逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の磁気体積効果と熱膨張制御材料への応用 独立行政法人理化学研究所 CREST-JST 竹中康司 産業技術の高度化・精密化の著しい近年においては、固体材料の宿命とも言える熱膨張す ら抑制・制御することが求められている。例えば半導体デバイス製造では数十ナノ・メート ルという高精度が要求されており、熱膨張は放置すれば致命的である。通常の物質とは逆に、 マイナスの熱膨張を持つ物質、いわゆる負膨張物質は、正の熱膨張をもつ物質と複合化させ ることで熱膨張を制御できるため、熱膨張制御材料として工業的な価値が高い。ここでは最 近我々が見い出した逆ペロフスカイト型マンガン窒化物 Mn3XN の巨大な負膨張[1-3]と、その 背景にある磁気体積効果(インバー効果)について紹介する。 不 連 続 的 Mn Zn, Ga など)が低温の反強磁性相から高温の常磁 X N 性相への転移に際して顕著な不連続的体積収縮を 体積 逆ペロフスカイト型マンガン窒化物 Mn3XN (X: 示すことは、1960 年代後半にはすでに知られて いた(図 1, [4])。この磁気転移が室温付近にあ ることに着目し、仮にこの鋭い体積収縮を連続的 にじわじわ生じさせれば、室温域で大きな負膨張 温度 図 1 逆ペロフスカイト構造 Mn3XN(左) と不連続的な体積収縮(右) とで、鋭かった体積収縮が 100℃程度の温度幅で 連続的になることを突き止めた(図 2)。この物質 は、組成の調整で単一物質として熱膨張特性を広 い範囲で制御可能である、とりわけ従来負膨張材 料の数倍に達する大きな負膨張を示す、負膨張が 摂氏温度 [℃] 0 -3 試みた結果、X サイトの一部を Ge で置換するこ 線熱膨張ΔL/L (400 K) [10 ] が得られるはず、と着想した。様々な元素置換を 0.5 cooling warming x = 0.5 0 -0.5 -1 100 α = -12μ/℃ x = 0.47 α = -16μ/℃ Mn3(Cu1-xGex)N 200 均一(等方的)なため、使い勝手が良く、動作が安 300 絶対温度 [K] 400 定している、熱伝導が良い、硬い、といった特長 図 2 代表的な負膨張組成 Mn3(Cu1-xGex)N を持ち、今後広汎な利用が期待される。 の熱膨張特性 この物質における負膨張性は、元々急峻であった体積変化を、様々な元素置換を駆使して、 緩やかにすることで実現されたものである。緩慢化のメカニズムは、磁気体積効果の起源を 探る上でも、熱膨張特性の制御にとっても、重要な問題である。これに関して最近の物質開 発や中性子散乱実験の結果などを踏まえて議論したい。 【参考文献】 [1] K. Takenaka and H. Takagi, Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 261902. [2] 竹中康司, 固体物理 41 (2006) 361. [3] 竹中康司・高木英典, 日本金属学会誌 70 (2006) 764. [4] 総説として D. Fruchart and E. F. Bertaut, J. Phys. Soc. Jpn. 44 (1978) 781.
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