エッセイ10 ズボンがない・・・・?! 私はこれまでにいろいろな場面で失敗を重ねて、周りの人たちにご迷惑をかけたりお世 話になったりしている。次の話も、私の中では大きな失敗の一つだ。 佐渡に赴任してすぐに長男が生まれたこともあり、当時、自宅から片道がおよそ46km もある所まで、愛車に乗って通勤していた。実は、この年の3月の上旬に 佐渡を訪れて、新しい勤務先の下見に出かけた。地図上の地名を頼りに行 ったのだが、ズンズン車を走らせていたら、行き止まりになってしまい、 遂に目的の場所には到達できずに引き返してしまった経緯がある。自宅に帰り、あまりに も遠いので通勤はちょっと無理だろうと家内たちと話し合った。しかし、長男が生まれた ことで、状況が変わってしまい結局は通勤することになった。最初の頃は、遠いと思って いた道も不思議なもので、何回も通っていると目が慣れてきてそんなには苦痛にならなく なってくる。この頃新しい車を買ったが、面白いようにメーターが数を増やし続け、3年 間で10万kmを突破してしまった。それまで、私はちょくちょく車を替えていたので、車 のメーターが100,000kmを指したときは感激した。 さて、事件が起きたのは3年目の卒業式の日だった。私はこの年に卒業学年の担任をし ていた。その日の朝、今日の卒業式で着る礼服を衣裳ダンスから取り出して、それを風呂 敷に包んで勤務先に向かった。勤務先で朝の打ち合わせを済ませると、風呂敷を持って更 衣室に行き身支度に取りかかった。風呂敷をほどいて礼服のズボンに履き替えようとした ら、何とズボンがないではないか・・・・?!おかしい・・・・確か衣裳ダンスからその まま取り出して風呂敷に包んだはずなのに・・・・・。一体、あのズボンはどこに消えて しまったのだろうか・・・。焦る気持ちを抑えながら、ここ1年の間にあった出来事を順 番に思い出してみた。この年は、親戚筋に不幸等があり何回か礼服を着る機会があった。 11月のある日など、お昼に結婚式に出席し、夜は通夜に参列したこともあった・・・・。 いろいろと思い出している内に、そうだ、あの時に食べ物の汁がズボンについてしまい、 ズボンだけクリーニングに出したのだ・・・・と。それ以来礼服を着る機 会がなかったので、それまでは同じハンガーに吊してあったズボンと上着 は、今は別々のハンガーだったのだ・・・・。そのことをすっかりと忘れ てしまい、上着だけが吊されたハンガーを何の疑いもなく風呂敷に包んで しまったのだ。 当日の私です ウーン、まさか平服のまま卒業式に出席する訳にはいかない。何しろ今当日の私です 日は、卒業生を先導しなければならないのだ。中には、上着だけ着替えたらという無責任 な(?)職員もいたが、それは私のプライドが許さないことだ。そうこうしている内にも 卒業式の開始時刻が徐々に迫ってくる。一体、どうしたらこの難関(?)を切り抜けるこ とができるのか・・・・。この時ばかりは、本当に藁にもすがりたい気持ちだった。 この騒動は、調理員さんたちの耳にも入った。一人の方が自分の旦那さんがちょうど私 くらいの体格だから、ズボンの大きさが合うのではないかと教えてくれた。早速調理員さ んにお願いしてお宅までズボンを取りに行ってもらい、借りたズボンて卒業式を終えた。 「人のふんどしで相撲を取る」という諺があるが、大して変わらないなと思っている。
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