然体験活動を通して様々な体験をし、危険を感じ、どのよう
な所に危険があるかを知る事によって幼児の危険意識が高まる。小学生
は自然活動における危険を事前に、イラストや写真などで探し、危険の
度合いや回避方法を考える事によって危険意識が高まる。危険意識を高
めてから自然体験活動をする事によって潜在的な危険にも気づき、回避
する事ができるようになると考えられる。そして、野外における危険や
潜在的な危険を予知・回避できるようになれば、日常の危険を教える事
により、潜在的な危険を予知・回避できるようになると考えられる。ま
た 、危 険 な 活 動 を す る 時 に 、大 人 な ら 危 険 を 感 じ る と 共 に 不 安 も 感 じ る 。
こうした不安を感じる事で不安を解消するために安全確認行動をする。
子どもは経験が尐ないため、こうした危険や不安を感じる事がなく、安
全確認行動へと移る事がないだろう。こうした危険や不安といった感情
は、危険を体験する事によって生まれてくるものである。自然体験活動
でこうした危険や不安を感じる事で、日常生活において同じような危険
や不安を感じ、それを解消するために安全な行動や安全確認行動を取る
22
ようになる。これが危険予知・回避能力である。
今後の課題としては、子どもが自然体験活動をする事によって危険意
識が高まるという事を広め、子どもが自然体験活動を通して、様々な体
験 を し 、 危 険 を 感 じ 、自 ら 気 づ き 、考 え て 回 避 す る 事 に よ っ て 、
「生きる
力」を身につける事が大切だと考える。
今回は危険意識を事故の視点から取り上げて考察したが、次回は事故
だけでなく幅広い視点から考察することを目的とし、これをまとめの言
葉として終わりにしたい。
参考文献
(注4)
:タ ウ ン ク リ エ イ タ ー
松村みち子
「ヒヤリ地図を利用した安
全教育・事故防止」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』
報告書(財)伊藤忠記念財団
平 成 16 年 1 月
( 注 5 ): 平 和 幼 稚 園 冒 険 ク ラ ブ
htt p:/ / www15. oc n. ne. j p/ ~bo uke n/ yo uji bu. ht ml
( 注 6 ): 宮 城 県 子 ど も 会 育 成 連 絡 協 議 会
安全教育
ht t p:/ /s un. pre f. mi yazaki . j p/ ko do mo kai/ anze n. html
(注7)
:村 越
真著
『子どもたちには危険がいっぱい―自然体験活動
から「危険を見ぬく力」を学ぶ』
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山と渓谷社
2002 年
引用文献
表 1、 表 2、 表 3 :
大阪教育大学
松岡
弘 「子どもの安全意識発達調査とその教材開発」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』報告書
平 成 16 年 1 月
(財)伊藤忠記念財団
(注 1) 、 (注 2)、 (注 3 ) :
大阪教育大学
松岡
弘 「子どもの安全意識発達調査とその教材開発」
『子どもの危機管理の実態とその改善方策に関する調査研究』報告書
(財)伊藤忠記念財団
平 成 16 年 1 月
図1、図2、図3、図4:
村越
真著
『子どもたちには危険がいっぱい―自然体験活動から「危
険を見ぬく力」を学ぶ』
山と渓谷社
2002 年
謝辞
論文演習レポート作成にあたり、ご指導して頂いた土井浩信先生、さ
ら に 本 研 究 を 行 う に あ た り 、 資 料 集 め に ご 協 力 頂 い た 土 井 ゼ ミ 20 期 生
など、多くの方々のご協力頂いたことを心より感謝いたします。
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